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螺旋編 五章:螺旋の戦争

逆転の追走劇

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 『神』の目論見を邪魔し箱庭の防衛機能システムを停止させ、更に死んだエリクを『到達者エンドレス』として蘇らせようとするクロエの行動。
 それは周囲に居るケイルとマギルスの理解が追い付くよりも早く、怒れる『神』の襲来という新たな事態を迎える事となった。

 『神』は怒る表情で黒い六枚の翼を羽ばたかせ、凄まじい速度で上空から急降下する。
 その『神』と対峙する事となったクロエと、その近くに居るケイルとマギルスは久方振りに見る『アリア』の姿に驚く暇も無い。

 それは上空の神が急降下しながら周囲に数百を悠に超える光球を生み出し、撃ち放って来たからだった。

「――……死ねッ!!」

「ヤベェッ!!」

おおっ!?」

 ケイルとマギルスは撃ち出され向かって来る夥しい光球を目にし、表情を強張らせながら僅かな時間で思考し対抗しようと考える。
 しかしそれを見ながら微笑んでいたクロエは、右手を上に伸ばしながら微笑んだ。

 そして『神』の放った光球が、三人に届く直前。
 クロエ達に向かっていた光球が一瞬にして消失し、『神』は勿論ケイルとマギルスに驚愕の表情を生み出した。
 しかし逃げ道を塞ぐ為に放ち別の地面や建築物達に命中した光球は、凄まじい衝撃と威力で爆散する。

「――……なにッ!?」

「消えた……!?」

「僕達に、攻撃したのだけ……?」

 『神』は思わず警戒し上空で停止し、ケイルもエリクを庇おうとした姿勢で唖然とした様子を見せる。
 そしてマギルスも反射的に庇おうとしたクロエを見ながら、不思議そうに呟いた。

「何かしたの?」

「何も? ただ向こうが、私を魔法で攻撃したからこうなっただけさ」

「え……?」

仮想空間あそこでは肉弾戦の訓練ばかりだったから、教えてなかったね。――……私の身体は魔力マナを受け付けない。つまり私は、魔力で行使される私に対する魔法を無効化してしまうんだ」

「!」

「な……!?」

「おかげで、色々と不便だけどね」

 クロエはそう話しながら二人に微笑み、ケイルとマギルスは困惑を浮かべる。

 こうした話をクロエが語ったのは、この一行の中では記憶を失う前のアリアだけ。
 そのアリアが記憶を失い、更にそうしたクロエの肉体事情を把握していなかった二人は、初耳の話で再び驚かされた。

 周囲だけが攻撃を受け、クロエとその周囲に居たマギルスやケイル、そして倒れているエリクが無傷な理由もそれで理由になる。
 それを説明されて察した二人は、上空で飛びながら様子を窺う『神』に勝機の可能性を見出した。

「……つまり、お前クロエの近くに居れば……!」

「アリアお姉さんの大得意な、魔法は封じれる!」

「――……まぁ、そう簡単にはいかないだろうけど」

「!」
 
 クロエはそう呟きながら空を見上げ、二人もまた勝機を得た内心を揺るがされる。
 一方で上空から魔力消失の原因を推察していた『神』は、下に居るクロエを睨んだ後に左側にある建物群に左手を向け、新たに周囲に出現させた光球を撃ち放った。

「!」

「……なんでアタシ達にじゃなく、向こうに……?」

 誰も居ないはずの位置に突如として攻撃を行う『神』を見る二人は、怪訝な表情を浮かべる。
 しかしクロエは右手で頬を掻きながら、『神』の行動から思考を読み取った。

「二人とも、言っておくけどね?」

「……?」

「私は魔力マナを無効化できるけど、それによって起きた現象までは無力化できないんだ」

「げ、現象の無力化……?」

「例えば、魔法で物を浮かせるでしょ? それを私に投げる。私は物体を浮かべて射出した魔法は無力化を出来ても、魔力それを原動力にした物体の移動速度までは無力化できない」

「……まさか」

「彼女はさっきの攻撃で、それに気付いたね」

 クロエの言葉にケイルとマギルスは表情を強張らせ、上空の『神』が何をしようとしているのか察する。
 そしてその推察通り、『神』は更に次々と周囲の建築物を光球で破壊し、四人が居る塔の周囲を瓦礫の山に変えた。 

 そして無造作に右手に持つ杖を振り翳し、クロエ達に向ける。
 すると瓦礫となった山々に白い光が帯び、それ等が空中へ浮遊し始めた。

「!!」

「うわ……っ」

「ちなみにだけど。私は自分が作った空間じゃないと、普通の人間と変わらない身体能力だったりするのは、前に話してたよね?」

「!」

「この方法で攻撃されると、今の私は小さな瓦礫一つにでも当たったら死んでしまうかも」 

 クロエは数千を超える大小の瓦礫達が宙に浮かぶ姿を目にしながら、近くに立つ二人にそう話す。
 その話を聞いた二人は、この状況で最も頼りになると思えたクロエが、実は最も脆弱な存在だった事を思い出した。

 そして瓦礫が十分な高度まで持ち上がると、杖を振り翳す『神』は呟き笑う。
 その下では、クロエの言葉を聞いた二人が動揺しながら瓦礫が浮かぶ空を見上げた。

「――……これを防げるかしら?」

「――……二人とも。出来れば私とエリクさん、両方を守って生き延びてほしいんだけどな」

「無茶言うなッ!?」

「来るよ!」

「!!」

 そうした動揺の中で、無慈悲にも『神』は宙に浮かせた瓦礫を凄まじい速度で加速させ、クロエ達が居る場所へ撃ち放つ。
 瓦礫という物理的な弾丸をクロエは無効化できず、また迎撃するにしても数千どころか万数を超える大小の瓦礫が目にも止まらぬ速さで迫る中で、エリクとクロエを守りながら二人だけで瓦礫全てを防ぎ落とす事は不可能。

 それを察したマギルスは一瞬で決断し、自身の体内魔力と青馬の魔力を合わせ重ねた。

「――……『精神武装アストラルウェポン戦車形態チャリオット』ッ!!」

 マギルスはそう叫び、再び青馬と共に精神武装アストラルウェポンを使用する。

 それは合成魔人キメラ戦で見せた形態モノではなく、新たなに編み出していた形態フォルム
 青馬の契約主であるマギルスの青い魔力が近くに居たケイルやクロエを飲み込み、倒れているエリクも覆い隠した。

 そして襲い放たれる瓦礫が地面へ着弾した瞬間、一つの青い光が地面を駆け閃光となりながら瓦礫の弾丸を避け、東側へ逃げるように地面を駆けていく姿を『神』は目撃する。

「……あれは、まさか戦車チャリオット……!?」

 『神』の視線で捉えたのは、青い魔力で形成された大きく厳つい巨大な四輪を持つ戦車チャリオット

 その先頭にはマギルスの青馬が通常の二倍近い体格の巨馬へと変化し、戦車チャリオットを引き凄まじい速度で駆けながら『神』から遠ざかっていた。
 そして戦車の座席後ろには倒れていたエリクとケイルが乗せられ、青馬の手綱を右手で握るマギルスがクロエの腰を左手で抱きながら操縦している。

 突如として載せられ走っている戦車チャリオットに驚いたのは、エリクの傍に立ち戦車の凄まじい揺れで身体を傾けたケイルだった。

「――……な、なんだコレッ!?」

「僕の戦車ばしゃ! 凄いでしょ?」

「お前、いつの間にこんなモノを……!?」

「だって、いつも僕達の荷馬車が壊れちゃうでしょ? だから壊れない荷馬車を作れたらなぁって思ったら、出来た!」

「……お前も、やっぱ大概だな……」

「このまま逃げるよ! クロエも、しっかり掴まってて!」

「うん」

『ブルルッ!!』

 マギルスは右手で持つ青馬の手綱を打ち、巨体となった青馬はそれに応えるように駆ける速度を更に上げる。

 クロエは魔力を受け付けない以上、マギルスの戦車チャリオットには乗れない。
 そのまま素通りし地面に落下しそうだったクロエの腰を左手で掴み留めているマギルスは、右手の手綱だけで猛スピードの戦車を操った。
 そのまま戦車《チャリオット》は破壊された建物の瓦礫や倒れている黒い人形達を踏み鳴らしながら突破し、『神』から逃げるように離れる。

「……チッ、ウザったいッ!!」

 それを見た『神』は歯を食い縛り、六枚の黒い翼を羽ばたかせてマギルスの戦車を追う。
 更に追撃を加える為に、周囲に千以上の光球と万数以上の瓦礫を浮遊させ、マギルスの戦車を後ろから襲った。

 マギルスはそれを回避する為に道を右へ曲がり、何とか『神』を振り切ろうとする。
 しかし『神』は追跡と追撃を緩めず、夥しい数の光球と瓦礫の弾丸がマギルスの戦車チャリオットを襲い揺らした。

「エ、エリクが落ちる! 危ねぇだろ!?」

「そういう文句は、いつもみたいにアリアお姉さんに言ってよ!」

「次は左に曲がって!」

「うん!」

 衝撃と揺れでズリ動くエリクの身体をケイルは必死に腕と身体で抑え、マギルスはクロエの指示する方向へ戦車チャリオットを爆走させる。
 四人を乗せたマギルスの戦車チャリオットは、都市内部を縫うように『神』の追跡チェイスから逃れる為に駆け巡った。
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