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最終章

静寂の海

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白銀の国と協力関係になってからはや10年。
血の毒の解毒薬に始まった研究は、今では他の研究にまで手を広げている。
静寂の海は、海ならではの素材と知識を提供し、白銀の国も技術と知識を共有している。
このおかげで、海での病気の死亡率がかなり下がってきているのがありがたいことだ。
コラッロはようやく代表という役割が板についてきて、反対するものも今はいない。
ザッフィロも白銀の国を行き来する連絡役として、手となり足となってくれている。

「父さん!明日ビル姉さん来てくれるよね!?」

コラッロの部屋に入ってきたのは息子のグラナートだ。
グラナートは幼い頃、自分では制御できない強い魔力に困っていた。
それを改善してくれたのは当時白銀の国に勤めていたエルフのビルだ。
彼女は自分の経験から、魔力や魔法が制御できなくて困っている子供たちを助けたいという志があった。
そんな彼女に救われた初めての子供がグラナートだ。
そうしてビルは今会社を立ち上げて、自分の足で各国を定期的にめぐり、悩む子供たちの手助けをしているのだ。

「ビルお姉ちゃんが来てくれるなら、騎士のお姉ちゃんも来るかな!?」

そう言ってはしゃぐのは娘のペルラだ。
ビルは移動するときには黒羽鳥で移動するのが常らしいのだが、時折ドラゴンの騎士が送ってくれるのだと言っていた。
そうして静寂の海に来る際にも、ドラゴンの騎士とともに訪れることがある。

「騎士のお姉ちゃんにまたドラゴンに乗せてもらう約束してるんだ!こないだはね、新緑の国まで連れてってくれたの。ほとんどが獣人でね、かわいい耳が生えてて、雪豹の騎士の人がかっこよかったの!」
「ちょっと待った、ペルラちゃん。パパ、聞いてないよそれ。そんな遠くまで行ったの!?」
「ママには言ったもん。パパに言ったら絶対止めるでしょ。私もう14歳だよ?遠出だってできるし。それに、騎士のお姉ちゃんすっごく強いから安心だって、ヒサメ様言ってたもん。」
ペルラはそう言って、明日に思いを馳せ始める。
「騎士のお姉ちゃん、次はどこに連れてってくれるかな。でも、凄いよね。白銀の国が色んな国と交流出来ているから、どの国にも入れるんでしょ?騎士のお姉ちゃんが各国の人たちのために奔走したから、みんなドラゴンを見ても驚かなくなったってザッフィロおじさんも言ってたし。本来なら見ることの出来ないドラゴンなんだって聞いたけど、私は物心ついた時から見てるから実感ないや。」
そんなペルラにグラナートが付け加える。
「僕たちが小さい頃に起こった大地震の時に、白銀の国の人たちが各国を支援して回った話は有名だろ?ドラゴンの騎士は、ドラゴンと話せることを活かして人助けに大いに貢献したんだって。そんな凄い人なんだから、ペルラもあんまり我儘言うなよ。」
「言ってないってば。ドラゴンと話せると言えばさ、騎士のお姉ちゃん人魚語も分かるの凄いよね。私小さい時、お姉ちゃんと話した記憶あるもん。」
ペルラのその言葉にコラッロとグラナートは首を傾げる。
「そんな小さい時に会ったことあるかな?いや、静寂の海には来てくれていたが、ペルラと話す機会は無かったと思うけどな。」
「話したもん、人魚語しか話せないくらい小さい時。あれって、何のときだっけ?」
ペルラはそう言って頭を悩ませるが思い出せないらしい。

「またペルラはドラゴンの騎士の話か。」

そう言って部屋に入ってきたのは、白銀の国から戻ってきたザッフィロだ。
「ザッフィロおじさん!!騎士のお姉ちゃんに会った?」
「あの人忙しいからな、城にほとんど戻ってこないんだよ。色んな国飛び回って、異変がないか巡回してるんだと。休みもせずによくやるよな。」
「えー、じゃあ明日来てくれないのかな。」
「ああ、ビルが来る日か。それならもしかしたら、ドラゴンの騎士が迎えに行ってるのかもな。あの人、ビルの事業を応援してるみたいだし。」
「やったぁ!!お兄ちゃん、お姉ちゃんたち出迎える準備しようよ!!」
「うん、そうだな!」
そういってペルラとグラナートはコラッロの部屋を慌ただしく出て行った。


「おいおい、今からかよ。大きくなったとはいえ、まだまだ子供だな。」
ザッフィロはそう言って、ソファに座る。
「コラッロさん。ドラゴンの騎士、竜人族の住む国へ度々足を運んでいるらしいです。今まで共通言語を話せない竜人たちとは、交流を断ってきた。大きな角を持ち、強い魔法力を持つ彼らとは交わらないことこそが最大の防御としてきました。それを、崩そうってことですよね。」
ザッフィロは真剣な面持ちで話し始める。
「まさかとは思いますが、それが戦争の引き金にでもなったら。」
「ザッフィロくん、思ってもいないことを口にするのは良くないよ。」
コラッロがそう言って微笑めば、ザッフィロは肩の力を抜いて背もたれに背を預ける。
「ええ、思ってないです。あの人が今までどれだけの人を救おうとしてきたか。種族関係なく、助けようとしてきたか見てきました。だから、彼女は竜人とも交流したいと思っているのでしょう。でも、いくら特殊言語の魔法が使えるからって上手くいきますかね。」
「騎士の彼女が心配なのかい?もしかして、好きになったとか?」
「馬鹿言わないでください、顔も見たことないのに。それに、あの人ってヒサメ様の婚約者じゃないんですか?」
「え!?いや、そんな話聞いたことないけど。ザッフィロくんは、どこでそんな話聞いたの?」
「え、いや、どこだったか覚えてないですが。あれ?なんでそう思ったんだ??」
さきほどのペルラのように、ザッフィロも思い出せない何かがあるようだ。

「それはさておき、白銀の国で毎年開かれてる交流会、もうすぐですよ。」
「ああ、そうだね。また、色んな国の人に会えるのが楽しみだ。」

白銀の国は各国との交流を深めるために毎年任意の招待をおこなっている。
そこには、要塞の鉱石浄化に貢献した泉の谷や静寂の海、猟虎の獣人たちも招待されているわけだ。
この交流があり続けてこそ、平和が保たれるとコラッロもザッフィロも信じている。

「さて、それじゃあ私たちも彼女たちを出迎える準備をしようか。ザッフィロくんも、ドラゴンの騎士に会えるのは久々で楽しみだろう?」
「まぁ、そうですね。無口な彼女からできるだけ情報引き出してみせますよ。存外ドラゴンは俺に好意的ですから。」
「ああ、周りから攻め落とそうってこと?」
「いや、だから俺はそんなんじゃないです。」



静寂の海と白銀の国の交流はこれからも長く続くことになる。
いずれまた訪れる要塞の鉱石浄化を手助けするのも静寂の海だ。
それはまだ、ずっとずっと先の話だ。
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