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結社編 一章:ルクソード皇国
エリク対マギルス
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力を行使する魔人同士の戦い。
人間の範疇では対応できない力と速度に付随する反射神経で成されたマギルスとエリクの動きに、魔人が脅威として見做される理由をアリアとケイルは改めて認識した。
「アハハッ! 凄い、凄いね! おじさん!」
「……ッ!!」
大剣と大鎌が交差し弾け合うと、その場に衝撃が広がり起こる。
大剣を握るエリクの腕は赤色に、大鎌を握るマギルスの腕は青色になり、互いの腕が魔力の質で変化した。
飛び退いた二人が再び刃を交えると、周囲の芝を吹き飛ばして風が荒れ狂う。
「そうそう! 腕にだけじゃなくて、足と背中にもっと力を込めて!」
「ああ」
戦いながら魔人の力を教授するマギルスと、その教えに素直に従うエリクは何度も力をぶつけ合う。
辛うじて目で追うケイルとアリアは、魔人同士の戦いをこう称した。
「……元から化物だったのが、更に化けたな」
「そうね、エリクの力が今までの比じゃない。でも、それ以上にマギルスが凄いわ」
「子供なのにって意味でか?」
「違うわ。正直、マギルスを甘く見てた。マギルスの戦闘経験値は、私どころか今のエリクより遥かに上よ」
「!」
「エリクの攻撃に対して息を合わせて迎撃してる。今のマギルスは本気ですらない。本当に遊んでるだけみたいよ」
「本気を出さずに、アレかよ……」
「あの子が周りを見下すのもしょうがなかったでしょうね。実力で圧倒される相手が、あのゴズヴァールしかいなかったんだもの。……正直、真正面からマギルスと私が戦ったら、一歩でも対応が遅れると殺されるかも」
「お前、確かマギルスと戦って勝ったんじゃなかったっけ?」
「あの時は、魔法を使えない私に油断しまくってた所に、不意を突いて精神的に揺さ振ったからこそ降伏させる事が出来た。逆にあの時、私が本気を出してマギルスを迎撃してたら、マギルスは油断も無く容赦もせず殺しに来たでしょうね」
「……」
「ゴズヴァールもマギルスも、私がただの人間だからこそ始めは油断した。だから一度は勝てたように見せられた。でも油断が無くなり魔人化したゴズヴァールに、私は対応できずに殺されかけた。つまり、そういう事よ」
「……それを冷静に言えるだけ、お前も十分に怖いっての」
魔人が本気を出すということ。
人間では対応できない力と速度を持って襲われるという事実を、アリアは目の前の光景を見て真摯に受け止めた。
それをケイルも察し、マギルスとエリクの戦いに目を戻す。
マギルスとエリクの戦いは一合一合の力押しから変化し、脚力と膂力に物を言わせた速度の戦いに変化する。
どちらも大武器を振り回しながら速度に緩急を付け、軽く重い一撃を打ち合いながら競い合っていた。
打ち合った後に身軽なマギルスは大鎌を抱えて回転して着地し、エリクは重い大剣を軸にして身体を回転させながら止まる。
「凄いね、エリクおじさん! 僕がやること、すぐに真似できるようになって!」
「そうか?」
「僕、ゴズヴァールおじさん以外で初めて会ったよ! こんなにワクワクする戦いが出来る人!」
「わくわく?」
「自分より強い人が、そして互角に戦える人が目の前に居るのが、嬉しいって感じない? それがワクワクだよ!」
「……強い相手は、怖いだけだ」
「怖くていいんだよ。だって怖ければ怖いほど、その相手と戦えるように強くなったっていう実感が、楽しいんだから!」
「……そうか」
マギルスの言葉にエリクは疑問を浮かべたが、それはすぐにマギルスとの戦いで打ち消される。
中空に跳び上がったマギルスが落下を利用した重い攻撃を浴びせると、エリクはそれを大剣で受け流して払う。
そして大剣を素早く振りながら攻撃し、マギルスに一閃して浴びせた。
それを同じように大鎌で受け流すと、鎌の柄と大剣の柄を激突させて互いに弾き、また大きく離れた。
「エリクおじさん。僕、強いでしょ?」
「ああ、お前は強い」
「でも、怖くは無い。そうだよね?」
「ああ、怖くはない」
「怖くない理由が、おじさんに合わせて本気を出してないからだっていうのも、分かるよね?」
「ああ」
「じゃあ、ここからは少し本気でやっていい?」
「……」
「おじさんは耐えるだけでもいいよ。それでおじさんも、なんとなく分かるはずだよ」
「……分かる?」
「本当に強い相手と戦う、怖さとワクワクだよ」
そう話すマギルスの表情から、笑顔が消えて鋭い顔を初めて見せる。
マギルスから寒気を感じたエリクは、大剣を前方に構えた。
「じゃあ、死なないでね。おじさん」
「!」
マギルスは大鎌を右手で持ち、前傾姿勢で飛び出した。
その素早さは今までの比ではなく、エリクの視覚と反射神経でようやく捉え、大剣の腹で大鎌の刃を受けきる。
しかしエリクの腹に蹴りを浴びせられ、子供の身体からでは予想出来ない威力にエリクは思わず息を吐いた。
「ガハ……ッ!!」
「まだまだ!」
「ッ」
マギルスは蹴り足を素早く引き、下から跳ね上がった大鎌の刃がエリクの首を狙う。
それを仰け反りながら回避したエリクは、逆に大剣で殴りつける。
しかし大鎌の遠心力を利用して身体ごと回転したマギルスは、大剣を鎌の柄で受け止めながらエリクの顔面に蹴りを浴びせた。
「グッ!?」
「遅いよ!」
「グ、ガァッ!!」
鼻血を出したエリクが姿勢を戻すと、大剣を上段に持ち替えてマギルスを襲う。
それすら横へ跳んで回避したマギルスは、大鎌の腹でエリクの横腹を打ち抜き、凄まじい力でエリクの巨体を飛ばした。
「ガハ……ッ」
「ダメだよ。軸になる横腹は注意して守らなきゃ」
吹き飛ばされるエリクは転がりながら大剣を地面へ突き刺して停止する。
マギルスは注意しながら余裕の表情と姿勢を見せた。
本気を出したマギルスと現在のエリクの戦闘力の差を見せ付けられるアリアとケイルは、驚愕しながらも予想していた結果に落ち着いていた。
「……あれが本気のマギルス、か」
「ケイル。マギルスはあれで第三席だったの? 正直、ゴズヴァールより速くない?」
「闘士の序列は適当な所もあったんだ。アタシの四席も空席に割り込んだだけだし、二席やってたエアハルトも他が次長をやりたくないから押し付けられたみたいなもんだし」
「それ、組織としてどうなの?」
「知らねぇよ。他の序列闘士達もほとんど席に置かれてるだけで半分辞めてるようなもんだったらしいし。マギルスも抜け穴に入っただけみたいだからな」
「……正直、私が相対したら、反応も出来ずに首を刈られそうね」
「同感。というか決着だろ? 止めないのかよ?」
「そう思ったけど、エリクのあの顔を見ればね」
アリアが視線で指すエリクの表情に、ケイルも気付く。
鼻血を流しながらも戦意は衰えた様子を見せず、痛めた身体を起こしてエリクは立ち上がる。
エリクはこの時に初めて、強者へ挑戦する者の顔になった。
その挑戦にマギルスも鬼気とした笑みを浮かべて応えた。
「いいよ。エリクおじさんの本気も見せてよ!」
「……ああ」
身体中に力を滾らせ魔力を生み出したエリクが、大剣を上段に構えて握り持つ腕が赤く変色する。
額に魔力で作り出された黒い角が一本だけ出現のを見た三人は驚く。
そしてアリアがケイルに忠告して身を引いた。
「ケイル、下がって」
「おい、あれ……」
「エリクが必殺技を撃つわ。下がった方がいい」
「……必殺技?」
「狼男を倒した時に使ったアレよ。下がりましょう」
アリアに促されたケイルは共に足を引かせる。
しかし相対したマギルスは足を引かせず、目の前のエリクに喜びを見せながら笑顔を向けた。
「いいね、いいね。おじさん! そういうのが出来るんだね!」
「……回避しないのか?」
「こういうのは受け止めたり打ち破れば、勝ちになるんだよ!」
「そうか」
「ワクワクするなぁ、おじさんと戦うと!」
笑顔のマギルスが鬼気とした顔に変化し、身体全体の魔力を滾らせて魔力を放出する。
赤い魔力を放つエリクと、青い魔力を身に纏うマギルスが万全の態勢を整えた。
赤い魔力が大剣に集まり、エリクは容赦無く振り下ろす。
そして赤い魔力の斬撃が空と大地を割り、マギルスを襲った。
「デカッ!?」
予想外の斬撃の大きさにマギルスは驚愕したが、それを受け止める為に大鎌で魔力斬撃を受け止める。
赤い魔力と青い魔力がぶつかり合う光景に、アリアは驚きの声を上げた。
「アレを、受け止めた!?」
「あんなモンを……!?」
女性陣達の驚きと同様、エリクも必殺の斬撃を受け止めたことに気付いて驚愕する。
しかし押し込まれる赤い魔力がマギルスを覆い、互いの魔力が反発して膨れ上がると、その場に爆発が巻き起こった。
「!?」
「!!」
「!」
削がれた地面と芝生が巻き起こる風で宙を舞う。
そして土煙が収まり始めた十数秒後に、アリア達は土煙から転がり出た一つの物体を目撃した。
「あれは、まさか……」
「マギルスの……頭?」
「……」
芝生に転がっていたのは、マギルスと同じ青い頭髪をした頭。
それが見えた三人は思わず硬直してしまう。
エリクの斬撃を完全に防ぐ事が出来ず、無惨な姿となったのだと全員が認識した。
しかし、マギルスの頭に異変が起こった。
「――……駄目だよ、おじさん。油断したらさ?」
「!?」
「ハッ!?」
「え、なんで喋って――……!?」
頭だけのマギルスが言葉を発し、全員が驚きで目を見開いた瞬間。
土埃が残る真正面からマギルスの胴体が大鎌を構えたまま迫り、エリクは信じられない光景に対応に遅れる。
大鎌の斬撃がエリクを襲い、大剣を弾き飛ばす。
その後に顎を蹴り飛ばされ吹き飛んだエリクは芝生の上に倒れ、首筋に大鎌の刃が付けられた姿勢となり、頭の無いマギルスの胴体が動きを止める。
そして頭だけのマギルスが、笑顔で告げた。
「はい、僕の勝ちだね。おじさん?」
「……ああ」
「凄かったよ、おじさん! 今度、また遊ぼうね?」
「ああ」
大鎌を引かせた胴体がマギルスの頭に歩み寄り、頭を掴んで首を接合させる。
まるで何事も無かったかのように頭と首を動かし戻したマギルスは、エリクと共に荷馬車へ帰還した。
エリクとマギルスの遊びと称した戦い。
それは予想外にも、エリクの敗北で終了した。
人間の範疇では対応できない力と速度に付随する反射神経で成されたマギルスとエリクの動きに、魔人が脅威として見做される理由をアリアとケイルは改めて認識した。
「アハハッ! 凄い、凄いね! おじさん!」
「……ッ!!」
大剣と大鎌が交差し弾け合うと、その場に衝撃が広がり起こる。
大剣を握るエリクの腕は赤色に、大鎌を握るマギルスの腕は青色になり、互いの腕が魔力の質で変化した。
飛び退いた二人が再び刃を交えると、周囲の芝を吹き飛ばして風が荒れ狂う。
「そうそう! 腕にだけじゃなくて、足と背中にもっと力を込めて!」
「ああ」
戦いながら魔人の力を教授するマギルスと、その教えに素直に従うエリクは何度も力をぶつけ合う。
辛うじて目で追うケイルとアリアは、魔人同士の戦いをこう称した。
「……元から化物だったのが、更に化けたな」
「そうね、エリクの力が今までの比じゃない。でも、それ以上にマギルスが凄いわ」
「子供なのにって意味でか?」
「違うわ。正直、マギルスを甘く見てた。マギルスの戦闘経験値は、私どころか今のエリクより遥かに上よ」
「!」
「エリクの攻撃に対して息を合わせて迎撃してる。今のマギルスは本気ですらない。本当に遊んでるだけみたいよ」
「本気を出さずに、アレかよ……」
「あの子が周りを見下すのもしょうがなかったでしょうね。実力で圧倒される相手が、あのゴズヴァールしかいなかったんだもの。……正直、真正面からマギルスと私が戦ったら、一歩でも対応が遅れると殺されるかも」
「お前、確かマギルスと戦って勝ったんじゃなかったっけ?」
「あの時は、魔法を使えない私に油断しまくってた所に、不意を突いて精神的に揺さ振ったからこそ降伏させる事が出来た。逆にあの時、私が本気を出してマギルスを迎撃してたら、マギルスは油断も無く容赦もせず殺しに来たでしょうね」
「……」
「ゴズヴァールもマギルスも、私がただの人間だからこそ始めは油断した。だから一度は勝てたように見せられた。でも油断が無くなり魔人化したゴズヴァールに、私は対応できずに殺されかけた。つまり、そういう事よ」
「……それを冷静に言えるだけ、お前も十分に怖いっての」
魔人が本気を出すということ。
人間では対応できない力と速度を持って襲われるという事実を、アリアは目の前の光景を見て真摯に受け止めた。
それをケイルも察し、マギルスとエリクの戦いに目を戻す。
マギルスとエリクの戦いは一合一合の力押しから変化し、脚力と膂力に物を言わせた速度の戦いに変化する。
どちらも大武器を振り回しながら速度に緩急を付け、軽く重い一撃を打ち合いながら競い合っていた。
打ち合った後に身軽なマギルスは大鎌を抱えて回転して着地し、エリクは重い大剣を軸にして身体を回転させながら止まる。
「凄いね、エリクおじさん! 僕がやること、すぐに真似できるようになって!」
「そうか?」
「僕、ゴズヴァールおじさん以外で初めて会ったよ! こんなにワクワクする戦いが出来る人!」
「わくわく?」
「自分より強い人が、そして互角に戦える人が目の前に居るのが、嬉しいって感じない? それがワクワクだよ!」
「……強い相手は、怖いだけだ」
「怖くていいんだよ。だって怖ければ怖いほど、その相手と戦えるように強くなったっていう実感が、楽しいんだから!」
「……そうか」
マギルスの言葉にエリクは疑問を浮かべたが、それはすぐにマギルスとの戦いで打ち消される。
中空に跳び上がったマギルスが落下を利用した重い攻撃を浴びせると、エリクはそれを大剣で受け流して払う。
そして大剣を素早く振りながら攻撃し、マギルスに一閃して浴びせた。
それを同じように大鎌で受け流すと、鎌の柄と大剣の柄を激突させて互いに弾き、また大きく離れた。
「エリクおじさん。僕、強いでしょ?」
「ああ、お前は強い」
「でも、怖くは無い。そうだよね?」
「ああ、怖くはない」
「怖くない理由が、おじさんに合わせて本気を出してないからだっていうのも、分かるよね?」
「ああ」
「じゃあ、ここからは少し本気でやっていい?」
「……」
「おじさんは耐えるだけでもいいよ。それでおじさんも、なんとなく分かるはずだよ」
「……分かる?」
「本当に強い相手と戦う、怖さとワクワクだよ」
そう話すマギルスの表情から、笑顔が消えて鋭い顔を初めて見せる。
マギルスから寒気を感じたエリクは、大剣を前方に構えた。
「じゃあ、死なないでね。おじさん」
「!」
マギルスは大鎌を右手で持ち、前傾姿勢で飛び出した。
その素早さは今までの比ではなく、エリクの視覚と反射神経でようやく捉え、大剣の腹で大鎌の刃を受けきる。
しかしエリクの腹に蹴りを浴びせられ、子供の身体からでは予想出来ない威力にエリクは思わず息を吐いた。
「ガハ……ッ!!」
「まだまだ!」
「ッ」
マギルスは蹴り足を素早く引き、下から跳ね上がった大鎌の刃がエリクの首を狙う。
それを仰け反りながら回避したエリクは、逆に大剣で殴りつける。
しかし大鎌の遠心力を利用して身体ごと回転したマギルスは、大剣を鎌の柄で受け止めながらエリクの顔面に蹴りを浴びせた。
「グッ!?」
「遅いよ!」
「グ、ガァッ!!」
鼻血を出したエリクが姿勢を戻すと、大剣を上段に持ち替えてマギルスを襲う。
それすら横へ跳んで回避したマギルスは、大鎌の腹でエリクの横腹を打ち抜き、凄まじい力でエリクの巨体を飛ばした。
「ガハ……ッ」
「ダメだよ。軸になる横腹は注意して守らなきゃ」
吹き飛ばされるエリクは転がりながら大剣を地面へ突き刺して停止する。
マギルスは注意しながら余裕の表情と姿勢を見せた。
本気を出したマギルスと現在のエリクの戦闘力の差を見せ付けられるアリアとケイルは、驚愕しながらも予想していた結果に落ち着いていた。
「……あれが本気のマギルス、か」
「ケイル。マギルスはあれで第三席だったの? 正直、ゴズヴァールより速くない?」
「闘士の序列は適当な所もあったんだ。アタシの四席も空席に割り込んだだけだし、二席やってたエアハルトも他が次長をやりたくないから押し付けられたみたいなもんだし」
「それ、組織としてどうなの?」
「知らねぇよ。他の序列闘士達もほとんど席に置かれてるだけで半分辞めてるようなもんだったらしいし。マギルスも抜け穴に入っただけみたいだからな」
「……正直、私が相対したら、反応も出来ずに首を刈られそうね」
「同感。というか決着だろ? 止めないのかよ?」
「そう思ったけど、エリクのあの顔を見ればね」
アリアが視線で指すエリクの表情に、ケイルも気付く。
鼻血を流しながらも戦意は衰えた様子を見せず、痛めた身体を起こしてエリクは立ち上がる。
エリクはこの時に初めて、強者へ挑戦する者の顔になった。
その挑戦にマギルスも鬼気とした笑みを浮かべて応えた。
「いいよ。エリクおじさんの本気も見せてよ!」
「……ああ」
身体中に力を滾らせ魔力を生み出したエリクが、大剣を上段に構えて握り持つ腕が赤く変色する。
額に魔力で作り出された黒い角が一本だけ出現のを見た三人は驚く。
そしてアリアがケイルに忠告して身を引いた。
「ケイル、下がって」
「おい、あれ……」
「エリクが必殺技を撃つわ。下がった方がいい」
「……必殺技?」
「狼男を倒した時に使ったアレよ。下がりましょう」
アリアに促されたケイルは共に足を引かせる。
しかし相対したマギルスは足を引かせず、目の前のエリクに喜びを見せながら笑顔を向けた。
「いいね、いいね。おじさん! そういうのが出来るんだね!」
「……回避しないのか?」
「こういうのは受け止めたり打ち破れば、勝ちになるんだよ!」
「そうか」
「ワクワクするなぁ、おじさんと戦うと!」
笑顔のマギルスが鬼気とした顔に変化し、身体全体の魔力を滾らせて魔力を放出する。
赤い魔力を放つエリクと、青い魔力を身に纏うマギルスが万全の態勢を整えた。
赤い魔力が大剣に集まり、エリクは容赦無く振り下ろす。
そして赤い魔力の斬撃が空と大地を割り、マギルスを襲った。
「デカッ!?」
予想外の斬撃の大きさにマギルスは驚愕したが、それを受け止める為に大鎌で魔力斬撃を受け止める。
赤い魔力と青い魔力がぶつかり合う光景に、アリアは驚きの声を上げた。
「アレを、受け止めた!?」
「あんなモンを……!?」
女性陣達の驚きと同様、エリクも必殺の斬撃を受け止めたことに気付いて驚愕する。
しかし押し込まれる赤い魔力がマギルスを覆い、互いの魔力が反発して膨れ上がると、その場に爆発が巻き起こった。
「!?」
「!!」
「!」
削がれた地面と芝生が巻き起こる風で宙を舞う。
そして土煙が収まり始めた十数秒後に、アリア達は土煙から転がり出た一つの物体を目撃した。
「あれは、まさか……」
「マギルスの……頭?」
「……」
芝生に転がっていたのは、マギルスと同じ青い頭髪をした頭。
それが見えた三人は思わず硬直してしまう。
エリクの斬撃を完全に防ぐ事が出来ず、無惨な姿となったのだと全員が認識した。
しかし、マギルスの頭に異変が起こった。
「――……駄目だよ、おじさん。油断したらさ?」
「!?」
「ハッ!?」
「え、なんで喋って――……!?」
頭だけのマギルスが言葉を発し、全員が驚きで目を見開いた瞬間。
土埃が残る真正面からマギルスの胴体が大鎌を構えたまま迫り、エリクは信じられない光景に対応に遅れる。
大鎌の斬撃がエリクを襲い、大剣を弾き飛ばす。
その後に顎を蹴り飛ばされ吹き飛んだエリクは芝生の上に倒れ、首筋に大鎌の刃が付けられた姿勢となり、頭の無いマギルスの胴体が動きを止める。
そして頭だけのマギルスが、笑顔で告げた。
「はい、僕の勝ちだね。おじさん?」
「……ああ」
「凄かったよ、おじさん! 今度、また遊ぼうね?」
「ああ」
大鎌を引かせた胴体がマギルスの頭に歩み寄り、頭を掴んで首を接合させる。
まるで何事も無かったかのように頭と首を動かし戻したマギルスは、エリクと共に荷馬車へ帰還した。
エリクとマギルスの遊びと称した戦い。
それは予想外にも、エリクの敗北で終了した。
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