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結社編 閑話:舞台袖の役者達

続く波乱 (閑話その三十三)

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 ガルミッシュ帝国とベルグリンド王国で和平が結ばれた頃、とある情報がルクソード皇国に流れ込む。
 それを聞いた皇国宰相ダニアスと『赤』の七大聖人セブンスワンシルエスカは、血相を変えてとある場所へと訪れた。

 そこは、皇城の地下に設営している死体安置所。
 低温化で保存されている重要人物達の遺体がある部屋の中で、ダニアスとシルエスカは共にある死体が収められた棺桶棚を開いた。

 そこに安置されていたのは、頭部を破壊され腕諸共両断された『青』の七大聖人セブンスワンガンダルフの死体。
 冷凍された死体を改めて見る二人は、何かを探すようにその身体を調べた。

「――……ダニアス、あったぞ」

「間違いはありませんか?」

「ああ。これが七大聖人セブンスワンたる証、身と魂に刻まれし『聖紋サイン』だ。……しかし……」

「……ガンダルフの死体に聖紋が残っている。……なのに何故、魔導国は新たな『青』を選出できたんですか……?」

「分からない。七大聖人セブンスワンに選ばれる聖人は、前任者から聖紋を移し変える必要がある。こうして『青』の聖紋はこちらにあるのだから、魔導国から新たな『青』が選ばれるはずが……」

 二人が見ているのは、ガンダルフの左手の甲に刻まれた『青』の聖紋サイン
 七大聖人セブンスワンの証となるその印が死体に残る限り、新たな『青』は選ばれるはずがない。
 にも関わらず、二人の耳に届いた報告はその常識を覆す内容だった。

『ホルツヴァーグ魔導国、新たな『青』を選出す』

 その一報が届いた時、まだ遺体の返却取引に応じていない魔導国ホルツヴァーグが、どうして『青』を選出できたのかを疑問に思った二人は、急ぎ回収していた遺体を確認に赴いた。

 しかし死体から『青』の聖紋は抜き取られておらず、こうして目の前に残っている。
 ならば魔導国から選ばれたという新たな『青』は偽者なのかと考えた時、シルエスカは表情に気付きを含ませ、ガンダルフの左手を掴み上げた。

「――……まさか!?」

「?」

「この死体、まさか……。いや、だが間違いなく、コイツはガンダルフだった……!!」

「……どうしたんです?」

「我はガンダルフという男と五十年以上前に会っている。この男は間違いなく、あのガンダルフと同一人物だった……」

「……まさか、これは偽者?」

「ありえない……。実際に、奴と対峙した我だからこそ分かる。奴は間違いなく、『青』のガンダルフだった。アルトリアにも死体を見せたが、間違いなく自分の知るガンダルフ本人だと述べている」

「……ならば、この男と『青』の聖紋は……いったい……?」

 シルエスカとダニアスは、共に目の前に在るガンダルフの遺体と左手に残る聖紋を見て疑問の表情を浮かべる。
 そして魔導国の真意を理解できぬまま自国の内政と防衛力の復旧に力を入れる以外、ルクソード皇国は何の手立ても打てなかった。

 一方その頃。
 ホルツヴァーグ魔導国にて、多くの魔法師達が在席し輩出される魔導学研究院アカデミーにて、学院に在席する一人の青年が新たな『青』の七大聖人セブンスワンへと選出された。

 青髪を靡かせる美青年の名は、ミューラー=ユージニアス。
 その左手には既に『青』の聖紋サインが刻まれ、白昼の学院を歩む彼の姿を多くの生徒達が目撃し、浮き足立つように彼の話が渦巻き響いていた。

「見て、ユージニアス君よ。新しい『青』の……」

「凄いわよね。学院トップの成績を常に掲げてきた天才魔法師……」

「彼、ガンダルフ様の弟子の中で最も優秀だったのよね」

「師であるガンダルフ様の魔導工房も、彼の管理下になるって……」

「ほぼ全属性の魔法を扱えるんだってさ。威力や精度も凄まじく、構築式も独特で他の奴等じゃ真似できないらしい」

「魔法式無しでも魔法が使えるって噂よ。聖人って、そんな事も出来るのね……」

 彼を見る生徒だけでなく、教え導く講師達さえミューラーに注目する。

 学院に頂点に君臨し続けていたミューラーが新たな『青』に選ばれた事に対して、周囲が向ける視線に不満は無く、むしろ順当であると思えている。

 ガンダルフを師事する直弟子達の中には、聖人と成り得る者達が集まり、年月と年齢の流れが異なる者も多い。
 その中で最も優秀だったミューラーも例に漏れず、この四十年以上を学院の中で過ごしているにも関わらず、青年の姿を長く維持していた。

 そんな周囲の視線を意に介する事も無く、ミューラーは自身の為に設けられた研究室へと入る。
 閉まる扉と同時に研究室内部に結界が張り巡らされ、外界と隔絶された空間へと変貌した。

 ミューラーは研究室の奥にある魔法陣の床へ立つと、その陣に刻まれた構築式が青い光を輝き宿す。
 そして自身の肉体を防壁で纏い、別の場所へと転移した。

 ミューラーが赴いた場所は、学院には存在しない研究機材が置かれた辺境地の魔導工房。
 その研究機材の中には、ルクソード皇国の研究施設に存在した魔力薬液エーテルに満たされた培養槽に魔物や魔獣が数多に封じられ、その中には合成魔獣キメラ人工魔人キメラも存在していた。

 ミューラーは更に工房の奥へと入り、とある保存槽カプセルへと辿り着く。
 その機材を操作したミューラーは、小窓越しに槽内に保管されていたとある物を確認した。

「――……この身体いれものも古い。廃棄してしまおう」

 槽内を満たしていた魔力薬液エーテルが透明化し、とある人物が姿を現す。

 そこに保管されていたのは、『青』のガンダルフと全く同じ姿をした老人。
 それを見ながらミューラーは機器を操作し、保存槽内は凄まじい業火を生み出す焼却炉へとなった。
 ガンダルフの肉体はその炎に焼かれ、数分後には完全に灰となって消失する。

 それを見ながらミューラーは、口元を微笑ませながら呟いた。

「製造名、ガンダルフ。三百年以上前の代替スペアだったが、ご苦労だったな。……ランヴァルディアとアルトリアの肉体を得られなかったのは予想外だ。念の為に残してあった代替ミューラーに、乗り換える事になるとはな……」

 そう呟くミューラーは、焼却が終わった保存槽内から視線を動かし、更に奥にある保存槽内を見る。
 それに対して微笑むように、ミューラーは呟いた。

「流石のアルトリアも、儂の本体オリジナルの細胞から生み出した複製聖人クローンが存在する事は分かるまい。これで生み出した聖人ものの寿命は短いが、共通した遺伝子情報故に魂の門を経由して別の複製聖人クローンへ魂を移す事が出来る。『魂体定着ゴーストダビング』は終了し、この身体ミューラーを新たな肉体へせねばな」

 そう呟きながら、ミューラーは種明かしを述べる。

 ミューラーが見ている先に保存されている人物こそ、初代『青』の七大聖人セブンスワンの肉体。
 魔力薬液エーテルの中で保存し続けているその身体から細胞核を摘出し、自身の複製クローンを作り出すという技術を『青』は成功させていた。

 そして死んだガンダルフもまた、ミューラーと同く初代『青』の七大聖人セブンスワン本体の肉体から生み出された複製品。
 そしてガンダルフと同時期に生み出していた代替スペアを処分し、新たな複製品《ミューラー》へ『青』は継承された。

 ルクソード皇国にあるガンダルフの死体に刻まれた聖紋は、シルエスカの考える通り間違いなく本物である。
 しかしそれは複製された身体に刻まれた聖紋であり、本物の聖紋も魂も初代『青』の七大聖人セブンスワンを経由し複製共有クローニングされていた。

 そしてガンダルフの記憶は魂を経由し、新たな肉体ミューラーにも共有されている。
 その記憶を知る新たな『青』のミューラーは、微笑みながら呟いた。

「……それにしても、アルトリアが『白』の血族だったとは。……いいだろう、『白』。今回は儂の敗北を認め、お前の子孫の身体を手に入れるのは諦めよう。――……だが今回の屈辱は、貴様の子孫アルトリアに晴らさせてもらうぞ。……ふふ、ははっ。フハハハッ!!」

 高笑いながら研究室を後にするミューラーは、学院へと帰還した。

 死んだはずの『青』ガンダルフは、新たな『青』ミューラーとして七大聖人セブンスワンに復帰する。
 そして狙いは変わらずアリアを指し示し、その目的の為に次の行動を引き起こそうとしていた。

 そうした中で、フラムブルグ宗教国でも異変が起こる。
 送還された『黄』の七大聖人セブンスワンミネルヴァが、国から姿を消した事が内部で騒ぎとなっていた。
 ミネルヴァは自身の神霊武装を持ち出し、たった一枚の書き置きだけを残す。

『神の翼を模し神力を奪い、神を愚弄した小娘に真の神罰を下す』

 『青』のミューラー同様、『黄』のミネルヴァもアリアに狙いを定める。
 この事実を知らないまま、アリアとエリクは仲間達と共に砂漠が広がる大陸へと赴くのだった。
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