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逃亡編 一章:帝国領脱出
二人の武具
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次にアリアとエリクが訪れたのは、武具を扱う商店。
そこには人間の鍛冶師達が集いつつ、表に商品となる武器を幾つか並べる工房を兼ねた店と、
外の露店に並べる店があった。
その商店通りを眺めつつ、アリアはエリクを伴いながら移動し、視界に止まった商店で足を止めた。
「ここで買っておこうかしら」
「ここか?」
「うん。貴方は読めないだろうけど、ここの看板に軽量防具って書かれてるの。女の私でも身に付けて歩ける防具はありそうじゃない?」
「そうか。君用なら、買うべきだろうな」
エリクもアリアが防具を身に付ける事を賛成し、そのまま店の中に入る。
店には比較的小柄な者でも身に付けられる、鉄や革を用いた軽量鎧などが数多く置かれていた。
そんな中でアリアが注目したのは、自身の胸部を守る胸当てと、皮革製の篭手や足具を始めとした防具。
特に鉄の胸当てに注目するアリアは、店主の男性に胸当てのことを聞いた。
「店主さん。この胸当て、もしかして魔石を嵌め込めるタイプ?」
「ん?ああ、そうだよ。加工して形を整えた魔石を嵌め込めば、魔法を短時間だが滞留できるって代物さ」
「へえ。身を守る物理障壁や魔力障壁を、一度発動させればそのまま展開して魔石内の魔力が切れるまで維持できる魔装ね」
「もしかしてお嬢ちゃん、魔法使いか?」
「まぁね。ふーん、金貨三枚かぁ」
「値段が張るのは当たり前さ。嵌め込める魔石さえあれば、魔法が使えない奴でも魔法で身を守れる代物だからな。ただの鉄の胸当てより、遥かに頑丈になるんだぜ?」
「うーん。……ちなみに、ここの相場は他の防具屋と同じようなモノ?」
「ああ。ただ値段が違うモノは、有名な職人や鍛冶師が作ってるからか、外国の輸入品かの違いだな。これは帝国の中でも有名な職人が作った魔石防具だから、高めなのさ」
「もしかして、これって鍛冶師マイブの防具?」
「おっ、詳しいね、お嬢ちゃん。ほら、ここの裏側に『マイブ』って名前が彫られてるだろ。これが鍛冶師マイブが作った証拠だ」
「……確かに、銘は本物ね。……うん。それじゃあ、この胸当てとそこの革手袋、そしてその革の篭手と足具を頂戴」
「おお、嬢ちゃん買うのか。毎度あり!」
そうして店主と話し終えたアリアは、購入する防具を試着しつつ、サイズが合うかを確認した。
試しに動いて合うサイズだと納得し、改めて店主に料金を払ったアリアは、エリクに振り向きながら微笑みつつ聞いた。
「どう、似合ってる?」
「似合ってるかは分からないが、戦う時には必要だ」
「あら、素っ気無い。そんなんじゃ女性にモテないわよ」
「モテる?」
「……えっ」
「ん?」
「ねぇ、エリク。貴方、女性とお付き合いしたことは?」
「女と突き合うとは、模擬戦のことか。女の傭兵は滅多にいないからな。一度か二度、あるかないかだ」
「……」
「どうしたんだ?」
そんな事を聞き返すエリクに、アリアは唖然とした表情を素早く切り替え、店を出て小声で話した。
「エリク」
「なんだ?」
「正直に答えて。貴方、子供がどうやって生まれてくるかは知ってる?」
「……よくは、分からないな。夫婦になった男と女が一緒にいると、勝手に来るものではないのか?」
「……これは、酷いわ」
「何がだ?」
「いえ、いい。というか私から言いたくないし、教えたくない!」
「どういうことだ。顔も赤いが、大丈夫か?」
「もうこの話題は終わり、終了! さっさと次の店に行くわよ。次は貴方の武具と、私が持てそうな軽い武器!」
頭を抱えるアリアが唐突に話題を切り上げ、次の店を探す為に歩き出した。
そんな様子を不思議に思いつつ、エリクは後を追うように歩いた。
見渡しながら歩く中で、エリクのような大柄の男でも身に付けられる、防具が置いてある店を発見すると、アリアはそこにエリクを連れて入った。
そしてエリクを前に押し出すようにしながら、店主の前まで赴き、アリアは頼んだ。
「店主さん。この人に合いそうな防具を見繕ってほしいの」
「ああ、良いぜ。しかしデケェな。どんな防具がいい?」
「希望は、できるだけ動きに制限が加わらないような部位の防具。この人、傭兵で大剣が武器だから」
「大剣使いで、軽量鎧がお好みか。……ふむ、ちょいと待ってな」
店主はエリクを見回すように眺めた後、店の中から幾つかの防具を選び、それを大きな受付カウンターに置いていく。
「お前さんを見る限り、防御性よりも機動性を確保して急所は守れるってタイプが好みだろ」
「そう、見えるか?」
「所々の身体の痕を見ればな。だったらまずは、この鎧と篭手。そして手首から指まで守れるこの頑丈な手袋だ」
「……持ってもいいか?」
「ああ、いいぜ」
店主が持ってきたのは、黒い鉄で出来た素材で仕上がっている胸と背中を覆える薄い鎧。
それを直接持って確かめるエリクは、重さを調べつつ触った感触で厚さを確かめた。
「意外と軽いな」
「それはお前さんが鍛えてる証拠だ。そこらへんの軽量鎧よりは、この黒鉄は鉄より比重が重いが、かなり硬いぜ。鉄剣や低級の魔獣程度じゃ、切られても防げるぜ。こっちの手袋も、指部分と手甲に薄い黒鉄を纏わせてる。大剣使いなのに、武器を持つ指が切り飛ばされたら意味が無いからな。上手くやれば、これを着けたまま手や腕で軽い剣撃程度なら防げるかもな」
「そうか」
「何日か使ってれば、使い心地は馴染むと思うぜ。どうだい?」
「……どう思う?」
店主がエリクに勧める防具を見つつ、本人のエリクは購入するかどうかを尋ねる。
財布の紐は完全にアリアが握っており、購入する為にはアリアの意思が必要だと、エリクは身の程を弁えていたらしい。
それを聞いたアリアは少し考え、エリクに頷いて見せた。
「良いと思うわ。あと店主さん、この人に合うヘッドギアは無いかしら?」
「ああ、あるぜ。ちょっと待ってな。……これや、これはどうだい?」
「……こっちのフルフェイスの兜は、視界を遮って邪魔になりそうね。こっちはヘッドギアタイプね。どっちが良い?」
「……こっちの、ヘッドギアだな」
「じゃあ、こっちをください。全部まとめて買います。あと、あそこにある短剣を二本、ショートソードを一本ください」
「おお、買い上げありがとう。どうする? そのまま付けて行くか?」
「試しに試着して、合わなければ手直しをお願いします」
金貨を一枚分払いつつ、防具を購入したアリアとエリクは、店主に頼み試着しつつサイズを調整してもらい、エリクは全身に黒鉄の防具を身に付けた。
服の上から黒鉄の鎧を身に纏い、手には薄い黒鉄鋼板が幾重にも固定した手袋。
そして同じく黒鉄のヘッドギアを身に付けつつ、体を動かして違和感が無いかを確かめた。
「……少し慣れないが、すぐ馴染むと思う」
「そう。それじゃあ店主さん、彼が今まで身に着けていた防具を売りたいんですが、どうですか?」
「これかい? ……うーん。使い込まれているせいもあるんだろうが、あちこちが荒いな。誰だ、こんな雑な仕事したの。こりゃあ、防具として再利用はちょいと難しいな。鉄分の値段くらいしか出せないが、どうする?」
「エリク。この防具は持っていけないから売りたいんだけど、鉄分のお金で売ってもいい?」
「任せる」
「じゃあ、それでお願いします」
今まで着ていたエリクの防具をアリアは売り、その金額分となる銀貨十数枚を受け取った。
それを麻袋に入れたアリアは、エリクの手に銀貨の入った袋を持たせた。
「これ、貴方のお金よ」
「俺の、か?」
「貴方の物を売ったんだから、貴方がお金を持つのは普通でしょ? これからは貴方が稼いだ分は、貴方がちゃんとお金を持つの。良い?」
「それも、必要か?」
「必要よ。ちゃんと自分でお金を持って、その使い方を自分で決めて、自分で払って買うの。良いわね?」
「……やってみよう」
アリアに言い聞かされるエリクは、素直に頷きながら銀貨の入った袋を受け取った。
それを胸元に収めつつ、アリアとエリクは店から出た。
それを見送るように見ていた店主がエリクが背負う大剣を見て、訝しげに呟いた。
「……あの黒い大剣、まさか? ……いや、まさかな」
店主が抱いた考えを否定しつつ、受け取った金貨を収めて仕事に戻った。
そうした中でエリクとアリアは、旅に必要な雑貨品を探す為、武具屋がある通りから離れたのだった。
そこには人間の鍛冶師達が集いつつ、表に商品となる武器を幾つか並べる工房を兼ねた店と、
外の露店に並べる店があった。
その商店通りを眺めつつ、アリアはエリクを伴いながら移動し、視界に止まった商店で足を止めた。
「ここで買っておこうかしら」
「ここか?」
「うん。貴方は読めないだろうけど、ここの看板に軽量防具って書かれてるの。女の私でも身に付けて歩ける防具はありそうじゃない?」
「そうか。君用なら、買うべきだろうな」
エリクもアリアが防具を身に付ける事を賛成し、そのまま店の中に入る。
店には比較的小柄な者でも身に付けられる、鉄や革を用いた軽量鎧などが数多く置かれていた。
そんな中でアリアが注目したのは、自身の胸部を守る胸当てと、皮革製の篭手や足具を始めとした防具。
特に鉄の胸当てに注目するアリアは、店主の男性に胸当てのことを聞いた。
「店主さん。この胸当て、もしかして魔石を嵌め込めるタイプ?」
「ん?ああ、そうだよ。加工して形を整えた魔石を嵌め込めば、魔法を短時間だが滞留できるって代物さ」
「へえ。身を守る物理障壁や魔力障壁を、一度発動させればそのまま展開して魔石内の魔力が切れるまで維持できる魔装ね」
「もしかしてお嬢ちゃん、魔法使いか?」
「まぁね。ふーん、金貨三枚かぁ」
「値段が張るのは当たり前さ。嵌め込める魔石さえあれば、魔法が使えない奴でも魔法で身を守れる代物だからな。ただの鉄の胸当てより、遥かに頑丈になるんだぜ?」
「うーん。……ちなみに、ここの相場は他の防具屋と同じようなモノ?」
「ああ。ただ値段が違うモノは、有名な職人や鍛冶師が作ってるからか、外国の輸入品かの違いだな。これは帝国の中でも有名な職人が作った魔石防具だから、高めなのさ」
「もしかして、これって鍛冶師マイブの防具?」
「おっ、詳しいね、お嬢ちゃん。ほら、ここの裏側に『マイブ』って名前が彫られてるだろ。これが鍛冶師マイブが作った証拠だ」
「……確かに、銘は本物ね。……うん。それじゃあ、この胸当てとそこの革手袋、そしてその革の篭手と足具を頂戴」
「おお、嬢ちゃん買うのか。毎度あり!」
そうして店主と話し終えたアリアは、購入する防具を試着しつつ、サイズが合うかを確認した。
試しに動いて合うサイズだと納得し、改めて店主に料金を払ったアリアは、エリクに振り向きながら微笑みつつ聞いた。
「どう、似合ってる?」
「似合ってるかは分からないが、戦う時には必要だ」
「あら、素っ気無い。そんなんじゃ女性にモテないわよ」
「モテる?」
「……えっ」
「ん?」
「ねぇ、エリク。貴方、女性とお付き合いしたことは?」
「女と突き合うとは、模擬戦のことか。女の傭兵は滅多にいないからな。一度か二度、あるかないかだ」
「……」
「どうしたんだ?」
そんな事を聞き返すエリクに、アリアは唖然とした表情を素早く切り替え、店を出て小声で話した。
「エリク」
「なんだ?」
「正直に答えて。貴方、子供がどうやって生まれてくるかは知ってる?」
「……よくは、分からないな。夫婦になった男と女が一緒にいると、勝手に来るものではないのか?」
「……これは、酷いわ」
「何がだ?」
「いえ、いい。というか私から言いたくないし、教えたくない!」
「どういうことだ。顔も赤いが、大丈夫か?」
「もうこの話題は終わり、終了! さっさと次の店に行くわよ。次は貴方の武具と、私が持てそうな軽い武器!」
頭を抱えるアリアが唐突に話題を切り上げ、次の店を探す為に歩き出した。
そんな様子を不思議に思いつつ、エリクは後を追うように歩いた。
見渡しながら歩く中で、エリクのような大柄の男でも身に付けられる、防具が置いてある店を発見すると、アリアはそこにエリクを連れて入った。
そしてエリクを前に押し出すようにしながら、店主の前まで赴き、アリアは頼んだ。
「店主さん。この人に合いそうな防具を見繕ってほしいの」
「ああ、良いぜ。しかしデケェな。どんな防具がいい?」
「希望は、できるだけ動きに制限が加わらないような部位の防具。この人、傭兵で大剣が武器だから」
「大剣使いで、軽量鎧がお好みか。……ふむ、ちょいと待ってな」
店主はエリクを見回すように眺めた後、店の中から幾つかの防具を選び、それを大きな受付カウンターに置いていく。
「お前さんを見る限り、防御性よりも機動性を確保して急所は守れるってタイプが好みだろ」
「そう、見えるか?」
「所々の身体の痕を見ればな。だったらまずは、この鎧と篭手。そして手首から指まで守れるこの頑丈な手袋だ」
「……持ってもいいか?」
「ああ、いいぜ」
店主が持ってきたのは、黒い鉄で出来た素材で仕上がっている胸と背中を覆える薄い鎧。
それを直接持って確かめるエリクは、重さを調べつつ触った感触で厚さを確かめた。
「意外と軽いな」
「それはお前さんが鍛えてる証拠だ。そこらへんの軽量鎧よりは、この黒鉄は鉄より比重が重いが、かなり硬いぜ。鉄剣や低級の魔獣程度じゃ、切られても防げるぜ。こっちの手袋も、指部分と手甲に薄い黒鉄を纏わせてる。大剣使いなのに、武器を持つ指が切り飛ばされたら意味が無いからな。上手くやれば、これを着けたまま手や腕で軽い剣撃程度なら防げるかもな」
「そうか」
「何日か使ってれば、使い心地は馴染むと思うぜ。どうだい?」
「……どう思う?」
店主がエリクに勧める防具を見つつ、本人のエリクは購入するかどうかを尋ねる。
財布の紐は完全にアリアが握っており、購入する為にはアリアの意思が必要だと、エリクは身の程を弁えていたらしい。
それを聞いたアリアは少し考え、エリクに頷いて見せた。
「良いと思うわ。あと店主さん、この人に合うヘッドギアは無いかしら?」
「ああ、あるぜ。ちょっと待ってな。……これや、これはどうだい?」
「……こっちのフルフェイスの兜は、視界を遮って邪魔になりそうね。こっちはヘッドギアタイプね。どっちが良い?」
「……こっちの、ヘッドギアだな」
「じゃあ、こっちをください。全部まとめて買います。あと、あそこにある短剣を二本、ショートソードを一本ください」
「おお、買い上げありがとう。どうする? そのまま付けて行くか?」
「試しに試着して、合わなければ手直しをお願いします」
金貨を一枚分払いつつ、防具を購入したアリアとエリクは、店主に頼み試着しつつサイズを調整してもらい、エリクは全身に黒鉄の防具を身に付けた。
服の上から黒鉄の鎧を身に纏い、手には薄い黒鉄鋼板が幾重にも固定した手袋。
そして同じく黒鉄のヘッドギアを身に付けつつ、体を動かして違和感が無いかを確かめた。
「……少し慣れないが、すぐ馴染むと思う」
「そう。それじゃあ店主さん、彼が今まで身に着けていた防具を売りたいんですが、どうですか?」
「これかい? ……うーん。使い込まれているせいもあるんだろうが、あちこちが荒いな。誰だ、こんな雑な仕事したの。こりゃあ、防具として再利用はちょいと難しいな。鉄分の値段くらいしか出せないが、どうする?」
「エリク。この防具は持っていけないから売りたいんだけど、鉄分のお金で売ってもいい?」
「任せる」
「じゃあ、それでお願いします」
今まで着ていたエリクの防具をアリアは売り、その金額分となる銀貨十数枚を受け取った。
それを麻袋に入れたアリアは、エリクの手に銀貨の入った袋を持たせた。
「これ、貴方のお金よ」
「俺の、か?」
「貴方の物を売ったんだから、貴方がお金を持つのは普通でしょ? これからは貴方が稼いだ分は、貴方がちゃんとお金を持つの。良い?」
「それも、必要か?」
「必要よ。ちゃんと自分でお金を持って、その使い方を自分で決めて、自分で払って買うの。良いわね?」
「……やってみよう」
アリアに言い聞かされるエリクは、素直に頷きながら銀貨の入った袋を受け取った。
それを胸元に収めつつ、アリアとエリクは店から出た。
それを見送るように見ていた店主がエリクが背負う大剣を見て、訝しげに呟いた。
「……あの黒い大剣、まさか? ……いや、まさかな」
店主が抱いた考えを否定しつつ、受け取った金貨を収めて仕事に戻った。
そうした中でエリクとアリアは、旅に必要な雑貨品を探す為、武具屋がある通りから離れたのだった。
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