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螺旋編 五章:螺旋の戦争
垣間見る存在
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グラドとヒューイを始めとした同盟国軍が、増援と合流する少し前。
地下施設の出入り口付近でもう一体の巨人型と交戦しているケイルは建物を伝いながら跳び、素早く抜刀した赤い刀身の魔剣で攻撃を加えていた。
「――……ッ」
『――……』
しかし先程と同様、硬い装甲の上に覆われる強力な結界に剣は弾かれ、身を翻しながら建物の屋根にケイルは着地する。
そして振り返りながら赤い単眼を向ける巨人型は、ケイルに向けて腕を振り巨大な拳を叩きつけようとした。
それを跳んで回避するケイルは、建物から降りてコンクリートの地面に降り立つ。
そして巨人型を見上げた中で、微妙な変化が起こっている事に気付いた。
「……なんだ?」
ケイルが見たのは、巨人型の赤い単眼が点滅している光景。
そして先程のようにすぐにこちらを振り向かず、立ち止まったまま硬直していた。
『――……』
その点滅が止むと、先程より強い光で赤い単眼が輝き始める。
そして次の瞬間には、周囲にも突発的な変化が訪れた。
「――……これは……!」
ケイルが見たのは、振動しながら周囲の建物や道の下から突如として突き出す黒い箱状の物体。
それに視線を向けると扉のような形状も見えた事で、ケイルは次に起こる事を予想した。
「チッ!」
舌打ちを鳴らしたケイルは、黒い箱の無い方向へ走る。
それと同時に黒い箱が開かれ、中から四足型と球体型が飛び出した。
更に巨人型も動き出し、周囲に居る数十体以上の魔導人形がケイルを追い始める。
それを首を逸らしながら視認するケイルは、建物の付近にある障害物を逆に利用して、再び気力を用いた跳躍で廃工場の屋根へ登った。
後ろを振り返り下を見るケイルは、下に集まる四足型達を見る。
更に変形し銃口となる腕を向ける複数の球体型を見て屋根の中心まで下がると、轟音を鳴らしながら迫る巨人型を見て呟いた。
「……コイツ等、急に動きを変えやがった」
ケイルはそう呟き、地下と地上で魔導人形の動きが全く異なる疑問を再び浮かべる。
地下の製造施設に居た魔導人形達は侵入した自分達に対して確かに攻撃を加えたが、それ自体は単調な攻撃であり、魔導人形達が連携しているような様子は無かった。
しかし空や地上に出ている魔導人形達は、明らかに数の有利を活かした連携で対応し、こちらを排除しようとする。
このような連携が初めから取れるのならば、数の有利を活かせる地下で侵入した自分達を殲滅する事も可能だっただろう。
それを考え不自然に思っていたケイルは、地下でグラドと副官が話していた言葉の内容を思い出した。
『……ダメです。箱舟と地上部隊に、連絡が取れません』
『地上で何かあった、と思うべきか?』
『いえ、先程まで通信は出来ていました。……原因があるとすれば……』
『……あの魔導人形を作ってる施設か』
『施設から発せられる高魔力に、通信が妨害されている可能性が。……恐らくこの鉄扉は、それを防ぐ為に分厚く作られていたんでしょう』
『ふむ……』
グラドと副官は地下でそう話し、通信機が機能しない理由を導き出した。
その話がケイルの疑問と重なり、ある答えを導き出す。
「――……魔導人形は、自律装置とやらで動いてるんだよな。……だが地下施設の付近では自律して動けても、明確な命令を伝える為の装置が妨害されるのか」
『――……』
「だが、高い魔力が放たれていない地上なら命令が飛ばせる。――……この魔導人形共は、誰かが何処かで見ながら操作してやがるのか!」
ケイルはそう結論付け、迫る巨人型の体当たりを跳び避けて別の建物に飛び移る。
そして先程よりも数倍機敏に動き始めた各魔導人形達を見て、疑惑が確信に変わった。
「どこだ……!? どこで、誰が操作してる……!?」
ケイルは周囲を見渡しながら、地上に出た魔導人形達を操作しているモノを探す。
しかし周囲にそれらしい施設も人物も確認できず、再び迫る巨人型に対応したケイルは飛び退いて下がった。
「この巨人型はともかく、下の連中は数が多すぎる……!」
『――……』
「……もし地下の施設以上に魔導人形が格納されているなら。操作してる頭を潰さない限り倒してもキリがない……。クロエの予想が外れたのか?」
ケイルは呟くように溜息を漏らし、新たに出現した黒い箱の中から出て来る魔導人形達を睨む。
作戦前のクロエが立てた予想では、魔導人形製造施設の中に自律機能を持たせ動かしている設備もあると述べていた。
しかしこの状況になり、クロエの説が外れているのだとケイルは思い至る。
例え自律機能を備えた設備を爆破に成功しても、地上に居る他の何かが魔導人形を操作する。
それも止めない限り、魔導人形達は止まらない。
それが理解できたケイルは焦り、下や目の前にいる魔導人形達に相手をする事が無意味にさえ思えてくる。
しかし施設が爆破されるまでは結果が分からない為、それでもケイルは消耗を避けながら時間稼ぎを続けた。
そうした中で、二十分程が経過する。
巨人型は戦車と相対した時と同様に変形した足が車輪を作り出し、先程の数倍以上の速度で迫るようになっていた。
更に下に広がり迫る各種の魔導人形達の数も増え、その数は百を超えている。
それでもケイルは逃げ続けていたが、連携した魔導人形達は新たな策に出ていた。
「……コイツ等、アタシの逃げ場を……!」
ケイルが見たのは、地上の球体型が手と腕の砲撃で周囲の建物を破壊し始め、倒壊させていく姿。
向こうが何を始めたか理解したケイルは、再び舌打ちを鳴らして周囲を見渡した。
ケイルが屋根伝いに利用できそうな建物が、全て球体型の砲撃で崩れていく。
つまり逃げられる高所が無くなり、魔導人形達が犇《ひし》めき合うコンクリートの地面へ跳ぶしかない。
それに合わせるように巨人型も迫り、赤い単眼を激しく光らせながら両腕を振り上げる。
逃げ場の無い状況にケイルは溜息を吐き出し、呟きながら腰を落とした。
「……アリアと戦う為に、温存しときたかったんだけどな……」
『――……』
「――……トーリ流術、月の型。『新月』」
そう呟いた瞬間、巨人型の巨大な両腕がケイルの頭上に振り落とされる。
それに合わせて左腰の魔剣を素早く抜いたケイルは、振り下ろされる鉄拳に薄くも広いの巨大な気力《オーラ》を斬撃として放った。
鉄拳と半月の刃が衝突し、振り落としたはずの巨人型が鉄拳が跳ね返るように中空へ持ち上がる。
押し合いに勝利したケイルはそのまま正面へ飛び込み、新たなに気力を纏わせた技を出した。
「――……トーリ流術、月の型。『既朔』」
続いて技名を小さく呟き、ケイルは右腰に収めた赤い小剣を左手で抜刀し、両腕に溜めた気力を両方の剣に纏わせる。
そして長剣の右手を振り下ろし、小剣の左手を振り上げ、巨人型の硬い胴体と覆われる結界に亀裂を生じさせた。
凄まじい威力の斬撃が続き、巨人型は傷付き裂けた結界と装甲を晒して後ろによろめく。
その隙にケイルは着地してから後ろへ跳び、一息を吐きながら巨人型の状態を窺った。
「……ハァ。やっぱ、月の型はキツイな……」
身に纏い刀だけに纏わせていた気力を刀身から巨大な斬撃として切り裂くこの技は、今まで消耗が激しいからとケイルは使わずにいた。
それを二回も続けて使い、額に汗を浮かべながら今まで余裕のあったケイルの表情を険しくさせる。
それでもケイルの闘志は衰えず、目の前に立つ巨人型を見て呟いた。
「……アリア。もしテメェが、この魔導人形共を操ってる張本人だとしたら……」
『――……』
「アタシがお前も斬って、引導を渡してやる」
ケイルは再び両剣を腰に収め、万全の姿勢で迎撃を整える。
そして巨人型は赤い単眼を光らせ、再びケイルへ迫った。
地下施設の出入り口付近でもう一体の巨人型と交戦しているケイルは建物を伝いながら跳び、素早く抜刀した赤い刀身の魔剣で攻撃を加えていた。
「――……ッ」
『――……』
しかし先程と同様、硬い装甲の上に覆われる強力な結界に剣は弾かれ、身を翻しながら建物の屋根にケイルは着地する。
そして振り返りながら赤い単眼を向ける巨人型は、ケイルに向けて腕を振り巨大な拳を叩きつけようとした。
それを跳んで回避するケイルは、建物から降りてコンクリートの地面に降り立つ。
そして巨人型を見上げた中で、微妙な変化が起こっている事に気付いた。
「……なんだ?」
ケイルが見たのは、巨人型の赤い単眼が点滅している光景。
そして先程のようにすぐにこちらを振り向かず、立ち止まったまま硬直していた。
『――……』
その点滅が止むと、先程より強い光で赤い単眼が輝き始める。
そして次の瞬間には、周囲にも突発的な変化が訪れた。
「――……これは……!」
ケイルが見たのは、振動しながら周囲の建物や道の下から突如として突き出す黒い箱状の物体。
それに視線を向けると扉のような形状も見えた事で、ケイルは次に起こる事を予想した。
「チッ!」
舌打ちを鳴らしたケイルは、黒い箱の無い方向へ走る。
それと同時に黒い箱が開かれ、中から四足型と球体型が飛び出した。
更に巨人型も動き出し、周囲に居る数十体以上の魔導人形がケイルを追い始める。
それを首を逸らしながら視認するケイルは、建物の付近にある障害物を逆に利用して、再び気力を用いた跳躍で廃工場の屋根へ登った。
後ろを振り返り下を見るケイルは、下に集まる四足型達を見る。
更に変形し銃口となる腕を向ける複数の球体型を見て屋根の中心まで下がると、轟音を鳴らしながら迫る巨人型を見て呟いた。
「……コイツ等、急に動きを変えやがった」
ケイルはそう呟き、地下と地上で魔導人形の動きが全く異なる疑問を再び浮かべる。
地下の製造施設に居た魔導人形達は侵入した自分達に対して確かに攻撃を加えたが、それ自体は単調な攻撃であり、魔導人形達が連携しているような様子は無かった。
しかし空や地上に出ている魔導人形達は、明らかに数の有利を活かした連携で対応し、こちらを排除しようとする。
このような連携が初めから取れるのならば、数の有利を活かせる地下で侵入した自分達を殲滅する事も可能だっただろう。
それを考え不自然に思っていたケイルは、地下でグラドと副官が話していた言葉の内容を思い出した。
『……ダメです。箱舟と地上部隊に、連絡が取れません』
『地上で何かあった、と思うべきか?』
『いえ、先程まで通信は出来ていました。……原因があるとすれば……』
『……あの魔導人形を作ってる施設か』
『施設から発せられる高魔力に、通信が妨害されている可能性が。……恐らくこの鉄扉は、それを防ぐ為に分厚く作られていたんでしょう』
『ふむ……』
グラドと副官は地下でそう話し、通信機が機能しない理由を導き出した。
その話がケイルの疑問と重なり、ある答えを導き出す。
「――……魔導人形は、自律装置とやらで動いてるんだよな。……だが地下施設の付近では自律して動けても、明確な命令を伝える為の装置が妨害されるのか」
『――……』
「だが、高い魔力が放たれていない地上なら命令が飛ばせる。――……この魔導人形共は、誰かが何処かで見ながら操作してやがるのか!」
ケイルはそう結論付け、迫る巨人型の体当たりを跳び避けて別の建物に飛び移る。
そして先程よりも数倍機敏に動き始めた各魔導人形達を見て、疑惑が確信に変わった。
「どこだ……!? どこで、誰が操作してる……!?」
ケイルは周囲を見渡しながら、地上に出た魔導人形達を操作しているモノを探す。
しかし周囲にそれらしい施設も人物も確認できず、再び迫る巨人型に対応したケイルは飛び退いて下がった。
「この巨人型はともかく、下の連中は数が多すぎる……!」
『――……』
「……もし地下の施設以上に魔導人形が格納されているなら。操作してる頭を潰さない限り倒してもキリがない……。クロエの予想が外れたのか?」
ケイルは呟くように溜息を漏らし、新たに出現した黒い箱の中から出て来る魔導人形達を睨む。
作戦前のクロエが立てた予想では、魔導人形製造施設の中に自律機能を持たせ動かしている設備もあると述べていた。
しかしこの状況になり、クロエの説が外れているのだとケイルは思い至る。
例え自律機能を備えた設備を爆破に成功しても、地上に居る他の何かが魔導人形を操作する。
それも止めない限り、魔導人形達は止まらない。
それが理解できたケイルは焦り、下や目の前にいる魔導人形達に相手をする事が無意味にさえ思えてくる。
しかし施設が爆破されるまでは結果が分からない為、それでもケイルは消耗を避けながら時間稼ぎを続けた。
そうした中で、二十分程が経過する。
巨人型は戦車と相対した時と同様に変形した足が車輪を作り出し、先程の数倍以上の速度で迫るようになっていた。
更に下に広がり迫る各種の魔導人形達の数も増え、その数は百を超えている。
それでもケイルは逃げ続けていたが、連携した魔導人形達は新たな策に出ていた。
「……コイツ等、アタシの逃げ場を……!」
ケイルが見たのは、地上の球体型が手と腕の砲撃で周囲の建物を破壊し始め、倒壊させていく姿。
向こうが何を始めたか理解したケイルは、再び舌打ちを鳴らして周囲を見渡した。
ケイルが屋根伝いに利用できそうな建物が、全て球体型の砲撃で崩れていく。
つまり逃げられる高所が無くなり、魔導人形達が犇《ひし》めき合うコンクリートの地面へ跳ぶしかない。
それに合わせるように巨人型も迫り、赤い単眼を激しく光らせながら両腕を振り上げる。
逃げ場の無い状況にケイルは溜息を吐き出し、呟きながら腰を落とした。
「……アリアと戦う為に、温存しときたかったんだけどな……」
『――……』
「――……トーリ流術、月の型。『新月』」
そう呟いた瞬間、巨人型の巨大な両腕がケイルの頭上に振り落とされる。
それに合わせて左腰の魔剣を素早く抜いたケイルは、振り下ろされる鉄拳に薄くも広いの巨大な気力《オーラ》を斬撃として放った。
鉄拳と半月の刃が衝突し、振り落としたはずの巨人型が鉄拳が跳ね返るように中空へ持ち上がる。
押し合いに勝利したケイルはそのまま正面へ飛び込み、新たなに気力を纏わせた技を出した。
「――……トーリ流術、月の型。『既朔』」
続いて技名を小さく呟き、ケイルは右腰に収めた赤い小剣を左手で抜刀し、両腕に溜めた気力を両方の剣に纏わせる。
そして長剣の右手を振り下ろし、小剣の左手を振り上げ、巨人型の硬い胴体と覆われる結界に亀裂を生じさせた。
凄まじい威力の斬撃が続き、巨人型は傷付き裂けた結界と装甲を晒して後ろによろめく。
その隙にケイルは着地してから後ろへ跳び、一息を吐きながら巨人型の状態を窺った。
「……ハァ。やっぱ、月の型はキツイな……」
身に纏い刀だけに纏わせていた気力を刀身から巨大な斬撃として切り裂くこの技は、今まで消耗が激しいからとケイルは使わずにいた。
それを二回も続けて使い、額に汗を浮かべながら今まで余裕のあったケイルの表情を険しくさせる。
それでもケイルの闘志は衰えず、目の前に立つ巨人型を見て呟いた。
「……アリア。もしテメェが、この魔導人形共を操ってる張本人だとしたら……」
『――……』
「アタシがお前も斬って、引導を渡してやる」
ケイルは再び両剣を腰に収め、万全の姿勢で迎撃を整える。
そして巨人型は赤い単眼を光らせ、再びケイルへ迫った。
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