上 下
487 / 1,360
螺旋編 五章:螺旋の戦争

這い出る鉄巨人

しおりを挟む

 工場地帯の地上側では、グラドが率いていた第二部隊と戻った第四部隊の半数が待機している。
 緊急事態に備えて工場内で複数の兵士が待機しながら状況を観察し、その周囲を十台の戦車部隊と二百名近い兵士達を控えさせながら、全員が変化を待っていた。

「――……将軍達が降下して、伝達が戻ってから一時間が経過しますね」

「ああ。……通信は?」

「……地下には、まだ繋がりません。箱舟ふねには繋がるので、状況は伝わっていますが……」

「やはり地下施設の影響で、通信が繋がらないか」

「隊長。そろそろ我々も、突入した方が……」

「……」

 第二部隊の隊長は、副官の意見を聞いて思考する。
 グラド達が地下へ赴いてから一時間が経ち、地上に居る部隊も周囲の索敵を終えていた。

 その結果、やはり地上の工業地帯にはそれらしい施設は無く、また地下に通じる床扉なども発見できない。
 地上部隊もここに集結して待つしかない状況であり、グラド達と連絡が取れないこの状況に全員が不安を抱いてもおかしな事で無かった。

 そうして思い悩む第二部隊の隊長が口を開きかけた時、近くにいる戦車の上部ハッチから兵士が出て告げる。

「――……隊長!」

「!」

「地下の戦車と、通信が繋がりました!」

「本当か!?」

「はい! それと、グラド将軍から命令が!」

「!」

「『地下施設の付近に集結している部隊は、急ぎ離れろ』とのことです!」

「!!」

「……全部隊! この周囲から離れろ!!」

 第二部隊の隊長は左耳に取り付けた通信機で全部隊にグラドの命令を伝え、それが地上部隊の全てに伝達される。
 戦車を始めとした兵士達が地下施設の入り口から急いで後退し、数百メートル以上の距離を取った。

 その最中、走る兵士達がコンクリートの地面から僅かな振動を感じる。
 それと同時に地下施設の入り口がある建物から、地下に降りていた戦車二台と五十名の兵士達が飛び出すように現れた。

 その中にグラドやケイルも含まれており、それに気付いた各兵士達と第二部隊の隊長が大声で呼ぶ。

「グラド将軍!」

「――……お前等、早く離れろッ!!」

「いったい、何が……!?」

巨大魔導人形デカブツが来るぞ!」

「デカブツ……!?」

 グラドがそう言いながら走る背後を、第二部隊の隊長と兵士達が見る。
 足元から感じる振動は更に強くなると、目に見える形で振動の正体がグラド達の背後に現れた。

「――……!!」

「アレは……!」

「巨大な魔導人形ゴーレム……!?」

 地下施設に繋がる建物が下から盛り上がる何かに押し上げられ、建物全体が崩壊していく。
 そして崩壊した建物の瓦礫から、銀色の装甲を纏った巨大な魔導人形ゴーレムが姿を晒した事で、それを見た兵士達が否応無く状況を把握した。

 そして走りながらグラドは左耳の通信機を使い、全部隊に情報を伝える。

『――……よし、繋がるな! 全部隊に伝える!』

「!」

『あの巨大魔導人形デカブツは装甲も硬いが、分厚い結界を張ってるせいで更に硬い! 戦車の砲撃でも、ビクともせん!』

「!!」

「そ、そんな……」

箱舟ふねに応援を要請しろ! 箱舟ふねの主砲なら、奴を倒せるはずだ!!』

「りょ、了解!」

「――……こちら、第二部隊! 箱舟《ノア》、聞こえますか!? 我々は現在、敵の巨大魔導人形ゴーレムと交戦中! 至急、箱舟ノアの掩護を――……」

箱舟ふねが来るまで、時間を稼ぐ! 戦車部隊は後退しながら、建築物を主砲で破壊! 敵の進路を塞げ!』

「ハッ!」

『他の魔導人形ゴーレム共も出て来るかもしれん! 歩兵部隊は、迎撃に備えろ!』

「了解!」

 グラドは這い出て来る巨大魔導人形ゴーレムに対して、工場地帯にいる兵士達にそう命じる。
 そして一時停止した戦車に乗り込んだグラドは、操縦席に付いている副官に声を向けた。

「――……俺達で、あの巨大魔導人形デカブツを一体、引き付けるぞ!」

「無茶を言う……!」

「俺の無茶なんざ、とっくに慣れたろうがよ!」

「そうですね!」

 グラドは表情を強張らせながらも笑みを浮かべて命じ、それに副官も応える。
 戦車はその場で旋回し、這い出て来る一体の巨大魔導人形ゴーレムに狙いを定め、主砲を撃ち放った。

 放たれた徹甲弾は巨大魔導人形ゴーレムの右腕部に直撃したが、やはり結界と分厚い装甲に阻まれ破損できない。
 それでも組み込まれた自律行動プログラムで、巨大魔導人形ゴーレムはグラド達が乗る戦車に赤い単眼を向けて目標に定めた。

「やっぱ、攻撃した相手を優先して狙うみたいだな!」

「このまま後退します!」

「おう! 上手く逃げろよ!」

「でも、もう一体は!?」

「頼もしい助っ人に、任せるさ!」

 グラドは上部ハッチから身を乗り出し、上半身を出しながら正面を見る。
 戦車グラドの砲撃を受けた巨大魔導人形ゴーレムは、地下から這い出た後に足を進めて戦車を追っていた。
 そしてもう一体、新たに這い出て来た巨大魔導人形ゴーレムが、グラドと同じ場所に視線を向ける。

 そこは建物の屋根上であり、肩まで伸びた赤い髪を靡かせたケイルが這い出て来る巨大魔導人形ゴーレムを静かに見据えていた。

『――……』

「……コレがお前の玩具オモチャだってんなら、すぐにぶっ壊してやるよ。……アリア!」

 ケイルは巨大魔導人形ゴーレムを睨みながら、静かに呟く。
 地上へ完全に出て来た二体目の巨大魔導人形ゴーレムは、兵士達に目もくれずにケイルへ歩み寄る。

 それに対して腰を少し落とし構えたケイルは全身から白い生命力オーラを強め、屋根伝いに飛び駆けながら巨大魔導人形ゴーレムと対峙した。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

やはり婚約破棄ですか…あら?ヒロインはどこかしら?

桜梅花 空木
ファンタジー
「アリソン嬢、婚約破棄をしていただけませんか?」 やはり避けられなかった。頑張ったのですがね…。 婚姻発表をする予定だった社交会での婚約破棄。所詮私は悪役令嬢。目の前にいるであろう第2王子にせめて笑顔で挨拶しようと顔を上げる。 あら?王子様に騎士様など攻略メンバーは勢揃い…。けどヒロインが見当たらないわ……?

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

処理中です...