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南国編 三章:マシラの秘術

事件解決

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今からアリアが話す事柄は、
アリアとケイルが共に持ち得る情報を共有し、
今回の事件で起きた出来事を導き出した考察に近い。

しかしそれは、マシラ共和国で起きた今回の事件と、
主犯者達となっていた者達の根幹を突く推論だった。


「まず事の始まり。マシラ王ウルクルス、貴方自身が死者の世界に旅立ち居続ける為に、貴方自身が行った狂言誘拐が、今回の事件の全ての始まりよ」

「!?」

「貴方達マシラの秘術は、秘術継承者である血縁者が傍に居れば、一定の時間が経過した後に強制的に魂が肉体に戻るよう構築されていた。それが秘術に対する安全弁にもなっていたんでしょうね。でも貴方自身は秘術を習い継承しただけに過ぎず、構築式を解析して部分的に解除する知識と技術を持てなかった」

「……」

「だから王子を自分の近くから離す事を計画した。貴方、事件の前に訪問と称して共和国内の村々に王子と一緒に赴いたそうね。その時を狙って、王子を自分の近くから引き離そうと計画した」

「……」

「でも、護衛として来ていたゴズヴァールを始めとした闘士達が、王子を引き離す為に邪魔だった。だから所縁のある術者に頼み、王子を外の町に置いてきたのよ」

「馬鹿な!?」


アリアが話す内容を聞く中で、
ゴズヴァールが否定の意味を込めて口を挟んだ。
それに呆れるように鼻で溜息を吐き出し、
アリアはゴズヴァールの否定に真面目に対応した。


「あの時、王子は王と共に王宮に戻った!」

「替え玉よ」

「替え玉……!?」

「巧妙な闇魔法の使い手が一人か二人もいれば、王子と偽者を交代させるのは可能よ。アンタが王様と一緒に王宮へ戻ったと思った子供は、王子じゃなかったのよ」

「馬鹿な……。では、その替え玉となった子供は何処に居るというのだ!?」

「子供じゃないわ。人形よ」

「にん、ぎょう……?」

「子供用の服を着せる為の木製の人形。それに闇属性の精神憑依系の魔法を施したのよ。さらにその外見を闇魔法の偽装で補強して、王子の姿になる。まだ喋れない王子なら、偽者が黙っていても自然に見える。そんなとこでしょ、王様」

「……その通りだ」

「!?」


アリアの話す替え玉論を否定するゴズヴァールが、
マシラ王自身が頷き肯定する姿を見て絶句した。


「木製の人形は、そこの暖炉か何かで燃やせば証拠は隠滅。王宮に戻ったはずの偽者の王子は、綺麗サッパリ消えました。ということでしょう」

「……流石、才女の姫だ。見てきたかのように当ててしまう」

「王よ。何故そのような……」

「……ゴズヴァール。すまない」


アリアの推理を肯定したマシラ王に、
ゴズヴァールは疑問の言葉を漏らす。
それに謝罪したマシラ王だったが、
それを遮るようにアリアは話を続けた。


「話を続けるわよ。そうして王子を外に置いてきた貴方は、王宮から王子が居なくなった事を教えた。その騒動の中で王子の事を心配する父親である事を演じ、心労で疲弊したフリをしながら、安全弁の無い秘術を自身で実行した」

「……」

「これで病気で倒れた王様という体裁が完成。元老院側も秘術のリスクを知りながらも、王様が秘術の疲弊で倒れたのか、王子の誘拐で心労が重なり病気で倒れたのか。それが判別し難くなった。少しでも死者の世界に長居して、現実の肉体が死ぬまでの時間を稼ぐのが狙いだったんでしょ?」

「……ああ。その通りだ」

「大方、秘術を行使する前に毒でも飲んだんでしょ。医者が診ても毒物を摂取した事しか分からず、その原因も不明になった。闘士達は王である貴方が毒を飲まされた事実に警戒し警備を厳重にして、誰も通さないようにした。元老院側も秘術に対するリスクの知識をある程度知っていたから、大魔導師であるガンダルフを呼んで王様の状態を確認しようとしたけど、各勢力で牽制し合った結果、それすら見送られ続けた」

「……そうだろうな。そうなるだろうと思っていた」

「ここまでは貴方が自殺する為の脚本通りだったということね、マシラ王ウルクルス。厄介な脚本を書いてくれたものだわ」


傍で聞いていたゴズヴァールは最早言葉も無く、
当時者である王子は顔を伏せ辛そうに聞いていた。

そこで溜息を吐き出したアリアが、次の話に進んだ。


「でも、貴方にとってここからが誤算だった。自分が死ぬ前に、王子が首都に戻ってきてしまったのよ」

「……」

「貴方は王子が首都に戻って来れないよう仕組んだつもりだったんでしょうけど、王子は置いてきた場所で発見された。それを見つけた役人と兵士達が、この子を王子だと断定し、首都に連れて来たのよ。王宮に戻す為にね。戻す際には連れている子供が王子だと悟られない為に、変装くらいはさせてたんでしょうね。少ない護衛じゃ、王子を守りきれないでしょうから。だから首都に入る事自体は苦労しなかったはずよ」

「……」

「でもその時には、王子誘拐はマシラ共和国で事件的にも大きくなり過ぎていた。ゴズヴァールを筆頭とした闘士達が血眼になって王子を見つける為に、かなり手荒い捜索をしていたのを聞いたんでしょうね。闘士達の恐ろしさを知っている役人と兵士達は、王子を連れている自分達が誘拐犯だと思われるのが怖くなって、首都の内部で王子の事を報告をする事に躊躇ってしまったのよ。例え真実を話したとしても、闘士達に信じてもらえず拷問されるのは嫌でしょうからね」

「……」

「その証拠に、他の兵士達も闘士達のやり方が気に食わなかったか、あるいは闘士達の相手をさせられる者達に同情したのか。首都から出て行く民に甘い検問をしてたわよ。私達が偽装して首都から逃げようとした時、あっさり通してくれそうになったもの。そりゃあ兵士達から見れば、恐ろしい闘士達の横暴に、善良な国民を付き合わせたくはないでしょうからね」

「……ッ」

「話を戻すけど。闘士達が恐ろしいと思いつつ、王子を連れて来た役人と兵士達はどうするか考え躊躇う中で、事件の様子を窺う為に、王子と共に身を隠す事を選んで首都の下層に降りた。そしてなんとか王子を無事に引き渡し自分達の無実を証明したくて、元老院の代表者達に接触しようとした。でも闘士達の眼を掻い潜りながら元老院側と上手く接触できず、傭兵も王子を誘拐していた者達を探していると知った彼等は、下層を転々として逃げ回っていたのよ」

「……」

「そして王子を連れた彼等を、闘士達より先に見つけたのが私だった。これが私の不運だったわ」


わざとらしい程の大きな溜息を吐き出し、
アリアは自分が王子が見つけた事を話した。


「偶然に通り掛かった異国人の私を傭兵だと察し、王子を誘拐した自分達が捕まり処刑されてしまうと考え、気が動転し憔悴してた彼等は私に襲い掛かり口封じをしようとした。けど、そんな私は彼等を倒して誘拐犯だと誤解し、王子と知らずにその子を保護した。その後、私に王子を連れて行かれた彼等は、自分で捕まりにいった。そうでしょ、ゴズヴァール」

「……ッ」

「王子を連れ去られて、流石に不味いと思ったんでしょうね。知らぬ存ぜんもできずに、覚悟を決めた彼等は、王子を保護し首都まで連れて来た事を闘士達に話した。そして王子が連れ去られたと話した。連れ去った私の特徴を教えてね」

「……」

「それからが素早かったわね。王子を連れ去った私を捕まえる為に、闘士達が動き出した。そして私は捕まった。ゴズヴァールを始めとした連中は、私が王子を誘拐した真犯人だと断定した。それ以外に貴方達は考えようが無いものね」

「……」

「けど、元老院に働きかけて私が誘拐の真犯人ではないと主張した人物がいた。それが闘士の第四席、ケイティルよ」

「!?」

「元老院に強い信頼性と発言力を持つケイティルの証言で、私の身柄をどうするかは一時的に保留する事を元老院が告げた。私を闘士から遠ざけて牢屋から軟禁塔に移動させたのは、そういう経緯だったからなのよね。ゴズヴァール」

「……ッ」

「王が倒れ、今まで王子を探してた闘士達の気持ちも考えれば、不満が残るのも納得だわ。せっかく捕まえた犯人に、なんでそんな事をする必要があるんだってね」

「……」

「けど、互いに得た情報や意見が取り纏められる前に、私の仲間が、エリクが私を取り戻す為に王宮に乗り込んだ。そして闘士と王宮の兵士達を倒して私を救おうとした。結果として彼も囚われ、マシラ共和国の地下監獄に捕らえられてしまった。そして今現在、元老院と闘士の判断で、彼は死刑にされそうになっている」


そこまで話したアリアは、
徐々に怒鳴りつつある自分の感情を抑え、
深呼吸をしながら、今回の出来事を纏めた。


「今回の事件の始まりは全て、アンタの狂言誘拐が原因なのよ。マシラ王ウルクルス」

「……」

「無関係の人間を巻き込んで、鎮火すら危ぶまれる大火事へと発展した。アンタが愛人の魂と添い遂げる為に、自殺したいが為に起こした事でどれだけの人達が迷惑を被ったか、理解した?」

「……ああ」

「それで、この件に関して。アンタはどうケジメを着けるの。答えなさい、マシラ王ウルクルス」


怒りを隠さず睨みつけるアリアに、
マシラ王は一度は顔を伏せ目を逸らしたが、
少し考えるように目を伏せ、改めてアリアに顔を向けた。


「君の望みは?」

「地下牢獄に捕らえられたエリクの早期解放と、私達の自由よ」

「……他には、要らないのか?」

「要らないわ。そもそもアンタの身勝手さで周りに迷惑が掛かったのに、迷惑を被った共和国の民から徴収した税を使って、謝罪金なり謝罪品なり貰って喜ぶような脳構造を、私はしてないわよ」

「……そうか」


それを聞いたマシラ王は納得して頷き、
苦々しい表情を浮かべるゴズヴァールに話し掛けた。


「ゴズヴァール」

「……はい」

「彼女の仲間を解放し、彼女達の自由を保証したい。協力を、してくれるだろうか」

「……承知、しました」

「そして、私自身の罪も、裁かれねばならない」

「!!」

「元老院の者達をここに呼んでくれ。審問官もだ」

「……」

「アレクを連れて来た役人と兵士という者達は、どうなっている?」

「……拘束し、捕らえています」

「彼等も解放してやりたい。彼等は自分の役割を全うしようとした、共和国を担う者達だ」

「……分かりました」


ゴズヴァールはマシラ王に礼を徹し、
その要望に答える事を頷かせた。

それを見て小さく頷くマシラ王は、
息子である王子に顔を向け、優しく頭を撫でた。


「アレク。お前にも、迷惑を掛けてしまったな」

「……お父さん……」

「すまない。私はレミディアを、お前の母を乞うあまり、お前に一度も目を向けていなかった。血族の秘儀を教える時も、父や子としてではなく、弟子に教えるような気持ちだったかもしれない……」

「……」

「……私は、あまりに身勝手な父だ。そんな父でも、許してくれるだろうか……?」

「……うん……」


慈しむように話すマシラ王に、
王子は涙を浮かべながら頷いた。

それを見たマシラ王は少しだけ微笑み、
椅子に座るアリアに向けて顔を向けた。


「後の事は、任せてくれるだろうか?」

「ええ。……念押ししておくけど、私の要望が叶えらず、例えどんな理由でもエリクが死んでしまったら。マシラ血族とそれに関わる連中全ての身を破滅させ、このマシラ共和国を必ず滅ぼすわ。私が用いる知識と知恵と、技術と秘術を全てを用いて。どんな悪辣な手段を使ってもね」

「……分かった。その時には、そうしてくれて構わない。君の願いを叶えられない時点で、マシラという国は、寿命を終えたという事なのだろうから……」

「そうね。元老院の連中にも、よく言っておきなさい。敵に回せば厄介な相手がいることを」

「ああ。……君と話していると、寿命がどんどん削れていくようだ。アルトリア姫……」

「……ふぅ。これで、私の役割も終わりね」


マシラ王にそう約束させた事で、
溜息を吐き出したアリアは顔を上げて天井を見た。
そして顔を下げたアリアは、
改めてマシラ王と王子の顔を見ながら話し掛けた。


「それじゃあ、私はもう行くわ」

「何処へ?」

「いい加減、この身体だと本来の力が出せないし、憑依し続けるのも限界だからね」

「?」

「あっ、そうだ。この身体、後でそこの暖炉で燃やしておいてね。剣はメルクって女闘士に返しといて。杖は、私の荷物にちゃんと戻しておいてよ」

「それは、どういう……」

「それじゃあ、今度会う時があったら、本物の私と会いましょう」


そう告げて微笑んだ後、
椅子に座るアリアが首を項垂れさせた。

それに驚いたマシラ王達は、
今まで動きアリアだと認識していたソレが、
なんだったのかを初めて気付いた。


「人形……!?」

「まさか、今までのは……!?」


今まで目の前に居たアリアが、
金髪のカツラを被り綿布を纏った木製の人形だと、
マシラ王とゴズヴァールは知り驚いた。

椅子に座り項垂れる人形を見ながら、
マシラ王は乾いた笑いを起こした。


「ははは……っ」


マシラ王は苦笑を浮かべ、
ゴズヴァールは絶句したまま固まり、
王子は笑うマシラ王を見ながら微笑んだ。

こうして、マシラ王は帰還を遂げ、
今回の誘拐事件から始まる出来事が、
終息に向かい始めるのだった。



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