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逃亡編 一章:帝国領脱出
不気味な老人
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食堂に来たエリクだったが、出身国である王国語どころか、帝国語さえ満足に読めないエリクは、メニューを読めずに悩んだ。
そんな彼の様子を横で座って見ていた、白と黒混じり髪になっている老人男性がいた。
その視線に気付いたエリクが、メニューから目を逸らして老人男性を見る。
「なんだ?」
「ふむ。随分と身綺麗ではあるが、君は傭兵かな? 随分と鍛えた逞しい体をしておる」
「そうだ。そっちは?」
「これは失礼じゃったかな。儂はしがない、ただの旅行者じゃよ」
「そうなのか?」
「そうじゃよ。ほっほっほっ」
「そうか」
そう隣り合うように座るエリクと老人男性が、軽い挨拶を交えつつ、相手の素性を軽く聞き話す。
そうした短い話の中で、エリクはある事を思いつき、老人男性に話し掛けた。
「そっちが食べている料理は、なんという名だ?」
「ふむ、これか? 魚介のソテーに、シーフードパエリアじゃな」
「そうか、ありがとう」
老人男性の注文している料理を見て、エリクはその料理名を聞くと、他の客が手を上げて給仕を呼ぶ姿を真似て、給仕を呼んで料理を頼んだ。
「注文を頼む」
「はーい。注文をお聞きします」
「魚介のソテーと、シーフードパエリアを頼む」
「分かりました。少々お待ちくださいませー」
注文を聞いた給仕は厨房へ行き、エリクが注文した料理を伝える。
それを横で見ていた老人男性は、面白そうに微笑みながらエリクに話し掛けた。
「ほっほっ、面白い男じゃな。儂と同じモノを頼む為に聞いたのかい?」
「ああ、すまないな」
「ええよ別に。見たところお前さん、帝国人ではないな?」
「……どうして、そう思う?」
「儂は旅行者だと言ったろう? その者の纏う雰囲気で、その国の生まれか生まれではないの違いが分かる。少なくとも、帝国人にお前さんは思えぬよ」
「……そうか」
「何処から来なさった? 儂と一緒の船に乗って来たような感じではなし、陸からか?」
「船?」
「南からの定期船じゃよ。儂はつい先日、この港町に着いたばかりでな」
「そうなのか。……ん? 定期船は、もう来ているのか?」
何気無い老人男性との会話で、自分達が乗る予定の定期船が既に到着していると分かったエリクは、聞き返すように老人男性に聞いた。
老人男性は微笑みながら、エリクの問いに答えた。
「そうじゃよ。お前さん、定期船に乗りに来たのかい?」
「そうだ。定期船は、もう出航してしまったのか?」
「まだじゃよ。定期船は港に到着した後に、補給と船員の休暇に五日間、港に滞在するのじゃよ。確か、二日後に南行きの定期船が出航するはずじゃ」
「二日後か」
「お前さんの質問に答えたんじゃ。儂の質問にも、答えてくれんかの?」
「質問?」
「お前さんが、何処から来たのかじゃよ」
二日後に定期船が出航する情報を老人男性から得る事が出来たエリクだが、その返しとして質問に答えるよう、微笑みつつ伝える老人男性に対して、エリクは少し悩みつつも、素直に答えた。
「俺は、ベルグリンド王国から来た」
「ほぉ、王国から。して、王国から来た傭兵のお前さんが、何故ここに?」
「……護衛として雇われて、南の国に行く予定だ」
「ほぉ、なるほど、ならお前さんの身元は、雇い主が保証済みか。ならば良かろう」
「どういう意味だ?」
「時に居るのじゃよ。不法に入国し、国内に居座る不届き者がな。お前さんの場合、何か身元を保証できる程の役職か、帝国でそれ相応の地位に就く者から身元を保証された上で、入国したのじゃろ? でなければ、この宿に泊まれるわけがないからの」
「あ、ああ。そうだな」
「ん? ……まあ、いいわい。しかし他国から雇われるとは、お前さん、よほど王国では名の通る傭兵じゃったのか?」
「ど、どうだろうな」
「ふむ。お前さん、王国のエリクという傭兵を知っておるか?」
「……し、知らないな」
質問に答えていく中で、自分の名を唐突に出されたエリクは、内心で動揺しつつ、首を横に振って答えた。
老人男性はそれを知ってか知らずか、エリクの事を話し続ける。
「なんでもベルグリンド王国では、一・二を争う傭兵の戦士らしいのぉ。野獣のような形相に逞しい肉体と、黒髪に黒い瞳を持ち、黒い大剣を背負い、身に纏う服も黒布を纏っておるそうじゃ。この帝国との小競り合いで、この十年程で名を見せ始めた男のようでな。魔物や魔獣さえ、素手で千切って投げるそうじゃ」
「そ、そうか」
「……時にお前さん。黒髪に黒い瞳じゃな? 服も黒いし、逞しい体……」
「……」
「まさか、王国の戦士エリク本人……。……な、ワケがないか。ほっほっほっ」
「は、はは……」
そうして笑いながら老人男性は話し、エリクは内心で冷や汗を掻きながら、頼んだ料理が来るのを待つしかなかった。
そしてエリクの料理が届くより先に、食事を食べ終えた老人男性が席を立ち、金銭となる銀貨を複数個ほど机に置いてから、食堂から去る間際にエリクの前を通り、軽く挨拶をしていった。
「美味い食事は一人で楽しむものじゃが、たまには誰かと話しながら食べる食事も楽しかったわい。感謝するよ」
「あ、ああ」
「それではの、戦士エリク。……と、似ている姿の傭兵殿よ」
そう言い去った老人男性を見送りながら、給仕が運ぶエリクの料理が入れ替わるように机に置かれた。
それを食べながら先程までの焦りを解消するように胃袋に収め、食べ終わった後に老人男性を真似て銀貨を同じ数だけ机に置く。
そして給仕が持ってきた弁当を受け取り、銀貨一枚を払ってアリアが居る部屋へ戻った。
しかし戻った時には、アリアは完全に熟睡していた。
持ち帰った弁当を傍の机に置いたエリクは、そのまま置いていた大剣を掴む。
もう一つのベットでエリクは寝ようとはせず、出入り口の扉が見える廊下に座った。
「……まるで、魔獣のような老人だった……」
そう呟いたエリクは目を閉じ、脳の一部を意識的に緊張させて、大剣を抱えて座ったまま寝た。
先程の老人がこの部屋に押し入る事を、エリクは危惧していた。
そんな彼の様子を横で座って見ていた、白と黒混じり髪になっている老人男性がいた。
その視線に気付いたエリクが、メニューから目を逸らして老人男性を見る。
「なんだ?」
「ふむ。随分と身綺麗ではあるが、君は傭兵かな? 随分と鍛えた逞しい体をしておる」
「そうだ。そっちは?」
「これは失礼じゃったかな。儂はしがない、ただの旅行者じゃよ」
「そうなのか?」
「そうじゃよ。ほっほっほっ」
「そうか」
そう隣り合うように座るエリクと老人男性が、軽い挨拶を交えつつ、相手の素性を軽く聞き話す。
そうした短い話の中で、エリクはある事を思いつき、老人男性に話し掛けた。
「そっちが食べている料理は、なんという名だ?」
「ふむ、これか? 魚介のソテーに、シーフードパエリアじゃな」
「そうか、ありがとう」
老人男性の注文している料理を見て、エリクはその料理名を聞くと、他の客が手を上げて給仕を呼ぶ姿を真似て、給仕を呼んで料理を頼んだ。
「注文を頼む」
「はーい。注文をお聞きします」
「魚介のソテーと、シーフードパエリアを頼む」
「分かりました。少々お待ちくださいませー」
注文を聞いた給仕は厨房へ行き、エリクが注文した料理を伝える。
それを横で見ていた老人男性は、面白そうに微笑みながらエリクに話し掛けた。
「ほっほっ、面白い男じゃな。儂と同じモノを頼む為に聞いたのかい?」
「ああ、すまないな」
「ええよ別に。見たところお前さん、帝国人ではないな?」
「……どうして、そう思う?」
「儂は旅行者だと言ったろう? その者の纏う雰囲気で、その国の生まれか生まれではないの違いが分かる。少なくとも、帝国人にお前さんは思えぬよ」
「……そうか」
「何処から来なさった? 儂と一緒の船に乗って来たような感じではなし、陸からか?」
「船?」
「南からの定期船じゃよ。儂はつい先日、この港町に着いたばかりでな」
「そうなのか。……ん? 定期船は、もう来ているのか?」
何気無い老人男性との会話で、自分達が乗る予定の定期船が既に到着していると分かったエリクは、聞き返すように老人男性に聞いた。
老人男性は微笑みながら、エリクの問いに答えた。
「そうじゃよ。お前さん、定期船に乗りに来たのかい?」
「そうだ。定期船は、もう出航してしまったのか?」
「まだじゃよ。定期船は港に到着した後に、補給と船員の休暇に五日間、港に滞在するのじゃよ。確か、二日後に南行きの定期船が出航するはずじゃ」
「二日後か」
「お前さんの質問に答えたんじゃ。儂の質問にも、答えてくれんかの?」
「質問?」
「お前さんが、何処から来たのかじゃよ」
二日後に定期船が出航する情報を老人男性から得る事が出来たエリクだが、その返しとして質問に答えるよう、微笑みつつ伝える老人男性に対して、エリクは少し悩みつつも、素直に答えた。
「俺は、ベルグリンド王国から来た」
「ほぉ、王国から。して、王国から来た傭兵のお前さんが、何故ここに?」
「……護衛として雇われて、南の国に行く予定だ」
「ほぉ、なるほど、ならお前さんの身元は、雇い主が保証済みか。ならば良かろう」
「どういう意味だ?」
「時に居るのじゃよ。不法に入国し、国内に居座る不届き者がな。お前さんの場合、何か身元を保証できる程の役職か、帝国でそれ相応の地位に就く者から身元を保証された上で、入国したのじゃろ? でなければ、この宿に泊まれるわけがないからの」
「あ、ああ。そうだな」
「ん? ……まあ、いいわい。しかし他国から雇われるとは、お前さん、よほど王国では名の通る傭兵じゃったのか?」
「ど、どうだろうな」
「ふむ。お前さん、王国のエリクという傭兵を知っておるか?」
「……し、知らないな」
質問に答えていく中で、自分の名を唐突に出されたエリクは、内心で動揺しつつ、首を横に振って答えた。
老人男性はそれを知ってか知らずか、エリクの事を話し続ける。
「なんでもベルグリンド王国では、一・二を争う傭兵の戦士らしいのぉ。野獣のような形相に逞しい肉体と、黒髪に黒い瞳を持ち、黒い大剣を背負い、身に纏う服も黒布を纏っておるそうじゃ。この帝国との小競り合いで、この十年程で名を見せ始めた男のようでな。魔物や魔獣さえ、素手で千切って投げるそうじゃ」
「そ、そうか」
「……時にお前さん。黒髪に黒い瞳じゃな? 服も黒いし、逞しい体……」
「……」
「まさか、王国の戦士エリク本人……。……な、ワケがないか。ほっほっほっ」
「は、はは……」
そうして笑いながら老人男性は話し、エリクは内心で冷や汗を掻きながら、頼んだ料理が来るのを待つしかなかった。
そしてエリクの料理が届くより先に、食事を食べ終えた老人男性が席を立ち、金銭となる銀貨を複数個ほど机に置いてから、食堂から去る間際にエリクの前を通り、軽く挨拶をしていった。
「美味い食事は一人で楽しむものじゃが、たまには誰かと話しながら食べる食事も楽しかったわい。感謝するよ」
「あ、ああ」
「それではの、戦士エリク。……と、似ている姿の傭兵殿よ」
そう言い去った老人男性を見送りながら、給仕が運ぶエリクの料理が入れ替わるように机に置かれた。
それを食べながら先程までの焦りを解消するように胃袋に収め、食べ終わった後に老人男性を真似て銀貨を同じ数だけ机に置く。
そして給仕が持ってきた弁当を受け取り、銀貨一枚を払ってアリアが居る部屋へ戻った。
しかし戻った時には、アリアは完全に熟睡していた。
持ち帰った弁当を傍の机に置いたエリクは、そのまま置いていた大剣を掴む。
もう一つのベットでエリクは寝ようとはせず、出入り口の扉が見える廊下に座った。
「……まるで、魔獣のような老人だった……」
そう呟いたエリクは目を閉じ、脳の一部を意識的に緊張させて、大剣を抱えて座ったまま寝た。
先程の老人がこの部屋に押し入る事を、エリクは危惧していた。
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