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南国編 閑話:舞台の裏側
騎兵襲撃 (閑話その十一)
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数日後。
セルジアスが予期した通り、
帝国内の各領の貴族達が反旗して挙兵し、
国境に留まるローゼン公爵領軍に半包囲を敷いた。
それに連動した王国軍も半包囲態勢で国境線で展開し、
ローゼン公爵軍は包囲下に置かれる事になる。
それに動揺せず決められた通りに、
各配下の将達とセルジアスは領軍の大半を率い、
民を守りながら自領へ帰還する指揮を行った。
一方で殿軍の準備が整えられ、完了する。
ローゼン公爵率いる囮の人数は、僅か百名の騎兵。
いずれもローゼン公爵と付き合いが長い、
四十歳から六十歳以上の歴戦の老兵が集められ、
それぞれが鬼気とした笑みを浮かべながら、
先頭に立つ為に歩み通るローゼン公爵に話し掛けた。
「閣下!」
「クラウスの旦那、いよいよですか!」
「ついに狸共の腹を圧し潰してやれるんですねぇ!」
「目にもの見せてやりましょう!」
それぞれの老兵達がローゼン公爵に呼び掛け、
それに応えるようにローゼン公爵は不敵の笑みを浮かべる。
赤い魔鉄の鎧姿を身に付けた白馬に騎乗するローゼン公爵は、
死地へ赴く仲間達に向けて、雄々しく槍を掲げて伝えた。
「今日まで老いた身を鍛え抜いた同胞達よ! 我々はこれより、若者が進む為の道を切り開く!」
『オオォオオオオオオ――!!』
「今まで堕した貴族共に煮え湯を飲まされた者達よ! その恨みを剣と槍に乗せ、奴等を切り伏せろ! 弓を持つ者は怒りの矢を放て!」
『オオオオオオオオオ――!!』
「その死地には、このクラウス=イスカル=フォン=ローゼンが導く! 貴様達は俺を信じ、笑いながら付いて来い! そして若者達の前途を祝し、見送りながら笑って逝こうぞ!」
『ハッハッハッ!!』
「さぁ、全員騎乗しろ! 目標は、前方の敵領軍! 敵将を切り伏せ、次の将を討つ!」
『オオオォォオオォォオオオオオオッ!!』
ローゼン公爵の叫びに老兵達は応え、
全員が騎馬に乗り手綱を引き締め、
それぞれの武器を構える。
殿の部隊が並ぶ後ろには、領軍と避難民達。
それ等を率いる各将とセルジアスに視線を向けるローゼン公爵は、
ローゼン公爵家の家紋が取り付けられた赤い旗槍を掲げて合図を送った。
そして鬼気とした笑みで、ローゼン公爵は殿部隊に命じた。
「行くぞッ!!」
『オオオオオオオオオオオオ――!!』
命令に応じた百の騎兵が、
前方に広がり見える光景に突撃を開始する。
それに応じてセルジアス指揮下の領軍も進行を開始し、
道を切り開く特攻と殿軍の後を追った。
この時、反旗を翻した帝国貴族は予想していなかった。
ここまで早くローゼン公爵領軍が突撃準備を整え、
包囲したばかりの自領軍に向けて進攻を開始していた事を。
そして戦場の知識に乏しい領兵達も、
横這いから堂々と向かって来る百の騎兵を、
自分達と同じ反乱軍だと思ってしまった。
ローゼン公爵の読み通り、
連携が整えられていなかった反乱勢力は、
誰が味方でどの位置に配置され動くかの情報が、
末端まで行き届いていなかった
そして目の前から来る騎兵達の中に、
赤い鎧を身に付けたローゼン公爵の姿が肉眼で見えた時。
その時には既に遅く、
百の騎兵は疎らの兵の中へ突っ込み、
将が構える貴族旗を目指して突撃していた。
「雑兵など放置しろ! 狙いは敵の大将首のみ!」
『オオォッ!!』
そう高らかに告げるローゼン公爵は、
貴族旗の掲げられた陣営を発見する。
そして驚きながら天幕を出て来た腹の出た髭男を見て、
ローゼン公爵は鬼気とした顔を向けて怒鳴った。
「戦場に居ながら鎧も着ずに、情けない!」
「!?」
「貴様なぞ、戦場の置物にも至らんわ!!」
「ロ、ローゼン!? ヒ、ヒィ……!!」
ローゼン公爵は馬上から飛び、
天幕の中に再び潜り逃げる腹の出た貴族を、
赤い槍の刃で刺し貫いた。
背中から貫かれた反乱貴族は大量の血を流して死に、
天幕の中に居た裸の女達は短い悲鳴を上げた。
それを見て苛立ちを抱きながら、
ローゼン公爵は近寄ってきた白馬へ再び騎乗し、
他に散らばる騎兵達に呼び掛けた。
他の騎兵達も上質な天幕に乗り込み、
敵領の幹部を仕留めていた。
「頭は潰した! これより次の陣を攻める! 皆の者、付いて来い!」
『オオッ!!』
そうして、ローゼン公爵は敵陣地から騎兵達を離し、
次の反乱貴族の陣営を攻める為に包囲の外側を移動し、
隊列の後方に陣取る指揮者と思われる者達を襲い続けた。
本軍であるセルジアスが率いたローゼン公爵領軍は、
統率者を失った敵領軍陣地を突き進み、
包囲網を突破するのに成功する
この時に事態の変化を感じた王国軍は、
包囲を縮めるように進軍を開始する。
しかし、帝国側の反乱軍が敷いた包囲は完全に崩され、
殿の騎兵達に翻弄され連携も築けていない反乱軍は、
ローゼン公爵領軍に易々と突破されていた。
殿の部隊は西側から包囲を突き崩し、
南下しながら包囲する陣営を強襲し続ける。
そして強襲した陣営が十にも届く頃。
流石に反乱貴族達も事態を察知し、
守りを固めて強襲が容易く行えなくなる。
更に馬と老兵達も疲労の頂点に達し、
戦いに脱落者が多く出始めた。
ローゼン公爵は後ろを振り返り、
副官に据えた兵に尋ねて状況を把握した。
「残った数は?」
「……付いて来れたのは、三十騎も満たないかと」
「そうか……。セルジアス達は?」
「反乱軍を突破し、追撃してくる敵を蹴散らしながら順調に進んでいる頃合かと」
「そうだな」
百名の騎兵が三十名以下に達し、
ローゼン公爵は既に目標を達成したと判断する。
そして残った騎兵達に向けて高らかに声を掲げた。
「皆の者、我等の目標は達した! これより我が領に帰還する!」
「!」
「ここで生き残った者達は、後の戦いで活躍の場がある! その時こそ、反乱貴族の頭目たるゲルガルドの首を掲げ、我等が勝利を高らかに吼えようぞ!」
『オオォッ!!』
そう叫び伝えたローゼン公爵は、
自領へ戻る為に馬を緩やかに走らせ、
道中にある敵領内の森に潜み休息を取った。
しかし、その日の明け方。
見張りをしていた老兵の一人が何かを発見し、
寝ている者達を起こし伝令していく。
それはローゼン公爵の耳にも入った。
「閣下」
「敵襲か?」
「いえ。しかし、外からこの森を見ている者がいると……」
「……生き残っていた者か?」
「監視の者が見た限りは、我々の同胞では無いそうです」
「……全員に馬の準備を進めさせろ。この森から出る」
「討つのですか?」
「いや、敵斥候の可能性が高い。位置を知らされ追撃されるのも面倒だ。無視して帰路を急ぐ」
「ハッ」
「……嫌な予感がするな」
その報告を聞いた時、ローゼン公爵は予感を感じた。
数々の戦場を経験した戦歴がすぐに動くべきだと判断させる。
そして全員が森の外付近まで馬を連れ、
騎乗して森の外へ走り出した。
そして数分間ほど走らせると、
後方から一騎の馬が追跡して来るのをローゼン公爵も確認する。
茶色の外套を羽織り顔を隠した姿で追跡を開始した相手を、
全員が確認するように後ろを見た。
「奴か。……確かに、我が領軍の者ではないな」
「鎧も、武器さえ身に付けていないように見えます」
「……斥候にしても、連絡用の魔道具すら持っていないのは不自然過ぎる。何者だ?」
訝しげに追跡者を見るローゼン公爵の両脇から、
二名の老兵が馬を下げながら買って出た。
「閣下。このまま追跡されるのは危険かと」
「ここは我等が食い止めます。その間に、閣下達は領を目指して御進み下さい」
「……分かった。奴の馬を仕留めろ。足さえ止めればいい」
「ハッ」
そう進言した二名の老兵に許可を出し、
馬を走らせながら横に広がり下がった二名は、
後ろの追跡者に向かった。
二名の内、一人は魔法が扱える術者。
もう一人は騎乗し駆けながら敵を射止める優秀な弓兵。
この二名なら追跡者に対処できると考え、
ローゼン公爵は許可を出した。
下がった老兵達が馬を走らせつつ追跡者の横に並び、
片や弓を構え、片や短杖を持ち構えた。
追跡者の馬に狙いを定めて矢を引き絞り、杖で魔法を放とうとする。
その瞬間を、ローゼン公爵は目にした。
「!!」
弓を構えた老兵が突如として落馬する。
そして短杖を持つ老兵も突如として落馬した。
先に進む全員がそれを目にして驚き、
ローゼン公爵は怒気を含んで言い放った。
「全員、そのまま馬を駆けさせろ!」
「か、閣下!?」
「奴は強い!」
「!?」
「一瞬で、ナイフのような物を投げて二人を仕留めていた!」
「!!」
「お前達では敵わん! そして、これ以上の犠牲は私が許さん!」
顎に力を込め、悔しくも苦々しい表情を浮かべるローゼン公爵は、
今更になって足止めを許可した事を後悔する。
追跡者の強さを見誤り、
生き残った臣下を二名も死なせてしまった事が許せなかったのだ。
そして、馬を休ませるには時間が足らなかった。
追跡者の馬は速度を上げていないが、
味方の馬は疲弊を拭いきれず距離を詰められ、
徐々に速度を落としていく。
全体の騎兵速度が落ち、
後方に居た老兵の一人が追跡者の射程距離に入った。
その瞬間、追跡者が老兵に向けてナイフを投げ、
老兵の後ろ首に突き刺さり、そのまま落馬し絶命する。
それを見たローゼン公爵は、怒りを交えた苦々しい顔を見せた。
「あれは、まさか食器のナイフか! ……クソッ!!」
「閣下!」
「ここは我々が、全員で奴に懸かります!」
「クラウス様は、そのまま御進みください!」
「ローゼン公、どうか我々にお任せを!」
数名の老兵達がそう志願する声を向けると、
ローゼン公爵は軽く呼吸をして志願した者達に声を返した。
「お前達では奴に殺されるだけだ。足止めにもならん」
「!!」
「だが、奴に対抗し足止め出来る者は、まだ残っている」
「そ、それは誰ですか!?」
「私だ」
「!?」
総大将たるローゼン公爵が足止めをする。
その発言に部下達は驚き、止めようとした。
「閣下、何を言っているんです!? 閣下自身が足止めなど!!」
「奴を食い止められるのは、我が馬と我が技量でしか成し得ない」
「ならば我等も!」
「駄目だ。余計な死体が増えるだけだ」
「!!」
「ゲルガルドめ、あんな逸材まで隠し持っていたか。……貴様等は全員、我が領を目指して突き進め! それがお前達の役目だ!」
「!?」
「そしてセルジアスに伝えてくれ。後の事は、任せたとな」
それを伝えたローゼン公爵は隊列から離れる。
そして追跡者はローゼン公爵が離れたのを見ると、
そちらに馬を向けて駆け続けた。
追跡者の狙いが判明した瞬間、老いた臣下は叫んだ。
「閣下!!」
「皆の者、後は頼んだぞ!」
ローゼン公爵は白馬を走らせ、
ローゼン公爵領とは真逆の南側に向けて馬を駆けさせた。
追跡者もそれを追い南へ向かう。
その後のローゼン公爵勢力は、
クラウス=イスカル=フォン=ローゼンの消息を掴めなかった。
それから数日後。
ローゼン公爵の死が公式的に発表される。
そして息子セルジアスがローゼン新公爵を継承した事も発表された。
セルジアスが予期した通り、
帝国内の各領の貴族達が反旗して挙兵し、
国境に留まるローゼン公爵領軍に半包囲を敷いた。
それに連動した王国軍も半包囲態勢で国境線で展開し、
ローゼン公爵軍は包囲下に置かれる事になる。
それに動揺せず決められた通りに、
各配下の将達とセルジアスは領軍の大半を率い、
民を守りながら自領へ帰還する指揮を行った。
一方で殿軍の準備が整えられ、完了する。
ローゼン公爵率いる囮の人数は、僅か百名の騎兵。
いずれもローゼン公爵と付き合いが長い、
四十歳から六十歳以上の歴戦の老兵が集められ、
それぞれが鬼気とした笑みを浮かべながら、
先頭に立つ為に歩み通るローゼン公爵に話し掛けた。
「閣下!」
「クラウスの旦那、いよいよですか!」
「ついに狸共の腹を圧し潰してやれるんですねぇ!」
「目にもの見せてやりましょう!」
それぞれの老兵達がローゼン公爵に呼び掛け、
それに応えるようにローゼン公爵は不敵の笑みを浮かべる。
赤い魔鉄の鎧姿を身に付けた白馬に騎乗するローゼン公爵は、
死地へ赴く仲間達に向けて、雄々しく槍を掲げて伝えた。
「今日まで老いた身を鍛え抜いた同胞達よ! 我々はこれより、若者が進む為の道を切り開く!」
『オオォオオオオオオ――!!』
「今まで堕した貴族共に煮え湯を飲まされた者達よ! その恨みを剣と槍に乗せ、奴等を切り伏せろ! 弓を持つ者は怒りの矢を放て!」
『オオオオオオオオオ――!!』
「その死地には、このクラウス=イスカル=フォン=ローゼンが導く! 貴様達は俺を信じ、笑いながら付いて来い! そして若者達の前途を祝し、見送りながら笑って逝こうぞ!」
『ハッハッハッ!!』
「さぁ、全員騎乗しろ! 目標は、前方の敵領軍! 敵将を切り伏せ、次の将を討つ!」
『オオオォォオオォォオオオオオオッ!!』
ローゼン公爵の叫びに老兵達は応え、
全員が騎馬に乗り手綱を引き締め、
それぞれの武器を構える。
殿の部隊が並ぶ後ろには、領軍と避難民達。
それ等を率いる各将とセルジアスに視線を向けるローゼン公爵は、
ローゼン公爵家の家紋が取り付けられた赤い旗槍を掲げて合図を送った。
そして鬼気とした笑みで、ローゼン公爵は殿部隊に命じた。
「行くぞッ!!」
『オオオオオオオオオオオオ――!!』
命令に応じた百の騎兵が、
前方に広がり見える光景に突撃を開始する。
それに応じてセルジアス指揮下の領軍も進行を開始し、
道を切り開く特攻と殿軍の後を追った。
この時、反旗を翻した帝国貴族は予想していなかった。
ここまで早くローゼン公爵領軍が突撃準備を整え、
包囲したばかりの自領軍に向けて進攻を開始していた事を。
そして戦場の知識に乏しい領兵達も、
横這いから堂々と向かって来る百の騎兵を、
自分達と同じ反乱軍だと思ってしまった。
ローゼン公爵の読み通り、
連携が整えられていなかった反乱勢力は、
誰が味方でどの位置に配置され動くかの情報が、
末端まで行き届いていなかった
そして目の前から来る騎兵達の中に、
赤い鎧を身に付けたローゼン公爵の姿が肉眼で見えた時。
その時には既に遅く、
百の騎兵は疎らの兵の中へ突っ込み、
将が構える貴族旗を目指して突撃していた。
「雑兵など放置しろ! 狙いは敵の大将首のみ!」
『オオォッ!!』
そう高らかに告げるローゼン公爵は、
貴族旗の掲げられた陣営を発見する。
そして驚きながら天幕を出て来た腹の出た髭男を見て、
ローゼン公爵は鬼気とした顔を向けて怒鳴った。
「戦場に居ながら鎧も着ずに、情けない!」
「!?」
「貴様なぞ、戦場の置物にも至らんわ!!」
「ロ、ローゼン!? ヒ、ヒィ……!!」
ローゼン公爵は馬上から飛び、
天幕の中に再び潜り逃げる腹の出た貴族を、
赤い槍の刃で刺し貫いた。
背中から貫かれた反乱貴族は大量の血を流して死に、
天幕の中に居た裸の女達は短い悲鳴を上げた。
それを見て苛立ちを抱きながら、
ローゼン公爵は近寄ってきた白馬へ再び騎乗し、
他に散らばる騎兵達に呼び掛けた。
他の騎兵達も上質な天幕に乗り込み、
敵領の幹部を仕留めていた。
「頭は潰した! これより次の陣を攻める! 皆の者、付いて来い!」
『オオッ!!』
そうして、ローゼン公爵は敵陣地から騎兵達を離し、
次の反乱貴族の陣営を攻める為に包囲の外側を移動し、
隊列の後方に陣取る指揮者と思われる者達を襲い続けた。
本軍であるセルジアスが率いたローゼン公爵領軍は、
統率者を失った敵領軍陣地を突き進み、
包囲網を突破するのに成功する
この時に事態の変化を感じた王国軍は、
包囲を縮めるように進軍を開始する。
しかし、帝国側の反乱軍が敷いた包囲は完全に崩され、
殿の騎兵達に翻弄され連携も築けていない反乱軍は、
ローゼン公爵領軍に易々と突破されていた。
殿の部隊は西側から包囲を突き崩し、
南下しながら包囲する陣営を強襲し続ける。
そして強襲した陣営が十にも届く頃。
流石に反乱貴族達も事態を察知し、
守りを固めて強襲が容易く行えなくなる。
更に馬と老兵達も疲労の頂点に達し、
戦いに脱落者が多く出始めた。
ローゼン公爵は後ろを振り返り、
副官に据えた兵に尋ねて状況を把握した。
「残った数は?」
「……付いて来れたのは、三十騎も満たないかと」
「そうか……。セルジアス達は?」
「反乱軍を突破し、追撃してくる敵を蹴散らしながら順調に進んでいる頃合かと」
「そうだな」
百名の騎兵が三十名以下に達し、
ローゼン公爵は既に目標を達成したと判断する。
そして残った騎兵達に向けて高らかに声を掲げた。
「皆の者、我等の目標は達した! これより我が領に帰還する!」
「!」
「ここで生き残った者達は、後の戦いで活躍の場がある! その時こそ、反乱貴族の頭目たるゲルガルドの首を掲げ、我等が勝利を高らかに吼えようぞ!」
『オオォッ!!』
そう叫び伝えたローゼン公爵は、
自領へ戻る為に馬を緩やかに走らせ、
道中にある敵領内の森に潜み休息を取った。
しかし、その日の明け方。
見張りをしていた老兵の一人が何かを発見し、
寝ている者達を起こし伝令していく。
それはローゼン公爵の耳にも入った。
「閣下」
「敵襲か?」
「いえ。しかし、外からこの森を見ている者がいると……」
「……生き残っていた者か?」
「監視の者が見た限りは、我々の同胞では無いそうです」
「……全員に馬の準備を進めさせろ。この森から出る」
「討つのですか?」
「いや、敵斥候の可能性が高い。位置を知らされ追撃されるのも面倒だ。無視して帰路を急ぐ」
「ハッ」
「……嫌な予感がするな」
その報告を聞いた時、ローゼン公爵は予感を感じた。
数々の戦場を経験した戦歴がすぐに動くべきだと判断させる。
そして全員が森の外付近まで馬を連れ、
騎乗して森の外へ走り出した。
そして数分間ほど走らせると、
後方から一騎の馬が追跡して来るのをローゼン公爵も確認する。
茶色の外套を羽織り顔を隠した姿で追跡を開始した相手を、
全員が確認するように後ろを見た。
「奴か。……確かに、我が領軍の者ではないな」
「鎧も、武器さえ身に付けていないように見えます」
「……斥候にしても、連絡用の魔道具すら持っていないのは不自然過ぎる。何者だ?」
訝しげに追跡者を見るローゼン公爵の両脇から、
二名の老兵が馬を下げながら買って出た。
「閣下。このまま追跡されるのは危険かと」
「ここは我等が食い止めます。その間に、閣下達は領を目指して御進み下さい」
「……分かった。奴の馬を仕留めろ。足さえ止めればいい」
「ハッ」
そう進言した二名の老兵に許可を出し、
馬を走らせながら横に広がり下がった二名は、
後ろの追跡者に向かった。
二名の内、一人は魔法が扱える術者。
もう一人は騎乗し駆けながら敵を射止める優秀な弓兵。
この二名なら追跡者に対処できると考え、
ローゼン公爵は許可を出した。
下がった老兵達が馬を走らせつつ追跡者の横に並び、
片や弓を構え、片や短杖を持ち構えた。
追跡者の馬に狙いを定めて矢を引き絞り、杖で魔法を放とうとする。
その瞬間を、ローゼン公爵は目にした。
「!!」
弓を構えた老兵が突如として落馬する。
そして短杖を持つ老兵も突如として落馬した。
先に進む全員がそれを目にして驚き、
ローゼン公爵は怒気を含んで言い放った。
「全員、そのまま馬を駆けさせろ!」
「か、閣下!?」
「奴は強い!」
「!?」
「一瞬で、ナイフのような物を投げて二人を仕留めていた!」
「!!」
「お前達では敵わん! そして、これ以上の犠牲は私が許さん!」
顎に力を込め、悔しくも苦々しい表情を浮かべるローゼン公爵は、
今更になって足止めを許可した事を後悔する。
追跡者の強さを見誤り、
生き残った臣下を二名も死なせてしまった事が許せなかったのだ。
そして、馬を休ませるには時間が足らなかった。
追跡者の馬は速度を上げていないが、
味方の馬は疲弊を拭いきれず距離を詰められ、
徐々に速度を落としていく。
全体の騎兵速度が落ち、
後方に居た老兵の一人が追跡者の射程距離に入った。
その瞬間、追跡者が老兵に向けてナイフを投げ、
老兵の後ろ首に突き刺さり、そのまま落馬し絶命する。
それを見たローゼン公爵は、怒りを交えた苦々しい顔を見せた。
「あれは、まさか食器のナイフか! ……クソッ!!」
「閣下!」
「ここは我々が、全員で奴に懸かります!」
「クラウス様は、そのまま御進みください!」
「ローゼン公、どうか我々にお任せを!」
数名の老兵達がそう志願する声を向けると、
ローゼン公爵は軽く呼吸をして志願した者達に声を返した。
「お前達では奴に殺されるだけだ。足止めにもならん」
「!!」
「だが、奴に対抗し足止め出来る者は、まだ残っている」
「そ、それは誰ですか!?」
「私だ」
「!?」
総大将たるローゼン公爵が足止めをする。
その発言に部下達は驚き、止めようとした。
「閣下、何を言っているんです!? 閣下自身が足止めなど!!」
「奴を食い止められるのは、我が馬と我が技量でしか成し得ない」
「ならば我等も!」
「駄目だ。余計な死体が増えるだけだ」
「!!」
「ゲルガルドめ、あんな逸材まで隠し持っていたか。……貴様等は全員、我が領を目指して突き進め! それがお前達の役目だ!」
「!?」
「そしてセルジアスに伝えてくれ。後の事は、任せたとな」
それを伝えたローゼン公爵は隊列から離れる。
そして追跡者はローゼン公爵が離れたのを見ると、
そちらに馬を向けて駆け続けた。
追跡者の狙いが判明した瞬間、老いた臣下は叫んだ。
「閣下!!」
「皆の者、後は頼んだぞ!」
ローゼン公爵は白馬を走らせ、
ローゼン公爵領とは真逆の南側に向けて馬を駆けさせた。
追跡者もそれを追い南へ向かう。
その後のローゼン公爵勢力は、
クラウス=イスカル=フォン=ローゼンの消息を掴めなかった。
それから数日後。
ローゼン公爵の死が公式的に発表される。
そして息子セルジアスがローゼン新公爵を継承した事も発表された。
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その時、彼女は父親に静かに反抗をする。
怒り狂った父は勘当を言い渡すが、また颯爽と家を出るヴァレンティーナ。
彼女は妹分のメイドのアリスと一緒に旅を始める。
雨の山道で助けを求めた少年がキッカケで、ヴァレンティーナは一人の男、ラファエルと出逢う。
精悍なラファエルは一体どんな男なのか?
ほんの数日の間に燃え上がる恋。
初めての感情に、ヴァレンティーナは戸惑うが……。
強く生きる男装の令嬢・ヴァレンティーナが見つけた愛の行方は……。
◇◇ヴァレンティーナ・サンドラス(20)◇◇
伯爵令嬢。黒髪で長身。祖母が考案したマルテーナ剣術という二刀流剣術の使い手。
美しい顔立ちで普段から男装をしている。
◇◇ラファエル・ラウドュース(22)◇◇
辺境の地で、大きな屋敷に住む好青年。
村の皆に慕われ、剣道場も開いている。
茶色の柔らかい髪に、琥珀色の瞳。剣士の体つき。
◇◇アリス(18)◇◇
メイド。
ヴァレンティーナに拾われた過去から、彼女を何よりも慕っている。
明るく可愛い人気者。
◇◇ルーク◇◇
山道で助けを求めていた少年。
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後半、更新夜です。
5万字程度の中編作品です。
このお話はなろう様、ベリーズカフェ様でも投稿しております。
過去に「二刀流令嬢」という掌編小説を書きましたが、話は全く別物です。
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