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結社編 二章:神の研究

組織の仕事

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 場面は、合成魔獣キマイラが戦わされていた闘技場を見つけたエリクと奴隷の少女に戻る。

 下へ続く階段を見つけたエリクは少女を抱え、地下中層の下部へと辿り着いていた。
 そして遭遇した警備兵達を対処し、大きな問題も無く進み続ける。
 その最中、上から僅かに響く振動とは別の振動が下から鳴り響くのをエリクは感じた。

「――……下からも、か」

「?」

「上と下から、妙な振動が起こっている」

「……何かあったのかな?」

「ああ。……下へ急ぐぞ」

 エリクは下へ飛び降りて着地し、下層を目指して走り抜ける。
 その最中、エリクはとある場所へ辿り着いた。

 そこは巨大な空間と共に大量の荷物が運び込まれた倉庫。
 食べ物や鋼材を始め、様々な機材や生活必需品の類が置かれており、この研究施設の物資が蓄積されている後方区画だった。

 その区画を走り抜ける最中、エリクは何かに気付いて立ち止まる。
 それを不思議に思う少女が尋ねた。

「どうしたの?」

「誰かがいる」

「また、銃を持った人達?」

「いや。……この感じは……」

 怪訝な表情と共に身構えるエリクが視線を向けるのは、倉庫に置かれた大きめの鉄箱コンテナ
 それを見て固まるエリクを見て、少女も視線を向けた。

 視線を向けた数秒後、その方角から鉄板を踏む足音が響く。
 誰かが居るのだと察した少女と、その少女を降ろしてエリクは庇うように前へ立つ。
 そして鉄箱コンテナの影から出てきた人物を、エリクは強く睨み怒りの表情を向けた。

「――……おやおや、誰かと思えば。まさかこんな場所で遭っちまうとは、恐れ入るねぇ。傭兵エリク」

「……お前か」

 エリクと少女の前に姿を現したのは、皇都の傭兵ギルドを任されているギルドマスター、特級傭兵のバンデラス。
 アリアを誘拐した実行犯であり、エリクの後ろに隠れる奴隷の少女をここまで連れ去ったと思われる男が、一ヶ月振りに姿を現した。

「……お前だな。アリアを誘拐してここまで連れ去ったのも、この子供を連れ去ったのも」

「おいおい、何を証拠に言ってるんだい?」

「お前がここにいるのが証拠だ」

「うわ、すげぇ暴論。……まぁ、合ってるんだけどさ」

「……」

「確かに俺は、資金源スポンサーの依頼でアリア嬢を皇都からここまで連れて来た。それは認めよう。……だがその誘拐を成功させることができたのは、アンタのもう一人の仲間のおかげさ」

「!」

「ケイティル。今はケイルと名乗ってるんだったか? あの女は俺と同業だ。アリア嬢もお宅も、知らなかったみたいだがな」

「同業……?」

「お宅、【結社】って組織を知ってるかい?」

「……ああ」

「俺はその組織の中で、運び屋の仕事をしているのさ。どんな荷物でも、どんな人物でも運んで依頼人の指定した場所まで届ける。そうした生業だ」

「……」

「そしてケイルって女がやってるのは、依頼人が指定した人物を結社に引き入れる仕事。所謂、勧誘屋って奴だ」

「……勧誘だと?」

「俺が聞いた話じゃ、勧誘屋ってのは意外とエグいんだぜ? 例えば、国で優秀な人材を引き抜く為に買収したりするんだが。それで引き抜きが出来なきゃ、ワザと冤罪に陥れて国に居られなくしてから、行き場を無くした相手を組織に加え入れるとかな」

「……」

「どっかで聞いた話だと思うんだよ。……身に覚えは無いか? ベルグリンド王国の黒獣傭兵団、団長エリクよ」

「……!?」

 その話を聞き、エリクは顔の表情を強張らせる。
 結社の勧誘屋と呼ばれる者達が行う手段が、過去の自分が陥った事態と同じ手法だと聞かされたエリクは、ある可能性を思い浮かべてしまった。

「……ケイルが俺を陥れて、結社に勧誘する為に国から出したと言いたいのか?」

「御名答。あの女の狙いは、お宅を結社に引き入れること。つまり勧誘したかったのさ」

「……嘘を吐くな」

「嘘だと思うなら本人に聞けばいいさ」

「お前がアリアと一緒にケイルを攫ったんだろう」

「ん? 戻ってないのか? ……あー、そうか。アリア嬢をこっちに引き渡したのに一人で戻ったら、流石に怪しまれると思ったか。どっかにバックれたかな?」

「引き渡した……?」

「あの女と交渉して、アリア嬢を連れ去る時にあの女に押さえ込ませた。見事な手際だったぜ?」

「!?」

「アリア嬢も可哀相に。仲間だと思ってたのが実は組織の勧誘屋で、それがいきなり不意打ちで抵抗も出来ずになぁ」

「……嘘だ」

「嘘じゃないさ。そんな理由でも無ければ、あのゴズヴァールと互角にやり合ったアリア嬢と真正面から対立しても、俺だけじゃ捕獲は難しかったろうな。本当、あの女が居てくれてこっちは助かったぜ」

 そう話すバンデラスの様子と言葉に、エリクは険しい表情を見せながらも内心で混乱する。
 ケイルが【結社】という組織に所属し、自分の冤罪を作り上げ王国から逃し、更にアリア誘拐の手助けまで行った。
 その情報はエリクには信じられないものであり、今まで自分達を助けアリアを立ち直らせたケイルと一致できない。

「あの女、こうも言ってたな。お宅がアリア嬢にベッタリで引き剥がすのに苦労してたとかな」

「!?」

「組織に入れる為に王国から引き抜いたのに、お宅がアリア嬢から離れようとしないんで苦労してたんだろうさ。俺とあの女の利害が一致した結果、アリア嬢の誘拐は成されたワケだからな」

「……」

「お宅もさ、あんな二人の女にいつまでも拘るなよ。この世界には女なんて腐るほど居るんだ。次の女を見つけて、好きに抱いて気楽に暮らしちまいな。んで、飽きたら別の女を抱けばいい。それが男として女と付き合っていく、理想的な生き方だ」

「……」

「そうだ、全部言っちまったついでだ。お宅も組織に入らないか? 俺みたいに気楽に仕事して金も手に入れて、良い女を抱いて良い酒を飲んで、楽しく生きていく――……!?」

 バンデラスは笑いながらそう話し、エリクを組織へと勧誘する。
 しかし沈黙して聞いていたエリクが、影を落とした顔でバンデラスを見た。
 それを見たバンデラスは悪寒を感じて咄嗟に跳び下がる。
 様々な感情が入り乱れていたはずのエリクだったが、その表情は何の感情も感じ取れない。
 しかし瞳の奥に漂うドス黒い何かが垣間見えると、バンデラスは汗を掻いて息を飲んだ。

「……ッ」

「もういい。ケイルには俺が聞く」

「……!」

「俺はお前が話す事を理解できない。……いや、理解しない」

「!?」

「お前の話は、聞く意味が無い」

 エリクはその表情で背中の大剣を引き抜く。
 大剣を向けるエリクの様子にバンデラスは冷や汗を引かせ呆れながら首を横に振って身構えた。、

「……お宅も馬鹿だねぇ。女に拘って、生き方に拘って。そんな自分の矜持プライドに拘って。俺もお宅の事は理解できないわ」

「……」

「本当ならお宅に用は無いし、このままここで何しようと見逃しても良いと思ってたんだけどな。……しかし困るんだよ。仕事で運ぶ荷物を勝手に連れ歩かれるとさ。予定が狂っちゃうじゃない?」

「……この子供か」

 バンデラスの視線と言葉でエリクは狙いを察する。
 エリクの後ろに隠れた少女がバンデラスの標的とされていると知り、その狙いを阻む為に前に立った。
 戦闘態勢となったバンデラスとエリクの視線がぶつかり、互いの全身に魔力が篭る。

「一応、良い返事が貰えると思って聞いておこうか。……その子供を引き渡す気は?」

「……」

「そうか。……仕方ないな」

「下がっていろ!」

 身体中から魔力を漲らせたバンデラスが、エリクに凄まじい速度で襲い掛かる。
 それを目で見るエリクは少女に短く告げ、接近するバンデラスに大剣を振った。

 エリク対バンデラス。
 地下の施設内で魔人同士の戦いが開始された。
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