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螺旋編 五章:螺旋の戦争

求めるモノ

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 工業地帯の地下へ降りたグラド率いる部隊は、先に降りていた第四部隊とケイルに合流する。
 地下の暗闇は戦車や各兵士達の照明で光を浴び、多くの部分が明るみになり始めた。

 リフトに乗ったグラドはその明かりを頼りに周囲を見て、合流したケイルに話し掛ける。

「――……どんな感じだ?」

「かなり広い。ただ、横から風の流れを感じる」

「どっかと繋がってるってことか」

「ああ。今、他の連中がこの部屋の明かりを点けられないか確認してる」

「そうか。――……おっ、もうやってくれたか」

「!」

 ケイルとグラドがそう話していると、地下の空間に明かりが灯る。
 横壁や天井に多くの光が灯り、地下室の全てを照らして見せた。

 そこは、コンクリートの床と鉄壁に覆われた無骨な地下室。
 縦と横の幅は三百メートル程あり、幾つか支柱はあるが何も置かれている様子は無く、ただ広いだけの空間が存在するだけだった。

 しかし、リフトとは逆側に巨大な鉄扉がある事を降下した全員が視認する。
 それを見たグラドは各部隊に目配せし、副官はそれに応じて戦車二台を動かしてリフトから降ろした。

「――……まずは、第三部隊と第四部隊で先行と索敵。小型索敵機レーダーは、使えるな?」

「はい。ただ、箱舟ふねや戦車で使われている索敵機より、範囲は狭いですが……」

「十分だ。戦車側の索敵機はデカい分、細かい反応を見逃すかもしれん。目標の魔道反応地点まで戦車側で誘導するが、小さな魔道反応はお前達が頼りだ。頼むぞ」

「ハッ!」

 銃火器を武装した第三部隊と、索敵機を抱え持つ第四部隊が先行し、警戒しながら鉄扉に向けて歩み始める。
 厚い鉄壁や支柱を背に移動し、各部隊の兵士達が手や腕の動作のみで指示して淀み無く動いていた。

 それを見送るようにリフト周辺で見るケイルの呟きを、グラドは聞く。

「――……随分と鍛えられてるな」

「当たり前だ。俺が鍛えた奴等だぜ?」

「アンタがどのくらい凄いのか、アタシは知らないんでね」

「そりゃそうだ。エリクやアンタ達に比べれば、俺は霞んじまうかもな」

「……そういえば、エリクとは三十年前に会ってるんだっけか?」

「ああ。一ヶ月くらい、エリクと一緒に兵士の訓練を受けてな。そん時に親友ダチになった」

親友ダチね……」

「ちなみに、マギルスの方にも世話になった。合成魔人キメラに殺されそうになってたとこを、助けられた。エリクには家族を助けられたし、俺にとってはどっちも恩人だ」

「ふぅん……」

「ちなみに、アリア嬢も恩人だ」

「!」

「俺が合成魔人キメラにやられて、全身の骨を折られてな。そんな俺を治してくれてたのが、アリア嬢だ」

「……」

「エリクやマギルス、それにアリア嬢。俺にとっちゃ、あの三人は頭が上げられんくらいの恩がある。……まぁ、アンタには無いけどな」

「……何が言いたいんだ?」

 含みのあるグラドの言い方に、ケイルは鋭い視線を向けて聞く。
 それを肩を竦めて軽く笑ったグラドは、躊躇せずに伝えた。

「――……アリア嬢を見つけたら、アンタは真っ先に殺すつもりだろ?」

「……誰から聞いた?」

「別に。俺の勘だ」

「……邪魔するつもりか?」

「邪魔したら、問答無用で斬るってツラしてるなぁ」

「……」

「俺の立場としちゃ、止めるつもりはない。……だがエリクの親友ダチとしては、頼みたい事がある」

「……?」

「エリクの奴を、助けてやってくれ」

「……助ける?」

「エリクは、昔死んだ俺の親友ダチに似てる。……怪我した俺を庇って、崖から落ちて死んじまった親友あいつにな」

「……」

親友あいつはいつも真っ直ぐで、危なっかしい奴だった。真っ直ぐ過ぎて、それ以外のモンを見落としちまう。……その結果、自分の命を落としやがった」

「……」

「今のアンタは、エリクがそうなるのが怖いんだろ? ……俺自身そういう経験をしたから、なんとなく分かるんだ」

「……それが、どうしたってんだよ?」

「お前さんは強い。……だがエリクは、そういう事をお前さんに求めちゃいないはずだ」

「!」

「俺達は、アンタの力量を求めてる。だがエリクは、それとは違うモノをアンタに求めてる。そういう事だよ」

「……ッ」

「これは単なる、年寄りの御節介だと思ってくれ。……どうするかは、お前さん次第だ」

 グラドは口元を微笑ませながら、そうケイルに伝え託す。
 渋い表情を浮かべて顔を逸らしたケイルの顔を見て軽く鼻息をグラドの通信機に、鉄扉の前まで先行する兵士の通信が届いた。

『――……グラド将軍。鉄扉の向こうに、魔道反応が多数。……これは、魔導人形ゴーレム反応モノです』

「分かった。――……全部隊、攻撃態勢で前進だ。あの扉の前まで戦車を移動させ、いつでも迎撃できる準備を整えろ」

「了解」

「先行してる部隊で、仕掛けを見つけて扉を開けろ。中の様子を探る」

『ハッ!』

 グラドは素早く各部隊に命じ、戦車二台を前進させながら全部隊を扉の前まで移動させる。
 それにケイルも不機嫌な表情を浮かべながら同行し、全部隊が扉の前に到着した。

「――……扉、開けられます!」

「よし。――……扉を開けろ!」

 グラドが鉄扉の端にある操作盤を使う兵士に、鉄扉を開けるように命じる。
 それに応じた兵士は操作し、鉄扉が重低音を鳴らしながら左右に開き始めた。

 それと同時に全兵士達が銃火器を身構え、扉の前方に移動している戦車も主砲と機銃を放てる態勢を行う。
 ゆっくりと開かれる鉄扉から赤い光が漏れ始めると、全員が緊張感を高めて鉄扉が全て開けられるまで扉の両端で待ち構えた。

『――……アレは……!』

「!」

 戦車を操縦する兵士の声が、兵士達の通信機に届く。
 それを聞いたグラドは各兵士達に目を向け、右手を上げて扉方向へ前進するように右腕を動かし伝えた。

 それに答えた兵士達は、銃を構えながら鉄扉の先を覗き込むように見る。
 すると覗き込んだ兵士達も驚く様子を見せ、グラドは戦車を操縦する兵士が新たに零す声を聞いた。

『……将軍! 第二目標、発見です!』

「!」

『敵の魔導人形ゴーレムが、製造されています……!』

「!!」

 通信を聞いた兵士達は驚き、鉄扉の先へ先行した兵士達に続いて壁を背にしながら扉を超える。
 その先にあるモノを見た兵士達は、予想を超えた光景に驚愕を浮かべた。

 目の前に広がっているのは、まさに魔導人形ゴーレムの製造施設。
 とても膨大な空間の中央には、赤い魔力薬液エーテルに満たされた巨大な貯蔵管が幾多も並び、その周辺に製造用の魔導人形ゴーレムが並びながら川のように流れる部品を一つ一つ拾い組み上げ、数多くの魔導人形ゴーレムを作り出していた。

 そこから見える製造数は、目に見える数え方では足りない。
 数分間でそれ以上の魔導人形ゴーレム達が魔導人形ゴーレムの手によって作り出される異空間に、その場の全員が驚愕するしかなかった。
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