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螺旋編 四章:螺旋の邂逅

王子の改革

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 招かれたパーティーで騎士団に拘束されそうになったエリクとウォーリスだったが、執事服を着た使者に連れられた第三王子ウォーリスを目にする。
 茶髪を靡かせながら白い礼服と首と肩に備えられた白いマントを備えて歩く青年が前に歩み出ると、それに連れ添う黒い礼服を着た黒髪の青年が追従し、エリクと騎士達の間に入るように足を止めた。

 そして茶髪の青年が騎士達に顔を向けると、微笑みながら訪ねる。

「――……これは何の騒ぎか、聞いても?」

「は、ハッ! 会場内に不審者が紛れ込んでいましたので、拘束しようと……!!」

「そうか。でも、彼等は不審者ではない。私が正式に招待した客人だよ」

「ウォーリス様が……!?」

「ああ。私が個人的に、彼等と会ってみたいと思ってね」

 そう騎士達が驚きながら茶髪の青年に対してウォーリスの名を向けた事で、ワーグナーは茶髪の方が第三王子である事を理解する。

 一方でエリクは茶髪の青年を一瞥した後、傍に仕える黒髪の青年の方に目を向けた。
 黒髪の青年もまた、その視線に気づいてエリクの方を静かに見据える。
 その時にエリクは僅かに右手に込める力を強め、まるで強敵と相対した時のような表情で黒髪の青年を見ていた。

 そうした中で、仲裁に入ったウォーリス王子がエリクとワーグナーの方へ顔と体の正面を向ける。

「お騒がせして申し訳ない。そして、改めて自己紹介させて頂きます。――……私は、ウォーリス=フォン=ベルグリンド。このパーティーの主催者であり、貴方達を招待した者です。黒獣傭兵団の団長エリク殿、そして副団長ワーグナー殿」

「!」

「!!」

 ウォーリス王子がエリク達の名前と素性を述べた時、騎士団と周囲に居た来客達は表情に驚愕を秘める。

 淑女達は手に持つ扇子で口元を隠し、隣り合う淑女達とエリクやワーグナーを見ながら小声で話し合っていた。
 それは男性陣も同じく、驚きの目と幾らかの畏怖を込めた視線を向けながら、小声で隣り合う者達と話している。
 更には警備をしている周辺の騎士達や拘束しようとした騎士達も、僅かに動揺した表情から更に強張った表情を強めた。

 そうした視線を向けられ小声で話されている事を察するワーグナーは、ウォーリス王子の挨拶に対してこう応えた。

「第三王子。アンタが、俺達をここに招待したって?」

「はい。黒獣傭兵団の活躍は、私の耳にも届いていましたから」

「物好きだな。たかだが一傭兵団に過ぎない平民の俺等を、こんなパーティーに呼び付けるなんざ」

「そうでしょうか? 貴方達の傭兵団の実績は、高く評価されるべきだと私は思っています。本当であれば貴方達の功績は、王国騎士の叙勲を与える程です」

「!!」

 そう話すウォーリスの言葉に、ワーグナーや周囲は驚きを含む。

 王国騎士の叙勲を与えるという事は、準男爵級の貴族位を与える事に等しい。
 更に平民では足を踏み入る事すら許されない貴族街と王城に踏み入る事が許可され、戦争時には軍兵の一隊を率いる事すら出来る地位になる。

 それがベルグリンド王の後継者と言われるウォーリス王子の口から述べられるという事は、周囲にとってもワーグナーにとっても驚愕すべき事だった。 

「……俺達をここに呼び付けたのは、騎士への勧誘ってことかい?」

「それも含まれますが、貴方達と一度はお会いすべきだと考えていました」

「そうか。なら、騎士なんかに俺等はならねぇよ」

「な……っ、貴様!?」

 騎士の叙勲に対する返答として、ウォーリス王子に対してワーグナーはこう答える。
 それを聞いていた向かい側の騎士達は表情に怒気を含ませ、怒鳴りそうになったところを手を軽く上げたウォーリス王子に止められた。

「ウォ、ウォーリス様……」

「構わないよ。……ワーグナー殿、騎士の叙勲を断る理由を聞いても?」

「簡単な事だ。騎士なんて堅苦しいモンになるくらいなら、傭兵のままの方が気楽だからな」

「そうですか」

「それに、騎士団なんて連中を俺は信用してねぇ」

「ッ!!」

「その理由は?」

「俺が知ってる騎士団ってのは、魔物の討伐や戦争では糞の役にも立たないくせに、平民を脅して金を強要し、商人を脅して賄賂を強要し、それを断れば冤罪を着せて拷問するような糞汚い連中だからだ」

「貴様ァアッ!!」

 騎士団に対する印象を話すワーグナーに、騎士達の全員が敵意を向ける。
 そして止められていた騎士の男が怒鳴りながら憤怒の表情を浮かべ、ワーグナーに掴み掛かろうとした。

 それを止めたのはエリクの右手であり、再び騎士の男の腕を掴む。
 それを騎士の男が振り払おうとした瞬間、エリクは右手に力を込めて握り締めた。

「ぐ、ぁアアッ!?」

「……」

 騎士は腕の痛みで悲鳴を訴えながら平伏すように膝を曲げ、その場に跪く。
 そして跪き必死に腕を引き剥がそうとする騎士の手を、エリクは再び離して押し退けた。

 解放された騎士は掴まれた腕を震えさせながら、睨むようにエリクとワーグナーを凝視する。

「くっ、貴様等……!!」

「エリクが本気なら、テメェの腕なんざとっくに引き千切れてるっての」

「!!」

 そう忠告を向けるワーグナーに、騎士の表情は歪み怒る。
 その時、ウォーリス王子が静かな声で怒る騎士に告げた。

「君は下がりなさい」

「し、しかし……!!」

「彼等が言っている事は事実だ。私が来る前の王都の騎士団は、そうした事を行っていた」

「!!」

「君達は私が選び、新たな王国の騎士に選んだ。その君達が粗暴な様子を見せては、彼等が前の騎士達と同一視してしまうのは仕方のない事だよ」

「……ッ」

 ウォーリス王子に説かれた騎士は、怒る表情を沈めさせられながら顔を伏せて身を起こす。
 そして改めてワーグナーとエリクを見たウォーリス王子は、今の騎士団について話した。

「彼の無礼を許して欲しい。彼は私の騎士である事を、強く誇りに思ってくれていますから」

「へっ」

「それと騎士団の件ですが。貴方の仰る通り、そうした不正を働いていました。なので私が登城した後は、不正を働いた騎士達は全て貴族位を剥奪し、罪人として捕縛しています」

「!!」

「彼等はそうした騎士達に反発していた者達や、私と共に民を助ける為に身を粉にしてまで働いていた元兵士達で編成した、新生の王国騎士団です」

「……」

「私が登城してから二年程、騎士団の案件でそうした罪を厳しくを取り締まっていたはずですが。貴方達の方で、そうした事件が起こっていましたか?」

「……いいや。特に騎士団絡みのは、なかったな」

「そうですか。それは良かったです」

 そう微笑みながら話すウォーリス王子に、ワーグナーは訝し気な視線を向ける。

 ワーグナーを副団長に据えてから、王都の下町で治安維持を黒獣傭兵団が努めていた。
 必然としてその耳には、貴族や騎士団と、それに関わる者達が行う法で裁かれるべき悪行が透けて聞こえる。

 しかしここ二年程で、黒獣傭兵団と関わりの無い部分で王都の治安が良くなってきていた。

 不正を働く騎士や商人が極端に減り、更に黒獣傭兵団で処理する前に拘束され捕縛される様子も見られている。
 そしてその活動にウォーリス王子が率いる者達が努め、急速に王都の治安が良くなりつつある事を、兵士を伝手としていたワーグナーは知っていた。

「……なるほど。噂通り、アンタがやってた事か」 

「はい。私はこの国を、そしてこの国の民に、平穏で豊かな暮らしを与える事が目標ですので」

「……」

「もう少しすれば、下町の方にも政策を行う予定です。俗に言う貧民街と呼ばれる場所では、そこで苦しむ貧困民を救う為の救済措置を盛り込む予定ですから」

「!」

「その際、多くの方々に協力を願う事があるでしょう。貴方達、黒獣傭兵団にもね」

「……」

「今日は騒がしい中の挨拶となってしまいましたが、そうした時に改めて御挨拶をしましょう。それでは……」

 そう述べるウォーリス王子は軽く頭を下げ、その場から振り返り立ち去る。
 エリクと睨み合っていた黒髪と黒い礼服を着た青年もウォーリス王子に付いて行き、執事服の使者も頭を下げて付いて行った。
 それに騎士達も追従する形で後を追い、周囲に集まっていた来客達も会場内に散らばる。

、こうしてウォーリス王子とその従者達に出会ったエリクとワーグナーは、訝し気な目を向けた出会いを終えた。
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