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螺旋編 五章:螺旋の戦争

都市突入

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 フォウル国の増援により、エリク達を乗せた箱舟ノアは殲滅される状況を一時的に免れる。
 十数体の竜人達が翼を広げて飛翔し、それぞれに三又の槍を使い魔導国の魔導人形ゴーレムや飛空艇を撃破していった。

 その姿を見て興奮したマギルスは、一人の竜人に近付くように青馬を駆けさせる。
 そして魔導人形ゴーレムを一突きで破壊した竜人に、マギルスは声を掛けた。

「――……ねぇねぇ!」

「む!」

「僕はね、マギルス! ゴズヴァールおじさんと同じ国の人だよね?」

「ゴズヴァール! 奴を知っているのか?」

 そう話しながらも迫る魔導人形ゴーレム達を、二人は容易く自分の武器で薙ぎ斬る。
 二人は会話を続けながら、身の上話を行った。

「ゴズヴァールおじさん、僕を拾って鍛えてくれたんだ!」

「そうか、奴らしいな!」

「おじさん、名前は? どんな魔人なの? 教えて!」

「俺はヴラズ! 竜族である、父の名を継いだ!」

「じゃあ竜の魔人なんだ! 竜って本当にいるんだね! 竜人って、フォウル国で一番強いの?」

「俺など、まだ巫女姫の足元にも及ばぬ!」

「そっかぁ! 巫女姫って人、そんなに強んだ!」

「ああ!」

「そっかそっか!」

 ヴラズと名乗る竜人と隣り合うように魔導人形ゴーレムを切り裂き、マギルスは嬉しそうな表情を浮かべる。
 それを横目で見ているヴラズもまた、口元を微笑ませながら夜の空を羽ばたき、敵を突き落としていった。

 一方で、窮地を脱した箱舟ノアは態勢を整え直す。
 竜人達の奮戦によって被害に対する処置が行われながら、再び前進しながら上昇を始めた。

「――……このまま、敵都市の外壁を越えるぞ!」

「ハッ!!」

 シルエスカはそう指示を飛ばし、箱舟ノアの速度を速めて突入を再開する。
 それに応じるように竜人達も周囲を飛び回りながら援護し、時に箱舟を足場にして再び飛翔しながら援護を続けた。

 それを見ていたクロエが、少し考えながら呟く。
 それを聞いていたシルエスカは、怪訝な表情でそれを聞いていた。

「……例え『たつ』の竜人でも、この高度まで自力で飛んで来るのは不可能なはずなんだけどね」

「なに? だが、現に彼等は……」

「可能性があるとしたら、彼等がこの高度まで何かに運ばれて来たから、という事になる」

「!」

「アズマ国に向かった一番艦が、こちらとは逆側から魔人達を運んできた。そういう事だね」

「……そうか。来てくれていたか……!」

 クロエは冷静にフォウル国の参入を分析し、この状況で起こっている事を推察する。
 それを聞いたシルエスカは、通信士に命じる言葉を向けた。

「この空域付近に、フォウル国の魔人達を乗せた一番艦の箱舟《ノア》が来ている可能性がある! 通信を繋げられるか?」

「や、やってみます!」

「繋がれば、こちらの状況を知らせろ! 三番艦箱舟ノアは、このまま敵浮遊都市に突入する!」

「はい! ――……箱舟ノア一号機! こちら、箱舟ノア三号機です! 現在、我々は――……」

「各砲座、各銃座にも知らせろ! 竜人達に迎撃を任せ、こちらは回避と防御に専念! 推進力と防壁に魔力を回し、この包囲網を突破するぞ!」
 
「ハッ!!」

 シルエスカはそう指示し、立て直した状況で箱舟《ノア》の速度を更に上げる。
 加速した箱舟ノアを見て状況を察した竜人ヴラズは、近くで戦うマギルスに声を向けた。

「少年!」

「!」

「ここは我々に任せて、先に行け!」

「うん、分かった! ――……また会ったら、僕と遊んでね!」

 マギルスは青馬の手綱を握りながら魔力障壁で足場を形成し、箱舟ノアまでの道を駆ける。
 それを背中で見送るヴラズは、槍を奮いながら鼓舞するように魔力を高め、その姿を徐々に変化させた。

 そして人に近しい姿が、異形に近付く。
 顔や目に見える部分が赤い鱗に覆われ始め、手の爪や頭の角が鋭く伸び、絵物語で見る竜に近い姿へ変貌した。

「――……『竜魔人ドラゴニュート』。この姿と誇りに懸けて、貴様等はここから通さん!!」

 竜魔人の姿となったヴラズは、同様に赤い色合いに変質した三又の槍を振りながら瞬く間に飛翔し、魔導人形ゴーレムを凄まじい速さで破壊していく。
 同じように他の竜人達も竜魔人となり、箱舟ノアを追う敵飛空艇や魔導人形達を破壊し続けた。

 その中でマギルスは箱舟ノアの上部甲板に降り、青馬を消して内部に戻る。
 それと同時に箱舟は更に加速し、一気に敵の包囲網を突破した。

「――……敵包囲網、突破しました!」

「敵都市までの距離、凡そ三キロです!」

「新たな敵飛空艇が、正面下と左右から接近中!」

「このまま振り切れッ!!」

 箱舟ノアは敵を振り切るように進み、上昇しながら都市の外壁を超える高さを目指す。
 そして数分後には、月の光に照らされた浮遊都市の全貌が明らかになる高さに昇り終えた。

「――……これが、魔導国の首都……!」

「世界随一の魔法と、魔導技術を誇った国……!」

「……都市の形が、昔と違うな……」

 月明りに照らされる魔導国は、影を宿しながらもその全貌を明らかにする。
 都市の中央には巨大な高さの建物がそびえ立ち、外壁に近付くにつれて低い建物が立ち並んでいた。
 
 同盟国の記録にある魔導国の首都は、中央に大きな魔法学園の敷地が存在し、周囲を緑と近代的な建築技術の建築物で囲まれた素晴らしい景観の都市だと記録されている。
 しかしその面影は無く、昔の光景を知る者は別の都市としか思えない程に様変わりしていた。
 
「……浮遊都市の周囲に、魔力反応! 結界が張られています!」

「敵の障壁周波数を、箱舟こちらと合わせます!」

「中央の魔導砲二門に、エネルギー充填開始! 三十秒後、発射可能です!」

「――……敵都市の上空に主砲を浴びせ、結界を破壊する! その後、箱舟ノアで突入を開始せよ!」

「了解!」

 各艦橋員達の状況を聞き、シルエスカは決断し実行を命じる。

 箱舟ノアは上げていた船首を下げて角度を落とし、加速しながら浮遊都市の上空に向かう。
 それと同時に船体の中央に設けられた二門の魔導砲を機械仕掛けで内部から出現させ、船体を巡る魔力を集束させた。

「――……主砲、放てッ!!」 

 シルエスカの命令に合わせ、砲撃手が操作盤の操作する。
 そして主砲である魔導砲撃が放たれ、虹色の高魔力が都市の周囲を覆う結界に接触した。

 その瞬間、魔導砲撃が触れた結界部分だけが砕けるように割れ、目に見える形で結界に穴が開く。
 それを見計らっていた操舵手は、穴が開いた部分に加速しながら突入を開始した。

 それを見ていたクロエは、微笑みながら呟く。

「……頑張ったね、みんな」

「――……結界を突破! 敵都市の突入に、成功しました!!」

「……おぉおおッ!!」

「やったぁああ!!」

 穴の開いた結界を箱舟ノアは通り抜け、突入に成功する。
 それに喜びの雄叫びを漏らす艦橋の兵士達は、シルエスカの声で次の作業に移った。

「――……これはまだ、始まりだ!」

「!」

箱舟ノアが上陸できる場所を探せ! そして各部隊を降ろし、敵都市の破壊工作を開始する!」

「は、はい! ――……各部隊、上陸に備えよ! 繰り返す! 各部隊、上陸に備えよ!」

「上陸地点を索敵! ……この外周付近に、着陸できる広さの場所があります!」

「都市内部に、魔導反応多数! 目標施設と思しき大規模な魔導反応を絞ります!」

「……ここからが、我々の反撃だ!」

 シルエスカの言葉で艦橋員達は歓喜を抑え、次の作戦を成功させる為の準備を行う。
 上陸できる場所へ箱舟ノアを向かわせる中で、中央格納庫と甲板内部で待機していた兵士達は緊張感を高めていた。

 エリク達もまた、空から見る魔導国の姿を見てそれぞれに思う表情で見つめる。
 こうして一行は魔導国の都市突入に成功し、休む間も無く次なる作戦に身を投じた。
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