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逃亡編 ニ章:樹海の部族

森の守護者

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 樹海の中で遭遇した褐色女性と、アリアを守る為に構えるエリク。
 矛を向け合った二人は、朝霧の晴れない中で凄まじい戦闘を繰り広げた。

 見た目以上に頑丈な棒槍を使い、褐色女性が巧みな槍術を軸に立体的な動きを見せ、エリクの虚を突く様に槍を奮った動きを見せる。
 対してエリクは大剣での攻撃を回避されながらも、大剣とは思えぬ速度と振り回数で褐色女性を圧倒し、槍の突きや薙ぎを回避しつつ、逆に槍の棒部分を腕や素手で掴もうとさえする動きを見せた。
 互いに達人とも称せる攻防を繰り広げたが、一進一退の状況に変化を生じさせたのは、槍を振る褐色女性の方だった。

「!」

「……」

 接戦する中で大きく飛び退いた褐色女性が着地すると同時に身を屈め、まるで四足獣のような姿勢となる。
 槍を持つ手も地面に着けた状態になり、その異様な構えにエリクは警戒して大剣を手元に引き寄せながら構えた。
 そして褐色女性が、四足獣の突進を思わせる突撃を開始した。

「――……ガァッ!!」

 吼えながら素早く鋭利に突進し、右手に持つ槍をエリクに向けた褐色女性。
 しかしエリクはそれを回避するのではなく、受け止めるように大剣の腹で槍先を受け流して逸らした。

「!?」

「捕まえたぞ」

 褐色女性は槍の矛先を逸らされた事に驚き、更に大剣を手放したエリクが褐色女性の右腕を掴み、捕まえる事に成功した。
 右腕を掴まれながらも褐色女性は抵抗し、残った左腕と両足をエリクに向けて殴打する。
 その殴打を受けながらも、エリクは掴んだ右腕に力を込め、褐色女性に苦痛の表情を浮ばせ、右手で掴む槍を落とした。

「グ、ァ――……」

「抵抗するなら、この腕を握り折る」

「ゥ……ッ」

「お前は何者だ。俺か、それともアリアの追っ手か。それとも、両方か」

「……ッ」

「この森に入ってから妙な気配は感じていた。魔物や魔獣に混じる気配と、そして視線もだ」

「ゥ、ァ……ッ!!」

「他の仲間がいるはずだ。気配は一つだけではなかったからな。……答えろ」

 褐色女性の右腕を掴む力を強め、低く呻く声を聞きながらも、エリクは詰問した。
 エリクが握力を更に増そうとした時、それを止める声が聞こえた。

「待ってくれ」

「?」

 朝霧が晴れる森から、褐色女性の声とは違う声が聞こえた。
 エリクは声の聞こえた方に視線を向け、霧の中から姿を現した人物に声を掛けた。
 それは女性同様に褐色の男であり、腕を掴んでいる褐色女性と同じ民族衣装、そして朱染めの塗料を皮膚に縫った、壮年の男性だった。

「その娘の負けだ。手を離してやってくれ」

「お前は?」

「その娘の父親だ」

「そうか。それで?」

「お前はその娘に勝利した。これ以上、娘は戦わない」

「……」

 言葉の端々に不慣れな部分を感じつつも、エリクは目の前の男が敵意を見せず、そう申し出を出す中で慎重に考えて答えた。

「まず、お前達の事を話せ。それから、この女を解放する」

「……分かった。我等はこの森に住む、センチネル族だ」

「この森に住んでいる、センチネル族?」

「森に入ったお前達を見ていたのは我々だ。この森は、外の者達の侵入を禁じている」

「そうか。俺達は、お前達の事も、この森に入ってはいけないことも知らなかった」

「お前達、この大地の森の外に住み着いた者ではないのか?」

「旅をしている。目的地に辿り着く為に、この森を通った」

「旅人か。……お前の連れ合いは弱っている。村に案内し、休ませてもいい。だから娘を放してくれ」

「……」

 そう提案するセンチネル族の男に、エリクは少し考え、褐色女性の腕を離した。
 強く掴まれた腕に痣を残しつつも、褐色女性は落とした槍を拾い上げ、遠退きながら父親の方へ移動し、再びエリクに向けて槍を構えようとした。
 それを父親と称する壮年の男性が怒鳴った。

「『パール、お前は負けた』」

「『で、でも!!』」

「『負けを認めぬなら、お前はセンチネル族の勇士ではない』」

「『……ッ』」

 知らない言語で話す褐色の親子が怒鳴り合う様子を見せていたが、娘である褐色女性は諦めたように槍を下げ、父親である壮年の男が前に出て歩み寄った。

「お前と、連れを村へ案内する」

「俺達は、森を抜けたいだけだ」

「なら、尚更お前達は村へ寄れ。森を抜ける為の案内をする。……それに、お前の連れが病んでいる理由は、森の病だ」

「!」

「我等は、その病に効く薬を作れる。そのままお前の連れを放置すれば、病で弱り、死ぬ」

「……」

「村へ来れば、病に効く薬を塗り、飲ませる」

 アリアの症状が病に因るモノだと聞かされ、驚きと共に壮年の男が提案する事を受け入れるべきか否かを悩んだエリクは、十数秒の沈黙の中で、微かに聞こえるアリアの苦痛にも似た声に反応した。

「……分かった。村へ案内しろ」

「ああ。荷物をまとめろ、村へ案内する」

 提案を受け入れたエリクが、荷物を纏めつつアリアを抱き上げ、壮年の男に先導させながら、朝霧が晴れた森の中を進んだ。
 一緒に先導する褐色の娘が後ろを何度か見ながら、エリクの方を睨むような顔を見せていたが、それを気にせずにアリアを抱えてエリクは進む。
 アリアは眠ったまま熱を宿し、苦しむ声を漏らす姿を心配するエリクと褐色の親子は、一時間ほど歩いた先で幾つか人工的な構造物が見えた。

「ここが、我等がセンチネル族の村だ」

 そう案内する褐色の壮年男性の言葉と共に、エリクとアリアは、センチネル族の村に訪れた。
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