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螺旋編 五章:螺旋の戦争
必然の窮地
しおりを挟む工場地帯の地上で追跡して来た二体の巨大魔導人形と、それぞれが対峙する。
ケイルが一体の巨大魔導人形を引き付けている間、同盟国軍の部隊は戦車に乗ったグラドを追う巨大魔導人形に対応していた。
『――……俺達が通る、あの鉄塔を狙い撃て!』
「了解!」
「……照準、完了!」
「グラド将軍の戦車、予定ポイントを通過します!」
「――……撃てぇッ!!」
グラドは後退しながら巨大魔導人形を引き付ける戦車内部から通信で指示を飛ばし、数台の戦車に乗る兵士達がそれに応える。
戦車が通過した場所には三十メートル以上の高い鉄骨塔があり、そこが戦車隊の砲撃が塔の足元へ撃たれる。
そして塔を支える四箇所の鉄柱の内、二箇所が完全に破壊されて内側へ倒れ込む。
その真横を通っていた十五メートル強の巨大魔導人形は、倒壊に巻き込まれ押し倒された。
「――……よし!」
「やった! 圧し潰せました!」
『よくやった! ――……だが、まだだ!』
「!」
圧し潰したと喜んだ兵士達だったが、通信機から聞こえるグラドの声で歓喜を引かせる。
戦車部隊と兵士達は倒壊した場所を見ると、圧し潰されたと思われた巨大魔導人形が瓦礫を押し退けながら出て来ていた。
そしてグラドの戦車に向けていた単眼を移し、塔を砲撃した戦車部隊に目標を切り替えた様子を見せる。
『戦車部隊、すぐに下がれ!』
「!」
『奴は、自分を攻撃した相手を狙う! 箱舟が来るまで、各戦車部隊で敵大型魔導人形を引きずり回せ!』
「ハ、ハッ!!」
グラドの情報と命令に戦車部隊は応じ、すぐに後退しながらその場から離れる。
そして瓦礫から抜け出した巨大魔導人形は、後退し逃げる二台の戦車を追うように歩を進めた。
その時、巨大魔導人形に変化が起こる。
歩みが遅い為に距離が大きく離れれた破壊目標を見た巨大魔導人形が、赤い単眼を点滅させながら何かを思考した。
その数秒後、巨大魔導人形の両足部分が変形を行う。
「!」
「あ、足が変形した……!?」
鉄足の内側から幾つも軸付きの巨大な車輪が出現し、それに合わせた無限軌道が取り付けられていた。
そして両足に車輪を備える変形をした巨大魔導人形は、足を踏み出す事無く前進を開始する。
「!!」
「速い……!?」
「マズい! 速度を上げろッ!!」
車輪の付いた巨大魔導人形は戦車の後退速度を超え、建物などの障害物を意に介さずに破壊目的である戦車に迫る。
小回りを利かせながら工場地帯の道路を駆け抜けていた戦車だったが、地面を削りながら速度を高めた巨大魔導人形に追い付かれた。
その時、別の方角から巨大魔導人形の胴体に砲弾が撃ち込まれる。
それはグラドが乗った戦車であり、主砲を撃ったと同時にすぐに後退を開始した。
「将軍!?」
『次は俺達で引き付ける! お前等は、南へ向かえ!』
「は、はい!」
グラドの援護に助けられた戦車達は、命令通りに南方面へ向かう。
そしてグラドが乗る戦車に目標を切り替えた巨大魔導人形は、先程と同じように足の車輪を回しながら追跡を開始した。
それを戦車内の画面越しに確認するグラドは、迫る相手に対して口元をニヤけさせながら冷や汗を流す。
「……チッ、速いな!」
「将軍、このままでは!」
「いずれ追い付かれるってんだろ、分かってるっての! とにかく箱舟かケイルが来るまで、持ち堪えるしかない!」
「ケイル殿は、大丈夫でしょうか……!?」
「大丈夫じゃなかったら、もう一体もこの追いかけっこに追加だ!」
「……ッ」
「とにかく一分一秒でも長く、あの巨大魔導人形を引き付ける。それが今の俺達のやれることだ!」
「……そうですね」
「爆弾が爆発するまでの、時間は?」
「……凡そ、四十分程ですかね!」
「んじゃあ、それまで持ち堪えるぞ!」
「ハッ!!」
同じ戦車に同乗するグラドと副官は、そう決意しながら巨大魔導人形を引き付ける。
そして各部隊の歩兵には通過する道路に手持ちの簡易爆弾を取り付けさせ、巨大魔導人形が通った際に爆発させて足の破壊と足止めを狙った。
しかしその結果に、兵士達が苦々しい表情と声を漏らす。
「……チィ、無傷かよ!」
「デカいくせに倒れねぇ……!」
「やっぱり直接、爆弾を取り付けないと……」
「無理だ! 近付くだけでも死にそうなのに、結界まで張ってるんだぞ!」
「爆弾の取り付けは、無理か……」
「……ッ」
兵士達がタイミングを見計らい、道路を抉る程の威力があるスイッチ型の簡易爆弾を使っても、通過する巨大魔導人形の足部分を破壊できない。
だからと言って、下手に手持ちの銃火器で攻撃を加えても分厚い装甲と結界を突破できず、あまつさえ徒歩である兵士達にあの巨体が迫ることになる。
誘き寄せて引き付ける役割を完全に戦車にしか任せられない事を兵士達全員が苦々しくも把握し、急ぐように箱舟の援護を待つしかなかった。
しかし、その兵士達の状況も悪い意味で変化を迎える。
「――……な、なんだ?」
「!」
「この音は……?」
「……!!」
工場地帯の建物付近に居た各部隊の兵士達は、再び小さな地鳴りを感じ取る。
しかし先程のような巨大な振動ではなく、転がる小石が僅かに振動する程度の揺れであり、また微細な音も鳴っていた。
兵士達はそれに気付き、動揺しながら周囲を見る。
すると建物内部や外部、更には道路を始めとした数十から数百以上の地点に、地面を突き抜けるかの如く黒い長方形の物体が飛び出した。
「!!」
「な、なんだ……!?」
『――……こちら、第十号戦車! 全部隊に通達! 地上に、百以上の小規模な魔導反応を検知!』
「!」
『この反応は……敵魔導人形!』
「!!」
「か、各部隊は散開! 飛び出した箱から、離れろ!!」
戦車から届いた通信を聞いた各部隊は、突如として飛び出した黒い物体の正体をする。
兵士達がそれに応じるように離れ、物陰に隠れると同時に抱え持つ武器を構え持った。
そして数十秒後、地上に出現した数百以上の黒い物体の内側にある扉が開け放たれる。
それと同時に飛び出したモノを見て、各兵士達は表情を驚愕させながら苦々しい声を呟いた。
「――……あ、アレは……!」
「マジかよ、クソ……ッ」
「……新型の他にも、獣の形をした奴が……!」
各部隊の兵士達が見たのは、黒い箱から転がり出て来る球体型の新型魔導人形。
それと同時に、比べれば小型ながらも犬や狼に見立てた四足獣型の魔導人形も飛び出て来た。
初めて見る四足型に、兵士達は表情を強張らせる。
そして球体型が全て人型に変形すると、全ての魔導人形が隠れ構える兵士達に赤い単眼を向けた。
「――……全員、東へ撤退しながら魔導人形を迎撃しろ!」
「急げッ!!」
各部隊の隊長がそう言い放ち、兵士達に撤退と迎撃を命じる。
そして数百体の魔導人形は、兵士達を破壊対象にして攻撃を開始した。
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