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南国編 二章:マシラの闘士

復活

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胸に赤い血を流し倒れるアリアを見ながら、
マギルスは屈みつつアリアに話し掛けた。


「――……だから言ったでしょ。死んじゃうって」


その言葉に返事は無く、
マギルスは眉を顰めた表情を浮かべた。


「本当に本気になったおじさんだもん。しょうがないけど、アリアお姉さんが死んじゃったら、つまらないよ」


そう呟きつつマギルスはアリアを見て、
体を揺らしつつ確認してみる。

まだ死んだばかりで暖かみは残しつつも、
抉られた胸の傷は確かに心臓まで達しており、
既に息も止まっていた。


「……あれ?」


そんなアリアをマギルスは見ていた時、
ある不自然な事に気付いた。

アリアの両腕の手首に取り付けられていた拘束具。
魔法を使う事を封じていた魔道具が完全に破壊され、
粉々になって散らばっていた。

それを見たマギルスは、零すように呟いた。


「おじさんとぶつかった時に砕けたのかな。……でも、変だ。あれだけ強い衝撃を受けて拘束具が砕けたのに、腕や体が砕けもせず引き千切れずに、無事だなんて……。傷は、胸だけ?」


観察していたマギルスは、
アリアが残す傷の不自然さに気付いた。

物理障壁を幾重にも展開しながらも、
それを突破されてゴズヴァールの角に胸を抉られたアリア。
そこで不自然なまでに特徴的な傷が、
胸の傷以外になかったのだ。
それに気付いた瞬間、マギルスは異様なモノを確認した。


「……えっ、これって……」


マギルスが見たのは、
アリアの手足の先に残っていた傷が、
徐々に治り、後も残さずに完治していく様子。

その異様さに気付いた時、ありえない事が起こった。


「――……ゴホッ、グ、ゴホッ!!」

「!?」


唐突に咳き込む声に、マギルスは驚く。
咳き込む声に驚いたのではなく、
その声を発した人物にマギルスは驚いた。

息を引き取っていたアリアが、
血を吐きつつも息を吹き返したのだ。


「おっ、お姉さん。生きてるの?」

「ゴホッ、ゲホッ、ゲホッ!!」

「ちょっ。大丈夫、お姉さん?」

「ゲホッ、だ、大丈夫に、見えるわけ……!?」

「見えないね。というか、なんで生きてるのさ。その傷で」


マギルスは咳き込むアリアを僅かに動かし、
背中を擦りつつ咳き込むアリアを助けた。

ある程度の血を吐き出したアリアは、
息を整えさせてマギルスに向けて話した。


「ハァ、ハァ……。生きてるってことは、魔法が効いたってことね」

「生き返る魔法あるの?」

「ハァ……、無いわよ。そんなことが魔法で出来たら、ゴホッ……。苦労しないっての」

「じゃあ、どうして生きてるの?胸の傷だって、間違いなく……あれ?」


マギルスはアリアの胸に残った傷を確認した。
先ほどまで確かに抉れていた胸の傷が、
徐々に回復し塞がっている様子が見えた。

それに気付いたアリアは、
マギルスの顔を手で押して離した。


「ちょっと、何見てるのよ。アンタみたいな子供が興味持つには、十年早いっての」

「だって、傷が塞がっていくよ。どういうことなの?」

「別に簡単な魔法よ。アンタ、『再生する癒しの光リジェネーション』は知ってる?」

「うん、回復魔法の一つでしょ。小さな切り傷なんかを塞ぐ為のやつ」

「正確には、細胞を活性化させて自然治癒力を高める魔法よ。私はそれを、自分に対して掛けてただけ」

「そんなの嘘だよ。そんな魔法で心臓まで抉られてた傷が治るはずないもん」

「普通ならね。でもリジェネーションを幾重にも施す事で、人体の自己治癒能力を極限にまで高めて、どんな酷い傷でも完全に塞ぐ事が出来るのよ。生きてる限りはね。寿命は削れるけど」

「生きてる限りはって……」

「でも、手錠の魔道具のせいで自分に作用する魔法は今まで掛けられなかったし。咄嗟にあの牛男の突進を利用して、胸に手錠を置いて一緒に貫かせて破壊させたおかげで、今まで掛けてた再生魔法と回復魔法が、やっと効くようになったみたいね……」

「!」


マギルスは今まで気付いていなかったが、
アリアはここに来るまで、
実は古代魔法を使った回復魔法を自身に施していた。

しかし手枷に施された効果で体内に回復魔法が浸透せず、
回復魔法の効果がアリアの周囲に滞留していた。

アリアはそれを利用し、
妨げとなっていた手枷を破壊した瞬間に、
自身に滞留した回復魔法が幾重にも掛けられ、
傷を負った瞬間から自身の肉体を修復し癒すことを目論んだ。

ゴズヴァールの衝突で折れた腕を始めとした肉体の損傷も、
その効果で骨や肉体が修復され、胸の穴も塞ぎきった。
心臓を修復できた時点で、アリアは再び呼吸を開始したのだった。

それを知ったマギルスは、楽しそうに笑った。


「やっぱり、お姉さんは見てて飽きないね」

「こっちは必死だってのよ。……あぁ、気持ち悪……」

「鼻血が出てるよ。大丈夫?」

「大丈夫なわけ……。……そういえば、あの牛男は。それに、エリクは?」

「おじさん達なら、あっちで戦ってるよ」

「!」


そうマギルスに教えられたアリアは、
その方角に初めて目と意識を向けた。

その方角の建物を見ると、
何か巨大な生き物が衝突したように半壊し、
そして見えないながらも轟音が静かに響いていた。

アリアはよろめきながらも立ち上がり、
その方角へ向かう為に足を動かした。
それをマギルスは止めるように支えた。


「ダメだよ、お姉さん。今から行ったら、間違いなく死んじゃうよ?」

「エリクが、まだ戦ってるんでしょ。だったら、助けないと……」

「違うよ。そのエリクっていうおじさんに、お姉さんが殺されちゃうよ」

「……どういうこと?」

「あのおじさん、覚醒したんだよ」

「覚醒?」

「僕達みたいな魔人はね、生まれてから人間より少し高い身体能力を持ってるだけなんだ。でもゴズヴァールおじさんみたいに、覚醒すると魔族の姿に変身できるんだよ」

「魔族の姿になる……。それがあの、牛の姿なのね」

「そう。ゴズヴァールおじさんは牛鬼族。エアハルトお兄さんは狼獣族。魔族の中でも獣族系統に属する血を受け継いでるんだって。僕は違うけどね。だから覚醒すると、魔族の姿に変身するんだ」

「……待って。エリクが覚醒したって……」

「あのエリクっておじさん。覚醒したけど、僕等みたいに完全に魔人の力を制御できてないから、暴走してるんだ。今お姉さんが近付いたら、間違いなく暴走に巻き込まれて、今度こそ死んじゃうよ?」

「……」


マギルスは状況をアリアに教えながらも、
それでもアリアはマギルスの手を振り払い、
足を動かしてエリクが戦う場所へ進んだ。


「……私はね、エリクの相棒なのよ」

「え?」

「それが暴走してるなんて聞いたら、止めに行くしかないでしょうよ」

「でも、暴走してたら制御なんて無理だもん。ゴズヴァールおじさんでも抑えるのに精一杯だったみたいだし。止めるなんて無理だよ」

「怖いなら、さっさと隅っこで隠れてなさいよ。マギルス」

「むっ。怖くないよ」

「子供が無理するんじゃないわよ」

「無理なんかしてないよ。分かったよ、僕も一緒に行く!」

「はいはい。じゃあ、肩を貸しなさい」

「うん。……あれ、僕って良い様に扱われてない?」

「気のせいよ。ほら、さっさと行くわよ」


こうして復活を果たしたアリアは、
マギルスに肩を借り、
暴走するエリクが居る場所へ向かった。

そこでアリアが見たのは、
巨大化し赤肌と黒角を生やす化物へ変貌したエリクが、
牛と狼の魔人を相手にし暴れまわる姿だった。



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