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逃亡編 三章:過去の仲間

傭兵入門

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 無事に傭兵ギルドの加入試験を終えた二人は、試験の合格者としての説明を受けていた。
 今回の試験参加者は十四名であり、合格者は僅か五名と低い。
 それぞれが歴戦の猛者を思わせる顔立ちと姿の中、浮いた様子を見せている者達もいる。

 それが一人だけ若い女性であるアリアと、その相棒であるエリク。
 この二名は互いに特例であるギルドマスター権限で飛び級し、【二等級】の傭兵としての合格している。
 本来は厳しい試験を突破して初めて等級を上げる必要があるにも関わらず、加入した直後に二等級に抜擢されるのは、異例中の異例だった。

 しかし二等級となったアリア本人は、合格者の中でも変に目立つ事になり、不機嫌な様子を見せていた。

「……こうなるなら、五等級でも良かったわね」

「そうか?」

「良い面で目立つのは好きだけど、悪い面で目立つのは嫌いなの。ギルドマスター権限で二等級になるって、特権的な印象に見られるじゃない? そういうのは偏見で見られ易いから嫌なのよ。それに、目立つと追っ手に見つかり易いじゃない?」

「そうか。そうだな」

 小声で愚痴を話す二人を他所に、傭兵ギルドの説明は続いている。

 傭兵ギルドは多国籍に所属する機関で、主に魔物や魔獣の討伐、護衛等を目的とした機関らしい。
 時には人同士が争う戦争に雇われる事もあるが、その部分は強制的な部分は無く、依頼が出されても受けなければ参加する必要はない。
 しかし国が抱える傭兵として雇われれば、それなりの待遇と高給が約束される為、意外と国に雇われて戦争に参加する傭兵も多いらしい。
 そういう国に雇われたギルドの傭兵にはギルドで何らかの制約を課せられ、それに違反した場合には国は莫大な違約金を要求され、逆に傭兵側が違反した場合はギルド側が違約金を支払う。
 そして違反した傭兵は重い罰則が課せられる。

 現在ガルミッシュ帝国とは傭兵ギルドに関する事は交渉中で、傭兵ギルドに傭兵の人材派遣は行わせつつも、傭兵ギルドを首都や各市町村に設置するかは検討中。
 ベルグリンド王国側は独自の傭兵形態を持つ為、完全にギルド側の要請を拒否したらしい。

 依頼を受ける場合には報酬金額から五割程度をギルドが依頼費として受け取り、傭兵側には成功報酬として残りの依頼費が払われる。
 物要りの依頼では前金が支払われる事もある。

 これに関しては極めてデメリットが多いように感じるが、傭兵ギルドを認めている国に往来する際、傭兵ギルドの参加章となる鉄の認識票を提示する事で、都市や町での入場費の免除や通行費の免除が行われ、武器や防具を始めとした道具の類をギルドに関わる商人達から比較的に安く交渉し、購入する事ができる交渉権限が与えられる。
 それを維持する為に依頼費を割高に徴収する事で、上手く調整しているようだ。
 傭兵ギルドに加入する者達は、主にこの特権を目的として加入する場合が多い。

 そして、傭兵が人と戦う場合に対して。
 野盗や盗賊の類に類される国が判断する犯罪者を、傭兵ギルド加入の傭兵が殺した場合も、罪に問われる事は無い。
 しかしその国に住む国民を罪状も無く傷付け害した場合、捜査次第で重い罪と罰が傭兵ギルドと国から発布される。
 最悪の場合、賞金首となって同じ傭兵達から追い回され、最後には犯罪者として殺されるという場合もあるらしい。
 更にギルド所属の傭兵同士は、対立する立場の依頼を受けない限り、私闘の類は禁止している。
 また、それを破った場合には、重い罰則が課せられる。
 他にも様々な制約や保証が説明され、途中でエリクがギブアップしてしまい、後はアリアが全ての説明を覚えることになった。

 そして三十分以上に渡る説明を終えた傭兵ギルドの職員が、最後に合格者達に対して質問を投げ掛けた。

「――……以上で、説明を終わります。何か皆様の方から、質問は?」

「……」

「質問が無ければ、以上で説明を終了致します。合格者の皆様には、明日までに作られる傭兵ギルド加入者としての鉄の認識票が与えられます。明日、当ギルドまで受け取りに来て下さい。尚、鉄の認識票を紛失した場合、再発行は金貨百枚分で行います」

「金貨、百枚……!?」

 金貨百枚分と言えば、贅沢な暮らしをしなければ帝国でも家族単位で数年以上の生活費となる。
 鉄の認識票の再発行金額に何名か驚く中で、ギルド職員は改めて伝えた。

「先程、説明した通り。鉄の認識票は貴方達の身分を証明する物です。また、貴方達自身の強さも現しています。それを紛失し、更に奪われるような事は、皆様の信用に関わります。それを金貨百枚で信用を得る機会が再び訪れると考えて頂ければ、安いものでしょう」

 そう説明された事で数名が不服そうな顔を示したが、アリアは当然だと思いつつ聞いていた。
 国の国境や町へ無料で通行できる認識票は、悪人に奪われれば、悪用される可能性が極めて大きい。
 それは傭兵ギルドに責任の負担が大きく掛かる事を考えれば、ただの鉄の認識票だと思えるモノの価値は、
 金貨百枚では効かないモノとなるだろう。
 更に再発行を行う手間も考えれば、傭兵ギルド側はそれだけ搾取しても問題無いとアリアは考え、後でエリクに説明した。
 むしろ自分達の認識票を守る事こそ、傭兵ギルドに加入した傭兵達の最低限の条件であり行動なのだとアリアには思えた。

「……他に質問等々がありましたら、受付までお越し下さい。これにて、説明を終了致します」

 そう切り上げたギルド職員は、傭兵ギルドと加入に際した説明を終えた。
 それぞれの合格者が説明が行われた部屋から退室し、エリクとアリアも退室する為に部屋を出ようとした。

 そこで待ち構えていたのは、試験でアリア達と対峙した傭兵ギルドマスターのドルフだった。

「説明は聞き終ったか、御苦労さん」

「さっきはどうもです。ギルドマスター」

「こちらこそだ。……お前さん達に、ちょいと話がある。俺の部屋まで来てくれないか?」

「何ですか?」

「内緒話だ。お前さん達にもその方が都合がいいだろう。傭兵隊長エリクと、ローゼン公爵令嬢のアリア様よ」

「!」

 軽い言い回しながらも小声で伝えたドルフの言葉に、二人は安心しきっていた脳裏に僅かな戦慄を覚えた。
 一瞬にして身構えたアリアとエリクに、ドルフは慌てつつ釈明をした。

「ス、スマン。脅す気じゃないんだ。それに俺は、さっきのお前達の試験で魔法を使える気力が残ってない。別にお前達を捕らえて、帝国に売り払おうなんて考えてはいない」

「……じゃあ、どうする気?」

「その辺の話もしたいから、俺の部屋に来てくれ。お前さん達にとっては、良い話だろうぜ」

 そう伝えたドルフは若干ふらつきながら歩く。
 先程の試験で二度も中級魔獣クラスのフレイムリザードを作り出し、本当に体力と気力のほとんどを使い果たしているのが分かると、アリアとエリクは互いに顔を見合わせながらドルフに付いて行く事にした。

 そこでアリアとエリクは、思わぬ情報を聞く事になった。
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