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螺旋編 一章:砂漠の大陸

魔剣の共鳴

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 偶然にも魔剣を手に入れた二人は、宿の中で剣の状態を確認した。

 百二十センチ前後の刀身には錆や傷は無く、長年に渡り放置されていたにも関わらず状態として良質を保っている。
 それを確認するケイルは、口元をニヤけさせながらエリクに話した。

「――……流石は魔剣だな。整備なしで、新品みたいな状態だぜ」

「そうか」

「これなら、収集家コレクターがいる競売に出せばかなりの値が付きそうだ」

「使わないのか?」

「さっきも見たろ。魔剣を抜く時には、いちいち魔力を流さなきゃ使えないんだぜ? ましてや人間のアタシじゃ、絶対に使えない代物さ」

「そうなのか」

「使うとしたら、お前エリクかマギルスだろうが……」

「俺は、要らないな」

「だろうな。マギルスもあの鎌があるなら要らないだろ。あるいはアリアなら使えるかもしれないが、アタシに比べると剣の腕は微妙だからな。実戦なら魔法を使わせた方がマシだし、この重さを腰に下げさせると逆に邪魔なだけかもしれない」

「そうか。なら、売るのか?」

「だな。ただ、今の状況だと早々には売れない。一応、予備の武器として持っていこう」

「なら、使える剣を買わないとな」

「ああ。ただ、あの値段だとなぁ。一通り見たが、アタシのを流し込んで耐えれる剣は、ここには売ってないかもな」

「気を流し込んで、耐える?」

 に関する聞き覚えの無い事を呟くケイルに、エリクは不思議そうに訊ねる。
 そしてその事を語り忘れていた事を察すると、ケイルは説明をした。

を武器に流し込むと、切れ味が凄まじく増すのは話したよな?」

「ああ」

「だがそれ以上に、武器そのものがの力に耐え切れずに折れたり崩れたりするんだ。出来が悪い剣だと、一度振っただけで剣がバラバラになっちまう。何度も振ったり斬ったりに耐えられる剣となると、かなり上質な鉱石と名匠に作ってもらわないといけない」

「そうなのか。……ケイルが持っていた剣は、何度も使っていたな」

「アタシが持ってた剣は、師匠の御下がりでな。アズマの国の武士はほとんどがの使い手でもあるから、武器は気に耐え切れる造り方をしてる。そこ等の国で作られた剣じゃ、気の性質に耐えられない」

「なら、アズマの国に行かないと剣は無理か?」

たまにアズマ製の剣や刀が他国に出回ってる事もあるから、それを期待してたんだけどな。しばらくは、小剣これだけで凌ぎ切るしかなさそうだ」

「そうか」

「魔剣の方は、鞘に戻しておこう。とりあえずは殴る用には使えるし、アタシが腰に下げとくよ」

 腰に下げた小剣に手を添えながら、ケイルは微笑して呟く。
 そしてエリクから魔剣が入っていた鞘を受け取ると、魔剣の刀身を鞘の中に戻した。

 しかし次の瞬間、鞘口が閉まると同時に魔剣の鞘が赤く輝き出す。
 それを見たケイルとエリクは驚愕を浮かべた。

「な、なんだ!?」

「鞘から、魔力が……」

 エリクは魔力を感じ取り、それが鞘から放たれているものだと気付く。

 そして数秒間ほど赤く輝いた後、光は収まった。
 しかし魔剣の鞘に変化が起こっている事を、二人は見た目から察する。
 黒かった鞘が赤く変色し、装飾も柄の部分も塗り替えられたように赤く染まった。

 その変化に驚くケイルは、手に持つ赤く染まった長剣を凝視した。

「な、何が起こったんだよ……?」

「……黒から、赤に染まった?」

「エリク、何かやったか?」

「俺は、何もしていない。鞘から魔力が発せられたのには、気付いたが」

「……何かの条件が当て嵌まって、魔剣が変化したってことか?」

 手に持つ鞘入りの魔剣を眺めるケイルは、おもむろに右手で剣の柄を掴む。
 そして軽く右腕を外側に動かすと、閉じられていた鞘口が開き魔剣が引き抜く事が出来た。

「……!?」

「ケイルにも、抜けたな」

「ど、どういう事なんだよ……?」

「分からない。だが、ケイルにも剣が抜けるようになったということじゃないか?」

「何がどうなってそうなるんだよ……?」

「……確か、アリアが前に言っていた。物には魂が宿ることがあると。もしかしたら、その剣には魂があるのかもしれない」

「いやいや、無いだろ。ただの剣だぜ? 確かに、魔族が作ってはいるけどよ……」

「マギルスと契約している馬のようなモノも、世界には存在している」

「……この剣に魂が宿ってて、エリクの魔力に反応して人間のアタシでも抜けるようになったと?」

「そういうことも、あるのかもしれない」

「……」

 訝しげな視線を魔剣に向けるケイルは、鞘から魔剣を引き抜いて刀身を見る。
 黒かった刀身もケイルの髪のような赤く染まり、まるでケイルを持ち主と認めたかのような姿へと変貌していた。

 何度か剣を鞘に収め、そして引き抜くという行為を繰り返して試した結果、ケイルでも魔剣が抜けるようになったという事実が証明される。
 釈然としない様子のケイルだったが、その結果を踏まえて魔剣の扱い方に関する方針を取り決めた。

「――……しょうがない。とりあえず、この魔剣を使うか」

「そうか」

「試し斬りしてみたいとこだが、街中で振り回すわけにもいかないからな。外で試す機会があったら、やってみよう」

「これからは、どうする?」

「とりあえず荷馬車の買える目処は立ったし、入用の物も何処で買えるかは分かった。追跡も監視もされている様子は無いし、無意味に町をうろついてわざわざ組織に発見される必要も無い。今日は休んじまうか」

「ああ」

「明日からは下見した所で、必要な物を買い込もう。そして明後日に荷馬車を買って、アリア達の所に戻るってことで」

「分かった」

 方針を決める二人は、夕暮れ時を過ぎて宿の近場にある食事処で夕食を済ませる。
 そして買い物をする段取りを話し合い、その日の晩には宿で休む事となった。

 始めこそ同室に動揺していたケイルだったが、事が進むにつれて今の状況に慣れたのか、そのまま変わった様子も無くベットの上で眠る。
 そしていつものように床へ座り大剣を抱えて眠るエリクは、静かな夜を過ごす事となった。

 その際、エリクの大剣とケイルの魔剣が鞘の中で仄かに赤く輝きを宿す。
 まるで話を交えるように二つの武器は一定の時間を輝き、そして光は収まった。

 エリクとケイルは気付かないまま、二日目の朝が訪れる。
 そして二人は必要な物品を買う為に、市場へと赴くのだった。
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