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修羅編 一章:別れ道

勝負の結果

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 フォウル国の十二支士じゅうにししの頭目《トップ》、干支衆の『いのしし』ガイとの戦闘に勝利したエリク。
 もう一方では、同じ干支衆の『さる』シンとの戦闘が継続しているマギルスは、精神武装アストラルウェポンを使った戦闘を繰り広げていた。

「――……やぁああッ!!」

「へぇ!」

 青馬の精神体アストラルと融合した大鎌を振るマギルスは、その刃から凄まじい量の魔力を放出し斬撃を飛ばす。
 地形を削り木々を消失させる程の威力を持つ青い斬撃が襲い掛かりながらも、シンはそれに微笑みを見せながら自身の武器である『金箍棒きんこぼう』を構えた。

 シンは両手を前に突き出しながら棒の柄を掴み、それに金色の魔力を纏わせながら凄まじい速度で回し始める。
 そして強力な魔力斬撃ブレードを避けずに、回転する金箍棒きんこぼうに逸らされるように魔力斬撃ブレードが四散した。

「えっ!?」

「――……込められた魔力の量は多いけど、密度あつみが無いね!」

 シンは笑いながらそう述べ、金箍棒を回し終えながら魔力斬撃ブレードを完全に防ぎ切る。
 必殺とも呼ぶべき『精神武装アストラルウェポン攻撃形態アタックフォルム』の斬撃を防がれたマギルスは驚愕しなからも、同時に相手シンが自分より格上の相手である事を改めて悟った。

 それは自然にマギルスに笑顔を浮かべ、高揚感を生み出す。

 自分の全力を持ってしても倒すのが難しい強敵クロエとの戦いを、マギルスは三十年後みらいで経験していた。
 そして幾度も打ち負かされた事で、自信の頂点ではなく絶対では無いことを知る。
 一時期はそれによって気落ちしていた時もあるが、それがバネとなって更なる向上心と頂点エンドレスの強さに憧れすらも抱いていた。

 そして今、自分の力を全て用いて超えなければならないシンが存在している。
 その壁こそ自分が更なる強さを持つ為の糧になる事を、マギルスは無意識に察しながら肌を震わせ笑っていた。

「……ははっ、いいね! 強い奴だ!」

「おっ、いい笑顔だ!」

「僕の全力で、お前を倒してやるっ!!」

「受けて立つよ!」

 マギルスとシンは互いに嬉々とした笑みを浮かべながら、身体に迸らせる魔力に凄まじい圧と高まりを見せる。
 そしてマギルスは大鎌に纏った精神武装アストラルウェポンを解除し、次の武装を身に纏った。

「――……『精神武装アストラルウェポン俊足形態スピードフォルム』ッ!!」

「!」

 マギルスの身に付けているブーツに青馬の精神体アストラルが宿り、その造形を変える。
 靴を中心にマギルスの両脚が青く染まりながら青馬の鬣《たてがみ》を模した造形の意匠へ変化し、青い魔力を揺らめかせていた。

 そしてマギルスが前のめりに上半身を動かした瞬間、地面が爆発したように破裂し土を周囲に撒き散らす。
 それと同時に目にも止まらぬ速さで移動し飛び掛かったマギルスは、シンの顔面に右膝蹴りを浴びせた。

「――……ウギッ!!」

「お返し――……だぁぁあああっ!?」

 顔面に膝蹴りを喰らったシンは大きく仰け反り、数十メートル以上も吹き飛びながら地面へ倒れる。
 しかしマギルスも凄まじい速度で飛び出した為に止まる事が出来ず、そのまま数百メートル以上先まで突っ込み木々や地面に激突しながら停止した。

「――……いたっ、イタタ……ッ。……やっぱり、まだ自分で……止まれないや……」

 マギルスは削れた地面から起き上がろうとするが、全身に受けた打撲に痛みを感じてよろめき、両脚へ目を向ける。
 精神武装アストラルウェポンによって極限まで高めた自身の脚力だったが、制御できない速度を出した反動によって両膝が痙攣しながら震えていた。

 それでも何とか立ち上がり、マギルスは蹴り飛ばしたシンの方を窺う。
 顔面に膝蹴りを受けたシンは倒れたままだったが、数秒後に上半身を起こしながら声を発した。  

「――……痛い!」

「……!?」

 シンは上半身を起こした後、身体を仰け反らせながら脚を立たせて跳び起きる。
 そしてマギルスが居る方向に顔を向けると、その顔面から鼻血を出しながらも笑顔を絶やしてはいなかった。

「うん、ガイより速い突進だったね!」

「……僕だって、まだまだ……!」 

 平然とした様子のシンを見て、マギルスは対抗心を燃やしながら右手に掴む大鎌を両手で握る。
 そして今度は膝蹴りでは無く、強化した脚の速度と大鎌の刃を使いシンの首を跳ねようと試みた。

 一方でシンも再びマギルスが突っ込んで来る事を理解し、それを待ち構えるように金箍棒を握り構える。
 そして僅かな静寂が流れた瞬間、再び爆発するような地面の破裂音が起こると、マギルスは目にも止まらぬ速さでシンに突っ込んだ。

「――……やぁああッ!!」

「――……いいね!」

「……ッ!!」

 刹那の瞬間、眼前に迫ったシンがそう声を出した事をマギルスは聞く。
 シンは両手に持つ金箍棒を自身の前へ出し縦に伸ばすと、首を刈ろうとしたマギルスの刃を受け止めた。

 そして互いの武器を衝突させた二人は。地面を擦りながら百メートル先まで後退り、マギルスの勢いを停止する。

「……くっそぉ……ッ!!」

 マギルスは爆発的な移動速度の反動を受け、両脚を震わせながら足の感覚を失くし、悔しそうな表情を浮かべて膝を崩す。
 一方でシンは笑顔のまま金箍棒を振り、倒れたマギルスの背中に棒の先端を突き立てた。

 その衝撃は地面に亀裂を生む程であり、肺に入っていた空気を全て吐き出すかのようにマギルスは大口を開けさせる。

「ガッ、ァ……ッ!!」

「――……うん、君は合格だ!」

 シンは笑いながらそう告げ、マギルスは混迷する意識の中でそれを聞き意識を手放す。
 気絶したマギルスを見届けたシンは、鼻の根元を押さえながら鼻息を勢いよく吐き出し鼻血を地面へ飛ばすと、気絶したマギルスを肩に抱えてバズディールとガイがいる場所へ向かった。

 こうして戦いを終えてマギルスを抱えたシンは、既に戦いを終えていたエリクと同じ干支衆であるバズディールとガイの場所へ辿り着く。
 そして地面に座り両手を押さえるように癒すガイを見た後、目を見開きながら声を掛けた。

「――……あれ? ガイ、負けちゃったんだね!」

「ああ」

「うむ」

「……マギルスが、負けたのか……?」

 シンは決着の結果を尋ね、バズディールとガイはそれに頷き答える。
 そしてエリクは気絶し担がれて来たマギルスの様子を見て、対峙していた少年シンに敗北している事を悟った。

 シンは笑顔のまま地面へマギルスを降ろし、ガイの方へ歩み寄る。
 逆にエリクは地面へ置かれたマギルスの近くまで歩み寄り、互いに擦れ違う形で交差した。

 その時にシンとエリクは互いに視線を向け、それぞれに嬉々と忌避を宿した表情を見せる。
 二人は仲間が居る場所に辿り着くと、互いの状態を確認した後に顔を向け合った。

 互いの陣営が揃い顔を向け合う中で、エリクから先に口を開く。

「――……お前達は、フォウル国の魔人でいいんだな?」

「うむ」

「どうして俺達を襲った?」

「腕試しだね!」

「腕試し……?」

「強い気配と魔力が接近していたのでな。噂の待ち人かと思い、その実力を確かめさせてもらった。鬼神のしろよ」

「……鬼神の依り代とは、どういう意味だ?」

 エリクの問いにシンとガイは答え、更にバズディールが奇妙な呼び方で話し掛ける。
 その呼び方について尋ねるエリクは、驚くべき言葉を干支衆達から聞いた。

「そのままの意味だ。――……お前の肉体には、鬼神きしんが宿っているな?」

「!」

「あっ、驚いたね!」

「うむ」

 目を見開いたエリクの驚きを、干支衆の面々は図星と読み取る。
 エリクは表情を咄嗟に引き締め、鬼神について述べるバズディールに問い掛けた。

「……どうして、それを知っている?」

「巫女姫様の御言葉だ」

「……みこひめ?」

「その巫女姫様が、お前との面会を求めている。我々はお前達の実力を測り、巫女姫様の下に案内できる力量かを確認しただけだ」

「……」

「シン、そっちの子供はどうだった?」

「合格だね!」

「ならば二人とも、申し分は無いな。――……付いて来い、鬼神の依り代よ」

 バズディールはそう述べながら背中を見せると、ガイやシンも合わせて背を見せてその場から歩み去っていく。
 エリクは訝しさを宿した表情を見せながらも、気絶したマギルスを片腕で抱えながら三人の後を追うように歩いた。

 こうして干支衆の襲撃を受けたエリクとマギルスは、互いの勝負を終える。
 そして鬼神を宿す事を知る巫女姫と呼ばれる人物と会う為に、エリクは干支衆の後を追った。
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