上 下
585 / 1,360
螺旋編 五章:螺旋の戦争

鮮血の箱舟

しおりを挟む

 死者達の怨念いしが停止していた黒い人形達に宿り、それ等が空を飛翔し二機の箱舟ノアに襲い掛かる。
 そして赤いコアを破壊する為に用いられる抗魔力凝固剤マナヒルジンを載せた箱舟ノア三号機の船体後方で、大きな爆発が起きた。

「グラドッ!! ――……アリア!」

「分かってる! でも……ッ!!」

 エリクは爆発した箱舟ノア三号機に赴く為に、白い翼で飛ぶアリアを急かす。
 しかしアリアを追うように夥しい数の黒い人形達が迫り、更に囲い込みながらグラドが乗る箱舟ノア三号機の空路を塞いでいた。

 そしてアリアが右手で握る短杖が更に欠け落ち、映し出すその姿が再び薄くなる。
 それを見てアリアに黒い人形達と対抗できる時間も力も残されていない事をエリクは察し、鋭い視線を黒い人形達に向けた。

「……少し、踏ん張ってくれ」

「!」

「――……ウォオオッ!!」

 エリクの一言でアリアは何をするかを察し、六枚の中で二枚の翼を大きく広げて急回転する。
 それに合わせ黒い大剣を握る右手に凄まじい握力を込めたエリクは、回転に合わせて右腕を振り薙いだ。

 エリクの大剣から凄まじい威力と大きさの気力斬撃オーラブレードが放たれ、アリアの周囲に居る黒い人形達が吹き飛ばされる。
 そして人形の包囲網を破り、二人の視界に炎上する箱舟ノア三号機が見えた。

「アリア!」

「ええ!」

 エリクが名を呼び、アリアはそれに応えるように翼を羽ばたかせて箱舟ノア三号機に向けて飛ぶ。
 しかし次の瞬間、更に下から夥しい数の人形達が黒い翼を生やして飛翔し、刃に変えた腕を突き出しながらアリアに目掛けて襲い掛かった。

「ッ!!」

「クゥ……ッ!!」

 アリアは急回転しながら人形達の突撃を避けるが、掠めた黒い刃がアリアの翼を一枚だけ剥ぎ切る。
 それによって急速に飛翔速度が落ちたアリアは、苦々しい面持ちで他の翼を広げながら回転する状態を止めた。

 しかし新たに地上から飛翔して来た黒い人形達と吹き飛ばした人形達が合流し、再びアリアとエリクを囲い込む。
 純粋な魔鋼マナメタルで形成された黒い人形達はエリクの気力斬撃オーラブレードでも破壊できず、それ等に宿る憎悪の意思がアリア達の目的を阻んだ。

「キリが無い……!」

「俺が、全て吹き飛ばす!」

「駄目よ!」

「!?」

「貴方が消耗したら、コアを割る事すら不可能になる! コイツ等を全て相手にしたら、貴方の生命力オーラが先に尽きるわ!」

「だが、箱舟ふねに載せている抗魔力凝固剤モノも無ければ――……ッ!!」

 エリクが再び膨大な生命力オーラを使用した斬撃を飛ばそうとした時、アリアがそれ等を述べて止める。
 しかしエリクの斬撃だけではコアの破壊が不可能であることも事実であり、グラドが操縦する箱舟ノア三号機が破壊されればその希望すらついえてしまう。
 
 それが理解できる二人は箱舟ノア三号機にどうにか近付こうとしたが、それを阻むように黒い人形達が凄まじい速度で飛翔しながら呪詛の声と共に襲い掛かった。

『――……殺ス! 殺スッ!!』

『死ンデエエエエエエッ!!』

「ッ!!」

「クソッ!!」

 死者達の怨念が黒い人形に憑依し、明確な殺意を持ってエリクとアリアを襲う。

 その一方で、シルエスカ達が搭乗している箱舟ノア二号機にも艦内放送で新たな指示が飛び交っている。
 それは各所で黒い人形達が飛翔しながら突撃して船内に侵入し、箱舟ふね事態と搭乗員達に多くの被害を生み出していた。

 そうした状況で艦橋ブリッジにいる艦橋員クルーや艦長達は、何とか危機を脱しようと焦りの表情を濃くしながら全員が対応している。

「――……侵入した敵の一部が、動力機関エンジン室に侵入しようとしていますッ!!」

「機関室に繋がる通路を、シャッターを閉じさせろッ!!」

「各砲塔と各銃座の通信、途絶しました……!!」

「マズい! 主砲が収めてある区画にも侵入されていますッ!!」

「格納庫、閉鎖完了! しかし、シャッターが次々と突破されていると報告が……ッ!!」

「……このままでは、全滅する……」

「――……て、敵がッ!!」

「!?」

「敵が、艦橋ブリッジに――……」

 艦橋員ブリッジクルーの一人が画面に映る外の映像を確認し、大声で叫ぶ。
 それと同時に訪れたのは、艦橋ブリッジの壁正面を突き破りながら凄まじい衝撃と音を鳴らした。

「ッ!!」

「う、うわぁああ――……ッ!!」

 艦橋ブリッジ内の正面が破壊され、その傍に居た艦橋員クルー達が叫びながら転がり吹き飛ぶ。
 そして艦長や横壁に居た艦橋員クルー達は、目を見開きながら一瞬で絶望の表情に染まった。

 壁を突き破り現れたのは、黒い羽を生やした黒い人形が一体。
 その黒い人形の顔が微妙に変化し、口元を歪ませる笑みを浮かべたのを全員が目視した。

『――……見ィツェタァ』

「……!!」

 黒い人形が高く耳障りな声を発し、歪んだ口で笑みを浮かべている光景に全員が絶句し身体を震わせる。
 そして全員が逃げようとするより早く、黒い人形が両腕を刃に変化させながら傍に倒れる一人の艦橋員クルーに襲い掛かった。

『ミィンナァ、死ンジャェエエ!』

「ヒ――……」

「――……この、邪鬼共がッ!!」 

 その時、艦長席を跳び越えた何者かが艦橋員クルーを突き刺そうとする黒い人形に迫る。
 そして突き刺すより速くその人物の飛び蹴りが人形の顔面に的中し、穴の開いた壁にめり込むように吹き飛ばされた。

 全員が思わず立ち上がり、人形を吹き飛ばした人物を見る。
 そして絶望の表情に僅かな希望が戻り、その人物の名を艦長が呼んだ。

「――……シ、シルエスカ元帥!」

「……お前達、早くここから出ろッ!!」

「!!」

「で、でも! どこに行けば……」

「逃げ場なんて、もう……」

「とにかく走れ! ――……ッ!!」

 動揺し困惑する艦橋員クルー達に怒鳴るシルエスカだったが、すぐにその視線は正面へ戻る。
 吹き飛ばした黒い人形が再び動き出し、めり込んだ壁から抜け出して再び立ち上がろうとした。

 それを見た艦橋員クルー達は怯えながら走り出し、艦橋ブリッジから出て行く。
 そして最後に艦長が出て行く時、シルエスカに向けて大声で叫んだ。

「元帥!」

「行けッ!!」

「……ッ!!」

 そして艦長が艦橋ブリッジから退室し、箱舟ノアの中心部に向かい走り出す。
 シルエスカはそれを背中で見送りながら、更に正面の壁を突き破りながら出現した複数の黒い人形達と対峙した。

『――……セッカク、ミンナヲ連レテ逝ケタノニ……』

『邪魔シナイデヨ』

『オ前モ、連レテ逝ッテアゲル』

「――……お前達だけが、最後の希望だ……。頼んだぞ。エリク、アリア、グラド……」

 怨念達が声を発しながら何も無い顔に笑顔の口だけを形成し、その全てが腕を黒い剣に変える。
 それを見ながら素手のシルエスカは構えて呟き、迫る黒い人形達に襲われた。

 ――……それから一分程が経つ時間なかで、破壊された艦橋ブリッジの中に夥しい血液がまき散らされている。
 そこには右腕を失い、身体の各所に大きな切り傷と共に心臓を貫かれたシルエスカが赤い髪を顔に垂れながら床へ倒れ、生気を失っている姿だけが残されていた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

『 私、悪役令嬢にはなりません! 』っていう悪役令嬢が主人公の小説の中のヒロインに転生してしまいました。

さらさ
恋愛
これはゲームの中の世界だと気が付き、自分がヒロインを貶め、断罪され落ちぶれる悪役令嬢だと気がついた時、悪役令嬢にならないよう生きていこうと決める悪役令嬢が主人公の物語・・・の中のゲームで言うヒロイン(ギャフンされる側)に転生してしまった女の子のお話し。悪役令嬢とは関わらず平凡に暮らしたいだけなのに、何故か王子様が私を狙っています? ※更新について 不定期となります。 暖かく見守って頂ければ幸いです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...