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結社編 一章:ルクソード皇国
奴隷の成り立ち
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奴隷を盗み出したマギルス。
その捜索に強制参加させられた一行の中で、頗る機嫌を悪くしていたのはアリアだった。
「――……あのクソマギルス、アタシが真っ先に見つけて絶対にとっちめてやるわ……!」
不本意な捜索を傭兵ギルドから強いられながらも、アリア自身はマギルスに向ける怒りを捜索意欲に向ける事に切り替える。
街の中を歩くアリアの後ろにはエリクが控え、その隣を歩くケイルが声を掛けた。
「連れ去った奴隷の確保が優先だぞ。マギルスは捕縛して皇国兵に引き渡し。それが出来なきゃ、アタシ等が皇国兵に捕まっちまう。それを忘れてないよな?」
「……忘れてないわよ」
「嘘つけ。さっきとっちめるだの言ってたろ」
「……とにかく、マギルスを探すしかないわ。連れ去った奴隷は、マギルスと一緒に行動してるはずよ」
「奴隷契約の書類自体は、奴隷商の方でまだ管理してるって言ってたな」
「ええ。契約自体に違法性が無いなら、連れてる奴隷は制約に縛られて皇都内からは出られないはず。出たと認識してしまった瞬間、奴隷は死んでしまうもの」
その話を聞いていたエリクは疑問を浮かべ、アリアに聞いた。
「アリア」
「なに?」
「その契約をしていると、皇都を出ただけで奴隷は死ぬのか?」
「ええ。四大国家側で製作している特殊な紙とインクに制約を書き、その紙に奴隷がサインを記すと書いた本人の魂が誓約書に縛られて制約が設けられる。その誓約書に書かれたことに反した行動をした奴隷は、肉体に苦痛を与えられ、最悪死ぬ場合がある」
「!」
「私が知る限り奴隷制約は幾つかあるんだけど、その中で最も肉体的苦痛を与える制約が、奴隷として仕える国から無断で出る場合。それを破り味わう苦痛は、死にも繋がる激痛だそうよ」
「……そうか」
「マギルスがそれを知らなくても、奴隷の方はその制約を知っているでしょうね。だったら連れ去られた奴隷は、間違いなく皇都内に居続けようとするはずよ」
「……」
「エリク?」
アリアが話しながら歩いていると、立ち止まったエリクに二人は気付く。
そして険しい表情でエリクは聞いた。
「アリア。何故、奴隷に厳しい制約をするんだ?」
「……そっか。ベルグリンド王国は奴隷法を禁じてるフラムブルグ宗教国の傘下よね。エリクは奴隷を見たことがないんだ」
「ああ」
「……そうね。短的に言えば、そうでもしないと人は誰も従わないからよ」
「!」
「人間が人間を支配する中で、法を破り様々な方法で他者に危害を及ぼす輩は多くいるわ。そんな人間が何の制約も無く、素直に言うことを聞くと思う?」
「……いいや」
「そう。でも、そんな人間に対しても法は寛容よ。よほど重い罪でなければ、裁判を用いて刑罰と刑期を取り決めて罪を償う機会を与える。そんな寛容な法の庇護を受けながらも、悪辣な者は従おうとしない。どうにか罪から逃れようと抗い続ける。……そんな人間に嫌気が差して作られたのが、犯罪者を奴隷として従える為の手段。奴隷の誓約書なの」
「……」
「時代が進むにつれて、人間社会では犯罪者の奴隷以外にも新たな罪人が生まれた。働かず働けず食べ物や金銭が無くなり負債を抱え行き場を失った者達。彼等も法に照らせば、借用した者を返せない犯罪者。いつしか奴隷の契約書は、そうした借金奴隷にも適用された」
「……」
「そして孤児達も同じ。自分達で食べる物を確保できず、働くことも出来ない子供達。それ等を飢えさせない為に孤児院が建てられても、一私設の運営費だけで救える子供の数は限られる。国がそれを支援するようになったけど、無償で支援などする国は無いわ。彼等は孤児の将来性を先に買い、育った者達を国の仕組みに加える。そうする事で国が立ち回るようにする。その派生として孤児自体を育て自分達が出来る職に就かせる為に孤児奴隷が生まれたのよ」
「……」
「奴隷に関する法は、四大国家でもそれぞれ別れた意見もある。でもこのルクソード皇国の奴隷は、皆平等に誓約を敷かれた人間であり、商品という位置付けよ。彼等は自ら抱える負債の為に働く。自分自身が生きる為に学びながら職を持ち、この国で生きて抜く為にね」
「……そうか」
「エリクは、人を奴隷に墜とすという行為が許せない?」
「……分からない。だが、気持ち悪くは感じる」
「そうね。私も奴隷という言葉の響きは嫌い。……でも、そういう身に墜ちなければ野垂れ死ぬ者達が、世界には大勢いるの」
「!」
「奴隷法は悪辣な者達に抗う術を無くさせる更生措置であると同時に、自分の身を守れない者達の救済措置でもあるの。奴隷が雇われれば彼等の主人が奴隷を生かす為に食事を与え、仕事を与え続ける。逆に主人は彼等に仕事を与えて、一定の自由と食事を与える為の経済力の確保と維持する為の努力を怠らない。怠れば、今度は自分が奴隷に落とされる。自分達が間違いを犯し食えない身分へと墜ちる事に対する恐怖を知る為にも、奴隷という存在と地位は世界に必要なのよ」
「……本当に、必要なのか?」
「仮に奴隷という地位が必要の無い世界があるのだとしたら。それは等しく皆が奴隷のような生活を強いられている世界でしょうね。貧富の差があるだけの奴隷社会よ」
「……王国のことか?」
「そう。貴方が居たベルグリンド王国がまさにそれよ。貴族が奴隷の代わりに国民である平民を虐げ軽率に扱うだけの国なんて、胸糞悪い以外の感想は無いわ」
「……すまない。変な事を聞いた」
「エリクは変な事なんて言ってないわ。分からないから質問しただけでしょ? そういう疑問は沢山持ちなさい。そしてそれ等の事を知って、自分なりの答えを考えなさい」
「……ああ」
アリアがエリクを諭しながら、奴隷についての話をする。
奴隷が社会にとって必要な地位であり、同時に彼等に課せられる制約が彼等自身を守り保証する為のモノだと説明され、エリクは納得して見せた。
それを傍らで俯きながら聞いていたケイルは神妙な顔を上げ、二人に話し掛けた。
「……それで、まずはどうするんだよ? マギルスが奴隷を連れ去ったのは四日前らしいし、そんなアイツが宿に寝泊りしてるとは思えない。何処から探す?」
「それが問題なのよね」
「心当たり……と言っても、この街でアイツが行きそうな場所なんて、アタシ等に覚えは無いよな」
「潜伏できそうな場所、ケイルに心当たりは無い?」
「その手の場所は、大体が流民街を仕切ってる奴等の縄張りになってるぜ。入り込んだらすぐそいつ等の情報網に引っ掛かるし、傭兵ギルドもその情報網を利用するだろ。傭兵ギルド側でマギルスを見つけられてないってことは、上手くこの皇都のどっかで隠れ住んでるってことだ」
「……」
ケイルと話しながら途中で何かを考え込み眉間の皺を一つ増やしたアリアが、何かを思い付き二人に告げた。
「エリク、ケイル。奴隷商の所に行きましょう」
「どうしたんだ?」
「仮にマギルスが奴隷を連れ去ったとして。マギルスが契約書の事を知らなかったとしたら。今は何を狙ってると思う?」
「……奴隷の契約書か?」
「ええ。マギルスを捕まえるなら、奴隷契約書を餌にして誘き出す。そして捕まえて奴隷を連れ帰る。それが一番手っ取り早いわ」
「……上手く行くか?」
「やってみないと分からないわ。とにかく、マギルスに先手を打たれる前に奴隷契約書を確保しましょう」
「ああ」
「分かった」
アリアの策と提案に乗った二人は、そのまま奴隷商が居る店まで歩き出す。
ふと背後に視線を向けたエリクは、鋭い眼光を向けて静かにアリア達の後を追った。
そしてアリアに報告する。
「アリア、ケイル。振り向かずに聞いてくれ」
「?」
「監視者がいる」
「……傭兵ギルド? それとも皇国兵?」
「分からない。だが、監視者は一人だけだ」
「……まさか、マギルス?」
「いや、マギルスではないと思う」
「そう。なら、しばらくは放置しましょう。傭兵ギルドか皇国の監視者だとしても、私達が手を出せば厄介な事になるわ」
「そうか。分かった」
「……」
エリクの報告を受けたアリアは監視者を放置すると決め、そのまま奴隷商の店まで歩き続ける。
その二人を他所に、ケイルが背後に意識を向けながら何かを考えていた。
こうして、三人はマギルスを捕らえる為に行動を開始した。
その捜索に強制参加させられた一行の中で、頗る機嫌を悪くしていたのはアリアだった。
「――……あのクソマギルス、アタシが真っ先に見つけて絶対にとっちめてやるわ……!」
不本意な捜索を傭兵ギルドから強いられながらも、アリア自身はマギルスに向ける怒りを捜索意欲に向ける事に切り替える。
街の中を歩くアリアの後ろにはエリクが控え、その隣を歩くケイルが声を掛けた。
「連れ去った奴隷の確保が優先だぞ。マギルスは捕縛して皇国兵に引き渡し。それが出来なきゃ、アタシ等が皇国兵に捕まっちまう。それを忘れてないよな?」
「……忘れてないわよ」
「嘘つけ。さっきとっちめるだの言ってたろ」
「……とにかく、マギルスを探すしかないわ。連れ去った奴隷は、マギルスと一緒に行動してるはずよ」
「奴隷契約の書類自体は、奴隷商の方でまだ管理してるって言ってたな」
「ええ。契約自体に違法性が無いなら、連れてる奴隷は制約に縛られて皇都内からは出られないはず。出たと認識してしまった瞬間、奴隷は死んでしまうもの」
その話を聞いていたエリクは疑問を浮かべ、アリアに聞いた。
「アリア」
「なに?」
「その契約をしていると、皇都を出ただけで奴隷は死ぬのか?」
「ええ。四大国家側で製作している特殊な紙とインクに制約を書き、その紙に奴隷がサインを記すと書いた本人の魂が誓約書に縛られて制約が設けられる。その誓約書に書かれたことに反した行動をした奴隷は、肉体に苦痛を与えられ、最悪死ぬ場合がある」
「!」
「私が知る限り奴隷制約は幾つかあるんだけど、その中で最も肉体的苦痛を与える制約が、奴隷として仕える国から無断で出る場合。それを破り味わう苦痛は、死にも繋がる激痛だそうよ」
「……そうか」
「マギルスがそれを知らなくても、奴隷の方はその制約を知っているでしょうね。だったら連れ去られた奴隷は、間違いなく皇都内に居続けようとするはずよ」
「……」
「エリク?」
アリアが話しながら歩いていると、立ち止まったエリクに二人は気付く。
そして険しい表情でエリクは聞いた。
「アリア。何故、奴隷に厳しい制約をするんだ?」
「……そっか。ベルグリンド王国は奴隷法を禁じてるフラムブルグ宗教国の傘下よね。エリクは奴隷を見たことがないんだ」
「ああ」
「……そうね。短的に言えば、そうでもしないと人は誰も従わないからよ」
「!」
「人間が人間を支配する中で、法を破り様々な方法で他者に危害を及ぼす輩は多くいるわ。そんな人間が何の制約も無く、素直に言うことを聞くと思う?」
「……いいや」
「そう。でも、そんな人間に対しても法は寛容よ。よほど重い罪でなければ、裁判を用いて刑罰と刑期を取り決めて罪を償う機会を与える。そんな寛容な法の庇護を受けながらも、悪辣な者は従おうとしない。どうにか罪から逃れようと抗い続ける。……そんな人間に嫌気が差して作られたのが、犯罪者を奴隷として従える為の手段。奴隷の誓約書なの」
「……」
「時代が進むにつれて、人間社会では犯罪者の奴隷以外にも新たな罪人が生まれた。働かず働けず食べ物や金銭が無くなり負債を抱え行き場を失った者達。彼等も法に照らせば、借用した者を返せない犯罪者。いつしか奴隷の契約書は、そうした借金奴隷にも適用された」
「……」
「そして孤児達も同じ。自分達で食べる物を確保できず、働くことも出来ない子供達。それ等を飢えさせない為に孤児院が建てられても、一私設の運営費だけで救える子供の数は限られる。国がそれを支援するようになったけど、無償で支援などする国は無いわ。彼等は孤児の将来性を先に買い、育った者達を国の仕組みに加える。そうする事で国が立ち回るようにする。その派生として孤児自体を育て自分達が出来る職に就かせる為に孤児奴隷が生まれたのよ」
「……」
「奴隷に関する法は、四大国家でもそれぞれ別れた意見もある。でもこのルクソード皇国の奴隷は、皆平等に誓約を敷かれた人間であり、商品という位置付けよ。彼等は自ら抱える負債の為に働く。自分自身が生きる為に学びながら職を持ち、この国で生きて抜く為にね」
「……そうか」
「エリクは、人を奴隷に墜とすという行為が許せない?」
「……分からない。だが、気持ち悪くは感じる」
「そうね。私も奴隷という言葉の響きは嫌い。……でも、そういう身に墜ちなければ野垂れ死ぬ者達が、世界には大勢いるの」
「!」
「奴隷法は悪辣な者達に抗う術を無くさせる更生措置であると同時に、自分の身を守れない者達の救済措置でもあるの。奴隷が雇われれば彼等の主人が奴隷を生かす為に食事を与え、仕事を与え続ける。逆に主人は彼等に仕事を与えて、一定の自由と食事を与える為の経済力の確保と維持する為の努力を怠らない。怠れば、今度は自分が奴隷に落とされる。自分達が間違いを犯し食えない身分へと墜ちる事に対する恐怖を知る為にも、奴隷という存在と地位は世界に必要なのよ」
「……本当に、必要なのか?」
「仮に奴隷という地位が必要の無い世界があるのだとしたら。それは等しく皆が奴隷のような生活を強いられている世界でしょうね。貧富の差があるだけの奴隷社会よ」
「……王国のことか?」
「そう。貴方が居たベルグリンド王国がまさにそれよ。貴族が奴隷の代わりに国民である平民を虐げ軽率に扱うだけの国なんて、胸糞悪い以外の感想は無いわ」
「……すまない。変な事を聞いた」
「エリクは変な事なんて言ってないわ。分からないから質問しただけでしょ? そういう疑問は沢山持ちなさい。そしてそれ等の事を知って、自分なりの答えを考えなさい」
「……ああ」
アリアがエリクを諭しながら、奴隷についての話をする。
奴隷が社会にとって必要な地位であり、同時に彼等に課せられる制約が彼等自身を守り保証する為のモノだと説明され、エリクは納得して見せた。
それを傍らで俯きながら聞いていたケイルは神妙な顔を上げ、二人に話し掛けた。
「……それで、まずはどうするんだよ? マギルスが奴隷を連れ去ったのは四日前らしいし、そんなアイツが宿に寝泊りしてるとは思えない。何処から探す?」
「それが問題なのよね」
「心当たり……と言っても、この街でアイツが行きそうな場所なんて、アタシ等に覚えは無いよな」
「潜伏できそうな場所、ケイルに心当たりは無い?」
「その手の場所は、大体が流民街を仕切ってる奴等の縄張りになってるぜ。入り込んだらすぐそいつ等の情報網に引っ掛かるし、傭兵ギルドもその情報網を利用するだろ。傭兵ギルド側でマギルスを見つけられてないってことは、上手くこの皇都のどっかで隠れ住んでるってことだ」
「……」
ケイルと話しながら途中で何かを考え込み眉間の皺を一つ増やしたアリアが、何かを思い付き二人に告げた。
「エリク、ケイル。奴隷商の所に行きましょう」
「どうしたんだ?」
「仮にマギルスが奴隷を連れ去ったとして。マギルスが契約書の事を知らなかったとしたら。今は何を狙ってると思う?」
「……奴隷の契約書か?」
「ええ。マギルスを捕まえるなら、奴隷契約書を餌にして誘き出す。そして捕まえて奴隷を連れ帰る。それが一番手っ取り早いわ」
「……上手く行くか?」
「やってみないと分からないわ。とにかく、マギルスに先手を打たれる前に奴隷契約書を確保しましょう」
「ああ」
「分かった」
アリアの策と提案に乗った二人は、そのまま奴隷商が居る店まで歩き出す。
ふと背後に視線を向けたエリクは、鋭い眼光を向けて静かにアリア達の後を追った。
そしてアリアに報告する。
「アリア、ケイル。振り向かずに聞いてくれ」
「?」
「監視者がいる」
「……傭兵ギルド? それとも皇国兵?」
「分からない。だが、監視者は一人だけだ」
「……まさか、マギルス?」
「いや、マギルスではないと思う」
「そう。なら、しばらくは放置しましょう。傭兵ギルドか皇国の監視者だとしても、私達が手を出せば厄介な事になるわ」
「そうか。分かった」
「……」
エリクの報告を受けたアリアは監視者を放置すると決め、そのまま奴隷商の店まで歩き続ける。
その二人を他所に、ケイルが背後に意識を向けながら何かを考えていた。
こうして、三人はマギルスを捕らえる為に行動を開始した。
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