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南国編 三章:マシラの秘術

追憶の世界

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現マシラ王ウルクルスの魂と、
その恋人だった女性の魂を、
アリアとアレクサンデル王子は見つけた。

寄り添いあうように佇む魂を見ながら、
アリアは王子に問うように話し掛けた。


『貴方が、お父さんとお母さんの魂に接触してみて』

『!』

『現実の肉体を介して接触してる私達と違って、魂だけの彼等と話せる術を、私は知らない。そのまま魂同士が触れてしまえば、魂との接触で精神汚染が私の魂にも影響してしまうの』

『……』

『でも、貴方達の一族が伝えてきた秘術は、それを可能にしている。私はまだそれを見てないから、模倣も出来ない。……貴方がお父さんから伝えられたこと。やってみて』

『……うん』


頷く王子は魂で成した人の姿で、
父と母の魂に腕を伸ばした。

その瞬間、王子の魂の肉体に浮かび上がるのは、
魔法文字を刻んだ刺青。
それを見たアリアが、厳しい視線を見せつつ呟いた。


『……魂に刻む紋印《サイン》。こんな幼い子の魂に……』


苦言を漏らす中で、
王子の魂に刻まれた紋印が色白い光を放つ。
そして王子の腕へ伝った紋印が手の前に集中し、
目の前に円形状の三つの魔法陣が展開した。


『……これが、死者との交信を可能にする魔法。マシラ血族の秘術式……』


王子が展開した魔法陣を読み解き解析するアリアは、
目の前に出現したそれが、マシラ血族の秘術だと理解した。

展開した魔法陣の三つの内の二つが、
王子の父親と母親の魂に寄り添うように展開し、
王子の目の前に残った一つの魔法陣が輝きを強めた。


『……これは……』


目の前の魔法陣に広がる光景を見て、
アリアは驚きを見せた。
その光景は、まだ若く鋭気ある姿のマシラ王と共に、
隣を歩く赤毛の若い女性と王宮を歩く姿。


『これは、まさか……魂の追憶……?』

『うん』

『……そういうことね。魂が補完する生前の記憶を利用して、実際にあった記憶の光景に入り、死者との会話を果たす。それがマシラ血族の秘術……』

『お父さん。お母さんの魂の記憶に、ずっと入ってる』

『……貴方のお父さんを、お母さんの魂の記憶から引っ張り出す方法があるとすれば、私達も中に入るしかないってことね』

『できる?』

『ええ、術式は見させてもらったもの。後は構築すれば、完璧よ』


アリアは自身の腕を伸ばすと同時に、
王子と同じように自身の魂に刻まれた紋印を浮ばせた。
それを見た王子は、呟くように聞いた。


『お姉ちゃんも、僕と同じ?』

『ええ。まぁ、私の場合は、自分でやったんだけどね』

『自分で、出来るの?』

『自身の魂に課す『誓約』と『制約』。本来は、貴方達マシラ血族がやってる他者が他者に紋印を刻む事こそ、邪道なのよ。これは、自分自身で自分の魂に刻むものなの』

『……ダメな、こと?』

『ダメじゃないけど、褒められるものじゃないわね。他人に自分の魂を委ねるなんて、正気の沙汰ではないもの』

『……』

『ごめんなさい。貴方の事や、貴方のお父さんを責めてるわけじゃないわ。こんな秘術を生み出した、貴方の先祖が悪いだけだもの。……よし、術式の模倣は完了。帰り道もバッチリ。これなら、貴方のお母さんの魂の記憶に入っても、自力で戻って来れるわね』

『入って、いいの?』

『ええ。そして、貴方のお父さんを引っ張り出すわ』


王子の魔法陣を模倣したアリアが、
自身の魂の前に同じ物を展開させた。
そして浮かび上がる映像を凝視すると同時に、
自身の精神をその記憶の中に投入する。

王子の母親である魂の記憶。
その中に、王子とアリアは入り込んだ。


「……これが、死者の魂の、追憶の世界……」

「……」


目を開けたアリアと王子は、
目の前に広がる光景に驚いた。

そこは日の光さえ感じ広がる、
晴天の青空が広がるマシラ共和国の王宮。
しかし現実との違いがあるとすれば、
その王宮は先日の戦いで崩れ破損した状態ではなく、
王宮としての形を保ったものだった。

他にも微細な変化はあり、
季節的に咲くはずがない草木や花々が見え、
アリアはこの状態を一早く察した。


「……なるほどね。ここは過去の、貴方のお母さんがいた頃の、王宮というワケね。という事は、貴方が生まれる前の世界の記憶」

「……」

「大丈夫よ。これはあくまで魂の記憶なんだから、貴方がここに居ても問題はないはずよ」

「……うん」

「それじゃあ、貴方のお父さんとお母さんを探しましょう」


そうして王宮の風景を見ながら話すアリアと王子は、
歩きながら王子の父親と母親を探した。

すると外の通路を通る曲がり角で、
とある人物とアリア達は遭遇してしまった。


「ゴズヴァール!?」


バッタリと出会ってしまったアリアだったが、
ゴズヴァールは無反応のまま、
そのままアリアと王子の傍を通り過ぎていく。

それを見たアリアは、この世界の法則性に気付いた。


「そうか。ここは記憶の世界なんだから、本来は居ないはずの私達が、記憶の住人であるゴズヴァールや、他の奴等と出会っても認識されないし、気付かれるはずがない。だとしたら、記憶の主である貴方の母親と、その記憶に入り込んだ父親なら、私を認識できるわけね」

「そうなの?」

「そうみたいよ。こっちでも隠れながら進まずに済むのは助かるわ。行きましょう」

「うん」

「……というか、ゴズヴァールがこんな所を歩いてるって事は、ここを通る事を魂の持主が記憶し、認識しているということ。つまり……」


アリアは通り過ぎるゴズヴァールを見た事で、
その歩く先に誰が居るかに気付いた。
記憶上のゴズヴァールの後を付いて行くと、
そこにはアリアが考えた通り、探していた人物が居た。

現マシラ共和国の象徴である若い王。
ウルクルス=ガランド=マシラ。

若く鋭気を持った目と、
王子と似た亜麻色の髪を日差しで輝かせた、
褐色肌の若々しい王がいた。
そしてその傍には女官の服を着た赤毛の女性が佇んでる。


「……居たわね」

「……」


ゴズヴァールと何かを話すマシラ王と女官だったが、
話を終えたゴズヴァールがその場を去り、
違う場所へ向かうように歩いていく。

アリアはこの時、赤毛の女性の顔を見た。
その顔を見たアリアは、思わず呟いた。


「……似てる……」

「?」


落ち着きながらも冷静に呟くアリアは、
様子を伺いゴズヴァールが去った事を確認すると、
改めて身を乗り出して姿を隠すことを止め、
そのままマシラ王と女性の傍まで歩み寄った。
それに付いて行くように、王子も同行する。

そのアリア達に真っ先に気付いたのはマシラ王であり、
それに伴うように、赤毛の女性も気付いたのだった。



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