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螺旋編 五章:螺旋の戦争
鮮血の箱舟
しおりを挟む死者達の怨念が停止していた黒い人形達に宿り、それ等が空を飛翔し二機の箱舟に襲い掛かる。
そして赤い核を破壊する為に用いられる抗魔力凝固剤を載せた箱舟三号機の船体後方で、大きな爆発が起きた。
「グラドッ!! ――……アリア!」
「分かってる! でも……ッ!!」
エリクは爆発した箱舟三号機に赴く為に、白い翼で飛ぶアリアを急かす。
しかしアリアを追うように夥しい数の黒い人形達が迫り、更に囲い込みながらグラドが乗る箱舟三号機の空路を塞いでいた。
そしてアリアが右手で握る短杖が更に欠け落ち、映し出すその姿が再び薄くなる。
それを見てアリアに黒い人形達と対抗できる時間も力も残されていない事をエリクは察し、鋭い視線を黒い人形達に向けた。
「……少し、踏ん張ってくれ」
「!」
「――……ウォオオッ!!」
エリクの一言でアリアは何をするかを察し、六枚の中で二枚の翼を大きく広げて急回転する。
それに合わせ黒い大剣を握る右手に凄まじい握力を込めたエリクは、回転に合わせて右腕を振り薙いだ。
エリクの大剣から凄まじい威力と大きさの気力斬撃が放たれ、アリアの周囲に居る黒い人形達が吹き飛ばされる。
そして人形の包囲網を破り、二人の視界に炎上する箱舟三号機が見えた。
「アリア!」
「ええ!」
エリクが名を呼び、アリアはそれに応えるように翼を羽ばたかせて箱舟三号機に向けて飛ぶ。
しかし次の瞬間、更に下から夥しい数の人形達が黒い翼を生やして飛翔し、刃に変えた腕を突き出しながらアリアに目掛けて襲い掛かった。
「ッ!!」
「クゥ……ッ!!」
アリアは急回転しながら人形達の突撃を避けるが、掠めた黒い刃がアリアの翼を一枚だけ剥ぎ切る。
それによって急速に飛翔速度が落ちたアリアは、苦々しい面持ちで他の翼を広げながら回転する状態を止めた。
しかし新たに地上から飛翔して来た黒い人形達と吹き飛ばした人形達が合流し、再びアリアとエリクを囲い込む。
純粋な魔鋼で形成された黒い人形達はエリクの気力斬撃でも破壊できず、それ等に宿る憎悪の意思がアリア達の目的を阻んだ。
「キリが無い……!」
「俺が、全て吹き飛ばす!」
「駄目よ!」
「!?」
「貴方が消耗したら、核を割る事すら不可能になる! コイツ等を全て相手にしたら、貴方の生命力が先に尽きるわ!」
「だが、箱舟に載せている抗魔力凝固剤も無ければ――……ッ!!」
エリクが再び膨大な生命力を使用した斬撃を飛ばそうとした時、アリアがそれ等を述べて止める。
しかしエリクの斬撃だけでは核の破壊が不可能であることも事実であり、グラドが操縦する箱舟三号機が破壊されればその希望すら潰えてしまう。
それが理解できる二人は箱舟三号機にどうにか近付こうとしたが、それを阻むように黒い人形達が凄まじい速度で飛翔しながら呪詛の声と共に襲い掛かった。
『――……殺ス! 殺スッ!!』
『死ンデエエエエエエッ!!』
「ッ!!」
「クソッ!!」
死者達の怨念が黒い人形に憑依し、明確な殺意を持ってエリクとアリアを襲う。
その一方で、シルエスカ達が搭乗している箱舟二号機にも艦内放送で新たな指示が飛び交っている。
それは各所で黒い人形達が飛翔しながら突撃して船内に侵入し、箱舟事態と搭乗員達に多くの被害を生み出していた。
そうした状況で艦橋にいる艦橋員や艦長達は、何とか危機を脱しようと焦りの表情を濃くしながら全員が対応している。
「――……侵入した敵の一部が、動力機関室に侵入しようとしていますッ!!」
「機関室に繋がる通路を、シャッターを閉じさせろッ!!」
「各砲塔と各銃座の通信、途絶しました……!!」
「マズい! 主砲が収めてある区画にも侵入されていますッ!!」
「格納庫、閉鎖完了! しかし、シャッターが次々と突破されていると報告が……ッ!!」
「……このままでは、全滅する……」
「――……て、敵がッ!!」
「!?」
「敵が、艦橋に――……」
艦橋員の一人が画面に映る外の映像を確認し、大声で叫ぶ。
それと同時に訪れたのは、艦橋の壁正面を突き破りながら凄まじい衝撃と音を鳴らした。
「ッ!!」
「う、うわぁああ――……ッ!!」
艦橋内の正面が破壊され、その傍に居た艦橋員達が叫びながら転がり吹き飛ぶ。
そして艦長や横壁に居た艦橋員達は、目を見開きながら一瞬で絶望の表情に染まった。
壁を突き破り現れたのは、黒い羽を生やした黒い人形が一体。
その黒い人形の顔が微妙に変化し、口元を歪ませる笑みを浮かべたのを全員が目視した。
『――……見ィツェタァ』
「……!!」
黒い人形が高く耳障りな声を発し、歪んだ口で笑みを浮かべている光景に全員が絶句し身体を震わせる。
そして全員が逃げようとするより早く、黒い人形が両腕を刃に変化させながら傍に倒れる一人の艦橋員に襲い掛かった。
『ミィンナァ、死ンジャェエエ!』
「ヒ――……」
「――……この、邪鬼共がッ!!」
その時、艦長席を跳び越えた何者かが艦橋員を突き刺そうとする黒い人形に迫る。
そして突き刺すより速くその人物の飛び蹴りが人形の顔面に的中し、穴の開いた壁にめり込むように吹き飛ばされた。
全員が思わず立ち上がり、人形を吹き飛ばした人物を見る。
そして絶望の表情に僅かな希望が戻り、その人物の名を艦長が呼んだ。
「――……シ、シルエスカ元帥!」
「……お前達、早くここから出ろッ!!」
「!!」
「で、でも! どこに行けば……」
「逃げ場なんて、もう……」
「とにかく走れ! ――……ッ!!」
動揺し困惑する艦橋員達に怒鳴るシルエスカだったが、すぐにその視線は正面へ戻る。
吹き飛ばした黒い人形が再び動き出し、めり込んだ壁から抜け出して再び立ち上がろうとした。
それを見た艦橋員達は怯えながら走り出し、艦橋から出て行く。
そして最後に艦長が出て行く時、シルエスカに向けて大声で叫んだ。
「元帥!」
「行けッ!!」
「……ッ!!」
そして艦長が艦橋から退室し、箱舟の中心部に向かい走り出す。
シルエスカはそれを背中で見送りながら、更に正面の壁を突き破りながら出現した複数の黒い人形達と対峙した。
『――……セッカク、ミンナヲ連レテ逝ケタノニ……』
『邪魔シナイデヨ』
『オ前モ、連レテ逝ッテアゲル』
「――……お前達だけが、最後の希望だ……。頼んだぞ。エリク、アリア、グラド……」
怨念達が声を発しながら何も無い顔に笑顔の口だけを形成し、その全てが腕を黒い剣に変える。
それを見ながら素手のシルエスカは構えて呟き、迫る黒い人形達に襲われた。
――……それから一分程が経つ時間で、破壊された艦橋の中に夥しい血液がまき散らされている。
そこには右腕を失い、身体の各所に大きな切り傷と共に心臓を貫かれたシルエスカが赤い髪を顔に垂れながら床へ倒れ、生気を失っている姿だけが残されていた。
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