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螺旋編 五章:螺旋の戦争
爆弾の威力
しおりを挟むシルエスカ達が地下の大自然で、子供達がいる遺跡の町を発見した頃。
アズマ国とフォウル国の増援によって助け出されたグラドやヒューイを含んだ同盟国軍二百名前後の兵士は、箱舟がある都市東部を目指していた。
グラドは負傷した身体をアズマ国の忍者が容易した即席の担架に預けながら運ばれ、ヒューイ達も干支衆の強さを頼りに魔導人形の包囲網を突破する。
そうした中で焦る様子を見せる兵士達の先頭を走るヒューイは、それ等を世話する役目になった干支衆『兎』のハナに荒い息を吐き出しながら伝えた。
「――……あ、あと十分で……! 地下の、爆弾が……!!」
「爆発するんだよね。私達が守ってあげるから、みんな急いで逃げよう」
「は、はい……!」
長く白い髪を靡かせながら微笑む可愛らしいハナの声に、疲弊している兵達も応じる。
戦車に乗せ固定された重傷の負傷兵達が振動で呻き声を漏らしていたが、そうした者達を守るように干支衆『虎』のインドラと『牛』のバズディールが追跡し襲おうとする魔導人形達を蹴散らし、更に道を塞ぐ場所を怪力と斬撃で切り開いてヒューイ達の退路を確保していた。
「――……チッ、手応えがねぇな! もっと強いヤツはいねぇのかよ!」
「居れば、彼等は全滅している。幸いと言うべきだ」
「お前はいっつもそれだな、バズディール! この平和野郎め!」
「貴様が好戦的過ぎるだけだろう、インドラ。無駄な戦いは、しない方が良いに決まっている」
そんな口論を交えながらもインドラとバズディールは互いに新たに出現する魔導人形を瞬く間に蹴散らし、同盟国軍の撤退を見守る。
アズマ国の増援もグラドから爆弾の話を聞き、すぐに魔導人形を迎撃しながら工場地帯の都市北部から東部へ移動し、箱舟との合流を目指していた。
グラドは口から痛みを漏らす声を抑えながら仮面を付けた黒装束の忍者に担架で運ばれ、その隣を並走している当理流師範のブゲンに横目と声を向ける。
「――……あ、あと五分くらいだ……」
「合い分かった。少々手荒く運ぶが、我慢せよ」
「これくらい、慣れてるんでね……。……助かったぜ。あの巨人型を、頭から真っ二つにしちまうなんてな……」
「一刀両断とはならず。三度も斬らねばならなかった。まだまだ、親父殿には程遠い」
「……アンタの親父って、どんだけ強かったんだよ……」
「ふむ。何せ某の父は、東一の武芸者なのでな。面目上、儂も愚息として強くなくてはいかん」
「アズマで、一番強いってことか……?」
「『茶』の七大聖人と言えば、分かるであろう?」
「……あ、アンタ。『茶』の七大聖人、ナニガシの息子なのか……?」
「うむ。親父殿の世継ぎは儂しか居らぬ故、強く在るしかないのだ」
「……ハ、ハハ……。ゥ、イテテ……ッ」
「?」
「いや、ちょっとな。……本当、俺は普通で良かったぜ……」
グラドはそう言いながら笑みを浮かべ、ブゲンは首を傾げながらも視線を逆方向へ向ける。
すると一人の仮面と黒装束を被った忍者が建物を跳び越すように現れ、ブゲンの隣の並び走った。
「――……親方様、戻りました」
「トモエか。それで、どうだった?」
「はい。腑抜けていたので、一喝しておきました」
「そうかそうか。息災だったか?」
「はい。それと親方様の予想通り、あの子も至れていたようです」
「軽流ほどの才であれば、至れるも通り。もし成っておらねば、修行を怠っていた証拠。儂が鍛え直せばならぬところよ」
ブゲンはそう言いながら笑みを浮かべ、トモエも仮面の下で笑みを浮かべる。
互いに懐かしい愛弟子の気配がある事を悟り、その姿と健在振りを確認できた事で愛弟子に対する心残りを晴らした。
そうして各々が、都市北部の工場地帯から脱出する。
そして爆発の時間に至った時、工場地帯の中心部から地鳴りが唸り出す。
崩れた瓦礫や建物が大きく揺れると同時に、コンクリートの地面に大きな亀裂が走り、その隙間から炎の光が見えた。
そして次の瞬間、その亀裂が裂けて数十メートル以上の巨大な火柱と衝撃が工場地帯の中央から広がる。
工場地帯を脱していた同盟国軍やそれぞれの増援部隊がそれを遠くから見上げ、驚きの表情を浮かべた。
フォウル国の増援とヒューイが居る同盟国軍側では、その火柱を見上げて全員が様々な驚きを見せている。
「――……うわぁ、すっごい大きい……」
「デカい花火だなぁ!」
「花火というより、火山の噴火だろう。……あの箱舟といい、爆弾といい、同盟国も侮れんな」
感心するように呟き見上げるフォウル国の干支衆に対して、同盟国軍もまた全員が驚いている。
それは仕掛けた張本人である第五部隊にも言えた事で、自分で仕掛けた爆弾の威力に兵士達は驚いていた。
「ヒュ、ヒューイ隊長。爆弾って、あんな凄い威力だったんですか……?」
「……予想より、凄すぎるな……」
「えっ。……隊長は爆弾の威力を、知ってたんじゃ……?」
「あの爆弾は、局長殿が『とても威力がある爆弾』としか言わずに持たせた物だ」
「え、えぇ!?」
「な、なんで前もって威力確認をしてないんですか!?」
「地下で威力実験をやって万が一があれば全滅しかねんし、地上でやったら魔導国にバレるだろうからと……」
「……」
クロエに渡された爆弾が威力検証もされず、またそれを本番で仕掛けさせられた兵士達は生唾を飲み込む。
もし仮に爆弾が不発に終われば、今までの行動が全て無為になっていた。
しかし爆発しても威力が弱ければ、施設の完全破壊など出来るはずがない。
逆にこれほど威力が高すぎれば、自分達が逃げても間に合わず巻き込まれて死んでいた可能性もある。
そうした不安と悪寒が一気に押し寄せた兵士達は鳥肌を立たせ、クロエの理不尽さに再び恐怖させられた。
一方その頃、アズマ国の増援とグラドも同じ火柱を別の場所から見上げる。
忍者達が仮面の下で動揺にも似た驚き方をしているのが分かり、同じく忍者の頭領トモエや当理流師範ブゲンもまた目を見開いた後に笑みを浮かべた。
「――……ほぉほぉ、尋常ならざる火薬を使用したと見える」
「同盟国の兵装が、ここまでとは驚きですね……」
「……あの局長め。とんでもないモン、渡してやがったもんだな……」
驚きと感心を示すアズマ国の面々に対して、グラドは轟音で掻き消えそうな声でそう呟く。
そして火柱の一つが小さくなったかと思えば更なる火柱が出現し、地下に設置した百を超える時限爆弾が次々と連鎖的に爆破していった。
その威力は工場地帯の中心から全体の八割強に及び、中心部は爆発と火柱で跡形も無く吹き飛ぶ。
その周囲や外周付近も生み出される亀裂に建物達が崩れながら沈み、地盤が完全に崩れて都市北部は完全に崩壊した。
そうした被害の広がりを察知したそれぞれが、更に遠くへ避難する為に走り出す。
そして十数分後にアズマ国とフォウル国によって救助された同盟国軍は、無事に都市東部で合流を果たした。
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