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南国編 四章:マシラとの別れ
覚悟の謁見
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事件後に目覚めたマシラ王ウルクルスは、
アリアとの邂逅後に元老院と政府高官、
そして審問官を呼び、全ての事情を説明した。
今回の事件が全て、
自身の自作自演での自殺劇であったこと。
それを聞いた高官と元老院は、
驚き以上に納得を見せていた。
不可解な事件の始まりと不可解な経過は、
政府高官達や元老院達に大きな混乱を呼び、
意思の統一さえ難しい状態にさせていたのだ。
そうして、マシラ王自身から提案された事情聴取が進み、
今回の事態の全貌が明らかになった。
今回の実行犯、及び計画主犯はマシラ王だったが、
マシラ王の計画に助言し手を貸して知恵を与えた人物が、
マシラ王自身の口から浮上したのだ。
その人物は拘束され、現在は王宮内にて囚われている。
その人物の名を聞き、
各々が納得さえしてしまったのは、
その人物がそれ相応の行動を起こしかねない事を、
全員が心の隅で懸念していたからだろう。
その人物は闘士に所属する第五席、テクラノス。
元国際指名手配犯である魔法師であり、
ゴズヴァールが管理していた犯罪奴隷だった。
「――……テクラノス。貴様は全てを知っていたというわけか」
「……」
そのテクラノスを拘束したのは言わずもがな、
犯罪奴隷として管理していたゴズヴァールだった。
説明された最初は、
闘士長たるゴズヴァールの関与を疑う者もいたが、
マシラ王自身からゴズヴァールの関与は無かったと説明し、
テクラノスのみに相談した事だと供述したことで、
ゴズヴァールが今回の事件に関わりは無いとされ、
拘束される事態にはならなかった。
しかし直接の関与で拘束されたテクラノスは、
独房の中でゴズヴァールと向かい合い、
今回の事件に関与していた事を尋問されていた。
「答えろ、テクラノス」
「……ああ、全て知っておったよ。王子がすり替わっておったのも。マシラ王がどうして倒れたかも。全ての」
「……」
「仮に我が関わっておらねば、王子のすり替わりなど瞬く間に見破っておったわ。だからこそ、皆が王子のすり替わりに気付けぬというものよ」
「……何故、そんな助言を王にした」
「異な事を言う。我は犯罪奴隷であり、このマシラ国の所有物となっておる。その国の王である者に命じられた事に従うなと、そう言うつもりかね」
「……」
「我は王に命じられ、王子の母たる奴隷の娘が死んだ原因を調べ報告し、秘術の魔法式を解析し魂の帰還を封じる方法を教え、王子のすり替わりを手伝い、王が毒で倒れたと思わせるように工作した。全ては御主が忠義を果たす、王自身に命じられた事よ」
「……ッ」
「付け加えれば、王子の母であった奴隷。それに毒を盛り殺めた実行犯の給仕は、既に王宮を出て金を持たされた後に、主犯の手の者に殺されておったわ。関わった他の者達も、全て不審な死を遂げておる」
「!」
「主犯は元老院の一人。血縁者の娘を王に宛がおうと思ったものの、王があの奴隷の娘に御執心であったのが解せなかったようじゃな。度々ながら雇った給仕を使い、あの奴隷の娘に嫌がらせもしておったようじゃ」
「……ッ」
「それに、あの奴隷の娘の元所有者で、度々世話しておった老婆。あの者には兵士だった息子とその家族が別の町に居ったそうじゃが、その主犯の手の者に魔物狩りを命じられ、七年前に死んだ事になっておる。魔物にではなく、手の者によって殺されたようじゃ。その息子の家族も同様、流行り病にて死んだとされておるが、毒を薬と偽り飲まされていたようじゃな」
「……その主犯の名は?」
「マシラ共和国の西部と言えば、分かるじゃろ」
「……奴か」
ゴズヴァールはテクラノスの供述を聞く中で、
王子の母親である元犯罪奴隷のレミディアを殺した者を知った。
その目には静かな怒りが宿り、
全身に沸き上がる魔力が溢れ始める。
それはゴズヴァール自身、
レミディアの死が病死ではなく、
毒殺だという真実を知った瞬間でもあったからだ。
「……奴には、俺が直々に手を下す。一思いには殺さん」
「我は調べろと言われただけじゃ。それはお前さんが勝手にやるがいい、ゴズヴァール」
「王子のすり替えは、どうやった?」
「儂の伝手で頼んだ。闇魔術に長けた者にな」
「そいつは誰で、今は何処にいる?」
「本物の王子が戻ってきておるということは、もう消えておるということじゃろう。依頼のみで直接は会っておらぬし、王も会った際には偽りの姿でと述べたじゃろ。裏の者ゆえ名は知らぬ。だが、其奴の所属する組織の通り名は知っておる」
「通り名は?」
「【結社】という、魔法師社会の裏に潜む者達よ。金には興味は無いが、魔法関連の情報を報酬として払えば、どのような仕事も請け負う者達よ」
「……」
「実行犯は、儂は本当に知らぬ。儂が奴等と共に居ったのも、お前さんに負けて捕らわれる数十年前にもなるからの」
「……その言葉、今は信じてやろう」
そう告げたゴズヴァールは独房から出た。
しかしテクラノスの拘束は今現在も続いている。
マシラ王とテクラノスの供述で事件の概要が全て明らかになり、
兵士達と闘士達は厳戒態勢を解除し、
マシラ共和国の首都で掛けられていた大幅な規制か解除された。
その際、足早に首都から馬車に乗って去りながら、
自分の拠点である西部へ逃げるように戻ろうとした元老院の一人が、
魔獣に襲われ無残な遺体となっている不幸な報せが届いた。
その報告をゴズヴァール本人から届けられた元老院の誰もが、
怯えを含む顔は見せても、悲しむ様子は見せなかったという。
こうしてマシラ王ウルクルスが企てた事件と、
王子アレクサンデルを取り巻いていた事件は内密に解決され、
マシラ共和国に再び平和が取り戻されつつある。
そんな中、監視が付けられながらも快復に向かうマシラ王に、
一つの報せがゴズヴァール伝手に届けられた。
「謁見か?」
「是非とも、ウルクルス様を拝謁したいと言う者がいると」
「この時期にか」
「はい」
「……私が言えた事ではないが、元老院やお前達は、今の私を他の者と接触させたくはあるまい」
「元老院の者達からは、既に承諾を得ております。……そして、王には是非とも、その者と謁見をして頂きたいと、私自身が思っております」
「……そうか。お前達がそう言うのであれば、私は拒まないし拒めない。私の方はいつでも構わないと、伝えてくれ」
「はっ」
元老院の許可だけでなく、
ゴズヴァールが勧める人物の謁見という事で、
ややマシラ王は緊張を宿しながらも、
アリアとの圧迫面談の時に比べれば遥かにマシだと、
そう考えながら謁見の日まで待った。
その報せから二日後、マシラ王への謁見が行われた。
快復に向かい始め、肌の色に生気は戻りながらも、
表情や頬の窶れが残る顔立ちでマシラ王は正装を施され、
玉座の間でマシラ王ウルクルスとしての正式な謁見が行われた。
傍らにアレクサンデル王子を伴い、
ゴズヴァールが控えている中で、
玉座の間を閉じた大きな扉が開かれると、
数名の闘士を両脇に控えながら、謁見を行う者が入って来た。
元老院を含む高官の幾人かも謁見の列に並び、
謁見を行う者の顔を覗き見ていく。
そして幾人かが、その髪と顔を見て驚きを深めた。
腰の左右に長剣と小剣を携え、
癖毛のある髪をある程度まで整え、
黒い外套と白い礼服を身に付けた身綺麗な女剣士。
その人物が玉座に近付くにつれて、
玉座に座る王自身も相手の様相で気付き、
心の隅に残っていた僅かな思いが溢れてきた。
「まさか……」
「――……お初に御目にかかります。マシラ王、ウルクルス陛下」
目の前に現れ段差の下で跪いた赤毛の女性に、
思わずマシラ王は立ち上がりそうになった。
しかし傍に控えていたゴズヴァールに制止され、
玉座に腰を付けて咳払いをしつつ、
王としての体面を崩さずに赤毛の女性に話し掛けた。
「……マシラ共和国、第二代マシラ王。ウルクルス=ガランド=マシラである。……そなたは?」
「私は、傭兵ギルドに所属し依頼を受ける事を生業とする者です。傭兵としての名は、ケイルと申します」
「傭兵としての、名……?」
「……しかし幼少時には、リディアという名で家族から呼ばれていました」
「!」
リディアと名乗る目の前の女性に、
マシラ王は初めて生気を戻したような明るい瞳を見せた。
その名前は王にとって、
そして王が愛した女性にとって、
とても特別な名前だった。
アリアとの邂逅後に元老院と政府高官、
そして審問官を呼び、全ての事情を説明した。
今回の事件が全て、
自身の自作自演での自殺劇であったこと。
それを聞いた高官と元老院は、
驚き以上に納得を見せていた。
不可解な事件の始まりと不可解な経過は、
政府高官達や元老院達に大きな混乱を呼び、
意思の統一さえ難しい状態にさせていたのだ。
そうして、マシラ王自身から提案された事情聴取が進み、
今回の事態の全貌が明らかになった。
今回の実行犯、及び計画主犯はマシラ王だったが、
マシラ王の計画に助言し手を貸して知恵を与えた人物が、
マシラ王自身の口から浮上したのだ。
その人物は拘束され、現在は王宮内にて囚われている。
その人物の名を聞き、
各々が納得さえしてしまったのは、
その人物がそれ相応の行動を起こしかねない事を、
全員が心の隅で懸念していたからだろう。
その人物は闘士に所属する第五席、テクラノス。
元国際指名手配犯である魔法師であり、
ゴズヴァールが管理していた犯罪奴隷だった。
「――……テクラノス。貴様は全てを知っていたというわけか」
「……」
そのテクラノスを拘束したのは言わずもがな、
犯罪奴隷として管理していたゴズヴァールだった。
説明された最初は、
闘士長たるゴズヴァールの関与を疑う者もいたが、
マシラ王自身からゴズヴァールの関与は無かったと説明し、
テクラノスのみに相談した事だと供述したことで、
ゴズヴァールが今回の事件に関わりは無いとされ、
拘束される事態にはならなかった。
しかし直接の関与で拘束されたテクラノスは、
独房の中でゴズヴァールと向かい合い、
今回の事件に関与していた事を尋問されていた。
「答えろ、テクラノス」
「……ああ、全て知っておったよ。王子がすり替わっておったのも。マシラ王がどうして倒れたかも。全ての」
「……」
「仮に我が関わっておらねば、王子のすり替わりなど瞬く間に見破っておったわ。だからこそ、皆が王子のすり替わりに気付けぬというものよ」
「……何故、そんな助言を王にした」
「異な事を言う。我は犯罪奴隷であり、このマシラ国の所有物となっておる。その国の王である者に命じられた事に従うなと、そう言うつもりかね」
「……」
「我は王に命じられ、王子の母たる奴隷の娘が死んだ原因を調べ報告し、秘術の魔法式を解析し魂の帰還を封じる方法を教え、王子のすり替わりを手伝い、王が毒で倒れたと思わせるように工作した。全ては御主が忠義を果たす、王自身に命じられた事よ」
「……ッ」
「付け加えれば、王子の母であった奴隷。それに毒を盛り殺めた実行犯の給仕は、既に王宮を出て金を持たされた後に、主犯の手の者に殺されておったわ。関わった他の者達も、全て不審な死を遂げておる」
「!」
「主犯は元老院の一人。血縁者の娘を王に宛がおうと思ったものの、王があの奴隷の娘に御執心であったのが解せなかったようじゃな。度々ながら雇った給仕を使い、あの奴隷の娘に嫌がらせもしておったようじゃ」
「……ッ」
「それに、あの奴隷の娘の元所有者で、度々世話しておった老婆。あの者には兵士だった息子とその家族が別の町に居ったそうじゃが、その主犯の手の者に魔物狩りを命じられ、七年前に死んだ事になっておる。魔物にではなく、手の者によって殺されたようじゃ。その息子の家族も同様、流行り病にて死んだとされておるが、毒を薬と偽り飲まされていたようじゃな」
「……その主犯の名は?」
「マシラ共和国の西部と言えば、分かるじゃろ」
「……奴か」
ゴズヴァールはテクラノスの供述を聞く中で、
王子の母親である元犯罪奴隷のレミディアを殺した者を知った。
その目には静かな怒りが宿り、
全身に沸き上がる魔力が溢れ始める。
それはゴズヴァール自身、
レミディアの死が病死ではなく、
毒殺だという真実を知った瞬間でもあったからだ。
「……奴には、俺が直々に手を下す。一思いには殺さん」
「我は調べろと言われただけじゃ。それはお前さんが勝手にやるがいい、ゴズヴァール」
「王子のすり替えは、どうやった?」
「儂の伝手で頼んだ。闇魔術に長けた者にな」
「そいつは誰で、今は何処にいる?」
「本物の王子が戻ってきておるということは、もう消えておるということじゃろう。依頼のみで直接は会っておらぬし、王も会った際には偽りの姿でと述べたじゃろ。裏の者ゆえ名は知らぬ。だが、其奴の所属する組織の通り名は知っておる」
「通り名は?」
「【結社】という、魔法師社会の裏に潜む者達よ。金には興味は無いが、魔法関連の情報を報酬として払えば、どのような仕事も請け負う者達よ」
「……」
「実行犯は、儂は本当に知らぬ。儂が奴等と共に居ったのも、お前さんに負けて捕らわれる数十年前にもなるからの」
「……その言葉、今は信じてやろう」
そう告げたゴズヴァールは独房から出た。
しかしテクラノスの拘束は今現在も続いている。
マシラ王とテクラノスの供述で事件の概要が全て明らかになり、
兵士達と闘士達は厳戒態勢を解除し、
マシラ共和国の首都で掛けられていた大幅な規制か解除された。
その際、足早に首都から馬車に乗って去りながら、
自分の拠点である西部へ逃げるように戻ろうとした元老院の一人が、
魔獣に襲われ無残な遺体となっている不幸な報せが届いた。
その報告をゴズヴァール本人から届けられた元老院の誰もが、
怯えを含む顔は見せても、悲しむ様子は見せなかったという。
こうしてマシラ王ウルクルスが企てた事件と、
王子アレクサンデルを取り巻いていた事件は内密に解決され、
マシラ共和国に再び平和が取り戻されつつある。
そんな中、監視が付けられながらも快復に向かうマシラ王に、
一つの報せがゴズヴァール伝手に届けられた。
「謁見か?」
「是非とも、ウルクルス様を拝謁したいと言う者がいると」
「この時期にか」
「はい」
「……私が言えた事ではないが、元老院やお前達は、今の私を他の者と接触させたくはあるまい」
「元老院の者達からは、既に承諾を得ております。……そして、王には是非とも、その者と謁見をして頂きたいと、私自身が思っております」
「……そうか。お前達がそう言うのであれば、私は拒まないし拒めない。私の方はいつでも構わないと、伝えてくれ」
「はっ」
元老院の許可だけでなく、
ゴズヴァールが勧める人物の謁見という事で、
ややマシラ王は緊張を宿しながらも、
アリアとの圧迫面談の時に比べれば遥かにマシだと、
そう考えながら謁見の日まで待った。
その報せから二日後、マシラ王への謁見が行われた。
快復に向かい始め、肌の色に生気は戻りながらも、
表情や頬の窶れが残る顔立ちでマシラ王は正装を施され、
玉座の間でマシラ王ウルクルスとしての正式な謁見が行われた。
傍らにアレクサンデル王子を伴い、
ゴズヴァールが控えている中で、
玉座の間を閉じた大きな扉が開かれると、
数名の闘士を両脇に控えながら、謁見を行う者が入って来た。
元老院を含む高官の幾人かも謁見の列に並び、
謁見を行う者の顔を覗き見ていく。
そして幾人かが、その髪と顔を見て驚きを深めた。
腰の左右に長剣と小剣を携え、
癖毛のある髪をある程度まで整え、
黒い外套と白い礼服を身に付けた身綺麗な女剣士。
その人物が玉座に近付くにつれて、
玉座に座る王自身も相手の様相で気付き、
心の隅に残っていた僅かな思いが溢れてきた。
「まさか……」
「――……お初に御目にかかります。マシラ王、ウルクルス陛下」
目の前に現れ段差の下で跪いた赤毛の女性に、
思わずマシラ王は立ち上がりそうになった。
しかし傍に控えていたゴズヴァールに制止され、
玉座に腰を付けて咳払いをしつつ、
王としての体面を崩さずに赤毛の女性に話し掛けた。
「……マシラ共和国、第二代マシラ王。ウルクルス=ガランド=マシラである。……そなたは?」
「私は、傭兵ギルドに所属し依頼を受ける事を生業とする者です。傭兵としての名は、ケイルと申します」
「傭兵としての、名……?」
「……しかし幼少時には、リディアという名で家族から呼ばれていました」
「!」
リディアと名乗る目の前の女性に、
マシラ王は初めて生気を戻したような明るい瞳を見せた。
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そして王が愛した女性にとって、
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