上 下
28 / 1,360
逃亡編 ニ章:樹海の部族

決闘の依頼

しおりを挟む

 樹海の中に存在するセンチネル族の村に、熱を出したアリアを抱えるエリクが訪れた。
 そこには森で出会った褐色の親子同様、独特な民族衣装を着込んだ褐色の人間達が五十人単位の生活をしていた。
 その中を案内されるエリクは、周囲の者達の視線が集まる中で、前を歩いて案内する褐色の父親に話し掛けた。

「これが、お前達の村か」

「そうだ」

「少ないな」

「我等は森の中に住む。外来人のように、数は多くはいない」

「そうか」

 そう教える褐色の父親と会話しつつ睨む褐色の娘の視線を感じながら、エリクはとある家に辿り着いた。
 家と呼ぶには不恰好な木を寄せ集めた家で、天井に魔物か魔獣の毛皮をなめした革を覆い被せた、とても簡素な家に見える。
 その中に褐色の父親と娘が入ると、エリクは何も言わずに入り口となる場所を通り、家の中に入った。

「お前の連れは、そこに寝かせろ」

「……ああ」

 褐色の父親に促され、枯れた草葉の上に毛皮を敷いた場所の上に、抱えるアリアをエリクはゆっくり降ろした。
 昨晩よりも高い熱を出しているのか、頬を紅潮させ息を荒くし汗を流すアリアの様子に、エリクは褐色の父親の方を見た。

「それで、薬は?」

「ある。だが頼みがある。それを約束してくれるのなら、薬を施す」

「……なんだ?」

「お前達をしばらく見ていた。お前は強い。我等が部族の誰も敵わない。我が娘も部族の中で最も強い勇士だ。しかしお前に勝てなかった」

「……その女は、この村の中で一番強いのか?」

「ああ。だから強いお前に、頼みたい」

「何を頼むんだ?」

「他の部族が集い、一族の代表者同士で決闘を行う。その決闘にお前が我が村の代表として出てくれ」

「……なに?」

 唐突な頼みに訝しげな顔を浮かべるエリクが、褐色の父親に向けて疑問を述べた。

「そんな決闘なら、お前の娘を出せばいいだろう。村一番の強さなら」

「女は参加できない。男の勇士で戦う決闘だ」

「なら、お前が出ればいいだろう」

「我は歳で弱くなった。今は娘よりも弱い」

「……俺はこの森の外から来た人間だ。その決闘に、俺が出てもいいのか?」

「お前の容姿は、我等と似ている。我等の服を着て顔料を塗れば、一族の者だと思われる」

「……どうして俺に戦わせる? 村の者ではない俺を出さなければならぬほどに、勝たなければいけない理由があるのか」

 そう聞いたエリクの言葉に、褐色の父親が目を伏せつつ深呼吸し、そうしてまでエリクに頼む理由を話した。

「森の部族は、強い者が弱い者を取り込む。他の部族は我等の倍以上の人数だ。数で戦えば、我等センチネル族は負ける」

「……」

「だが、互いに多くの血を流すのを良しと思わなければ、族長ぞくおさの意志と望みで決闘が行われる。部族同士が争う場合、我等や他の部族は、代表の者同士で決闘という形で戦いを行うのが習わしだ」

「つまり、俺に決闘の代理人になれと言っているんだな」

「そうだ。我等が負ければ、相手の部族の下に付く。属族となって、相手の部族の為に我等が男が狩りをして働き、女を相手の部族に差し出さなければいけない」

「……」

「頼む、強き男よ。我等の代わりに、決闘に出てほしい」

 頭を下げて地面へ額を付ける褐色の父親に、エリクは少し悩みながらも横で苦しむアリアの様子を見て、決断した。

「……分かった。俺が代わりに戦おう」

「!」

「だから、この子に薬をやってくれ」

「ああ。分かった」

 頼みを受諾したエリクは、その引き換えとして薬を求めた。
 褐色の父親は頷きながら、戸棚に置いた土器の壷を取り、蓋を開けて緑色の薬を出した。

「これが薬だ」

「どうやって使う?」

「お前の連れは、森の虫に噛まれた毒にやられている。噛まれた場所に薬を塗り、水で溶かした薬も飲ませる。それで数日経てば、動けるようになる」

「毒か。何処を噛まれている?」

「赤く腫れた部分を探せ。そこが噛まれた場所だ」

 そう教えられたエリクは、服の隙間から見えるアリアの肌を見て噛まれた痕を探した。
 そして首筋の裏部分が赤くなり、僅かに腫れているのを確認した。

「首の裏が、赤く腫れている」

「そこだな、薬を塗る。お前が塗るか?」

「ああ」

「なら、薬を入れた水を用意してくる」

 そうしてエリクは頼みを受け、発熱するアリアの治療を受けさせた。
 首筋に薬を塗り、薬の入った水を飲んだアリアは、少し経つと荒々しい息が整えられた寝息に変化し、溢れるような汗が引くのが分かる。
 先程よりも熱が落ち着き、容態が安定したアリアに安心するエリクは、再び尋ねて来た褐色の父親を見ながら話した。

「確かに、薬が効いたな。……お前は、この村の医者か?」

「我はこの村の長、名はラカムだ。こっちは娘のパール。お前は?」

「……俺は、エリオという名だ」

 ラカムと名乗るセンチネル族の長に、偽名の方を教えたエリクだったが、その名前を信じたラカムがエリオと呼びながら話した。

「エリオ。約束を果たしてくれ」

「……分かった。やろう」

 こうしてエリクはアリアを助ける為に、センチネル族が行う決闘の代表として選ばれた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

やはり婚約破棄ですか…あら?ヒロインはどこかしら?

桜梅花 空木
ファンタジー
「アリソン嬢、婚約破棄をしていただけませんか?」 やはり避けられなかった。頑張ったのですがね…。 婚姻発表をする予定だった社交会での婚約破棄。所詮私は悪役令嬢。目の前にいるであろう第2王子にせめて笑顔で挨拶しようと顔を上げる。 あら?王子様に騎士様など攻略メンバーは勢揃い…。けどヒロインが見当たらないわ……?

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

処理中です...