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螺旋編 五章:螺旋の戦争
淵の光明
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追い詰められた同盟国軍が、球形状の会場に集合した頃。
副官と共に戦車を失ったグラドは負傷した身体と左腕を引きずりながら、警棒を右手に掴みながら建物内を移動していた。
「――……ハァ……、ハァ……ッ」
移動しているのは廃工場の一つで、鉄骨で出来た階段を登りながらグラドは下を見る。
階下には複数の四足型が駆け抜け、グラドを追跡しながら迫っていた。
それを確認して階段を登るグラドだが、段差を飛び越えながら移動する四足型に追い付かれる。
飛び掛かり顎と歯を振動させ迫る四足型に、グラドは右手の警棒を伸ばし突いて迎撃した。
「うぉらッ!!」
『――……ッ!!』
「ぐっ、だぁあッ!!」
グラドは二匹の四足型を迎撃し、再び階下へ落とす。
しかし新たに迫る四足型を確認すると、傷付いた身体を動かしながら階段を登った。
そして登り終えた時、グラドは下を見て表情を強張らせる。
下には変形した球形型が手と腕を構え、グラドの姿を視認し魔弾で狙い撃った。
グラドは急ぎ身を屈めながら、近くに部屋へ飛び込む。
そして鍵を閉め部屋の中を見てながら、窓がある方へ移動した。
鍵を掛けた扉は何かが衝突する音が鳴り、それが四足型のモノだとグラドに理解できる。
そしてグラドは十メートル程の高さがある二階の窓ガラスを開け、建物と建物の隙間である下の狭い通路を確認した。
「……跳ぶしかねぇな」
周囲を見て敵の魔導人形がいない事を確認したグラドは、短くした警棒を腰に収めて窓から身を乗り出す。
右手と両足を使いながら窓にぶら下がったグラドは、そのまま覚悟を決めて下に落ちた。
「――……グッ!!」
グラドは足先から着地し、転がるように脛の横へ着きながら頭と右肩を前へ傾け、尻や背中、そして肩を接地させて身体を転がす。
五点着地を成功させながらも体中から感じる痛みで苦々しい声を漏らし、グラドは起き上がりながら建物の壁に手を着き、身体を傾けながら移動した。
そして狭い通路から表に出ると、グラドは魔導人形から身を隠して移動する。
負傷している上に武器が警棒しかなく、対抗手段が無いグラドはそうする以外に生き残る道は無かった。
「……ハァ……、ハァ……ッ!」
グラドは左腕と体の各所から流れる血を地面へ落としながら、何とか移動している。
地図も無く現在地も分からないまま、グラド自身の感覚を頼りに東側へ向かっていた。
しかし四足型が血の跡を発見し、匂いを嗅ぐ仕草をしながら後を追う。
それに連動して周囲の魔導人形達も動き出し、グラドの進路を阻むように展開した。
「……クソッ」
グラドは進路を塞ぐように展開する魔導人形の動きに気付き、悪態を吐きながら別方向へ逃げる。
そしてある廃工場内に入り、一室に身を潜めて座り込んだ。
「……ハァ……。……クソッ、俺も歳だなぁ……」
グラドは昔の自分と比べ、歳老いた影響を思った以上だと感じる。
今の疲労や怪我程度ならば経験した事は何度もあり、それでも痛みに堪えるだけの若さと鍛えた肉体が身体を機敏に動かしていた。
しかし年老いた今のグラドは体中から感じる痛みによって疲労を蓄積させ、足を重くし身体の動きを鈍らせている。
むしろ七十歳手前のグラドが、これ程までに前線で戦えている事は驚くべき事でもあったが。
「……こんな碌でもない場所から、さっさと帰らないとなぁ……」
グラドはそう呟きながら少しでも疲弊を癒す為に、壁へ背を預ける。
そして呼吸を整えながら一分程が経った頃に、室内の物が大きく振動し始めている事に気付いた。
「……チッ。あの、デカブツめ……」
グラドは悪態を吐きながらも立ち上がり、傷付き疲弊した身体を引きずるように部屋を出る。
そして建物の裏口を探して逃げようとした時、正面の壁が砕けるように破壊された。
「グ、アアッ!!」
グラドは破壊された壁の破片を浴び、額に拳大ほどの瓦礫が直撃して背中から倒れ込む。
そして痛みに堪えて上半身を起こした時に、正面に見える光景を睨みつけた。
「……クソゴーレムめ……」
『――……』
そこに居たのは、巨大な身体で壁を破壊した巨人型。
そして転がりながら停止した複数の球体型と、飛び出すように工場内に入った四足型が現れた。
グラドは息を吐きだしながら起き上がり、瓦礫が直撃した額から血を流す。
そしてよろめきながら腰の警棒を右手で抜き放ち、両足を踏み締めながら相対した。
「……昔、これと似たような事があったなぁ……」
『――……』
「ったくよう……。なんでこう俺は、巨人と戦う破目になっちまうんだろうな……」
グラドは昔の出来事を思い出しながら、口元をニヤけさせる。
そして相対する球体型が変形し、手と腕をグラドに向けた。
更に四足型も顎と歯を振動させ、高周波を鳴らし始める。
それを見下ろす巨人型に対して、グラドは警棒を突き向けた。
「――……俺の悪運と根性、舐めるなよ……!」
『――……』
「最後まで、足掻いて、足掻いて、足掻きまくってやる……!」
グラドはそう告げ、最後まで魔導人形達と戦う姿勢を見せる。
それに応えるかのように、魔弾を放つ為に球体型の手に魔力の光が灯った。
グラドは警棒を伸ばしながら、魔導人形達に突っ込もうとする。
その瞬間、驚くべきモノをグラドは見た。
「――……ッ!?」
魔弾を発射しようとした球体型の機体に、突如として複数の短剣のような物が突き刺さる。
それには不自然な紙札が付いており、グラドはそれを見て動きを硬直させた。
そして次の瞬間、グラドはその耳に呪文のような声を聴く。
「――……起爆符!」
「!」
そう唱える複数の声がその場に響き、グラドは目を見開く。
それと同時に、札の付いた短剣が突如として赤く光りだし、それを中心に爆発を起こした。
「な……ッ!?」
グラドはその爆風を浴びながら尻餅を着き、右手で顔を庇うように動かす。
そして爆風が収まった後、グラドは目の前に展開していた球体型の状態を確認した。
「……吹っ飛んでる……!?」
球体型は短剣が刺さった部分を中心に吹き飛び、大きく破損していた。
そして行動不能となり、手を下げて沈黙する。
その光景に驚いたグラドは、四足型が視線を変えて外に飛び出した事に気付いた。
しかし一つの涼やかな金属音と声が、グラドの耳に飛び込む。
「――……当理流、合技。『鳴雷一旋』」
「……!!」
その声がグラドの耳に届いたと同時に、外へ駆けた複数の四足型を縫うように素早い何かが通過し、その身体を真っ二つにする。
そして四足型の首が工場の中に転がり跳ぶと、目を見開いたグラドの前にある人物が緩やかに着地して現れた。
その後ろ姿を見ながら、グラドは呟くように聞く。
「……あ、アンタは……?」
「――……某は当理流の師範を務める。名は武を玄くと書いて、武玄」
「!」
「其の方は、同盟たるアスラント国の兵と御見受けするが?」
「あ、ああ……」
「ならば、我等は同じ敵を相手取る同胞。この場を、我等が引き受けよう」
「……!」
目の前に現れたブゲンという男は、長い黒髪を後ろに束ねて奇妙な着物を着こみ、その左腰に刀と呼ばれる剣を差し込んでいる。
男の風貌を見たグラドは、目の前に現れた男が何者なのかに気付いた。
それと同時に周囲から先程と同じ爆発音が響き、更に魔導人形と戦闘している音も響く。
その音を聞いていたグラドは、突如として現れた人物達の正体を口に出した。
「アズマ国の、増援か……!」
グラドはそう呟くと、ブゲンは口元を微笑ませながら前を歩む。
そして十五メートル以上の高さを持つ巨人型と相対し、腰を落として身構えた。
「――……当理流、月の型。『弦月』」
「!!」
そう呟き刀を抜いた瞬間、ブゲンの刀は目にも止まらぬ速さでその場で振られる。
それと同時に刀から閃光のように巨大な白い気力が放たれ、まるで満月を半分に切ったような白い斬撃が巨人型を襲った。
直撃した巨人型は巨大な気力で吹き飛ばされ、向かい側の建物に激突する。
その光景にグラドは驚き、口と目を見開いた。
「……む、意外と硬いな」
しかしブゲンは眉を潜めながら厳かな表情を見せ、吹き飛んだ巨人型を見る。
気力を纏った巨大な斬撃で薙がれたにも関わらず、巨人型はその装甲に傷を受けただけで、立ち上がる様子を見せていた。
「いかんなぁ。この程度の木偶、斬れねば親父殿に殺される」
「!」
そう呟くブゲンは、破壊された壁から外に跳び出て巨人型の前に再び立つ。
そして腰を緩やかに落とし息を吐きながら、単眼の視線を向けた巨人型と相対した。
副官と共に戦車を失ったグラドは負傷した身体と左腕を引きずりながら、警棒を右手に掴みながら建物内を移動していた。
「――……ハァ……、ハァ……ッ」
移動しているのは廃工場の一つで、鉄骨で出来た階段を登りながらグラドは下を見る。
階下には複数の四足型が駆け抜け、グラドを追跡しながら迫っていた。
それを確認して階段を登るグラドだが、段差を飛び越えながら移動する四足型に追い付かれる。
飛び掛かり顎と歯を振動させ迫る四足型に、グラドは右手の警棒を伸ばし突いて迎撃した。
「うぉらッ!!」
『――……ッ!!』
「ぐっ、だぁあッ!!」
グラドは二匹の四足型を迎撃し、再び階下へ落とす。
しかし新たに迫る四足型を確認すると、傷付いた身体を動かしながら階段を登った。
そして登り終えた時、グラドは下を見て表情を強張らせる。
下には変形した球形型が手と腕を構え、グラドの姿を視認し魔弾で狙い撃った。
グラドは急ぎ身を屈めながら、近くに部屋へ飛び込む。
そして鍵を閉め部屋の中を見てながら、窓がある方へ移動した。
鍵を掛けた扉は何かが衝突する音が鳴り、それが四足型のモノだとグラドに理解できる。
そしてグラドは十メートル程の高さがある二階の窓ガラスを開け、建物と建物の隙間である下の狭い通路を確認した。
「……跳ぶしかねぇな」
周囲を見て敵の魔導人形がいない事を確認したグラドは、短くした警棒を腰に収めて窓から身を乗り出す。
右手と両足を使いながら窓にぶら下がったグラドは、そのまま覚悟を決めて下に落ちた。
「――……グッ!!」
グラドは足先から着地し、転がるように脛の横へ着きながら頭と右肩を前へ傾け、尻や背中、そして肩を接地させて身体を転がす。
五点着地を成功させながらも体中から感じる痛みで苦々しい声を漏らし、グラドは起き上がりながら建物の壁に手を着き、身体を傾けながら移動した。
そして狭い通路から表に出ると、グラドは魔導人形から身を隠して移動する。
負傷している上に武器が警棒しかなく、対抗手段が無いグラドはそうする以外に生き残る道は無かった。
「……ハァ……、ハァ……ッ!」
グラドは左腕と体の各所から流れる血を地面へ落としながら、何とか移動している。
地図も無く現在地も分からないまま、グラド自身の感覚を頼りに東側へ向かっていた。
しかし四足型が血の跡を発見し、匂いを嗅ぐ仕草をしながら後を追う。
それに連動して周囲の魔導人形達も動き出し、グラドの進路を阻むように展開した。
「……クソッ」
グラドは進路を塞ぐように展開する魔導人形の動きに気付き、悪態を吐きながら別方向へ逃げる。
そしてある廃工場内に入り、一室に身を潜めて座り込んだ。
「……ハァ……。……クソッ、俺も歳だなぁ……」
グラドは昔の自分と比べ、歳老いた影響を思った以上だと感じる。
今の疲労や怪我程度ならば経験した事は何度もあり、それでも痛みに堪えるだけの若さと鍛えた肉体が身体を機敏に動かしていた。
しかし年老いた今のグラドは体中から感じる痛みによって疲労を蓄積させ、足を重くし身体の動きを鈍らせている。
むしろ七十歳手前のグラドが、これ程までに前線で戦えている事は驚くべき事でもあったが。
「……こんな碌でもない場所から、さっさと帰らないとなぁ……」
グラドはそう呟きながら少しでも疲弊を癒す為に、壁へ背を預ける。
そして呼吸を整えながら一分程が経った頃に、室内の物が大きく振動し始めている事に気付いた。
「……チッ。あの、デカブツめ……」
グラドは悪態を吐きながらも立ち上がり、傷付き疲弊した身体を引きずるように部屋を出る。
そして建物の裏口を探して逃げようとした時、正面の壁が砕けるように破壊された。
「グ、アアッ!!」
グラドは破壊された壁の破片を浴び、額に拳大ほどの瓦礫が直撃して背中から倒れ込む。
そして痛みに堪えて上半身を起こした時に、正面に見える光景を睨みつけた。
「……クソゴーレムめ……」
『――……』
そこに居たのは、巨大な身体で壁を破壊した巨人型。
そして転がりながら停止した複数の球体型と、飛び出すように工場内に入った四足型が現れた。
グラドは息を吐きだしながら起き上がり、瓦礫が直撃した額から血を流す。
そしてよろめきながら腰の警棒を右手で抜き放ち、両足を踏み締めながら相対した。
「……昔、これと似たような事があったなぁ……」
『――……』
「ったくよう……。なんでこう俺は、巨人と戦う破目になっちまうんだろうな……」
グラドは昔の出来事を思い出しながら、口元をニヤけさせる。
そして相対する球体型が変形し、手と腕をグラドに向けた。
更に四足型も顎と歯を振動させ、高周波を鳴らし始める。
それを見下ろす巨人型に対して、グラドは警棒を突き向けた。
「――……俺の悪運と根性、舐めるなよ……!」
『――……』
「最後まで、足掻いて、足掻いて、足掻きまくってやる……!」
グラドはそう告げ、最後まで魔導人形達と戦う姿勢を見せる。
それに応えるかのように、魔弾を放つ為に球体型の手に魔力の光が灯った。
グラドは警棒を伸ばしながら、魔導人形達に突っ込もうとする。
その瞬間、驚くべきモノをグラドは見た。
「――……ッ!?」
魔弾を発射しようとした球体型の機体に、突如として複数の短剣のような物が突き刺さる。
それには不自然な紙札が付いており、グラドはそれを見て動きを硬直させた。
そして次の瞬間、グラドはその耳に呪文のような声を聴く。
「――……起爆符!」
「!」
そう唱える複数の声がその場に響き、グラドは目を見開く。
それと同時に、札の付いた短剣が突如として赤く光りだし、それを中心に爆発を起こした。
「な……ッ!?」
グラドはその爆風を浴びながら尻餅を着き、右手で顔を庇うように動かす。
そして爆風が収まった後、グラドは目の前に展開していた球体型の状態を確認した。
「……吹っ飛んでる……!?」
球体型は短剣が刺さった部分を中心に吹き飛び、大きく破損していた。
そして行動不能となり、手を下げて沈黙する。
その光景に驚いたグラドは、四足型が視線を変えて外に飛び出した事に気付いた。
しかし一つの涼やかな金属音と声が、グラドの耳に飛び込む。
「――……当理流、合技。『鳴雷一旋』」
「……!!」
その声がグラドの耳に届いたと同時に、外へ駆けた複数の四足型を縫うように素早い何かが通過し、その身体を真っ二つにする。
そして四足型の首が工場の中に転がり跳ぶと、目を見開いたグラドの前にある人物が緩やかに着地して現れた。
その後ろ姿を見ながら、グラドは呟くように聞く。
「……あ、アンタは……?」
「――……某は当理流の師範を務める。名は武を玄くと書いて、武玄」
「!」
「其の方は、同盟たるアスラント国の兵と御見受けするが?」
「あ、ああ……」
「ならば、我等は同じ敵を相手取る同胞。この場を、我等が引き受けよう」
「……!」
目の前に現れたブゲンという男は、長い黒髪を後ろに束ねて奇妙な着物を着こみ、その左腰に刀と呼ばれる剣を差し込んでいる。
男の風貌を見たグラドは、目の前に現れた男が何者なのかに気付いた。
それと同時に周囲から先程と同じ爆発音が響き、更に魔導人形と戦闘している音も響く。
その音を聞いていたグラドは、突如として現れた人物達の正体を口に出した。
「アズマ国の、増援か……!」
グラドはそう呟くと、ブゲンは口元を微笑ませながら前を歩む。
そして十五メートル以上の高さを持つ巨人型と相対し、腰を落として身構えた。
「――……当理流、月の型。『弦月』」
「!!」
そう呟き刀を抜いた瞬間、ブゲンの刀は目にも止まらぬ速さでその場で振られる。
それと同時に刀から閃光のように巨大な白い気力が放たれ、まるで満月を半分に切ったような白い斬撃が巨人型を襲った。
直撃した巨人型は巨大な気力で吹き飛ばされ、向かい側の建物に激突する。
その光景にグラドは驚き、口と目を見開いた。
「……む、意外と硬いな」
しかしブゲンは眉を潜めながら厳かな表情を見せ、吹き飛んだ巨人型を見る。
気力を纏った巨大な斬撃で薙がれたにも関わらず、巨人型はその装甲に傷を受けただけで、立ち上がる様子を見せていた。
「いかんなぁ。この程度の木偶、斬れねば親父殿に殺される」
「!」
そう呟くブゲンは、破壊された壁から外に跳び出て巨人型の前に再び立つ。
そして腰を緩やかに落とし息を吐きながら、単眼の視線を向けた巨人型と相対した。
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