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結社編 四章:皇国の後継者
ミネルヴァ強襲
しおりを挟むフラムブルグ宗教国家の宣戦布告に一同が驚く最中、アリアと『黒』の少女だけは落ち着いた様子を見せている。
それを予測していた二人は、改めて話を続けた。
「……ルクソード皇国に対する宣戦布告に、私達の引き渡し要求。予想通りね」
「ですね」
「『黒』さん。これに応じたとして、フラムブルグ宗教国家が皇国を見逃すと思う?」
「……これは命乞いに聞こえるかもしれませんが、恐らく私を引き渡したとしても見逃しはしないでしょう。私の正体や結社に関する情報を聞いたと思われる人物を殺し尽くし、全ての証拠を無くすのが彼等の狙いでしょうから」
「どちらにしても、戦争は回避できないという事ね」
「……はい」
「打開策は、何かある?」
「……ルクソード皇国を救う手立ては、あります」
「!」
少女のアリアから視線を逸らし、ハルバニカ公爵へと目を向ける。
それに気付いたハルバニカ公爵は、少女と視線を合わせた。
「……儂に、何をしろと?」
「アズマの国に駐在している大使と連絡を取って下さい。そして『茶』のナニガシと私が話せるように、取り計らいをお願いします」
「!」
「彼は七百歳前後の高齢ですが、昔の私を知っています。彼も私の繋がりの一つです。『黒』の私の事を話せば、力になってくれるかもしれない」
「……」
「私の信用を量っているのは理解しています。……けれど急いだ方がいい。わざわざ引き渡すよう連絡を寄越してきたという事は、向こうも私を連れ去る為に新たな結社の構成員達を向かわせる為の時間稼ぎがしたいという意味でもあると思いますから」
「……なるほど。ならば、この老骨も動かねばならぬな。……シルエスカ。そしてアルトリアよ。頼む」
そう言いながらハルバニカ公爵は席を立ち、老執事を伴って部屋から出て行く。
そして少女は対面するアリアと、傍に居るシルエスカやエリクとマギルスに声を掛けた。
「アリアさん。体調はどうですか?」
「万全よ。杖が無いから代用品を探さないと」
「シルエスカさんは、戦えそうですか?」
「鎧は間に合わぬが、武器は問題ない」
「マギルスはどう?」
「ずーっと暇だったから、余裕!」
「ケイルさんは、残ってた方がいいと思います」
「当たり前だろ。もう化物を相手にするのはコリゴリだ」
「エリクさんは、戦えそうですか?」
「……どういう事だ? まるで、今からすぐ戦いが始まるように聞こえるが……?」
そう訊ねるエリクの疑問に、少女ではなくアリアが返答する。
それはフラムブルグ宗教国家という国を知る者達にとって簡単に予期する事が出来る事柄だった。
「エリク。フラムブルグ宗教国の事は前に話したけど、覚えてる?」
「……確か、奴隷が居ない人間至上主義の国だったか?」
「ええ。彼等は人間という種族の味方である事を国家の名目に掲げ、魔物や魔獣、そして魔人や魔族は人類の敵だと主張している。そしてあの国は、数多の秘術をたんまり溜め込んでるやばい国でもあるのよ」
「つまり?」
「人間の敵だと定めれば、どんな相手でも殺し尽くす為に乗り込んで来る。しかも即座にね。四大国家から外れた理由もその過激さと性急さ故。そして魔人を有するフォウル国が気に入らず、正面から敵対したのが原因なの」
「……まさか、本当に来るのか? もう?」
「ええ、今日明日中には必ず、この皇国を滅ぼす為に転移魔法を使って来るわね」
「皇国も滅ぼすのか?」
「『合成魔獣』の製造や犯罪者を使った『合成魔人《キメラ》』の製造。更に七大聖人の一人を殺めた事に魔人が関わっていると知れば、狂ったように襲って来る奴が必ず一人いるのよ。――……『|黄』の七大聖人。七大聖人の中で一番イカれてると名高い、『閃光』のミネルヴァがね」
そう告げたアリアは立ち上がり、それに率いられるように戦える者達が部屋を出た。
残ったケイルと少女も、ハルバニカ公爵の従者に案内され皇都へと向かう。
それから一日が経った早朝。
皇都の外に巨大な黄色い閃光が降り注ぎ、その中から百人単位の武装集団が出現すると、皇都の大門前に陣取った。
そして先頭に立つ一人の巨体の神官が息を吸い込み、皇都の門に向けて大声で伝えた。
「――……門を開けよォ――ッ!! 我等は――ッ!! フラムブルグの使者なりぃ――ッ!! 件の者達を、今すぐに引き渡せぇ――ッ!!」
そう大声で門を開けるように主張する一団に対して、皇都の大門は開かれない。
しばらく待っていた神官達は憎々しい表情を浮かべ始めると、それぞれが左右に別れるように身を下げた。
その中央から出て来るのは、ブロンドの髪を短く纏め左顔に深い傷を残した女性。
右手に黄色の旗槍を持ち腰に帯剣を携え、薄く輝く黄色の羽衣と幾つかの黄金の装飾品を纏う軽装姿で門を見上げると、それに向けて旗槍を掲げた。
「――……『我が神の名において裁きを下す。罪深き者達に死の裁きを。欲深き者達に苦の裁きを。無知深き者達の敬謙の教えを与えたまえ――……』」
「おぉ……神よ……!」
女性の周囲にいる神官達が跪き、神に祈りを捧げる。
その祈りが束ねられるように旗槍に光が集い、女性が旗を掲げ大きく振り被った。
「――……『慈悲深き神は死の鉄槌を下す』ッ!!」
振り下ろされた旗槍は大きく旗を広げ、その旗から放たれた凄まじい威力の光線が大門へ向けられる。
一撃で小規模の町を破壊し尽くす第四節詠唱の魔法が、皇都にいる民ごと滅ぼそうと迫った。
しかし、次の瞬間。
放たれた閃光は皇都を覆う結界に阻まれ、更にその光が結界へと吸収されていく。
第四節の消滅魔法が防がれ吸収される光景に女性と神官達を最中、集団の前後左右から声が放たれた。
「――……結界を改良したわ。前と同じような事があっても、威力を殺して大魔石へ魔力が吸収変換できるようにね」
「!!」
「――……感謝しよう、アルトリア。皇国を何度も守ってくれた事を」
「!」
「――……ねぇねぇ。この人達、全員の首取っていいんだよねー?」
「!?」
「――……一番強いのは、あの女だな」
「……」
それぞれが手に持つ魔石を離し、見えないようにしていた姿を晒す。
大門の前には『赤』のシルエスカが待ち構え、集団の両脇からアリアとマギルスが姿を見せた。
そして後方からはエリクが姿を見せると、襲来した集団の四方を固めて取り囲む。
たった四人で百人単位の人数を取り囲む姿は無謀にしか見えないが、ある程度の実力を兼ね備えた神官達やそれを率いる女性は楽観した油断は持たず、むしろ警戒度を高めた。
そんな集団の中に居る女性に対して、『赤』のシルエスカが声を向ける。
「久しいな。『黄』のミネルヴァ」
「……『赤』のシルエスカ」
「いきなり皇都を滅ぼしに掛かるとは……。野蛮人め」
「我が神の名の下に。貴様の国と民が行った人道に外れし暴虐の数々は、神の意志と御力によって裁かれるのだッ!!」
「どの口が言うッ!!」
旗槍を掲げ構える『黄』のミネルヴァと、二つの赤槍を構える『赤』のシルエスカが激突する。
互いに凄まじい攻めを繰り広げ、七大聖人同士の戦いが再び皇都周辺で繰り広げられた。
神官達はそれに対して援護に入らず、それぞれが左右と後方に別れて取り囲む三人へ敵意を向ける。
それに対してマギルスは微笑みながら大鎌を構え、エリクは大剣を背に預けたまま待ち構えた。
アリアは紛失した短杖に代わり、両手のグローブに魔石を嵌め込んだ手袋型の触媒を作り、魔法を唱えられる状態へ入る。
ミネルヴァが率いる装備を固めた神官達の実力は、マシラ共和国の闘士部隊や皇国の精鋭『薔薇の騎士』達に匹敵する。
それが三名に対して三方に別れて襲い掛かり、瞬く間に決着を迎えた。
エリクは大剣を引き抜き、襲い来る武装神官に吹き飛ばすように弾き飛ばして壊滅に陥らせる。
マギルスは全ての攻撃を余裕で見切り回避した上で、大鎌を滑らせ神官の首を斬り飛ばした。
アリアは陣形中央で詠唱している神官に対テクラノス戦で使用した魔力操作で魔法を封じると、迫る武装神官と共に足から口までを氷で覆い無力化させる。
ランヴァルディアとの戦闘を経て三人の実力は凄まじい程に向上し、『黄』のミネルヴァが率いる武装神官達を一網打尽にして除けた。
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