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螺旋編 三章:螺旋の未来

戦時の凱旋

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 首都に戻る部隊に護衛されながら同行するエリク達は、三十年前に辿った道を再び戻る。
 しかし見ている光景は全て違い、自然な変化とは異なる光景に眉を顰めていた。

「――……酷いな」

「ここら辺、もう少し自然とかあったよな……」

「ぜーんぶ、あの荒野みたいになっちゃってるね」

 マギルスは荷馬車の一つを借り受け、それを青馬に引かせながらエリクとケイルの言葉に続く。
 三十年前に緑が見えていた景色は一変し、荒野にも似た地肌や岩肌が目立つ光景となっていた。

 しかもそれ等が目立つ箇所には、必ず人為的な破壊跡が見える。
 この周辺が何等かの争いが起きたからこその状況だと、三人は察していた。

 そんな三人が乗る荷馬車に対して、同盟国軍の戦車が並び走る。
 その出入口になっているハッチから、グラドが顔を出して呼び掛けた。

「――……よぉ! そろそろ休息に……どうした? 辛気臭い顔して」

「……グラド。この周辺でも、戦闘があったのか?」

「ああ。数年前には、ここら辺に避難民を受け入れてた集落があったんだ。それが襲われて、こうなった」

「……」

「ここだけじゃないぜ。他の場所も、似たり寄ったりだ。……この大陸で緑が残ってる場所は、ほんの一部だけ。魔導国の奴等が、空襲で削り取っていくんだ」

「……魔導国は、何故こんな事を?」

「俺が知るワケがねぇよ。……例えどんな理由でも、許す気なんてさらさら無いけどな」

「……そうだな」

 グラドは僅かに怒気を含んだ表情を見せ、周辺を見ながら握り拳を固めて呟く。
 それにエリクも同意し、凄惨な戦争を仕掛けるホルツヴァーグ魔導国の行いに業を煮やした。

 そして行軍する一行は短時間の休憩に入り、再び行軍を開始する。
 長時間の休憩は無く短い休憩のみを行う部隊は、首都の帰路を急ぐように進み続けた。

 これにも理由があり、休憩中にグラドの補佐官からエリク達は聞く。

「――……魔導国は、我々の視界や機器に捉えきれない高度で大陸上空から監視しているそうです。そうした監視の下で一定数の集団が姿を晒すと、敵飛空艇から爆弾や魔導人形ゴーレムなどが投下され、人々に襲い掛かります」

「そうなのか。……人が集まっている集落や町は、どうしているんだ?」

「偽装魔法と併用して結界を発生させる魔導装置を使い、市や集落を周辺風景に溶け込みながら守っています。我々も、戦車に内蔵している装置で上空に偽装した映像を見せていますね」

「そうだったのか……」

「……ただ、人が出入りしたような痕跡が残っていると、それに狙いを定めて魔導国の兵器が襲って来る時もあります」

「……なら、あの港は……」

「何かしらの痕跡を発見され、あの場所に人の出入りがあると知られたのでしょう。あの港都市は十年以上前に襲われ、それから偽装魔法を施しながら秘かに復旧させました。上空の監視からは、廃港に見え続けていたはずですが……」

「……」

 敵に発見されない為にそうした対策が取られていた事を、エリク達は初めて知る。
 その時にエリクが思い出していたのは、戦艦に乗っている時に乗務員達が煙が見える事に動揺していた事だった。
 あれは港都市が襲われている事に驚いていたと同時に、偽装魔法が破られたという事も疑問に浮かべた驚きだったのだと、エリクは改めて思い知る。

 こうした説明を改めて説明された事で、エリク達はアスラント同盟国の現状を正確に理解し始めた。
 そして三十年前と後の意識と時間の差が徐々に縮まり、自覚する。

 ここは『螺旋の迷宮スパイラルラビリンス』のような、非現実的な世界ではない。
 自分達の知る者達が生き抜こうとする、現実の世界なのだと。

 エリクとケイルは始めこそ夢や非現実の世界なのだと思考に浮かべていたが、港都市の戦いで今が現実なのだと否応無しに感じさせられている。
 マギルスも何も言わないが、港都市の戦いを体験してから意識を鋭く上空と周囲に警戒度を高めているのに、二人も気付いていた。

 そんな三人を連れた同盟国の部隊は、四日の道程を辿る。
 そして元ルクソード皇国の皇都にして、現アスラント同盟国の首都へと辿り着いた。

「……!?」

「これは……」

「……首都、ボロボロだよ?」

 しかしエリク達の目に飛び込んだ光景は、驚きを浮かべてしまうものだった。
 
 都市を覆っていたはずの巨大で分厚い外壁は、内部の光景を露わにする程に崩れ落ちている。
 そこから見える内部も深刻な状態であり、建築物は形を留めず崩壊している光景が見えた。

 その外壁近くに到着した部隊とエリク達は、荷馬車から降りて首都の様子を見る。
 崩れた外壁にエリクが触れ、それが魔法を使った偽装ではない事が、はっきりと分かった。

「……グラド。ここが、首都なのか?」

「ああ。……首都も十五年くらい前に、大規模な集中攻撃を受けてな。それに耐えられずに、ここを放棄したんだ」

「放棄、したのか?」

「ああ。それで生き残った連中は各地に分散して、比較的に無事な地域を隠れ蓑にしてる」

「……なら、なんで俺達をここに?」

「まぁ、ちょっと待ってろって」

 崩壊した首都に招かれてしまったエリクは、困惑しながらグラドに尋ねる。
 するとニヤけた笑い顔を見せながら、グラドはある外壁の部分まで歩き、屈みながら地面に手を置いた。

「ここを、こうするとっと……」

「……!?」

 グラドは地肌に僅かに突出している石を軽く触る。
 するとグラドの真横の地面が鉄板へ姿を変え、三人は驚きを浮かべた。

 その鉄板には、文字記号が並べられた小さな操作盤がある。
 それに指を向けようとしたグラドが、何かを思い出すように唸りながら副官に話し掛けた。

「えーっと、なんだっけな。……おい、パスワードなんだっけ?」

「『開けゴマ』ですよ」

「ああ、そうだった。なんでこんな意味不明なパスワードにしてるんだかなぁ」

「分かり難いからだと思うんですが……」

「開けゴマっと……。よし」  

 文字を押しながらパスワードを入力したグラドは、腰を起こして周囲を見る。
 すると外壁から少し離れた地面が突如として盛り上がり、戦車が通れそうな程の大きな出入口が出現した。

「あれは……」

「皇国軍の基地で見た、入り口と同じ……?」

「へー。そういえば僕、あの扉みたいなの斬った覚えがあるなぁ」

 エリクを含め、ケイルとマギルスは前回の事件で皇国軍施設に侵入した時の事を思い出す。
 それぞれが別々の目的と意思で突入した際、三人は似た入り口を通って施設内に侵入していた。

 それと同種の入り口を同盟国は設け、入り口としているのだとエリク達は気付く。
 そしてグラドは戦車や荷馬車達を入れるように副官に指示した後、エリク達に話し告げた。

「さぁ、入れよ」

「……まさか、ここが?」

「そう、ここが今のアスラント同盟国の首都。……いや。首都っていうよりは、秘密基地アジトって言ったほうが正しいな」

「アジト?」

「民間人のほとんどは各地に散らした後、上層部は研究者や兵士達を集めて、首都の地下に基地施設を設けた。そしてここで、魔導国に対抗する為の兵器を開発してるってワケだよ」

「魔導国に対抗する兵器……。あの、戦車のことか?」

「ああ。だが、アレよりもっとすげぇのが作られてるぜ」

「?」

「とりあえず来いよ。お前等も見たら、きっと驚くぜ?」

 そう笑いながら秘密基地の入り口に入っていくグラドに、エリク達は疑問と怪訝を浮かべながらも後を追う。

 入り口を潜った後は以前と同じく、勝手に入り口の扉が閉まる。
 そして再び入り口とパスワードを入力する為の場所に魔石を用いた偽装が施され、首都の入り口は隠された。

 その瞬間、暗闇だった地下空間に明かりが灯る。
 その明かりに導かれるように緩やかな下り坂を歩き続ける部隊とエリク達は、その先にある光景を見てエリク達は驚きを隠さずにはいられなかった。

「……これは……!?」

「ここがアスラント同盟国の首都であり、秘密基地《アジト》だ」

 そうグラドが手を翳し、エリク達を迎える。
 地下には広大な地下空間が設けられ、そこには様々な機械と機器が備わる施設が存在した。 
 以前に侵入した施設と似た雰囲気ながらも、その広大さは比較できない程に大きい。
 
 こうしてエリク達は長くも短い道を戻り、アスラント同盟国の首都へ凱旋した。
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