570 / 1,360
螺旋編 五章:螺旋の戦争
沈む都市
しおりを挟む
クロエによってシルエスカや『青』達が箱舟二号機に送られていた頃。
都市を満たす赤い霧の深さが二十メートル程に達した時点で、ようやくグラド達が修理し搭乗していた箱舟三号機も浮遊を開始した。
それを確認したのは箱舟二号機の艦橋員で、艦長に三号機の浮上を伝える。
「――……三号機、浮上を開始しました!」
「グラド将軍、飛行に支障は起きていませんか!?」
『――……今のところはな!』
「我々はこのまま、更に高度を上げます! 三号機も――……」
「――……か、艦長!」
「どうした!?」
「格納庫の整備班から、地上で交戦していたはずのシルエスカ元帥とフォウル国・アズマ国の方々が、突如として現れたという報告が!」
「なに……!? ……敵が侵入し、偽装している可能性は?」
「今、確認します! ――……こちら艦橋! 格納庫の各作業員は――……」
艦長は艦内で起きた異常事態を、冷静に対応させていく。
そうした中で艦橋員の一人が計器を見ながら奇妙な表情を浮かべ、恐る恐る艦長に報告した。
「……か、艦長!」
「どうした?」
「げ、現在の飛行高度を確認しているのですが……。ただ、故障しているだけの可能性も……」
「はっきり言え! この状況だ、もう大抵の事では驚かん」
「……現在、高度が下がり続けています」
「!?」
「箱舟が落ちているのか!?」
「い、いえ。――……我々がこの都市に着陸した際の高度は、凡そニ十キロ前後だったはずなんです。……でも今は、十五キロまで下がっていて……」
「……!?」
「ま、まさか……」
「――……この浮遊都市が、落下している……?」
艦橋の人員は艦長の言葉を聞き、驚愕のあまり表情を固める。
その状態は当初、アスラント同盟国軍側が求めた作戦条件を満たしている状況だった。
しかし今現在、浮遊都市の状況は劇的な変化を遂げている。
都市内部には『瘴気』と呼ばれる生命を殺し尽くすであろう赤い霧が充満し、更にそれが黒い塔の赤い核から際限なく溢れ続けていた。
そんな瘴気が溢れる都市が、もし地表に落下すればどうなるか。
被害が下に広がる砂漠の大陸だけに留まるのであれば、被害は最小限に収められる。
しかし都市に充満した瘴気が、海を越えて他の人間大陸にも及んだ時。
その被害は、艦橋に居る者達には予測すら出来ないモノとなる。
それを意識的に察してしまった艦橋員の中で、艦長が口を開き命じた。
「――……通信士!」
「は、ハッ!」
「下の大陸には、同盟国軍の軍港があったはずだ! そこに通信を届け、地上の各国に上空の状況を知らせろ!」
「は、はい! ……で、でも何と言えば……!?」
「民間人を全員、船に乗せて海へ! 大陸からとにかく離れるように伝えろ! それと、各国にも砂漠の大陸から離れた海へ逃れるように知らせるんだ!」
「はい!」
「シルエスカ元帥達の方は?」
「――……確認、終わりました! 本人です!」
「ならば艦橋へ! 元帥には状況を伝え、判断を仰ぐ。――……このまま都市を落とすべきなのか。それとも――……」
艦長はそれ以上の言葉を述べず、シルエスカが艦橋まで訪れるのを待つ事を選ぶ。
事態は改善するどころか悪化の一途を辿る中で、自身の裁量で決めきれない艦長はシルエスカに事の判断を委ねるしかなかった。
その時、箱舟二号機の艦橋の会話は三号機の艦橋に居たグラドにも通信機越しに伝わっている。
それを聞いたグラドは厳しい表情を見せながら、赤い核に鋭い視線を向けていた。
一方その頃、杖に宿らせていた魂を魔鋼の黒い人形に宿らせ復活したアリアは、『神』を圧倒している。
夥しい魔法での攻防戦を繰り広げながら上空を白い光で照らされた後、『神』は黒い翼を大きく羽ばたかせ身を退きながら光を抜け出し、白い翼を羽ばたかせるアリアから離れようとしていた。
「――……何なのよ! ……何なのよ!? アレは、何なのよッ!!」
「……次は逃げる気かしら? 逃がす気なんて無いけど」
『神』は表情を強張らせ苛立ちを深めた声を漏らしながらも、残る二枚の黒い翼を羽ばたかせてアリアから逃げようとする。
それを見たアリアは右手に持つ短杖を動かし、魔石が嵌め込まれた持ち手を『神』に定めた。
「……『消えよ』」
「――……な……ッ!?」
アリアが魔法にも似た言葉を唱えた瞬間、『神』の背中に在る黒い翼が粒子状に消え失せる。
そのせいで『神』は上空を飛翔する能力を失い、瘴気に満ちた都市の中へ落下を始めた。
「……な、なんで!? なんで魔法が、再展開できないのよ……!?」
焦りを色濃くした『神』は杖を振り魔法を発動させようとしたが、再び黒い翼は出現しない。
そして僅か数秒で近付く瘴気に塗れた都市に激突しそうになった時、『神』は身体中から白い光を放ち始めて激突を免れるように中空へ留まった。
それは『神兵』ランヴァルディアも見せていた、生命力を用いた飛行。
膨大な生命力を身に纏い飛翔するという手段であり、魔力を用いた翼で飛翔する時とは比べ物にならない生命力の操作性と制御が必要になる。
「……クッ」
しかしそれを得意としている様子ではない『神』は、暴れるように揺れる飛翔の仕方で宙を飛び、高い建築物の屋根へ着地する。
そして一安心の息を漏らした瞬間、心胆を寒からしめる声を背後から聞いた。
「――……お粗末な飛び方だわ」
「ッ!?」
「まぁ、私も生命力の操作に関しては魔力を扱うより苦手だったし。アンタもそうなんでしょうね」
いつの間にか背後で滞空していたアリアは、『神』の様子を見てそう述べる。
そして驚愕と怯えを含んだ表情を宿らせた『神』は下がるように屋根の奥側へ移動し、杖を持ちながら身構えた。
それに対してアリアは白い翼を羽ばたかせながら『神』が居た場所に着地し、白い翼を消失させる。
そして互いが互いに顔を視線を向け合う体勢となる中で、先にアリアが話をし始めた。
「――……いい加減、自分から逃げるのを止めなさいよ」
「……!!」
「流石に理解したでしょ? 私が、前の私だって事はね」
「……ありえないわ。そんはず……」
「種明かしをしなきゃ、分からないワケ? ――……ほら、この杖よ」
「……それは……!?」
「私はこの杖に、自分の魂を注ぎ分けていた。人格も記憶も、知識や力も一緒にね」
「な……」
「私は自分に四つの誓約を課すと決めたその日に、私自身の魂をこの杖に分け与えた。この杖の中の魂を消失させない為に、肌身離さず持つ事にしてたわ。――……十年間くらいね」
「……!?」
「理解できたかしら?」
「……おかしいわよ」
「?」
「アンタが、本当に私なら! なんでこんなに、力の差があるのよ!? 私はこの十五年で様々な知識を得て、『神兵』の心臓を移植して、到達者になってるのに……!!」
「努力の差じゃない?」
「……努力、ですって……?」
「言ったでしょ。記憶を失って一から始めた三十年間のアンタより、この杖に込められた私の十年間の努力の量が、遥かに多かっただけよ」
「そんなわけないでしょ!? ――……私は実家に戻されて、前の私が残してた魔法の研究記録を全て見たわ! お前の技術は、全て自分のモノにしたッ!!」
「……」
「それだけじゃない! 各国が保有する秘術の情報を掻き集め、本に記載されている情報は全て読み取り、更に知識と力を高めた! 全てが前の私より、ずっと上のはずよ! なのに、なんで――……」
「アンタの知識は、幅は広くても浅いのよ」
「……あ、浅い……?」
「アンタは色々と出来るみたいだし、確かに力も私より大きいわ。――……でも魔力に対する基礎知識と基礎能力が、圧倒的に浅いのよ。さっきも言ったけど」
「……」
「私は小さな頃から、徹底的に魔力という存在に対して考え尽くし、『魔力』を扱う為の技術力を深めたわ。……アンタが三十年間やってたのは、『魔法』をただ使えるようにしてただけでしょ?」
「……そんな……」
「魔法師ってのはね、『魔法』を扱うんじゃないわ。『魔力』を扱うのよ。――……アンタは今まで、それを勘違いしてたみたいね」
「……そんなはず、ない……。私は、魔法を極めて……魔力の扱いに、最も長けているはず……!! あの『青』より……!」
「アンタ、さっき投げようとした瓦礫を師匠に止められてたでしょ?」
「!」
「師匠は気付いてたのよ。アンタの魔力の扱いが、お粗末だってことをね。――……アンタは師匠にゴリ押しで勝てたみたいだけど。はっきり言って、技量が低すぎるのよ。だから本来、格下の師匠にすら苦戦した」
「……うるさい」
「だいたい、十五年も掛かって人間を滅ぼせないとか。もっと計画を練って用意を周到にしてからやりなさいよ。情けないわね」
「……うるさい……!」
「私が人間を滅ぼすなら、こんな間怠っこしいやり方はしないわ。本気でやれば、一年も経たずに全人類を滅ぼせる自信はあるわね」
「うるさいッ!!」
「――……三十年も時間が在ったくせに、何やってたのよ? アンタ」
「うるさいッ!! ウルサイ! ウルサイッ!! ウルサイのよッ!!」
『神』はアリアの言葉や存在を拒絶するように顔を振り、その瞳から涙を零す。
それを見ながら冷かな視線を向けるアリアは、溜息を大きく吐きながら述べた。
「――……まるで、駄々を起こす子供ね」
「……ッ!!」
「正直に言って、アンタから心臓を抜き取って殺す事なんて簡単なのよ。ついでに、その杖も奪って解析し、あの核から流れ出てる瘴気を止めるのもね」
「……私の魂を破壊して、この身体を奪う気……!?」
「始めはそう考えてたけどね。――……それをやると私の相棒が怒るだろうから、止めておくわ」
「……?」
「それにアンタの状態に関して、色々と確認すべき事もある」
「……何を……」
「――……アンタの魂、なんで瘴気に憑りつかれてるわけ?」
アリアは躊躇も無くそう尋ね、『神』に訝し気な視線を向ける。
それを聞いた『神』は視線を落とし、鼻息を一つ吐きながら口元を微笑ませた。
都市の状況が一刻ずつ変化する中で、アリアと『神』の状況にも変化が訪れる。
そしてアリアの言葉によって、『神』の身に起こる新たな状態を明らかにした。
都市を満たす赤い霧の深さが二十メートル程に達した時点で、ようやくグラド達が修理し搭乗していた箱舟三号機も浮遊を開始した。
それを確認したのは箱舟二号機の艦橋員で、艦長に三号機の浮上を伝える。
「――……三号機、浮上を開始しました!」
「グラド将軍、飛行に支障は起きていませんか!?」
『――……今のところはな!』
「我々はこのまま、更に高度を上げます! 三号機も――……」
「――……か、艦長!」
「どうした!?」
「格納庫の整備班から、地上で交戦していたはずのシルエスカ元帥とフォウル国・アズマ国の方々が、突如として現れたという報告が!」
「なに……!? ……敵が侵入し、偽装している可能性は?」
「今、確認します! ――……こちら艦橋! 格納庫の各作業員は――……」
艦長は艦内で起きた異常事態を、冷静に対応させていく。
そうした中で艦橋員の一人が計器を見ながら奇妙な表情を浮かべ、恐る恐る艦長に報告した。
「……か、艦長!」
「どうした?」
「げ、現在の飛行高度を確認しているのですが……。ただ、故障しているだけの可能性も……」
「はっきり言え! この状況だ、もう大抵の事では驚かん」
「……現在、高度が下がり続けています」
「!?」
「箱舟が落ちているのか!?」
「い、いえ。――……我々がこの都市に着陸した際の高度は、凡そニ十キロ前後だったはずなんです。……でも今は、十五キロまで下がっていて……」
「……!?」
「ま、まさか……」
「――……この浮遊都市が、落下している……?」
艦橋の人員は艦長の言葉を聞き、驚愕のあまり表情を固める。
その状態は当初、アスラント同盟国軍側が求めた作戦条件を満たしている状況だった。
しかし今現在、浮遊都市の状況は劇的な変化を遂げている。
都市内部には『瘴気』と呼ばれる生命を殺し尽くすであろう赤い霧が充満し、更にそれが黒い塔の赤い核から際限なく溢れ続けていた。
そんな瘴気が溢れる都市が、もし地表に落下すればどうなるか。
被害が下に広がる砂漠の大陸だけに留まるのであれば、被害は最小限に収められる。
しかし都市に充満した瘴気が、海を越えて他の人間大陸にも及んだ時。
その被害は、艦橋に居る者達には予測すら出来ないモノとなる。
それを意識的に察してしまった艦橋員の中で、艦長が口を開き命じた。
「――……通信士!」
「は、ハッ!」
「下の大陸には、同盟国軍の軍港があったはずだ! そこに通信を届け、地上の各国に上空の状況を知らせろ!」
「は、はい! ……で、でも何と言えば……!?」
「民間人を全員、船に乗せて海へ! 大陸からとにかく離れるように伝えろ! それと、各国にも砂漠の大陸から離れた海へ逃れるように知らせるんだ!」
「はい!」
「シルエスカ元帥達の方は?」
「――……確認、終わりました! 本人です!」
「ならば艦橋へ! 元帥には状況を伝え、判断を仰ぐ。――……このまま都市を落とすべきなのか。それとも――……」
艦長はそれ以上の言葉を述べず、シルエスカが艦橋まで訪れるのを待つ事を選ぶ。
事態は改善するどころか悪化の一途を辿る中で、自身の裁量で決めきれない艦長はシルエスカに事の判断を委ねるしかなかった。
その時、箱舟二号機の艦橋の会話は三号機の艦橋に居たグラドにも通信機越しに伝わっている。
それを聞いたグラドは厳しい表情を見せながら、赤い核に鋭い視線を向けていた。
一方その頃、杖に宿らせていた魂を魔鋼の黒い人形に宿らせ復活したアリアは、『神』を圧倒している。
夥しい魔法での攻防戦を繰り広げながら上空を白い光で照らされた後、『神』は黒い翼を大きく羽ばたかせ身を退きながら光を抜け出し、白い翼を羽ばたかせるアリアから離れようとしていた。
「――……何なのよ! ……何なのよ!? アレは、何なのよッ!!」
「……次は逃げる気かしら? 逃がす気なんて無いけど」
『神』は表情を強張らせ苛立ちを深めた声を漏らしながらも、残る二枚の黒い翼を羽ばたかせてアリアから逃げようとする。
それを見たアリアは右手に持つ短杖を動かし、魔石が嵌め込まれた持ち手を『神』に定めた。
「……『消えよ』」
「――……な……ッ!?」
アリアが魔法にも似た言葉を唱えた瞬間、『神』の背中に在る黒い翼が粒子状に消え失せる。
そのせいで『神』は上空を飛翔する能力を失い、瘴気に満ちた都市の中へ落下を始めた。
「……な、なんで!? なんで魔法が、再展開できないのよ……!?」
焦りを色濃くした『神』は杖を振り魔法を発動させようとしたが、再び黒い翼は出現しない。
そして僅か数秒で近付く瘴気に塗れた都市に激突しそうになった時、『神』は身体中から白い光を放ち始めて激突を免れるように中空へ留まった。
それは『神兵』ランヴァルディアも見せていた、生命力を用いた飛行。
膨大な生命力を身に纏い飛翔するという手段であり、魔力を用いた翼で飛翔する時とは比べ物にならない生命力の操作性と制御が必要になる。
「……クッ」
しかしそれを得意としている様子ではない『神』は、暴れるように揺れる飛翔の仕方で宙を飛び、高い建築物の屋根へ着地する。
そして一安心の息を漏らした瞬間、心胆を寒からしめる声を背後から聞いた。
「――……お粗末な飛び方だわ」
「ッ!?」
「まぁ、私も生命力の操作に関しては魔力を扱うより苦手だったし。アンタもそうなんでしょうね」
いつの間にか背後で滞空していたアリアは、『神』の様子を見てそう述べる。
そして驚愕と怯えを含んだ表情を宿らせた『神』は下がるように屋根の奥側へ移動し、杖を持ちながら身構えた。
それに対してアリアは白い翼を羽ばたかせながら『神』が居た場所に着地し、白い翼を消失させる。
そして互いが互いに顔を視線を向け合う体勢となる中で、先にアリアが話をし始めた。
「――……いい加減、自分から逃げるのを止めなさいよ」
「……!!」
「流石に理解したでしょ? 私が、前の私だって事はね」
「……ありえないわ。そんはず……」
「種明かしをしなきゃ、分からないワケ? ――……ほら、この杖よ」
「……それは……!?」
「私はこの杖に、自分の魂を注ぎ分けていた。人格も記憶も、知識や力も一緒にね」
「な……」
「私は自分に四つの誓約を課すと決めたその日に、私自身の魂をこの杖に分け与えた。この杖の中の魂を消失させない為に、肌身離さず持つ事にしてたわ。――……十年間くらいね」
「……!?」
「理解できたかしら?」
「……おかしいわよ」
「?」
「アンタが、本当に私なら! なんでこんなに、力の差があるのよ!? 私はこの十五年で様々な知識を得て、『神兵』の心臓を移植して、到達者になってるのに……!!」
「努力の差じゃない?」
「……努力、ですって……?」
「言ったでしょ。記憶を失って一から始めた三十年間のアンタより、この杖に込められた私の十年間の努力の量が、遥かに多かっただけよ」
「そんなわけないでしょ!? ――……私は実家に戻されて、前の私が残してた魔法の研究記録を全て見たわ! お前の技術は、全て自分のモノにしたッ!!」
「……」
「それだけじゃない! 各国が保有する秘術の情報を掻き集め、本に記載されている情報は全て読み取り、更に知識と力を高めた! 全てが前の私より、ずっと上のはずよ! なのに、なんで――……」
「アンタの知識は、幅は広くても浅いのよ」
「……あ、浅い……?」
「アンタは色々と出来るみたいだし、確かに力も私より大きいわ。――……でも魔力に対する基礎知識と基礎能力が、圧倒的に浅いのよ。さっきも言ったけど」
「……」
「私は小さな頃から、徹底的に魔力という存在に対して考え尽くし、『魔力』を扱う為の技術力を深めたわ。……アンタが三十年間やってたのは、『魔法』をただ使えるようにしてただけでしょ?」
「……そんな……」
「魔法師ってのはね、『魔法』を扱うんじゃないわ。『魔力』を扱うのよ。――……アンタは今まで、それを勘違いしてたみたいね」
「……そんなはず、ない……。私は、魔法を極めて……魔力の扱いに、最も長けているはず……!! あの『青』より……!」
「アンタ、さっき投げようとした瓦礫を師匠に止められてたでしょ?」
「!」
「師匠は気付いてたのよ。アンタの魔力の扱いが、お粗末だってことをね。――……アンタは師匠にゴリ押しで勝てたみたいだけど。はっきり言って、技量が低すぎるのよ。だから本来、格下の師匠にすら苦戦した」
「……うるさい」
「だいたい、十五年も掛かって人間を滅ぼせないとか。もっと計画を練って用意を周到にしてからやりなさいよ。情けないわね」
「……うるさい……!」
「私が人間を滅ぼすなら、こんな間怠っこしいやり方はしないわ。本気でやれば、一年も経たずに全人類を滅ぼせる自信はあるわね」
「うるさいッ!!」
「――……三十年も時間が在ったくせに、何やってたのよ? アンタ」
「うるさいッ!! ウルサイ! ウルサイッ!! ウルサイのよッ!!」
『神』はアリアの言葉や存在を拒絶するように顔を振り、その瞳から涙を零す。
それを見ながら冷かな視線を向けるアリアは、溜息を大きく吐きながら述べた。
「――……まるで、駄々を起こす子供ね」
「……ッ!!」
「正直に言って、アンタから心臓を抜き取って殺す事なんて簡単なのよ。ついでに、その杖も奪って解析し、あの核から流れ出てる瘴気を止めるのもね」
「……私の魂を破壊して、この身体を奪う気……!?」
「始めはそう考えてたけどね。――……それをやると私の相棒が怒るだろうから、止めておくわ」
「……?」
「それにアンタの状態に関して、色々と確認すべき事もある」
「……何を……」
「――……アンタの魂、なんで瘴気に憑りつかれてるわけ?」
アリアは躊躇も無くそう尋ね、『神』に訝し気な視線を向ける。
それを聞いた『神』は視線を落とし、鼻息を一つ吐きながら口元を微笑ませた。
都市の状況が一刻ずつ変化する中で、アリアと『神』の状況にも変化が訪れる。
そしてアリアの言葉によって、『神』の身に起こる新たな状態を明らかにした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
379
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる