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南国編 一章:マシラ共和国

温かい食事

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 少年を保護する事になった夜。
 片付いた家に魔道具で起きた照明の火が灯り、家の内部を明るく光らせた。

 その中でお使いと買い物を済ませたケイルが再び家に戻って来たところで、全員で夕食を行う事となった。
 その際に、思わぬ事をケイルが聞いた。

「……つまり、なんだ。お前等、雁首揃えて料理がまともに作れないのかよ」

「肉は焼けるぞ」

「それは料理とは言わないんだよ!」

 エリクの一言に反論するケイルは、一息だけ吐き出して睨み顔をアリアに向けた。
 その瞬間にアリアは目と顔を逸らし気まずそうな顔を見て、ケイルは大きな溜息を吐き出しながら話し掛けた。

「……で。御嬢様は案の定、料理が作れねぇと」

「サ、サンドイッチくらいなら……多分……」

「それも料理じゃねぇよ」

「ガーン!」

「ガーンじゃねぇよ。お前等、よくそんなんで旅が出来たな」

「し、塩漬けの肉とか、乾燥した果物とか魚とか、保存食で済んだから……」

「家を借りたらどうしようと思ってたんだよ。自炊するつもりじゃなかったのか?」

「食事は、外で済ませれば良いと思ってたんだもの……」

「このガキを連れて来たせいで、外で食えなくなったんだろうが」

「う……」

 ケイルが呆れつつ説教する中でアリアの後ろから見る少年が、亜麻色の髪と金色の瞳をケイルに向けた。
 そんな少年にケイルが睨むような視線を向けると、怖がる少年はアリアの後ろに隠れてしまった。

「ダメよ、ケイル。怖がらせちゃ」

「ガキのお守りは契約に入ってないんでね。それより、どうすんだよ。食事は?」

「う、うーん……。わ、分かったわよ。私が作ってみるわ!」

 そう言い立ち上がったアリアは、ケイルの買ってきた食糧の袋を担ぎつつ、食事の準備を行える台所へ足を向けた。
 アリアの整備のおかげで、魔道具を通して水道が使えるようになり、蛇口を捻るだけで水が出るようになった台所にアリアが立つと、エリク達に買わせていた鍋や包丁を見つつ、食料を並べて包丁を不器用に持った時点で固まった。

 固まったアリアに、ケイルは話し掛けた。

「どうした、作るんだろ?」

「……そ、その。お芋ってどうやって剥くんだっけ?」

「……」

「その顔やめてよ! しょうがないでしょ、今まで台所に立った経験なんて無いもの!」

「これだから貴族の御嬢様は……」

「な、習ったことが無いだけで、習えば出来るようになるもん!」

「子供か!」

 言い訳をするアリアにケイルは呆れる中で、横から見ていたエリクがケイルを見つつ口を開いた。

「ケイル。お前が作らないのか?」

「なんでだよ」

「お前の料理は、ワーグナーやマチスが美味いと言っていたぞ」

 そうエリクがケイルの料理の事を口にした瞬間、ケイルの肩を掴んだアリアが顔と体を迫らせた。

「ケイル、料理が作れるの!?」

「や、やめろ。アタシは作らねぇぞ!」

「お願い! 調理代金はちゃんと払うから!」

「金で何でも解決しようとするんじゃねぇ!」

「おねがぁい!」

「うわっ、離れろよ! 嘘泣きすんじゃねぇ!」

 そう迫り来るアリアを押し退けるケイルだったが、足に縋りつくように絡むアリアにドン引きする中で、横から見ていたエリクが頼むように口を開いた。

「ケイル。料理を作ってくれ」

「な、なんだよ。お前に言われても、作る義理なんて……」

「俺は料理の味はよく分からないが、アリアと子供に必要なら、作ってほしい。頼む」

「……貸しだからな」

「ああ」

 エリクが頭を軽く下げて頼むと、渋々ながらもケイルは料理を作ることに同意した。
 そんなケイルをアリアは見て、立ち上がってケイルに小言を囁いた。

「惚れた弱み?」

「うるせぇ、お前のだけ不味く作るぞ」

「ごめんなさい! 美味しく作って!」

「まったく、しょうがねぇな……。おい、お前等も見てるだけじゃなくて手伝えよ。エリクは人参と芋の皮剥きくらいしろよ。王国に居た時には普通にやってたろ。アリアも野菜を洗うくらいできるだろ。終わったらエリクの皮剥きを見て、それくらい出来るようになれ」

「はい!」

「分かった」

 ケイルの指示に素直に従うアリアとエリクは、用意していた食材を水で注ぎ洗い、皮剥きを開始した。
 そして隠れるように見ていた少年に目を向けたケイルが、少年にも指示するように声を向けた。

「おい、ガキ」

「!」

「働かずにメシを喰おうなんて、この二人が許してもアタシが許さないからな。お前はアリアに付き合って、野菜くらいは洗えよ」

「……」

 憮然とした表情と声でケイルがそう告げると、少年は恐る恐る体を動かしてアリアの元まで訪れた。
 魔法で水をお湯に替えて桶に少し熱めの湯を張り、野菜の表面を洗い始めたアリアを真似るように、少年は野菜を手に取って洗い始めた。

 そんな少年をエリクやアリアは見つつ、ケイルは手馴れたように包丁を持ち、皮を剥き終わった食材や燻製肉を手に取り、まな板の上に置いて綺麗に切り分けていく。
 トマトを潰してペースト状にしながら、火を点けて暖めた平らな黒い鍋で切り分けた野菜を炒めつつ、塩で味付けを行いながら底の深い厚鍋に少なめに水を張り、魔道具の上に置いて火を点けると御湯になるまで暖めた。
 そして一通りの食材を炒めつつ、厚鍋の中に炒めた野菜や肉を投入して行き、グツグツと煮える中で味を整えた潰したトマトを投入し、何度か味見をして塩や調味料を使って味を調えた。

 それから三十分。
 ほど煮込んだ鍋から美味しそうな匂いを漂わせると、更にケイルは硬いパンを厚めに切りつつ、薄く敷いて千切りにしたキャベツと共に、火で軽く炙ったチーズと燻製肉をパンに乗せた、簡単なトーストを作り上げた。

 ケイルの手で出来上がった料理は二種類。
 トマトの煮込みシチューと、燻製肉とチーズのトースト。
 それを食卓のテーブルに出されると、アリアと少年は驚きながらケイルを見た。
 そして並べられた料理の感想をアリアは伝えた。

「本当に料理が上手だったのね、普通に美味しそうだわ!」

「要らねぇなら、今すぐ片付けるぞ?」

「いただきます! ……うん、美味しい!」

 美味しそうなシチューとトーストを齧るアリアに続き、少年も食器を手に取って食事をし始めた。
 そしてどんどん食を増しながら手を動かし、料理を口に運び続けた。
 そんな二人の様子に呆れながらも口元を微笑ませ、ケイルはエリクの方を見て話し掛けた。

「エリク、どうだ?」

「ああ、美味いんじゃないか?」

「ふん。相変わらず、舌は鈍いままか」

「ああ。だが、二人が美味そうに食べている。ケイルの料理は、美味いんだろう」

「そうかよ。それじゃあ、アタシも食うわ。シチューはおかわりもあるから、食えるだけ食っておけよ」

「はーい!」

「お前じゃねぇよ!芋も剥けねぇような御嬢様は、後で一人で片付けだ!」

「そんなぁ!」

 そんなケイルとアリアのやり取りが行われつつ、その日の夕食をアリア達は乗り越えた。
 その時の少年の表情は、心なしか強張りが和らぎ僅かに微笑みが浮び、温かい食事と共にアリアとケイルの会話を楽しんでいるようだった。

 食事を終えた四名は食器などを片付けを終えると、買って来た布地を床に敷いて体に覆いつつ、その日は一緒の部屋に全員が横になって寝た。
 こうして少年を拾った初日は終わり、波乱の次の日が訪れた。
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