454 / 1,360
螺旋編 四章:螺旋の邂逅
暴走を止める為に
しおりを挟む赤鬼と遭遇した過去のアリアと現在のエリクは、その正体を知る。
『到達者』の一人として、魔人の国で神として崇められていた伝説の戦鬼。
『鬼神』フォウルがエリクの魂に内在し、今まで力を貸し与えていた事が明かされた。
そして過去に暴走したエリクを止める為に魂の中でフォウルとアリアは相対し、会話を続ける。
『――……鬼神フォウル。どうして到達者の貴方が、エリクの魂に……!?』
『さっき言わなかったか? 俺の自我は、輪廻転生の中で浄化し損なったってな』
『……まさか、エリクは貴方の……!?』
そこまでの会話を行ったアリアは、エリクとフォウルの関わりを勘付いた様子を見せる。
しかしそれを口にする様子は無く、代わりにエリクの前に立つフォウル自身が話した。
『――……俺が死んだ後に、浄化し損なった魂が現世で生まれた肉体に宿った」
「どういうことだ?」
『分からんか。要するに、お前は俺の生まれ変わりだ』
「!?」
『俺とお前は、同じ魂の中にいる。つまり、俺とお前は同じ存在だ』
「俺と、お前が同じだと……?」
フォウルの話を聞き、エリクは驚愕よりも訝し気な視線を宿して向ける。
恵まれた体格ながらも人間の姿をしているエリクと、異形の姿である大鬼のフォウル。
二人は容姿的に全く相反する存在であり、エリクは見た目から同一の存在とは思えなかった。
それでも過去の記憶から浮かび上がる過去のアリアは、その疑心を晴らすように相対するフォウルと話を続ける。
『……さっき、エリクは人間だと言ったわね?』
『言ったな』
『じゃあ、なんでエリクはあんな姿になって暴走してるの? そもそも、力を貸してるって何?』
『昔、この馬鹿が死にそうになった事がある。そん時にコイツは無意識に、魂の中にいる俺に触れて来やがった』
『!』
『俺を認識していたワケじゃ無さそうだったが、俺に触れられるくらいの精神に興味を持った。だから奴に聞き、このまま死ぬか、それとも生きたいかを選ばせた』
『まさか、エリクに誓約を課したの!?』
『俺が俺自身に、つまりこの馬鹿に誓約を課すのは簡単だ。その代償効果の制約として、俺の力をコイツの自我でも扱えるように回線を繋いだんだ』
『……エリクが瀕死の重傷を負っても自己治癒したり、魔人と同じような力を使えるのは、そのせい?』
『使える? 馬鹿を言うな。この野郎、俺が貸してる力をほとんど使えてねぇよ』
『え?』
『俺がコイツに貸してるのは、せいぜい俺の爪先一本分の力だけだ』
『……!!』
『なのにこの馬鹿は、その程度の力が全く制御できてねぇ。傷の治りは人間より早いが、俺の力を使うとこの暴走だ。呆れたぜ』
わざとらしい程に大きな溜息を吐き出したフォウルは、そうアリアに話す。
フォウルにとってエリクに与えているのは本当に極僅かな力であり、それすら制御できずに暴走するエリクに本当に呆れているらしい。
エリクはそう告げる過去と現在の光景に視線を交互させながら、現在のフォウルを見た。
「……」
『だから言ったろうが。今のお前なんぞ、指一本で十分だってな』
「……そういうことか」
フォウルの物言いにエリクは納得し、今の自分の力がフォウルの小指一本にすら及んでいない事を悟らされる。
そうした中で過去の映像は続き、過去のアリアがフォウルを睨みながら告げた。
『――……貴方が力を貸しているというのなら。今すぐ、エリクの暴走を止めて!』
『言ってんだろ。コイツが勝手に暴走してるってな』
『だから、貴方が貸してる力を止めれば――……』
『さっきも言ったろうが。俺とコイツの間に、回線が繋がってるってな』
『!』
『俺と回線が繋がったコイツが望む限り、俺の力は流れ続ける。暴走してるのは、この馬鹿の意思だ』
『エリクが……!?』
『お前が死んで、コイツは自分が死んでも牛野郎を殺すと決意した。少なくとも、あの牛男を殺すまではコイツの暴走は止まらん』
『……ッ』
『まぁ、牛男を殺った途端にコイツも死ぬだろうがな』
『なんですって!?』
『当たり前だろ。この馬鹿は、死んでも牛男を殺すつもりで暴れる。それが終われば、俺の力に耐えきれずにこの身体は死ぬ』
『……!!』
『どうやら嬢ちゃんは、コイツを止めたいようだが。暴れたいと思ってるのは、この馬鹿自身だ。俺に止めろなんてのは、お門違いな話だぜ』
そう告げるフォウルの言葉に、アリアは苦い表情を浮かべる。
同じ魂の中にいる二人が交わらせていた『誓約』と『制約』により、エリクは魔人として力を行使している。
それはエリクの意思に反映されており、自己治癒や暴走状態もエリク自身が望むからこそ行えていた力の一端だった。
それを知ったアリアは思考し、そして十秒程の沈黙を宿す。
対するフォウルは、軽く手を払うようにアリアに告げた。
『分かったらさっさとここから出て行きな、お嬢ちゃん。コイツに殺される前にな』
『……私は殺されるつもりはないし、エリクを死なせはしないわ』
『ほぉ? お前がこの馬鹿を救うってか』
『ええ』
『面白い、どうやって救う? ……と言っても、手段は限られてるだろうがな』
『……暴走を止めるには、貴方とエリクの回線を切断するか。もしくは……』
『俺を、この魂の中から消滅させるかだろうな』
『……』
『俺を消すつもりなら、相手になってやる。……容赦なんぞ、してやる気はないがな』
赤鬼は殺気を含めた赤い魔力を放ち始め、アリアを睨むように身体の正面を向けた。
その殺気交じりの魔力に押され、アリアは強風に吹かれるように身を引きながら踏み止まる。
そしてアリアは自身の背後に『魂で成す六天使の翼』を展開し、背中に六枚の翼を背負いながら対峙した。
0
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!
アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。
「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」
王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。
背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。
受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ!
そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた!
すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!?
※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。
※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。
※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
やはり婚約破棄ですか…あら?ヒロインはどこかしら?
桜梅花 空木
ファンタジー
「アリソン嬢、婚約破棄をしていただけませんか?」
やはり避けられなかった。頑張ったのですがね…。
婚姻発表をする予定だった社交会での婚約破棄。所詮私は悪役令嬢。目の前にいるであろう第2王子にせめて笑顔で挨拶しようと顔を上げる。
あら?王子様に騎士様など攻略メンバーは勢揃い…。けどヒロインが見当たらないわ……?
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる