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螺旋編 五章:螺旋の戦争
幽閉の青
しおりを挟む浮遊都市の北部で、大爆発と崩落が起きる少し前。
エリクと共に地下へ降り、魔鋼に飲み込まれた後に合成魔人を撃破したマギルスは更に地下奥深くで、魔鋼に包まれた赤く巨大な核を発見する。
それが都市を浮遊させているモノであると考え至ったマギルスは、鉄柵で作られた通路の上で笑みを浮かべながら、伴っている青馬を見ながら大鎌を構えた。
「――……ねぇねぇ。コレ壊したら、この街が落ちるんだっけ?」
「ブルッ」
「壊しちゃダメ? コレを壊すのが目的なんでしょ?」
「ブルゥ」
「だって、通信機はさっきから使えないし、上はあの黒くて硬いのだし」
「ヒヒィン」
「じゃあ壊した後に、僕が脱出できないだろう? ……あっ、そっか」
青馬と話していたマギルスは、自分の状況を思い出して大鎌を僅かに引かせる。
上下が魔鋼に覆われた地下の中で、もし浮遊機能を維持している可能性がある核を破壊すればどうなるか。
逃げられないマギルスは、そのまま都市の落下に巻き込まれてしまう可能性がある。
自分であればその状況でも生き残れるという自信がマギルスの中にはあったが、その確証は無い。
そしてクロエの予言を聞いていたマギルスは、目を閉じて少し考えながらどうするかを決めた。
「――……よし、出口を探してから壊そうか!」
「ブルルッ」
決断したマギルスは大鎌を背中の長筒に収め直し、青馬を伴いながらその場から離れる。
周囲を見回しながら通路を歩き、機械や魔導器が散らばるように置かれた施設を徘徊した。
そして徘徊してから一時間後、マギルスは僅かな明かりしかない暗闇の施設の通路内で見事に迷っていた。
「――……ここ、どこ?」
「……」
「なんだよ! お前がこっちに来ようって言ったんじゃん!」
「ブルゥ……」
「僕、方向音痴じゃないやい! この分かり難い場所が悪いだけだもんね!」
「……ブフッ」
青馬は呆れた様子を見せながら首を横に振り、マギルスは頬を膨らませながら先へ進む。
一度は我慢できずに壁を斬り裂いて進もうとしたマギルスだったが、壁の奥にはあの魔鋼があり、破壊して脱出する事も叶わない。
仕方なく道なりに進み出口を見つけるしかないマギルスは、苛立ちを抱えながら通路を歩き続けた。
そうした中で、マギルスと青馬は施設内が揺れている事を感じ取る。
それは内部で起きた衝撃で揺れている様子は無く、マギルスは天井を見上げながら呟いた。
「……なんか、揺れてるね?」
「ブルッ」
「向こうの人達が爆弾を使ったから? じゃあ、何か壊したのかな。……うーん、僕も外に出たい!」
「……ブルル」
「あっ、お前が居ないと明るくないんだから、先に行くな!」
地団駄を踏むマギルスの様子に青馬は再び呆れ、先に通路の方を歩き出す。
青馬が放つ青い魔力の発光が周囲を照らしている現在、マギルスは暗闇の道に対する光源を青馬しか持たない。
魔力を目に集めて凝らせば暗い道でも見えるには見えるのが、それもかなりの労力が必要の為にマギルスはしない。
その理由は面倒だからというのもマギルスにはあったが、先の戦いで精神武装を使用した事も起因していた。
「……あーあ。まだ身体に、上手く力が入らないや」
「ブルル」
「しょうがないじゃん! まだ調整が出来ないんだからさ」
「……ブルッ」
「はいはい、僕が未熟だからって言うんだろ。その通りだけどさ」
「ブルゥ……」
「威力は凄いけど、すごい魔力を喰うからなぁ。お前と僕の精神武装。もうちょっと時間があれば、完成できたのかなぁ」
そう呟きながら歩くマギルスは、何度か右手と左手を軽く握りながら体内の魔力を確認する。
精神武装はマギルスが三ヶ月間で編み出した技だったが、実は威力が調整できずに膨大な魔力を喰い潰すという弱点があった。
マギルスの内在魔力量は魔人の中では多い方だが、赤鬼化したエリクの総量に比べれば微々たるモノ。
その赤鬼エリク以上の放出量で繰り出す魔力斬撃や、それ以上の攻撃を防ぎ切る大盾を数秒でも維持する膨大な魔力は、マギルスの魔力を枯渇寸前にまで追い込んでいる。
それでもクロエとの訓練で一日で数回の使用が出来るようになり、マギルスは精神武装を必殺技として隠していた。
「……まさか、こんな場所で二回も使わされるなんてなぁ」
「ブルルッ」
合成魔人との戦いを思い出すマギルスは、少し悔しそうな表情を浮かべる。
余裕そうに見えた合成魔人との戦いだったが、マギルスは自身は笑顔と裏腹に寒気と冷や汗を感じていた。
単調な攻撃だったが、瞬間的な強さは間違いなく赤鬼化したエリクを彷彿とさせた合成魔人。
それが数百単位で襲い掛かり、更に収束させた魔弾や魔力光線の一発一発が威力は、普通の人間であれば跡形も無く肉片すら消失していただろう。
それ程に余裕の無い戦いで精神武装を使わされたマギルスは、未完成の技を悔やみながら自身の回復を待っている。
一時間の休憩で内在魔力をある程度までは戻し、手を開いて閉じてを繰り返しながら練り上げた青い魔力を滾らせ始めた。
「――……!」
そんな時、マギルスは進む道の先で奇妙な気配を感じ取る。
同時に青馬も姿を消して透明化し、マギルスは足音を立てずに慎重に歩み始めた。
その先に在ったのは、直径で五十メートル程の広さがある部屋。
周囲と同じように機械や魔導器が備わり、赤い核が存在した方へ配管が伸びている。
そんな変わり映えのしない風景にマギルスは興味は無く、その部屋の先に設置されたある設備に興味を抱いていた。
「……誰か、入ってる」
マギルスは目を凝らし、それを見る。
その部屋の奥に、合成魔人が入っていた容器に似た設備があった。
しかし中に満たされているのは赤い魔力薬液ではなく、青い魔力薬液。
マギルスは合成魔人を警戒して大鎌を抜き組み、両手で柄を持ちながらその設備に近付いた。
その瞬間、暗かった部屋全体に青い光が灯る。
それに反応したマギルスは立ち止まり、大鎌を振り回しながら構えた。
「なに? また合成魔人でも来るの?」
『――……誰か、そこに居るのか?』
「!」
警戒するマギルスの耳に、部屋全体に響く男の声が届く。
周囲を一度だけ見渡した後、マギルスは部屋の奥に在る青い魔力薬液で満たされた容器と、その中に入っている何者かを見た。
「もしかして、そこの人が喋ってる?」
『……おぉ……。おぉお……!』
「?」
『……やっと、やっと来たのか……』
「え……?」
『儂を、儂を解放してくれ……。頼む……』
「……誰なの?」
マギルスは訝し気な表情を浮かべながら、容器へ近付く。
そして容器の中が見えるガラス窓越しに、マギルスは遠目ながら中身を確認した。
「……人間?」
『頼む、誰でもいい……。ここから、儂を解放してくれ……』
「さっきから言ってるじゃん。誰なの?」
『……儂に、名は無い。……だが儂を知る者は、こう呼ぶ……』
「?」
『青の、七大聖人……』
「え……!?」
マギルスはその言葉を聞き、思わず表情を強張らせる。
自分を『青』の七大聖人と語る容器に入った男は、青い魔力薬液に満たされる中で瞳を開け、マギルスと視線を合わせた。
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