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螺旋編 四章:螺旋の邂逅

暴走を止める為に

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 赤鬼と遭遇した過去のアリアと現在のエリクは、その正体を知る。

 『到達者エンドレス』の一人として、魔人の国で神として崇められていた伝説の戦鬼バトルオーガ
 『鬼神』フォウルがエリクの魂に内在し、今まで力を貸し与えていた事が明かされた。

 そして過去に暴走したエリクを止める為に魂の中でフォウルとアリアは相対し、会話を続ける。

『――……鬼神フォウル。どうして到達者エンドレスの貴方が、エリクの魂に……!?』

『さっき言わなかったか? 俺の自我は、輪廻転生システムの中で浄化し損なったってな』

『……まさか、エリクは貴方の……!?』

 そこまでの会話を行ったアリアは、エリクとフォウルの関わりを勘付いた様子を見せる。
 しかしそれを口にする様子は無く、代わりにエリクの前に立つフォウル自身が話した。
 
『――……俺が死んだ後に、浄化し損なった魂が現世で生まれた肉体に宿った」

「どういうことだ?」

『分からんか。要するに、お前エリクフォウルの生まれ変わりだ』

「!?」

『俺とお前は、同じ魂の中にいる。つまり、俺とお前は同じ存在だ』

「俺と、お前が同じだと……?」

 フォウルの話を聞き、エリクは驚愕よりも訝し気な視線を宿して向ける。

 恵まれた体格ながらも人間の姿をしているエリクと、異形の姿である大鬼のフォウル。
 二人は容姿的に全く相反する存在であり、エリクは見た目から同一の存在とは思えなかった。

 それでも過去の記憶から浮かび上がる過去のアリアは、その疑心を晴らすように相対するフォウルと話を続ける。

『……さっき、エリクは人間だと言ったわね?』

『言ったな』

『じゃあ、なんでエリクはあんな姿になって暴走してるの? そもそも、力を貸してるって何?』

『昔、この馬鹿エリクが死にそうになった事がある。そん時にコイツは無意識に、魂の中にいる俺に触れて来やがった』

『!』

『俺を認識していたワケじゃ無さそうだったが、俺に触れられるくらいの精神に興味を持った。だから奴に聞き、このまま死ぬか、それとも生きたいかを選ばせた』

『まさか、エリクに誓約を課したの!?』

『俺が俺自身に、つまりこの馬鹿エリクに誓約を課すのは簡単だ。その代償効果の制約ルールとして、俺の力をコイツの自我でも扱えるように回線パスを繋いだんだ』

『……エリクが瀕死の重傷を負っても自己治癒したり、魔人と同じような力を使えるのは、そのせい?』

『使える? 馬鹿を言うな。この野郎、俺が貸してる力をほとんど使えてねぇよ』

『え?』

『俺がコイツに貸してるのは、せいぜい俺の爪先一本分の力だけだ』

『……!!』

『なのにこの馬鹿は、その程度の力が全く制御できてねぇ。傷の治りは人間より早いが、俺の力を使うとこの暴走ザマだ。呆れたぜ』

 わざとらしい程に大きな溜息を吐き出したフォウルは、そうアリアに話す。
 フォウルにとってエリクに与えているのは本当に極僅かな力であり、それすら制御できずに暴走するエリクに本当に呆れているらしい。

 エリクはそう告げる過去と現在の光景に視線を交互させながら、現在のフォウルを見た。

「……」

『だから言ったろうが。今のお前なんぞ、指一本で十分だってな』

「……そういうことか」

 フォウルの物言いにエリクは納得し、今の自分の力がフォウルの小指一本にすら及んでいない事を悟らされる。
 そうした中で過去の映像は続き、過去のアリアがフォウルを睨みながら告げた。

『――……貴方が力を貸しているというのなら。今すぐ、エリクの暴走を止めて!』

『言ってんだろ。コイツが勝手に暴走してるってな』

『だから、貴方が貸してる力を止めれば――……』

『さっきも言ったろうが。俺とコイツの間に、回線パスが繋がってるってな』

『!』

『俺と回線パスが繋がったコイツが望む限り、俺の力は流れ続ける。暴走してるのは、この馬鹿エリクの意思だ』

『エリクが……!?』

『お前が死んで、コイツは自分が死んでも牛野郎を殺すと決意した。少なくとも、あの牛男を殺すまではコイツの暴走は止まらん』

『……ッ』

『まぁ、牛男をった途端にコイツも死ぬだろうがな』

『なんですって!?』

『当たり前だろ。この馬鹿は、死んでも牛男を殺すつもりで暴れる。それが終われば、俺の力に耐えきれずにこの身体は死ぬ』

『……!!』

『どうやら嬢ちゃんは、コイツを止めたいようだが。暴れたいと思ってるのは、この馬鹿エリク自身だ。俺に止めろなんてのは、お門違いな話だぜ』

 そう告げるフォウルの言葉に、アリアは苦い表情を浮かべる。

 同じ魂の中にいる二人が交わらせていた『誓約ルール』と『制約ルール』により、エリクは魔人として力を行使している。
 それはエリクの意思に反映されており、自己治癒や暴走状態もエリク自身が望むからこそ行えていた力の一端だった。

 それを知ったアリアは思考し、そして十秒程の沈黙を宿す。
 対するフォウルは、軽く手を払うようにアリアに告げた。

『分かったらさっさとここから出て行きな、お嬢ちゃん。コイツに殺される前にな』

『……私は殺されるつもりはないし、エリクを死なせはしないわ』

『ほぉ? お前がこの馬鹿を救うってか』

『ええ』

『面白い、どうやって救う? ……と言っても、手段は限られてるだろうがな』

『……暴走を止めるには、貴方とエリクの回線パスを切断するか。もしくは……』

『俺を、この魂の中から消滅させるかだろうな』

『……』

『俺を消すつもりなら、相手になってやる。……容赦なんぞ、してやる気はないがな』

 赤鬼は殺気を含めた赤い魔力を放ち始め、アリアを睨むように身体の正面を向けた。
 その殺気交じりの魔力に押され、アリアは強風に吹かれるように身を引きながら踏み止まる。

 そしてアリアは自身の背後に『魂で成す六天使の翼アリアンデルス』を展開し、背中に六枚の翼を背負いながら対峙した。
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