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螺旋編 五章:螺旋の戦争

作戦会議

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 長い記憶の旅と鬼神フォウルの戦いで『聖人』へ至り帰還したエリクは、ホルツヴァーグ魔導国に対する侵攻作戦に改めて参陣する。

 そして議長ダニアスがいる司令室に主要な者達が集い、今回の作戦で指揮を担う幹部兵の二十名を招き入れて席に座っていた。
 その中には分隊長のグラドや、新兵の教官を務めていた息子ヒューイも含まれている。

 そうした中で、軍部を統括し纏めるシルエスカが前に立ち、その傍で『黒』の七大聖人セブンスワンであり開発部局長のクロエが箱舟ノアの設計図や実物映像を機器を使って投影しながら話を始めた。

「――……それでは、今回の侵攻作戦に関する概要を説明しよう」

「……」

「今回の作戦は、我々が開発した箱舟ノアを使い、浮上し構えるホルツヴァーグ魔導国の都市を襲撃する」

「……!」

「その中で、貴官等にはある重要な任務を任せる。……それは、都市内部の破壊工作だ」

「!」

「第一目標は、魔導国都市を浮遊させている機能施設の破壊。第二目標は、魔導人形ゴーレムを製造している施設の破壊だ」

「!」

「第一目標として、都市を浮遊機能を維持している施設と思しきモノを徹底的に破壊してもらう。奴等を空から叩き落す為に」

「……」

「その中で、次点となる第二目標もある。それが魔導人形ゴーレムの製造施設。それを破壊し、各大陸に送り込まれている魔導人形ゴーレムを機能停止させる」

「……質問を、よろしいでしょうか?」

 シルエスカが説明をしている最中、幹部兵の一人が挙手をして質疑を求める。
 それに応えて頷くシルエスカに、幹部兵の男は立ち上がって尋ね聞いた。

「聞き及ぶ所では、魔導人形ゴーレムはそれぞれに自律した構築式を用いて動いていると聞きます。その魔導人形が、製造施設を破壊するだけで個々に機能停止するのですか?」

「する」

「それは、どのような根拠で?」

「――……そうだね。まずは、皆にも理解して貰う為に私から説明をしようか」

 応対していたシルエスカに代わり、隣に立つクロエが応えながら壁面に映し出された映像が変化させる。
 そこに映し出されたのは、魔導国が送り込んで来た各種の魔導人形ゴーレムだった。

「これは同盟国に送り込まれた、魔導国の魔導人形ゴーレム。右側が旧型で、左側が半年前から確認されている新型だよ」

「!」

「旧型は、十五年前の侵攻時から扱われているモノから徐々に性能が向上しているけれど、基本的には木材や石を素材とした作りのモノだね。これに関しては、皆もよく知ってるかな?」

「……ッ」

「剣や盾を用いる『近接型』、弓や弩弓を使う『遠距離型』、攻撃用魔法構築式を刻んだ魔石を搭載した『魔法型』。色々と種類が豊富で、型によっては素早かったり硬かったりするけれど、関節部や内部が脆いという特徴もある。だから火力の高い銃火器を使う事で、この十年近くは一般兵でも武装のみで対処できるようになった。そうだね?」

「はい、そうです」

「でも、左側の新型が最近になって登場した。これは敵飛空艇から球形型の形状で落下すると同時に落下地点を貫通するように破壊した後に、三メートルから五メートルの人型に近い変形をする」

「……」

新型これは歩行速度や機動力は旧型に比べるとかなり遅いけれど、耐久性が高く超重量で膂力も強い。しかも腕部には魔導兵器を搭載して、高威力の火器と変わらない威力の魔法弾を放つ。しかも装甲に使用されているのは特殊な金属で各関節部も硬い為に、通常の銃火器や爆弾程度では装甲を傷付けるのは難しいね」

「……ッ」

「正直これは、戦車の主砲か破壊力の高い魔導兵器で対処しなければ、普通の兵士では破壊する事も不可能だろうね。それは身を持って、体験した人達もいるはずだ」

「その通りです」

「ただ、旧型と新型の魔導人形ゴーレムには共通した弱点があるんだよ」

「!?」

「これ等の魔導人形ゴーレムにはそれぞれ内部に、構築式に刻まれた行動を遂行しようとする自律機能が内臓されている。でもその中には、遠隔操作された指示にも従うように構築式も刻まれているんだ」

「遠隔操作……!? 自律して動いていたんじゃ……!?」

魔導人形ゴーレムは本来、術者の意が無ければ行動は出来ない。一見すれば旧型も新型も自律して動いているように見えるけど、その指示系統プロセスは全て遠隔で指示されているようだ。それを行っている操縦基盤が、必ず存在する」

「……それが、魔導人形ゴーレムの製造施設にあると?」

「術者が全てを操作するには、魔導人形の数が多すぎるからね。恐らく、魔導人形を統括して管理している施設と機器があるはず。それが魔導国にあるとしたら、魔導人形の製造施設だと私なりに推測してみたんだ」

「だから、第二目標として製造施設の破壊というわけですね?」

「そういうこと。納得してくれたかな?」

「はい。ありがとうございました」

 クロエの説明に納得した幹部兵が、納得した様子で着席する。
 他の幹部達もその説明に納得を見せ、魔導人形を機能停止させる為の製造施設を破壊する目的に同意した。

 それを同じように聞きながらも理解を難しくしているエリクの横で、ケイルが呟き聞かせる。

「……要は、魔導人形ゴーレムを操作してる建物も破壊しろってことさ」

「そうか」

 端的に述べてエリクを理解させたケイルは、前に視線を戻す。
 そして質疑を終えたクロエは話の場をシルエスカに譲り、次の話題に移した。

「第一目標と第二目標は、さっき説明された通り。特に第二目標は、敵の防衛力と侵攻力を削ぐ為に必ず必要になる。できれば迅速に、そして確実に破壊しなければならない」

「……」

「我々は箱舟ノアに乗船し、魔導国都市内部に可能であれば潜入、もしくは突入する。そして第一目標と第二目標を破壊し、魔導国が続ける暴虐の侵攻を止める。それが、君達に課す最優先任務だ」

「……ハッ!!」

 シルエスカの命令に、幹部兵達がそれぞれに覚悟を秘めた真剣な表情で応じる。

 ここに集まった幹部兵達は十五年以上も続く魔導国との戦争で生き残った兵士達であり、また多くの仲間や家族を葬られた者達も多い。
 その元凶とも呼ぶべきホルツヴァーグ魔導国を打破し、死んでいった者達の無念を晴らし、暗雲としたこの戦争を止める信念を強く持っていた。

 その応じを受け取ったシルエスカは覚悟を受け取り、頷いて次の話に進める。

「……今回、箱舟ノアに乗船できる五百名の兵士を募った。お前達には、その兵員の指揮を任せる」

「!」

「それぞれに隊を指揮し、戦車を始めとした兵器を運用して都市に上陸する。そしてそれぞれの隊は、第一目標と第二目標を優先して破壊する事を心掛けろ」

「ハッ!!」 

「しかし、まだ懸念は多い。敵魔導国の主兵力は魔導人形ゴーレムであり、その総数も不明だ。……何より、敵は魔導人形ゴーレムだけではない」

「……」

「恐らくは魔導国の兵士、そして魔法師達が都市には健在と思われる。特に魔法師達は、魔法戦術や技術においては、旧皇国や現同盟国の比ではない」

「……ッ」

「そうした敵兵力に遭遇した際、その排除も必要となるだろう。魔導国の都市防衛力を鑑みても、敵の兵力は魔導人形を含めて二万から五万以上と推定される」

「!!」

「こちらの兵力は、箱舟ノア一隻分で約五百名。敵の数と比すれば、少なくとも四十倍から百倍以上にもなるだろう」

「……」

「それを覚悟した上で、君達に各隊の指揮と任務を任せる。……その意味は、分かるか?」

「……ハッ!!」

 シルエスカが戦力の比率を敢えて説き、それを受け取った幹部兵達が応じて頷く。
 それが命を賭して成し遂げなければならない任務だと、兵士達は理解していた。

 僅か五百名で数十倍以上の敵と相対せば、死は必至。

 更に防衛戦ではなく、これは侵攻作戦。
 守る戦いではなく、攻める戦い方をしなければ勝利は望めない。

 勝利条件は、浮かんでいる敵魔導国の都市機能を破壊して落下させること。
 そして侵攻して来る魔導国の魔導人形を機能停止させ、その戦力を大幅に削ぐこと。
 その二つさえ達成できれば、地上に落ちた魔導国を討つ事も可能となる。

 自分達がその先駆けとも言うべき尖兵として死ぬ可能性が高いという事を、集まった兵士達は十二分に理解していた。
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