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螺旋編 五章:螺旋の戦争
強者の増援
しおりを挟むアズマ国の増援、当理流術の師範ブゲンがグラドと合流していた頃。
球形状の建物内で球体型に包囲された同盟国軍は、絶命の淵に立たされていた。
それでもヒューイの鼓舞と意思で銃を落とした者達は拾い、戦車を盾にしながら銃を構え陣形を整える。
観客席から囲み変形し終えた球体型の手と腕から放たれようとする魔弾と魔砲の光を兵士達は見て、表情を強張らせながら銃口を向けて引き金に指を掛けた。
その時、両側の観客席で並び立つ球体型の一部が下から吹き飛ばされるように崩れる。
突如として起こった状況に、兵士達は驚愕の表情で見上げた。
「――……ッ!!」
「な、なんだ……!?」
唖然した口から声を漏らす兵士達は、瓦礫と共に宙を舞う数体の球体型を見る。
通常の魔導人形よりも遥かに重い球体型が容易く宙を舞う光景は、兵士達にとって異様でしかない。
驚愕と唖然を入り交わった顔を浮かべる兵士達を他所に、ヒューイを含んだ一部の兵士達は埃と煙が舞う吹き飛ばされ場所を見る。
その中から何かが飛び出すと、並び立つ球体型に凄まじい勢いで突っ込み、更に十数体を吹き飛ばして会場内から弾き出した。
「!?」
「な……!!」
「あ、アレって……!?」
兵士達は土煙から出現した人物達を見て、自身の目を疑う。
確かにその人物は人に近しい姿だったが、兵士達とは異なる姿をしていたのだ。
見える顔は牛を彷彿とさせ、黒く太い角が二本ある。
全身は黒い毛に覆われた三メートル近い巨体であり、その太く黒い腕から放たれる拳は易々と超重量の球体型を吹き飛ばしながら叩き潰していた。
更に逆側からは、黒い縞模様を持つ黄色の毛に覆われた虎顔の大男が出現する。
両手から放たれる爪の斬撃は易々と周囲に立つ球体型の硬い装甲を切り裂き、瞬く間に周囲の魔導人形達を薙ぎ払った。
二人は両側で球体型を破壊しながら縦横無尽に駆け巡り、会場の内外へ吹き飛ばす。
それは同盟国軍がいる中央の傍にも落ちて来たので、兵士達は驚愕しながら退避した。
突如として現れた人型の獣を目にし、兵士達が表情を強張らせる。
その中でヒューイは銃口を降ろし、目の前に現れた存在を確信した。
「――……間違いない。あれは、魔人だ」
「!」
「じゃ、じゃあ……」
「フォウル国の、増援だ……!!」
兵士達は目の前の状況に理解が追い付き、現れた二人の魔人を見る瞳に希望を宿す。
その時に同盟国軍の頭上から一つの影が降り立ち、兵士達の前に立った。
それに気付き思わず銃を構えた兵士達に、降り立った人物は振り返りながら視線を向ける。
その人物の容姿を見て兵士達は思わず驚き、特に若い青年兵達は頬を染めた。
目の前に立っているのは、白い髪の毛と赤い瞳を持つうら若き少女。
容姿の年齢は十五から十六歳頃で、細く華奢な体に似合う白い毛皮の服を身に纏っていた。
その少女は見惚れて銃を降ろす兵士達に、微笑みながら話し掛ける。
「――……君達、アスラントの人?」
「……は、はい!」
「ピンチっぽかったから助けたけど、余計なお世話だった?」
「いえ! ありがとうございます!」
「そう? なら良かった」
そう微笑みながら笑う少女に、青年兵達は思わず見惚れる。
それに対して妻子持ちのヒューイは見惚れる事は無く、敬礼を向けて話し掛けた。
「我々はアスラント同盟国軍所属の部隊。その一部隊を率いるヒューイと申します。……貴方は?」
「私は干支衆の『兎』で、ハナって言うの。……で、あっちで暴れてるのは、同じ干支衆の『虎』と『牛』だよ」
「なら、貴方も魔人……?」
「そうよ」
微笑みながら自身を魔人と告げるハナに、兵士達は驚きの目を向ける。
兵士達のほとんどが魔人を目にする機会が薄く、見た事があるとすればマギルスやエリクなどの人物だけ。
その二人はまさに超人的な身体能力を見せたが、目の前の華奢な少女が彼等と同じ魔人である事に兵士達は驚きを浮かべるしかなかった。
「フォウル国の増援が来ているということは、箱舟の一号機も?」
「うん、来てるよ。私達は外側の外壁から箱舟を突入させたの」
「そうでしたか」
「『辰』が空で戦ってたはずだけど、会ってない?」
「いえ、我々の突入を掩護してくれました」
そう伝えるハナに、ヒューイは納得しながら答える。
結界を破り都市上空から突入した同盟国軍側と違い、フォウル国とアズマ国の増援を乗せた箱舟一号機は結界を破り外壁に取り付いた。
そして外壁から内部に侵入し、この都市部に彼等は到着する。
同盟国軍より早い時間で突入していた彼等が遅かった理由も、外壁から内部を経由したせいだとヒューイは理解した。
「――……!」
その時、兵士達はハナの横側に吹き飛ばされていた球体型が動き出した事に気付く。
胴体を引き裂かれ破損しながらも魔弾を放つ片手を向けた魔導人形に、兵士達は気付き叫んだ。
「ヒューイ隊長!!」
「!」
兵士達の声に気付いたヒューイは、銃口を向ける魔導人形に気付く。
それに対応するように兵士達も動き、手持ちの銃とロケットランチャーを向けて撃破しようとした。
しかし間に合わず、魔導人形の魔弾は放たれてしまう。
その目標はハナとヒューイであり、連射される赤い魔弾が二人に襲い掛かった。
「クッ!!」
「大丈夫だよ」
「!」
表情を強張らせたヒューイに対して、ハナは落ち着いた様子で庇うようにヒューイの前に立つ。
そして夥しい数の魔弾がハナを正確に捉え、直撃しようとした瞬間。
ハナは両足に白い魔力を纏わせながら細く華奢な右足を跳ね上げ、浴びせられる魔弾を全て叩き消した。
「!?」
庇われたヒューイは素早く振り抜かれるハナの足捌きとその速度に驚き、思わず固まる。
同時に魔弾を蹴り消すハナは、右足を地に戻した。
その瞬間、ハナの目の前に白い光球が作り出される。
それはハナ自身の魔力で作り出された魔力の球であり、それが緩やかに下降し始めた。
その光球を見ながらハナは右足を振り、先程と同じように素早く振り抜く。
その瞬間、目にも止まらぬ速さの光球が巨大な砲撃に代わり、魔導人形に直撃し跡形も無く消し飛ばしながら奥にある分厚い建物の壁さえ貫通し、外まで続く道を作り出した。
「――……ぁ、え……!?」
「ちょっと、インドラぁ! 壊れてないのがあったわよ!」
「ん? おー、スマンスマン! でも、お前なら余裕だろぉ?」
「私が余裕でも、この人達が危ないでしょう!」
兵士達が驚愕する中で、インドラと呼ばれる虎男にハナは可愛らしく怒鳴る。
そしてインドラも最後の球体型を切り裂き終えた後、気さくにハナへ話し掛けた。
そして牛の魔人が居た観客席の魔導人形達も、時を合わせて殲滅される。
僅か二分程の間に二百体以上の球体型が破壊された光景を見て、兵士達は唖然としていた。
「……す、すげぇ……」
「あの数を、たった二人だけで……」
兵士達はそう呟き、事を終えた観客席から降りた二人の魔人を見る。
そして中央で挟むように向かい立つ二人は、唖然とする兵士達に歩み寄った。
「……!!」
人型ながらも牛と虎の魔人化している二人に近寄る姿に、兵士達は助けられながらも思わず息を飲み緊張感を高める。
そして震える様子を見せる兵士達に、『虎』のインドラがまず声を掛けた。
「――……お前らぁ!」
「ヒ……ッ!!」
「人間のくせに、よくやったなぁ!」
「……え?」
「お前もそう思うだろう、バズディール!」
インドラはそう笑いながら歩み寄り、兵士達の前で腕を組みながら笑う。
そしてバズディールと呼ばれる牛の魔人も、兵士達を見ながら口を開いた。
「――……感謝する。人間の勇士達よ」
「!」
「我々だけでは、敵の本拠地に辿り着けなかった。ここまで我々を届けた船と、そして兵士達も、素晴らしい働きだ」
「だなぁ!」
「そうだね。ありがとう、みんな」
三人の魔人達は笑いながら兵士達に感謝を述べ、頭を下げる。
圧倒的な強さを見せつけた魔人達に感謝を述べられ、兵士達は茫然としながらも安堵の息を漏らしてその場に座り込んだ。
こうしてヒューイを含めた同盟国軍の残存兵力に、フォウル国の魔人が合流する。
『兎』を冠する可愛らしい少女、ハナ。
『牛』を関する誠実そうな男、バズディール。
『虎』を関する豪快な男、インドラ。
それぞれがフォウル国の十二支士の長で干支衆の名を関する、フォウル国の強者達だった。
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