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螺旋編 五章:螺旋の戦争
自分との対峙
しおりを挟むエリクは分断され孤立した塔内部で、魔鋼の骨格と鎧に身を包んだ黒騎士の魔導人形と、白い空間内で相対する。
互いに同じ色の黒い大剣を使い、黒い外套を羽織り、黒い服と鎧を身に纏う。
更には体格や大剣の構え方も似ており、その攻め方や独特な攻撃方法は対峙する黒騎士にエリクは自分自身の影を感じ取った。
そして主人を守るという機械の声ながらも呟いた言葉で、エリクは確信する。
目の前にいる黒騎士が、自分を元に作られた魔導人形なのだと。
『――……ハァアッ!!』
「ぐっ!!」
互いの大剣は火花を散らし、白い空間内に刃が衝突する音が鳴り響く。
エリクと類似した黒騎士はまるでエリクの手の内を知るかのように、掻い潜ろうとするエリクの大剣を受け止め弾いた。
同時に黒騎士は大剣の刃を切り返し、まるで軽い武器を振るかのように凄まじい速度の剣戟をエリクに放つ。
それにエリクも合わせて大剣を振りながら迎撃し、返せない剣戟は屈み避けながら足元を叩き潰そうと右腕と大剣を白い床を這わせながら走らせた。
しかし黒騎士はそれを跳び避け、同時に大剣を頭上に振り被らせながらエリクの頭を狙い振る。
それを感じ取ったエリクは転がるように横へ跳び避け、両手を地面に這わせながら黒騎士が白い床に大剣を叩き付ける姿を睨んだ。
そして黒騎士は大剣を即座に構え直し、這っていたエリクも身を起こしてすぐに構える。
再び対峙し見合う互いに対して、魂に居る制約のアリアは目の前の黒騎士について自身の推測をエリクに伝えた。
『――……黒騎士は、貴方の情報を元に作られた魔導人形に間違いない。多分、マシラ共和国やルクソード皇国で戦った貴方の姿を、水晶球を媒体にした魔法でガンダルフが記録していたのね』
「だから、俺と似た戦い方をするわけか」
『しかも全身、余す事なく魔鋼で作られてる。……多分、この魔導人形を作ったのは、私の本体よ』
「そうか……」
『エリクを真似た魔導人形で自分を守らせるなんて、随分と感傷的な事をするわね。今の私は……』
制約のアリアはそう話し、目の前の黒騎士の成り立ちを分析する。
魔鋼という特殊な金属で模られた黒騎士の容姿を作れるのは、間違いなく自分だということ。
更に『青』のガンダルフが様子を窺っていたマシラ共和国やルクソード皇国の戦いで、エリクの戦い方は情報という形で盗み撮られ、それを作った黒騎士に自律制御させていること。
その二つの点から制約のアリアは、黒騎士の制作者が今の自分だと察した。
「!」
『――……ォオオッ!!』
そんな推察がされる中で、黒騎士は大きく踏み込むと同時に凄まじい速度でエリクに斬り込む。
機械的な声ながらも雄叫びを響かせた黒騎士の大剣は黒い魔力を帯び、まだ距離が離れているエリクに振り薙いだ。
黒騎士の行動に目を見開いたエリクは、自身の勘に従い横へ大きく跳び避ける。
その勘は正しく、エリクが居た場所に膨大な威力で放たれた巨大な魔力斬撃が襲い掛かり、エリクの横一面の視界を黒く覆った。
「俺の技か……!」
『エリク!』
黒騎士に自分の技を模倣された事を悟ったエリクは、黒く染まる視界を横目にしながら歯を食い縛る。
更に魂のアリアが声を放つと同時に、エリクは右手に持つ大剣を頭上の中空に素早く振った。
そこには既に黒騎士が滞空し、黒い大剣を振り翳してエリクに攻撃を加えようとしている姿がある。
再び互いの大剣が衝突した瞬間、防いだと思われた黒騎士の大剣から膨大な黒い魔力が宿っていた。
「!」
『……ォオオッ!!』
エリクは黒騎士が何を行うかを悟ったが、それは避ける間も無く実行される。
黒騎士の大剣から再び黒い魔力斬撃が放たれ、エリクを覆うように襲った。
そして自身の視界が全て黒に染まったエリクは、その斬撃に飲み込まれる。
黒い魔力斬撃が白い金属床と衝突して凄まじい爆発を生み、互いを巻き込むように魔力が霧状に四散する。
その中から跳び退いて出て来た黒騎士は、着地すると同時に爆発の中心部を見た。
『――……!』
「……それは、俺もやった事が無かった」
黒騎士は両眼の赤い輝きを強め、まるで驚いた様子を見せる。
黒く四散する魔力の中からその声が届くと同時に、エリクがその姿を晒した。
エリクは全身に生命力を滾らせ、力強い輝きを肉体から放つ。
強力で膨大な黒い魔力斬撃を生命力で防ぎながらも頭から一筋の血を流すエリクだったが、体には傷を負ってはいなかった。
『――……軽傷なのは、クロエがくれた服のおかげね。素材のミスリルが、あの魔力斬撃を防いでくれた』
「そうなのか」
『ミスリルと魔鋼。互いに似た精製方法だから、魔力に対する耐性はかなり強い。でも耐性があるというだけで、限界はある』
「なら、向こうにも限界があるということか」
『そうよ。……でも、その限界値が違い過ぎる。普通の手段じゃ、あの魔鋼は破壊できない』
「……普通ではない手段なら、出来るのか?」
『ええ』
「どうやる?」
『魔鋼は、超新星爆発という現象で生み出されるの。言わば魔鋼は、巨大な星の爆発で生み出された膨大な魔力を浴びた星の欠片なのよ』
「……そ、そうか」
『今は理解はしなくてもいいから。……だからあの魔鋼は、膨大な魔力を蓄えてる。それこそ、星の寿命に相当する量のね』
「それを、どうやって壊す?」
『やり方は三つ。一つは、超新星爆発並の衝撃で砕く方法。でもこれは、例え到達者の攻撃でも不可能よ』
「他には?」
『昔、伝説の鍛冶師と言われたドワーフが作った勇者の聖剣。聖剣は魔力を含んだあらゆる物質を破壊する事が出来ると云われていて、それなら魔鋼も破壊できるはず。でも、その聖剣は持ち主を選ぶらしいし、五百年前から持ち主と一緒に行方不明よ』
「もう一つは?」
『魔鋼を制御している核を破壊すること。そうすれば流動体で集合体でもある魔鋼は形を保てず自壊する。アレだけの自律行動が組み込まれているという事は、奴の内部に術式を施した核がある可能性が高いわ』
「なら、それを破壊しかないか」
『問題は、奴の装甲が硬すぎること。内部に在ったら攻撃できる方法が無いわ』
「ある」
『!』
そうした会話を二人は行う中で、黒い魔力の霧が完全に無くなる。
そして互いに遮るモノも無い白い空間で再び対峙し、黒騎士は大剣に再び膨大な魔力を溜め込んだ。
『――……主人ハ、俺ガ守ル』
「……」
『彼女ヲ守レルノハ、俺ダケダ』
「……俺も、そう思っていた。だが逆に、守られていた事を知った」
『……』
「お前は、昔の俺だ。……守れていると思っていた、何も知らない俺だ」
『――……オォオオッ!!』
エリクは自分の瞳に悲しみを宿し、黒騎士に対してそう語る。
それに反発するように黒騎士は飛び出し、再び黒い魔力を帯びた大剣を振り翳した。
それと相対するように、エリクも大剣を身構え全身を纏う生命力の輝きを強める。
そして互いに大剣を振り、黒騎士の黒い魔力とエリクの白い生命力が衝突しながら衝撃と轟音を発生させた。
過去の自分を模倣して作られた黒騎士と、新たな力で立ち向かうエリク。
同じ人物を思う同じ意思が、交わり反発しながら戦いを繰り広げた。
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