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螺旋編 五章:螺旋の戦争
自分だけの力
しおりを挟むマギルスが発見した、浮遊都市内部で製造されていた合成魔人。
それはルクソード皇国で製造されていた合成魔人と比較できない程の強さを持ち、明確な敵意を持ってマギルスに襲い掛かった。
それと対峙し大鎌を構えたマギルスは、寒気を感じながらも嬉々とした笑みを浮かべる。
そして魔人の、魔族としての本能を全開にしたマギルスは、襲い来る十数体の合成魔人に対して再び攻撃を仕掛けた。
「――……はぁ!」
「!!」
マギルスが笑みを浮かべながら大鎌を振り回し、複数の魔力斬撃で合成魔人達を襲う。
その威力は先程とは比べ物にならず、合成魔人達を消し斬るように浴びせられた。
しかし合成魔人は瞬時に赤い魔力障壁を前方に展開し、マギルスの魔力斬撃を防ぐ。
それに驚きながらも更に笑みを深めたマギルスは、止まらず一斉に襲い掛かる合成魔人と接戦を開始した。
「うわっとぉ!」
「ァアアッ!!」
「ギャァアアッ!!」
合成魔人達は奇声を上げながらマギルスに魔力を帯びた爪や牙で襲い掛かる。
それを回避した上で魔力を滾らせた肉体と大鎌の柄で叩き落としたマギルスは、別のタイミングで襲い掛かる合成魔人へ振り向き様に大鎌の刃で斬り掛かった。
「――……!!」
「ガアッ!!」
「うぐ……ッ!!」
しかし大鎌の刃はやはり魔力が滾る合成魔人の肉体の腕を切断できず、逆に凄まじい腕力で大鎌を弾かれる。
そして弾かれ空中に浮かされた瞬間、別方向から飛び掛かった合成魔人から凄まじい殴打を横腹に浴びた。
その痛みと衝撃を堪えながらも吹き飛ばされたマギルスは、中空で大鎌を振るいながら施設内の設備に鎌の刃を食い込ませる。
そして柄を強く掴み身を翻しながら態勢を安定させたマギルスは、火花を散らす設備の上に着地し合成魔人がいる方へ顔を向けた。
「!」
「――……ギャアアァッ!!」
「ガアアッ!!」
「ァアッ!!」
「うわっ、もう来た!」
吹き飛んだマギルスを追うように、合成魔人達が奇声を上げて容器や設備を飛び越えて迫る。
それに驚きながらもやはり笑みを浮かべるマギルスは食い込ませた大鎌の刃を引き抜き、再び構えて合成魔人と真正面から衝突した。
十数体の合成魔人はマギルスと接戦を繰り広げ、強力な攻撃を浴びせ続ける。
中にはマギルスと同じ魔力斬撃を使い遠隔から攻撃する個体や、咆哮と共に口から魔力光線を放つ個体もいた。
「ッ!!」
そうした攻撃もマギルスは反射に近い形で避け、接戦も行う合成魔人と相対する。
その間にマギルスは相手の実力を測り、やはり相手が見た目通りに魔人化している事を悟った。
「へぇ! 合成魔人っぽいけど、合成魔獣とも掛け合わせた合成魔獣人ってとこかな!」
「ギャアアッ!!」
「ガァアアッ!!」
合成魔獣人と仮称した相手に対して、大鎌と手足で迎撃するマギルスはまだ笑みを絶やさない。
赤鬼エリクと同等の魔力を滾らせている相手にも拘わらず、マギルスは本当に遊んでいるかのように戦いを楽しんでいた。
「……クロエの言った通りだ。僕、強くなった!」
マギルスはそう喜びながら、少し前の出来事を思い出す。
エリクが試練を受けていた三ヶ月間、マギルスもまたクロエと訓練と称した実戦を行った。
しかし作り出された仮想空間内で無類の強さを誇るクロエに、マギルスは一生涯分の敗北を喫する。
始めこそクロエとの戦いを喜び楽しんでいたマギルスだったが、あまりの強さに対抗できずに次第に喜びは薄れ、一ヶ月も経つ頃には笑顔が無くなり、地面に寝転がりながら拗ねていた。
『――……おや、楽しくないかい? マギルス』
『……うん。だって、クロエに勝てないもん』
『勝てないのは当たり前さ。私は幾十万年と転生を繰り返してるし、戦歴は君の何万倍もあるんだから』
『……どうやったら、クロエに勝てるようになる?』
『そうだね。私以上に戦い続ければ、いつかは勝てるんじゃないかな?』
『今すぐは?』
『不意打ちしても、無理だろうね』
『むー……』
不貞腐れたように仮想空間の芝生で寝転がるマギルスに、クロエは微笑みながら屈む。
そして顔を近付けながら、クロエは囁くように語りかけた。
『――……ねぇ、マギルス』
『……?』
『マギルスは、戦うのが好き? それとも、勝つのが好き?』
『……どっちもかな』
『じゃあ、勝てない戦いをするのは嫌?』
『……うーん、どうだろ』
『マギルスは今まで、自分より強い人とあんまり戦えなかったみたいだね』
『……そうだね。僕、ゴズヴァールおじさん以外には本気を出して負けた事ないから』
『じゃあ、ゴズヴァールという人と戦って負けた時は、どう思った?』
『……悔しいって思った。それで、もっと強くなりたいって思ったんだ。……そうしたらゴズヴァールおじさんが、一緒に来れば強くなる方法を教えてやるって、僕をマシラまで連れて行ったんだよね』
『そっか。なら、私にも負けて悔しい?』
『……悔しいけど、ゴズヴァールおじさんの時より悔しくない』
『それは、なんで?』
『クロエが強すぎて、何やっても勝てないなって思っちゃうから』
『つまり、今のマギルスが持っている手段では何をしても勝てないって、分かってるんだね』
『……うん』
『じゃあ、出来る事を増やしたらどうかな?』
『出来る事を、増やす?』
クロエにそう提案されたマギルスは、身を起こして顔を向ける。
それに微笑みながら話を続けるクロエは、こんな案を述べた。
『マギルスは戦いの中で、最も重要なのは何だと思う?』
『……魔力とか、身体技術とか、武器とか?』
『そうだね。それも大事だけど、もっと重要なモノがあるんだ』
『もっと重要なモノ?』
『それは、隠し玉さ』
『……隠し玉?』
『敵と戦う上で一番怖いのは、相手が何をしてくるか分からないことだよ。自分の知らない知識や技術を、戦いの中で使われると対策が出来ずに対処が間に合わなくなる。それは分かる?』
『……うん、分かる』
『その点で言えば、マギルスの戦い方にはとても魔人らしく、けれど魔人の域を超えていないんだ』
『!』
『マギルスの基礎能力と潜在能力は、私なんかよりずっと高いと思う。けれど魔人としての戦い方には、特異性が無いんだ』
『とくいせい……?』
『魔人……というより、魔族かな。魔族には色んな種族がいる。そして一つ一つの種族に、特殊な戦い方があるんだ』
『特殊な戦い方……?』
『例えば、三大魔獣に数えられている銀狼獣。そして彼等に近しい狼獣族と呼ばれる魔族は、己の牙や爪を武器として扱うけど、本当に脅威なのは彼等の特性なんだ』
『特性?』
『魔族にはそれぞれ、得意とする魔力属性がある。狼獣族は主に風や雷の属性魔力が扱えるんだけど、彼等はそれを駆使した特殊な技法で戦闘を行うんだ』
『魔力の技法……?』
『爪や牙に風の魔力を付与して、斬撃として飛ばしたり切断力や貫通力を高める技法。そして自身の肉体に雷の魔力を付与して、肉体を大幅に強化して魔力や物質を分解させる技法。そうした種族固有の技法が、特異性なんだよ』
『……じゃあ、僕の……首無騎士にも、特異性っていうのがあるの?』
『うん』
『どんなの?』
『うーん。私が教えても良いけど、それでいいの?』
『!』
『どうせだったら、自分で考えてみよう。マギルスが出来る、自分だけの戦い方を』
クロエはそう微笑みながら促し、マギルスは不貞寝から立ち直る。
それからクロエと戦う事を一時的に止め、自分に出来る独自技法をマギルスは必死に考え、それを出来るように努力した。
それはマギルスの自信を取り戻させ、クロエと再び相対した時に不完全ながらも披露する。
それはクロエを驚かせながらも、結果としては負けてしまった。
しかしマギルスはクロエを驚かせた事を喜び、訓練を続けながら自身の技法を鍛え続ける。
それは強力な合成魔獣人《キマイラス》を相手にしても余裕を生み、無意識ながらも自然な笑みを零れさせていた。
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