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結社編 一章:ルクソード皇国
情報の報酬
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情報屋の居る酒場に辿り着いたアリアとケイルだったが、そこに居たのは傭兵ギルドマスターのバンデラスだった。
椅子に座り不敵な笑みを見せて迎えたバンデラスに、アリアは言い放つ。
「……なんでアンタがここにいるのよ?」
「ここは俺の酒場だって言ったろ? 自分が経営してる酒場に居て、何か悪いかい?」
「!」
「それにしても、誘った甲斐があるってもんだ。その日の夜に来てくれるとは、おじさんは嬉しいねぇ。ケイルさんよ」
「……なるほど。仕込んでたってワケか」
挑発にも似たバンデラスの話を聞いてケイルは察する。
情報を渡した酒屋の店主は既にバンデラスの手が及んでおり、自分達がこの酒場に誘い込まれたことを。
ケイルが漏らす呟きをアリアも聞き、同様の考えで仕組まれた事を察した。
「……誘い込まれたってことね」
「人聞きが悪いねぇ。俺は誘っちゃいたが、ここに来たのはお前さん達の意思だろ?」
「アンタなんかに用は無いわよ。行きましょう、ケイル」
すぐに酒場から出ようとするアリアと、鋭く睨むケイルが背を向けようとした時、バンデラスが足を止める言葉を発した。
「お宅等がここに来た理由は、今の皇国がどうなってるか知る為ってとこかい?」
「!!」
「だったらここに来たのは間違ってはないさ。なんせ傭兵ギルドのマスターとして、俺はこの国の情報を一手に握っている。この国で知らない情報なんて何も無い」
「……」
「知りたい情報があるなら、相応の報酬で取引しよう。どうする? お嬢さん方」
ガラス製のグラスにアイスボールを入れながら話すバンデラスは、ウィスキーを注いで一飲みする。
アイリとケイルはバンデラスの方へ向き直り、警戒しながら小声で話し合った。
「アリア、どうする?」
「……」
「奴に聞くか、他を当たるか。正直、あの店がダメなら他の情報屋もダメだろうぜ」
「……」
ケイルが伝える言葉にアリアは内心で納得する。
このまま他の情報屋の所に行っても、全てバンデラスの誘いに集約する可能性が高い。
独自に情報屋を探そうにも膨大な時間を要し、情報の信憑性も無いに等しいモノとなる。
そう思考し終えたアリアはバンデラスを見て覚悟を決めた。
「……乗りましょう」
「いいのか?」
「良くないわ。でも、こんな妨害をされるのなら踏み込むしかないでしょう?」
「……」
「それに話が本当なら、あの男は合成魔獣に関しても知ってるということよ」
敵意を隠さず覚悟を決めたアリアは酒場の出入り口から中央へ移動する。
ケイルは渋く険しい表情を見せながらアリアの後ろに付いて歩き出す。
そんな二人を酒を飲みながら迎えたバンデラスは、気軽に声を向けた。
「取引する気になったかい?」
「ええ。ただし、嘘や情報をはぐらかす意図があると判断した場合は、取引は不成立よ」
「構わないさ」
「情報料はいくら?」
「聞きたい情報次第だ。それで、どんな事が知りたい?」
「まずは、『赤』の七大聖人シルエスカの情報」
「……なるほど、シルエスカときたか」
「今、彼女は皇国の何処にいるの?」
「あの女だったら、今は皇都から出てこの大陸の各地を転々と移動している。その日その日で位置が違うんで、教えても次の日には別の場所に向かっているだろうな」
「彼女は何をしているの?」
「魔獣退治さ。厄介な魔獣があちこちに居て、自分の騎士団を連れて大忙しらしい」
「シルエスカ自身が動き出したのは、何時から?」
「……そうだな。少なくとも半年以上前だ」
「七大聖人たる『赤』のシルエスカが乗り出す程の魔獣とは、何?」
アリアはシルエスカの情報を聞き出しながら、今回の事態で最も気になる核心部分を突いた。
七大聖人が動くとなれば、国の脅威となる事態が起こる場合に限られる。
その一例として、王級魔獣や上級魔獣が率いる魔獣の群れが発見され被害が及ぶ場合や、国際指名手配となる凶悪な犯罪者や犯罪組織に対抗する場面に限られる。
その部分を敢えて突きながら、アリアは強い口調で問い質した。
「シルエスカがどんな魔獣を討伐する為に動いているのか。貴方は知っているのよね?」
「ああ。俺は知ってるね」
「なら、その魔獣は?」
「……なるほど。お嬢ちゃん達も見たってことか」
「警告よ。次に答えずにはぐらかせば、取引は中断するわ」
「じゃあ、嘘偽り無く言ってやろう。シルエスカが狩ってるのは、人の手で作り出した魔獣。合成魔獣だ」
バンデラスの口から出た言葉はアリアの予想通りであり、視線と口調を鋭くさせた。
「やっぱり、合成魔獣の製造を何処かの馬鹿がやってるのね。……合成魔獣を作ってるのは、誰?」
「それは言えないな」
「……言えない、ですって?」
「一傭兵に過ぎないお嬢さんに、そんな情報を買い取れない。俺はそう判断して答えない。これは嘘やはぐらかしでは無いさ」
「……なるほど、理解したわ。これをやってるのが誰なのかを」
「ほぉ?」
「一傭兵では取引できない情報。それを聞けば、相手がこの国で重要な立場にいる人物だと一発で分かるわよ。……そして私は、この国で合成魔獣を作れる可能性がある人物に心当たりがある」
「……」
「ルクソード皇国の第二皇子、ランヴァルディア=フォン=ルクソード。合成魔獣の製造に関わってるのは、あの皇子ね?」
「……ハッハッハッ! 御名答。流石は傘下国の皇族だ。それなりに皇国の情報には通じてるってワケだ」
アリアが僅かな情報で導き出した答えに、バンデラスは大笑いをしながら正解だと認める。
しかし不敵の笑みを崩さないバンデラスに、アリアは訝しげに聞いた。
「……口止めされてたってことは。やっぱりランヴァルディア皇子の背後で手回しをしてる連中がいるということね」
「それも御名答。俺達には資金源がいる。……だから、それを知ってしまったお嬢さんがいると、都合が悪い」
「……!」
グラスを置いて席を立ったバンデラスを見て、アリアは身構えて懐から短杖を取り出す。
それでも不敵の笑みを崩さないバンデラスは、微笑みながら話した。
「さて。お嬢さんが聞きたい情報は、それだけかい?」
「……もう一つ。マギルスに奴隷を盗んだなんていう冤罪を被せたのは、どうして?」
「何の事だい?」
「奴隷を盗んだなんて罪状を仕立てたのは、何でかって聞いてるのよ」
「別にでっち上げてなんかないさ。あの奴隷商の店で確認しただろう? マギルスの指紋は」
「マギルスは奴隷に興味なんて示してないわ。アレは奴隷商とアンタ達が組んで吐いた嘘で、私達を拘束する為にでっち上げた証拠でしょ?」
「……なるほど。俺達が冤罪を着せたと思っているわけだ。信用が無いねぇ」
マギルスの盗難に関してアリアとバンデラスで事実の食い違いが発生している事を互いに認識する。
しかし今のアリアにはバンデラスが嘘を吐いていると判断し、一蹴して切り捨てた。
「もういいわ。これ以上、聞きたい事は何も無い」
「そうかい。それじゃあ、情報の報酬はきっちり払ってもらおうか」
「分かったわ。いくら?」
「そうだな。……報酬は、アリアお嬢ちゃんだ」
バンデラスは人差し指を向けて、アリアを報酬として指名する。
その言葉と行動に不快感を強めたアリアは、声を一段と低くして言い放った。
「……冗談にしては笑えないわね」
「冗談に聞こえたかい?」
「冗談じゃないとすれば、アンタに対する態度を改める必要があるわね」
「欲しい情報を聞いといて、報酬は未払いかい? それは良くないねぇ、お嬢ちゃん」
「そんな代価を認めるわけがないでしょ」
報酬を求めるバンデラスと、自身を報酬とする事を拒絶するアリアは、取引の場で敵対関係へと発展する。
一触即発となる状況の中で、ケイルは無言のまま長剣の柄を右手で握り、一段と険しい表情を見せていた。
椅子に座り不敵な笑みを見せて迎えたバンデラスに、アリアは言い放つ。
「……なんでアンタがここにいるのよ?」
「ここは俺の酒場だって言ったろ? 自分が経営してる酒場に居て、何か悪いかい?」
「!」
「それにしても、誘った甲斐があるってもんだ。その日の夜に来てくれるとは、おじさんは嬉しいねぇ。ケイルさんよ」
「……なるほど。仕込んでたってワケか」
挑発にも似たバンデラスの話を聞いてケイルは察する。
情報を渡した酒屋の店主は既にバンデラスの手が及んでおり、自分達がこの酒場に誘い込まれたことを。
ケイルが漏らす呟きをアリアも聞き、同様の考えで仕組まれた事を察した。
「……誘い込まれたってことね」
「人聞きが悪いねぇ。俺は誘っちゃいたが、ここに来たのはお前さん達の意思だろ?」
「アンタなんかに用は無いわよ。行きましょう、ケイル」
すぐに酒場から出ようとするアリアと、鋭く睨むケイルが背を向けようとした時、バンデラスが足を止める言葉を発した。
「お宅等がここに来た理由は、今の皇国がどうなってるか知る為ってとこかい?」
「!!」
「だったらここに来たのは間違ってはないさ。なんせ傭兵ギルドのマスターとして、俺はこの国の情報を一手に握っている。この国で知らない情報なんて何も無い」
「……」
「知りたい情報があるなら、相応の報酬で取引しよう。どうする? お嬢さん方」
ガラス製のグラスにアイスボールを入れながら話すバンデラスは、ウィスキーを注いで一飲みする。
アイリとケイルはバンデラスの方へ向き直り、警戒しながら小声で話し合った。
「アリア、どうする?」
「……」
「奴に聞くか、他を当たるか。正直、あの店がダメなら他の情報屋もダメだろうぜ」
「……」
ケイルが伝える言葉にアリアは内心で納得する。
このまま他の情報屋の所に行っても、全てバンデラスの誘いに集約する可能性が高い。
独自に情報屋を探そうにも膨大な時間を要し、情報の信憑性も無いに等しいモノとなる。
そう思考し終えたアリアはバンデラスを見て覚悟を決めた。
「……乗りましょう」
「いいのか?」
「良くないわ。でも、こんな妨害をされるのなら踏み込むしかないでしょう?」
「……」
「それに話が本当なら、あの男は合成魔獣に関しても知ってるということよ」
敵意を隠さず覚悟を決めたアリアは酒場の出入り口から中央へ移動する。
ケイルは渋く険しい表情を見せながらアリアの後ろに付いて歩き出す。
そんな二人を酒を飲みながら迎えたバンデラスは、気軽に声を向けた。
「取引する気になったかい?」
「ええ。ただし、嘘や情報をはぐらかす意図があると判断した場合は、取引は不成立よ」
「構わないさ」
「情報料はいくら?」
「聞きたい情報次第だ。それで、どんな事が知りたい?」
「まずは、『赤』の七大聖人シルエスカの情報」
「……なるほど、シルエスカときたか」
「今、彼女は皇国の何処にいるの?」
「あの女だったら、今は皇都から出てこの大陸の各地を転々と移動している。その日その日で位置が違うんで、教えても次の日には別の場所に向かっているだろうな」
「彼女は何をしているの?」
「魔獣退治さ。厄介な魔獣があちこちに居て、自分の騎士団を連れて大忙しらしい」
「シルエスカ自身が動き出したのは、何時から?」
「……そうだな。少なくとも半年以上前だ」
「七大聖人たる『赤』のシルエスカが乗り出す程の魔獣とは、何?」
アリアはシルエスカの情報を聞き出しながら、今回の事態で最も気になる核心部分を突いた。
七大聖人が動くとなれば、国の脅威となる事態が起こる場合に限られる。
その一例として、王級魔獣や上級魔獣が率いる魔獣の群れが発見され被害が及ぶ場合や、国際指名手配となる凶悪な犯罪者や犯罪組織に対抗する場面に限られる。
その部分を敢えて突きながら、アリアは強い口調で問い質した。
「シルエスカがどんな魔獣を討伐する為に動いているのか。貴方は知っているのよね?」
「ああ。俺は知ってるね」
「なら、その魔獣は?」
「……なるほど。お嬢ちゃん達も見たってことか」
「警告よ。次に答えずにはぐらかせば、取引は中断するわ」
「じゃあ、嘘偽り無く言ってやろう。シルエスカが狩ってるのは、人の手で作り出した魔獣。合成魔獣だ」
バンデラスの口から出た言葉はアリアの予想通りであり、視線と口調を鋭くさせた。
「やっぱり、合成魔獣の製造を何処かの馬鹿がやってるのね。……合成魔獣を作ってるのは、誰?」
「それは言えないな」
「……言えない、ですって?」
「一傭兵に過ぎないお嬢さんに、そんな情報を買い取れない。俺はそう判断して答えない。これは嘘やはぐらかしでは無いさ」
「……なるほど、理解したわ。これをやってるのが誰なのかを」
「ほぉ?」
「一傭兵では取引できない情報。それを聞けば、相手がこの国で重要な立場にいる人物だと一発で分かるわよ。……そして私は、この国で合成魔獣を作れる可能性がある人物に心当たりがある」
「……」
「ルクソード皇国の第二皇子、ランヴァルディア=フォン=ルクソード。合成魔獣の製造に関わってるのは、あの皇子ね?」
「……ハッハッハッ! 御名答。流石は傘下国の皇族だ。それなりに皇国の情報には通じてるってワケだ」
アリアが僅かな情報で導き出した答えに、バンデラスは大笑いをしながら正解だと認める。
しかし不敵の笑みを崩さないバンデラスに、アリアは訝しげに聞いた。
「……口止めされてたってことは。やっぱりランヴァルディア皇子の背後で手回しをしてる連中がいるということね」
「それも御名答。俺達には資金源がいる。……だから、それを知ってしまったお嬢さんがいると、都合が悪い」
「……!」
グラスを置いて席を立ったバンデラスを見て、アリアは身構えて懐から短杖を取り出す。
それでも不敵の笑みを崩さないバンデラスは、微笑みながら話した。
「さて。お嬢さんが聞きたい情報は、それだけかい?」
「……もう一つ。マギルスに奴隷を盗んだなんていう冤罪を被せたのは、どうして?」
「何の事だい?」
「奴隷を盗んだなんて罪状を仕立てたのは、何でかって聞いてるのよ」
「別にでっち上げてなんかないさ。あの奴隷商の店で確認しただろう? マギルスの指紋は」
「マギルスは奴隷に興味なんて示してないわ。アレは奴隷商とアンタ達が組んで吐いた嘘で、私達を拘束する為にでっち上げた証拠でしょ?」
「……なるほど。俺達が冤罪を着せたと思っているわけだ。信用が無いねぇ」
マギルスの盗難に関してアリアとバンデラスで事実の食い違いが発生している事を互いに認識する。
しかし今のアリアにはバンデラスが嘘を吐いていると判断し、一蹴して切り捨てた。
「もういいわ。これ以上、聞きたい事は何も無い」
「そうかい。それじゃあ、情報の報酬はきっちり払ってもらおうか」
「分かったわ。いくら?」
「そうだな。……報酬は、アリアお嬢ちゃんだ」
バンデラスは人差し指を向けて、アリアを報酬として指名する。
その言葉と行動に不快感を強めたアリアは、声を一段と低くして言い放った。
「……冗談にしては笑えないわね」
「冗談に聞こえたかい?」
「冗談じゃないとすれば、アンタに対する態度を改める必要があるわね」
「欲しい情報を聞いといて、報酬は未払いかい? それは良くないねぇ、お嬢ちゃん」
「そんな代価を認めるわけがないでしょ」
報酬を求めるバンデラスと、自身を報酬とする事を拒絶するアリアは、取引の場で敵対関係へと発展する。
一触即発となる状況の中で、ケイルは無言のまま長剣の柄を右手で握り、一段と険しい表情を見せていた。
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