26 / 1,360
逃亡編 ニ章:樹海の部族
暇を与えず
しおりを挟む
夜が明けた樹海の中で野営し、魔物や魔獣の強襲を警戒しながらアリアとエリクは樹海の中を移動し続ける。
二人は何度か魔物や魔獣に遭遇し、その度に戦闘を切り抜けた。
エリクは大剣を駆使した中で、大剣を振るのに適しない場所では、アリアが投げ渡したショートソードを使い、肉弾戦を用いつつ剣で切り伏せていく。
「素手で魔物を殴り倒してる……。魔法も使わず、こんな事が出来るなんて……」
狼の魔物の次に現れた雑種猿を、豪腕を奮って殴りつけて死に至らしめるエリクに、魔法で援護するアリアが驚きの声を呟く。
そして戦闘が終わった後、猿の魔物の死骸から目を逸らしたアリアが、エリクに聞くように問い質した。
「エリク。貴方、何でそんなに強いの?」
「どういう意味だ?」
「確かに貴方は、見た目からして強そうではあるんだけど。素手で魔物の頭蓋を砕ける人間なんて、聞いたことない。魔法には身体強化というモノもあるけど、貴方がそれを行ってる様子も見えない」
「ああ。俺は魔法なんて使えない」
「そんな魔法を使えない貴方が、なんで魔力を宿して肉体を強化している魔物や魔獣を、素手で倒してる。それだけの強さを身に付けるのに、どんなことをしたの?」
「……戦い続けたから、としか言えないな」
そう回答するしかないエリクに、疑問を浮かべるアリアは頬を膨らませつつ、樹海の中を進み続けた。
樹海の中を移動し始めて、既に三日が経つ。
手持ちの保存食の在庫も底が見え隠れし始め、苦心を思うアリアの様子とは裏腹に、エリクは慣れた様子で森の中で座りながら眠る。
途中で雨が降り、その雨を身に受けながらも二人は進んだ。
傭兵として森や荒野を始めとした外での野営に慣れているエリクと、旅の初心者で外の野営に慣れないアリアは、環境と地形の変化に対応しようとする中で、共に体力的にも精神的にも消耗に違いが見え始めた。
目に見えて疲労しているアリアに、エリクは声を掛けつつ心配した。
「アリア、そろそろ休むか?」
「ハァ……ハァ……。さっき、休憩した、ばっかりじゃない。まだ、まだ……」
「顔色が悪いぞ。休むべきだ」
「まだ、大丈夫……。大丈夫、だから……」
「……分かった」
心配するエリクの声を跳ね除け、アリアは息を乱しながらも回復魔法を自分にかける。
そしてエリクの後を付いて行く。
アリアを心配するエリクだったが、一定の距離を保ちながらアリアに合わせ、待ちながら移動をし続けた。
大きな崖と滝が見える場所を見つけた時、樹木に身を預けるように膝を着いたアリアに、エリクは驚きながら近付き、アリアを抱えた。
「アリア!」
「ハァ……ハァ……」
「……これは、熱か」
息を乱して呼び掛けても反応できないアリアが、汗を掻きつつ体温を高くしている様子に、エリクが知識として辛うじて持つ病気名が浮んだ。
その日はその場所を野営場所として選び、アリアが水の魔法で入れた水筒の水をアリア自身に飲ませた。
簡易テントを広げて敷き布を置き、その上にアリアを寝かせたエリクは、まずはアリアの防具を脱がせて楽な体勢にした。
そして周囲の枝葉を集めて火打石を使い、火を起こして野営準備を整えた。
エリクは魔物の気配を警戒しつつ見張り、夜になるとアリアが意識を戻した。
「――……エ、リク……?」
「起きたか?」
「わた、し……どうして……?」
「熱を出して倒れた。今日はテントでお前を寝かせる。熱が下がるまでは、休め」
「……ダメ、よ。早く、森を抜けないと……」
「このまま移動すれば、君が死ぬ」
「……」
「数の多い魔物や魔獣が出た場合に、君を守りながら戦うのは難しい。最低でも、君が自分の身を守れるくらいになってほしい」
「……それって、護衛としての、要求?」
「ああ」
「……分かった、休む。……ごめんね、足手まといで……」
「?」
「……私、浮かれてたんだと思う。……誰にも負けたこと、一度も無くて。子供の頃から、才女だとか持て囃されて……。でも、実際に旅に出たら、凄くきつくて……。でも、この程度でヘタレたら、ダメだって……。頑張らないといけないって、そう思って……」
「……」
「……今の私、足手まといよね……。エリク一人だったら、この森なんて、すぐに抜け出すこと、できるわよね……」
「君がいなければ、俺はここまで来れていない」
「……ッ」
熱で苦しみ弱気を見せるアリアの弱音に、エリクは本音で答えた。
そのエリクの一言を聞いたアリアが、エリクの服の裾を弱々しく指で掴みながら、声を押し殺すように涙を見せていた。
その後、アリアは静かに寝つつ、テントの外でエリクは座りながら大剣を抱え、緊張と警戒を持ちながら休んだ。
次の日の早朝、夜を越えた明け方。
緊張感を高めたまま寝ていたエリクが突如として目を開け、素早く立ち上がりながら黒い大剣を引き抜いた。
「誰だ」
滝の近くで霧に覆われる視界にも関わらず、何者かの気配を認識したエリクは、最大の警戒を持って自分達を見る相手に告げた。
その霧の中から現れたのは、一人の民族装束を着た短い黒髪の褐色女性。
褐色の肌には赤い塗料で模様が描かれ、右手に槍と思しき石の刃を着けた棒を持ち、口元を布で覆い隠す褐色女性に、エリクは大剣を構えつつ警戒した。
「……」
「追っ手か」
黙ったままの褐色女性が槍をエリクに向け、アリアか自分の追っ手だと判断したエリクは、黒い大剣を握る手に力を込める。
そして互いが示し合わせたように、同時に地面を蹴り上げて襲い掛かった。
槍使いの褐色女性と、大剣使いのエリクの戦いが始まった。
二人は何度か魔物や魔獣に遭遇し、その度に戦闘を切り抜けた。
エリクは大剣を駆使した中で、大剣を振るのに適しない場所では、アリアが投げ渡したショートソードを使い、肉弾戦を用いつつ剣で切り伏せていく。
「素手で魔物を殴り倒してる……。魔法も使わず、こんな事が出来るなんて……」
狼の魔物の次に現れた雑種猿を、豪腕を奮って殴りつけて死に至らしめるエリクに、魔法で援護するアリアが驚きの声を呟く。
そして戦闘が終わった後、猿の魔物の死骸から目を逸らしたアリアが、エリクに聞くように問い質した。
「エリク。貴方、何でそんなに強いの?」
「どういう意味だ?」
「確かに貴方は、見た目からして強そうではあるんだけど。素手で魔物の頭蓋を砕ける人間なんて、聞いたことない。魔法には身体強化というモノもあるけど、貴方がそれを行ってる様子も見えない」
「ああ。俺は魔法なんて使えない」
「そんな魔法を使えない貴方が、なんで魔力を宿して肉体を強化している魔物や魔獣を、素手で倒してる。それだけの強さを身に付けるのに、どんなことをしたの?」
「……戦い続けたから、としか言えないな」
そう回答するしかないエリクに、疑問を浮かべるアリアは頬を膨らませつつ、樹海の中を進み続けた。
樹海の中を移動し始めて、既に三日が経つ。
手持ちの保存食の在庫も底が見え隠れし始め、苦心を思うアリアの様子とは裏腹に、エリクは慣れた様子で森の中で座りながら眠る。
途中で雨が降り、その雨を身に受けながらも二人は進んだ。
傭兵として森や荒野を始めとした外での野営に慣れているエリクと、旅の初心者で外の野営に慣れないアリアは、環境と地形の変化に対応しようとする中で、共に体力的にも精神的にも消耗に違いが見え始めた。
目に見えて疲労しているアリアに、エリクは声を掛けつつ心配した。
「アリア、そろそろ休むか?」
「ハァ……ハァ……。さっき、休憩した、ばっかりじゃない。まだ、まだ……」
「顔色が悪いぞ。休むべきだ」
「まだ、大丈夫……。大丈夫、だから……」
「……分かった」
心配するエリクの声を跳ね除け、アリアは息を乱しながらも回復魔法を自分にかける。
そしてエリクの後を付いて行く。
アリアを心配するエリクだったが、一定の距離を保ちながらアリアに合わせ、待ちながら移動をし続けた。
大きな崖と滝が見える場所を見つけた時、樹木に身を預けるように膝を着いたアリアに、エリクは驚きながら近付き、アリアを抱えた。
「アリア!」
「ハァ……ハァ……」
「……これは、熱か」
息を乱して呼び掛けても反応できないアリアが、汗を掻きつつ体温を高くしている様子に、エリクが知識として辛うじて持つ病気名が浮んだ。
その日はその場所を野営場所として選び、アリアが水の魔法で入れた水筒の水をアリア自身に飲ませた。
簡易テントを広げて敷き布を置き、その上にアリアを寝かせたエリクは、まずはアリアの防具を脱がせて楽な体勢にした。
そして周囲の枝葉を集めて火打石を使い、火を起こして野営準備を整えた。
エリクは魔物の気配を警戒しつつ見張り、夜になるとアリアが意識を戻した。
「――……エ、リク……?」
「起きたか?」
「わた、し……どうして……?」
「熱を出して倒れた。今日はテントでお前を寝かせる。熱が下がるまでは、休め」
「……ダメ、よ。早く、森を抜けないと……」
「このまま移動すれば、君が死ぬ」
「……」
「数の多い魔物や魔獣が出た場合に、君を守りながら戦うのは難しい。最低でも、君が自分の身を守れるくらいになってほしい」
「……それって、護衛としての、要求?」
「ああ」
「……分かった、休む。……ごめんね、足手まといで……」
「?」
「……私、浮かれてたんだと思う。……誰にも負けたこと、一度も無くて。子供の頃から、才女だとか持て囃されて……。でも、実際に旅に出たら、凄くきつくて……。でも、この程度でヘタレたら、ダメだって……。頑張らないといけないって、そう思って……」
「……」
「……今の私、足手まといよね……。エリク一人だったら、この森なんて、すぐに抜け出すこと、できるわよね……」
「君がいなければ、俺はここまで来れていない」
「……ッ」
熱で苦しみ弱気を見せるアリアの弱音に、エリクは本音で答えた。
そのエリクの一言を聞いたアリアが、エリクの服の裾を弱々しく指で掴みながら、声を押し殺すように涙を見せていた。
その後、アリアは静かに寝つつ、テントの外でエリクは座りながら大剣を抱え、緊張と警戒を持ちながら休んだ。
次の日の早朝、夜を越えた明け方。
緊張感を高めたまま寝ていたエリクが突如として目を開け、素早く立ち上がりながら黒い大剣を引き抜いた。
「誰だ」
滝の近くで霧に覆われる視界にも関わらず、何者かの気配を認識したエリクは、最大の警戒を持って自分達を見る相手に告げた。
その霧の中から現れたのは、一人の民族装束を着た短い黒髪の褐色女性。
褐色の肌には赤い塗料で模様が描かれ、右手に槍と思しき石の刃を着けた棒を持ち、口元を布で覆い隠す褐色女性に、エリクは大剣を構えつつ警戒した。
「……」
「追っ手か」
黙ったままの褐色女性が槍をエリクに向け、アリアか自分の追っ手だと判断したエリクは、黒い大剣を握る手に力を込める。
そして互いが示し合わせたように、同時に地面を蹴り上げて襲い掛かった。
槍使いの褐色女性と、大剣使いのエリクの戦いが始まった。
8
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!
アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。
「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」
王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。
背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。
受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ!
そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた!
すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!?
※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。
※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。
※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
やはり婚約破棄ですか…あら?ヒロインはどこかしら?
桜梅花 空木
ファンタジー
「アリソン嬢、婚約破棄をしていただけませんか?」
やはり避けられなかった。頑張ったのですがね…。
婚姻発表をする予定だった社交会での婚約破棄。所詮私は悪役令嬢。目の前にいるであろう第2王子にせめて笑顔で挨拶しようと顔を上げる。
あら?王子様に騎士様など攻略メンバーは勢揃い…。けどヒロインが見当たらないわ……?
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる