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螺旋編 三章:螺旋の未来

窮地再び

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 同盟国の艦隊に乗船したエリク達は真夜中の海を航行し、元ルクソード皇国で現アスラント同盟国の首都がある東の大陸へ向かう。

 三十年前とは比べ物にならない性能を誇る戦艦達は、偽装魔法で姿を消したまま砂漠の大陸から離れていく。
 そして一時間程が経った後、指揮をしている司令官はエリク達に話し掛けた。

「――……この艦隊は、三日後の早朝に本土へ到着する予定です。それまでは皆様、船室内にて出来る限りおくつろぎください」

「甲板に出ちゃダメなの?」

「船体に偽装魔法は施せますが、人体に施しているわけではないので。甲板に人が出てしまうと、不自然に人が浮いて海を飛んでいるように見えてしまいますから」

「えー。じゃあ、三日間も船の中だけにいるの?」

「ご不便とは思いますが、どうか御容赦を」

「ぶー、しょうがないなぁ」

 マギルスが甲板に出たがるも、偽装魔法の隠蔽が無意味になるという事で柔らかく拒否されてしまう。
 それを聞いていたエリクも疑問を浮かべ、司令官に聞いた。

「見張りは、外に居ないのか?」

「周囲の索敵は、艦内から魔導装置を用いて行えます」

「海は、船の中からでは見えないだろう? 三十年前は、海の合成魔獣キマイラに襲われた」

「海中の索敵に関しては、音波を飛ばして海中内の障害物などを探知する機械装置があります。これもこの操舵室から使えますので、索敵に関して問題はありません。迎撃も、海中専用の魔導兵器を用意しています」

「そ、そうか。……敵が襲ってくるかもしれない、空は?」

「空の索敵は、魔導装置を用いた索敵を行います。魔導国は魔導機関を用いた飛空艇と魔導人形ゴーレムを戦闘に用いますが、それ等の核には魔法陣が刻まれた魔石が組み込まれているそうです。そこから発する魔力の波動を戦艦ふねが発する魔導装置の魔力波動にぶつけ合わせる事で、上空にいる魔導兵器の存在を感知できます。なので、上空に敵の魔導兵器が襲来する際には、この船内からでも判別できます。対空迎撃兵器も備えていますよ」

「……そ、そうか。凄いな」

「この三十年で、飛躍的に同盟国の機械技術と魔導技術は発展しました。特に海上では魔導国の襲来が少なかったので、こうした技術実験し、充実した機器を備えられています。皆様に御苦労をお掛けする心配は、少ないはずです。御安心ください」

「……そうか。分かった」

 司令官が戦艦の設備を説明し、人間の目を必要とした索敵や警戒が必要が無い事を教える。
 三十年という時間はエリク達が知らない未知の文明と技術を生み出し、多くの有用性が示されていた。
 
 これ等は『海中索敵機ソナー』と『航空索敵機レーダー』という名でもあったが、どういう原理でそれ等が周囲の物体を索敵できているのかを理解できていない三人にとっては、それ以上の説明を司令官から求めようとは思わず、そういう物があるということだけを理解する。
 そして用意されていた船室に案内され、三日後の到着まで三人は船内で過ごす事となった。

 時刻は夜を超え、日の出を迎える。
 マギルスは呑気にベットで眠り、起きているケイルとエリクは分厚いガラス窓から見える朝の光を確認しながら話していた。

「……三十年で、色々と変わっちまうもんなんだな」

「?」

「国とか、技術とか。そういう全部の事をひっくるめて、色々変わるんだなってことだよ。……アタシが死ぬまで、この世界は何も変わらないんだろうなって、そう思ってたんだがな」

「……俺も、そう思っていた」

「本当に、別の世界みたいだ。……アタシ等は本当に、あの世界から抜け出せたんだよな?」

「ここがまだ、あの別世界の中だと言いたいのか?」

「まぁな……。……なんか、夢を見てる気分だぜ」

「夢?」

「あの砂漠もそうだし、死者の怨念だとかもそうだし。この世界の話も、こんな船に乗ってるのも。まるで夢で見てるような、突拍子も無い光景に思えちまう」

「……もしこれが夢だとしたら、悪い夢だな」

「だな。……でも、この世界で生きてる奴等にとっては、悪夢みたいな現実なんだろうな」

「……そうだな」

「世界規模での戦争か……。まったく、魔導国はなんでそんな馬鹿げたことを……」

「……」

 自分達が見ている世界が悪夢だと揶揄するケイルの言葉を聞き、エリクは改めてこの世界の事を考えた。

 三十年後、エリク達が見知った国々は滅び、滅ぼした魔導国は空の上に都市を構えるようになる。
 そして自分達の理解を超えた兵器を各国が用いて戦争をしているという話は、何処か夢物語の中にいるような気分で聞かされていた。

 それを何処かで拭い切れないケイルとエリクは、それぞれに思い考える。
 しかし呑気に寝息を掻くマギルスを見ると、二人は能天気な子供の姿に羨ましさを秘かに抱いた。

 そうして二日間、同盟国の艦隊は大海原を順調に航行する。
 定期船の出来事を思い出していた三人だったが、思わぬ順調な航海に少し拍子抜けした思いを抱く。
 更に二日目の夜も過ぎ、三日目の朝を迎える日の出が上がる。
 予定通りに本土の港都市へ到着できると伝え聞いた三人は、再び司令官のいる操舵室へと入った。

「――……もうすぐ着くのか?」

「はい。あと、一時間程でしょうか」

「そうか。……感謝する」

「いえ。こうして英雄殿達の手助けを出来るのは、光栄です」

「……聞いていいか?」

「はい?」

「何故、俺達が英雄なんだ?」

 自分達を英雄と呼ばれる事を不思議に思い、エリクは尋ねる。
 それを聞いた司令官はエリク達がいる横河へ視線を向けた後に、前へ視線を戻して話し始めた。

「……三十年前。貴方達はルクソード皇国の多くの兵士と、そして民を救った。皇都が厄災に襲われた時にはそれに立ち向かい、命を賭して戦ってくれた。そう、我々は聞いています」

「……」

「我々兵士は国を、そして国に住む民を、そして自分達の家族を守る為に兵士となった。……我々が守るべき者を守ってくれた貴方達を、私達のような兵士全てが感謝し、尊敬を抱いています」

「……俺達は、そんなつもりで戦ったわけでは……」

「貴方達には、貴方達なりの事情で戦った。それが真実だとしても、我々にとっては国と民を救ってくれたという事実は変わりありません。だからこそ、私達は貴方達を英雄と呼び、認めています」

「……」

「……実は私の両親は、三十年前に皇都の厄災に遭遇したのです」

「!」

「その時に両親は皇都の崩壊に巻き込まれ、瓦礫の下敷きになってしまった。そんな時に、大きな黒剣を持った黒髪の大男が、瓦礫を退けて救い出してくれたそうです」

「……!!」

「私がそれを知ったのは、貴方達が砂漠に入った後。傷ついたアルトリア様を本土へ送った際に、両親と会った時でした。……エリク殿。私は個人的にも、貴方に感謝しています。そして、それを何かの形で返せる機会が出来たのは、嬉しい限りです」

「……そうか」

 司令官は口元を微笑ませ、エリクも納得したように口を微笑ませる。

 三十年前に皇都が襲撃された際、エリクは瓦礫に埋もれる人間を何人か助けた。
 しかしそれでは何の解決にもならないと思い、アリアに皇都の人々を助けるように頼み、結果的に皇都の民衆の多くが救われる。

 あの時のエリクは、自分が戦う力でしか人を助けられないと思い知った。
 しかしそうした行いがこうした形で感謝される日が来る事が、エリクにとって予想外ながらも嬉しく受け止める。

 そのやりとりを見ていたケイルもまた、感謝されて微笑むエリクを初めて見て驚きを浮かべた。
 そして本当にエリクが人助けをしたいと考えていた事を、ケイルも納得する。 

 そうして英雄と呼ばれた者達は、数十分後に港都市が見える位置まで船を進めた。

「――……あれは……!?」

「!!」

 その時、先に見える港都市を視界で捉えた操舵室の兵士の一人が、驚きの声を上げる。
 同時に複数の兵士達もそれに気付き、司令官も状況の変化を察した。

「まさか、あれは……!?」

「港が……」

「黒い、煙……!?」

 兵士達に見えたのは、港都市に立ちのぼる黒い煙。
 しかも一つではなく、数十以上の煙が遠い海上からでも確認できた。

 更に兵士の一人が機器を操作し、索敵範囲を広げる。
 その時に機械の計器が反応し、兵士は振り返りながら司令官に伝えた。

「――……司令、敵襲です!!」

「!」

「港の高度上空に、敵飛空艇の反応有り!! 更に敵の魔導人形ゴーレムの反応、港内に数十体以上!!」

「敵の空挺降下部隊か……!! 港との通信は!?」

「……駄目です! 港施設から、何の応答ありません!!」

「制圧されたのか……。クッ……!!」

 同盟国の港都市が魔導国に襲撃を受けた事を察し、操舵室内の兵士達が騒然とした様子を見せる。
 その中で司令官は席を立ち、魔道具の通信機で艦隊に対して指示を送った。

『――……全艦、第一種臨戦態勢に移行!! 港都市上空に敵飛空艇戦力、そして都市内部に敵魔導兵器が降下している!!』

「!」

『我々はこれより、港都市の救援へ向かう! 各員、兵装を整え上陸に備えろ!!』

 司令官の艦隊全ての船内に響くと同時に、船員である兵士達が慌ただしく動き始める。
 そして各艦が偽装魔法を解き、船体の各所から主砲と副砲である魔導兵器を機械的に展開した。

 そして艦隊の四隻が速度を上げ、港都市へ向かう。
 そして司令官と共にいるエリク達も補助席から立ち上がり、司令官へ声を掛けた。

「魔導国か?」

「はい。……皆様の御力を、再びお借りしたい。宜しいですか?」

「分かった」

「やったぁ! やっと戦える!」

「……はぁ。やっぱり厄介事だよ……」

 三人はそれぞれに表情を浮かべ、司令官の言葉に応える。
 今まで幾多の厄介事に巻き込まれた三人の慣れた態度に、司令官は奇妙な納得さえ生まれた。

 これが、ルクソード皇国の窮地を救った英雄達。
 そんな英雄達を乗せた戦艦が率いる艦隊は、襲撃を受ける港の救援へ向かった。
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