160 / 169
太陽の神
誓約
しおりを挟む
誓約を守ること以外はどうでもいい。
そう言い切った太陽の神は、何かを吹っ切ったように微笑んだ。
『何故抗うのか理解できません。この世界があり続けるためには誓約を守るしかないのですよ。それは神でも、下界の者でも同じです。そう、平等なんですよ。』
「それって平等ですか?誓約のせいで皆神について知ることを許されない、記憶の改竄で正しい歴史さえ伝わっていない。そのせいで犠牲になる命があるのに、誰もそれを知ることはない。記憶を変えて無理やり平等を作り出そうとしているから矛盾が生じるんです。本当に平等がいいなら、堕ちることも、太陽の神の存在も、何もかも包み隠さず、記憶も消すべきではない。でも、そうしないのは神様側が不利だからでは?」
私の問いかけに太陽の神は天を仰ぐ。
『言ったはずです、全ては均衡を保つためだと。そのためにありとあらゆる手を尽くしてきたのに、それを壊そうとするのはいつも人間なのですよ。私たち神に不利有利など存在しない。あるのはただ、世界が崩壊しないようにすることだけなのです。魔法陣を与えたのも、記憶の改竄も、神の詳細を知らせないのも、その方が崩れにくいというだけの話なのです。どちらかといえばその方が良い、というのを選んできた結果です。それしか選べないのなら、そうするしかないのです。』
「本当にそれが最善だったのでしょうか。堕ちる悪魔の存在が伝わっていれば、封印のことが伝わっていればもっと犠牲者は少なく済んだはずなのでは。」
『堕ちた悪魔を見分けることはできません。彼らを鑑定したところで闇魔法を持った人間と変わらない。寿命が長いことや容姿が変わらないこと。殺してみて殺せないなら堕ちた悪魔、という判断はできるでしょうね。そうなれば、闇魔法の人間はとりあえず殺してみようということになります。それって、実際に起こっていますよね。記憶を消しているのに、闇魔法の人間は処刑の対象にされてきた。私が記憶を改竄してもしなくても、人間はそうなるんです。ですが、今処刑が撤廃されているのは私が記憶を改竄していたおかげとも言えます。世界がより良い方向に進むように少しずつ記憶を変えていく。勘違いしているかもしれませんが、私の記憶魔法は下界の人間の記憶を好き勝手に変えることが出来る魔法ではないのですよ。誓約に基づいた上で、記憶を消したり繋げたりするものです。』
闇魔法の人間の処刑は共通言語を話せないことと、闇魔法という強い魔法を恐れたことによって起こった悲劇だ。
太陽の神の言葉を全て信じるなら、加護を与えなかった場合もっと大変なことが起こっていたということになる。
そして、神について知れば知るほど、人々が争う原因になってしまう可能性があるということだ。
人々の争いの原因なんて、いくらでも生み出すことは可能だ。
それを一つずつ阻止することができないのはは理解できる。
だからこそ、大きな力が必要なこともあった。
ブルームーンドラゴンが戦争を止めたように、太陽の神にとってその方法が記憶操作の魔法しかなかったということだろうか。
そして、太陽の神の記憶操作の魔法は思っていたよりも制限があるのかもしれない。
『何事も、一気に解決できるなんてことはないのです。少しずつ改善を繰り返すことでより良くしていくしかない。この世界で戦争など起こっておらず、全人類は皆仲が良いなんて記憶を植えられたとして。それってこれから戦争が起こらないことにはならないでしょう?人間は些細なことで綻んで、ボロボロと関係が崩れていく。ああ、こんなこと、ガラクタと同じことを言う羽目になるなんて屈辱ですよ。ですが、現実そうなってしまう。それならば、一番被害が少ない方法を取るのは当然ではないですか。獣人王と聖女の二人の命で済んだ封印という歴史がある。一人で戦い抜いた英雄がいる歴史がある。全てを犠牲にしても、世界を守ろうとしてくれた人間たちの歴史がある。それを、誰も覚えていなくても世界の均衡を保つためにやり遂げてくれた下界の者を私だけは覚えています。』
誰も知らない歴史がこれまでにもたくさんある。
それを太陽の神だけは見続けてきたということだろう。
「気に掛けてはいけないのに、何一つ忘れてはいないんですね。」
『記憶を司る魔法を持つ私自身は忘れることが出来ない、というだけの話です。』
「そうだとしても、彼らの本当の最期を知っているのはあなただけなはずです。それを見届け続けてきた太陽の神ならば、どうしなければならないか分かるのではないですか。」
私を見下ろす太陽の神の瞳は、初めて揺らいだように見えた。
その時、大きな衝撃音が響く。
アヴィシャが教会の壁を素手で壊し、穴が空いているのが見えた。
「ねぇ、いい加減にしてよ。どうでもいい話ぐだぐだ続けてさ!!私に誓約なんて関係ないから、世界が崩れるのが嫌なら魂返してって言ってんだよ。」
アヴィシャの空けた穴のせいで教会は崩れそうになっていた。
ガラガラと屋根が崩れ始め、その空いた穴からヒカルが見えた。
「今聖女が死んだら太陽の神は消えちゃうかな。でもさ、魂を返してくれる気が無いなら話してるだけ無駄。さっさと封印の結界壊して、他の奴ら殺して回る方が楽しいよね。たくさん殺した後、世界が崩れるギリギリのところでもう一度太陽の神を呼ぶからさ。その時、答え聞かせてよ。」
アヴィシャがもう一度手を振り上げた。
私がいる距離からはヒカルを救えない。
私はアヴィシャに手を翳していた。
間に合わない、魔力も少ない、それでもやらないと。
アシャレラが私の腕を掴んでも、私はその手を下げなかった。
「リビちゃん、魔力が尽きるから駄目だ!!」
「そんなことどうでもいい!!」
私が叫んだ瞬間、アヴィシャの拳が教会の壁を破壊した。
壁が崩れる、ヒカルが教会に押しつぶされる。
手を伸ばした私の目には、壁が崩れる寸前で氷漬けになった教会が映った。
「キュ!!」
後ろから聞こえたその声で、私は振り返って抱きしめた。
「ソラ、助かった、ありがとう。」
「キュキュ!」
氷漬けになった教会は崩れることなく、中にいたヒカルもそのままだ。
アヴィシャが何度もその氷を殴るが、分厚い氷はすぐには壊れてくれない。
「ああ、やっぱり殺しておくべきだった。ブルームーンドラゴンなんて。」
そうして振り返ったアヴィシャが次の瞬間、私とソラの目の前にいて。
私がソラの前に出たそのとき。
『これ以上成り下がればガラクタどころではありませんよ、アヴィシャ。』
太陽の神の声によって、アヴィシャの動きがピタリと止まる。
彼の手は私の首を掴む寸前だった。
アシャレラが私の肩を引いていなければ掴まれて、首の骨を折られていただろう。
「あんたが作ったガラクタが世界を壊すのは流石に見てられないよな神様。」
『そうですね、私がしなければならないのは一つだったのかもしれません。死ぬことをどうでもいいのだと叫べる貴女に気づかされるなんて、神失格でした。』
太陽の神はそう呟くと、両手を胸の前に差し出した。
水を掬うように両手を合わせると、その手のひらの上に小さな光が見えた。
その小さな光は太陽の神の手を離れて、ゆっくりと下りていく。
そうしてその光は、アヴィシャの胸の、体の中へと入っていく。
「ハハ、ハハハハ、やった、私の魂、返ってきたんだ!!これでようやく、私はちゃんと上手く生きて・・・!!!」
アヴィシャの口から滴っていたのは赤い血だった。
ボタボタと落ちていく血液は、尋常ではない量だ。
ソラが私の手をぎゅっと握るので、私も握り返す。
ソラにもそれが、救えないものだと気付いているのだろう。
アヴィシャの胸に突き刺さった黒い鋭いものは、太陽の神の手自身だった。
『魂を戻したアヴィシャはもう堕ちた悪魔ではありません。下界の住人になったアヴィシャを魂ごと貫きました。失敗作を作った責任を取って、私自身の手で廃棄します。』
「な、なに言ってるんだよ、神が、神様が、直接手を下せるわけが・・・っ!!」
咳き込む度に、ひゅーひゅーと肺の音がする。
立っていることもできないアヴィシャは地面に伏して、それでも胸には黒い手が刺さったまま。
『神自身が下界の者を気に掛けてはならない。最初で最後に気に掛けるのが、ガラクタの貴方だなんて皮肉ですね。いいえ、貴方は私自身なのですから、結局私に他人を気に掛けることは出来なかったということでしょう。』
「ふざけるな・・・あんたが好きに生きろって言ったくせに、ふざけるなよ・・・っ!!」
『記憶を引き継いでいるなんて知らなかったからかけた言葉です。その頃は私も、愛し子と思っていたかもしれないですね。』
倒れたアヴィシャの体からは大量の血が流れていく。
堕ちた悪魔であるシュマたちは塵となって消えたのに、アヴィシャの体は消えることはない。
「ハハ、嘘つけよ・・・心なんてないだろ、あんたに。」
『そうでしたね。それでも、アヴィシャを忘れたことは一度もありませんでした。』
アヴィシャの目は、既に光を失っていた。
太陽の神の言葉をアヴィシャが聞いたかどうか、もう分からない。
息絶えたその体から引き抜かれた黒い手は徐々に透けているように見えた。
『下界の者を気にかけた私は堕ちることになります。つまり、アヴィシャの魔法のスイッチである私が堕ちれば、もはやアヴィシャの魔法は発動することが無いってことです。』
アヴィシャの魔法は、太陽の神と連動していた。
その連動は魔法陣によって上界と下界が繋がっていたことにより、加護のある国の者が暴走してしまっていた。
太陽の神が堕ちてしまえば、魔法陣を介して繋がっていた連動は切れてしまうということだ。
「太陽の神はいなくなるということですか?」
『まさか。私が堕ちれば代わりの太陽の神が現れるでしょう。誰であろうと、代わりはいくらでもいるのです。その役目が必要なのであれば、誰かがその役目を果たすことになる。そういうものでしょう。』
そうして太陽の神は両手を胸の前へと差し出した。
『時間がありません。私が堕ちる前に、貴女の魂を返しましょう。』
そう言い切った太陽の神は、何かを吹っ切ったように微笑んだ。
『何故抗うのか理解できません。この世界があり続けるためには誓約を守るしかないのですよ。それは神でも、下界の者でも同じです。そう、平等なんですよ。』
「それって平等ですか?誓約のせいで皆神について知ることを許されない、記憶の改竄で正しい歴史さえ伝わっていない。そのせいで犠牲になる命があるのに、誰もそれを知ることはない。記憶を変えて無理やり平等を作り出そうとしているから矛盾が生じるんです。本当に平等がいいなら、堕ちることも、太陽の神の存在も、何もかも包み隠さず、記憶も消すべきではない。でも、そうしないのは神様側が不利だからでは?」
私の問いかけに太陽の神は天を仰ぐ。
『言ったはずです、全ては均衡を保つためだと。そのためにありとあらゆる手を尽くしてきたのに、それを壊そうとするのはいつも人間なのですよ。私たち神に不利有利など存在しない。あるのはただ、世界が崩壊しないようにすることだけなのです。魔法陣を与えたのも、記憶の改竄も、神の詳細を知らせないのも、その方が崩れにくいというだけの話なのです。どちらかといえばその方が良い、というのを選んできた結果です。それしか選べないのなら、そうするしかないのです。』
「本当にそれが最善だったのでしょうか。堕ちる悪魔の存在が伝わっていれば、封印のことが伝わっていればもっと犠牲者は少なく済んだはずなのでは。」
『堕ちた悪魔を見分けることはできません。彼らを鑑定したところで闇魔法を持った人間と変わらない。寿命が長いことや容姿が変わらないこと。殺してみて殺せないなら堕ちた悪魔、という判断はできるでしょうね。そうなれば、闇魔法の人間はとりあえず殺してみようということになります。それって、実際に起こっていますよね。記憶を消しているのに、闇魔法の人間は処刑の対象にされてきた。私が記憶を改竄してもしなくても、人間はそうなるんです。ですが、今処刑が撤廃されているのは私が記憶を改竄していたおかげとも言えます。世界がより良い方向に進むように少しずつ記憶を変えていく。勘違いしているかもしれませんが、私の記憶魔法は下界の人間の記憶を好き勝手に変えることが出来る魔法ではないのですよ。誓約に基づいた上で、記憶を消したり繋げたりするものです。』
闇魔法の人間の処刑は共通言語を話せないことと、闇魔法という強い魔法を恐れたことによって起こった悲劇だ。
太陽の神の言葉を全て信じるなら、加護を与えなかった場合もっと大変なことが起こっていたということになる。
そして、神について知れば知るほど、人々が争う原因になってしまう可能性があるということだ。
人々の争いの原因なんて、いくらでも生み出すことは可能だ。
それを一つずつ阻止することができないのはは理解できる。
だからこそ、大きな力が必要なこともあった。
ブルームーンドラゴンが戦争を止めたように、太陽の神にとってその方法が記憶操作の魔法しかなかったということだろうか。
そして、太陽の神の記憶操作の魔法は思っていたよりも制限があるのかもしれない。
『何事も、一気に解決できるなんてことはないのです。少しずつ改善を繰り返すことでより良くしていくしかない。この世界で戦争など起こっておらず、全人類は皆仲が良いなんて記憶を植えられたとして。それってこれから戦争が起こらないことにはならないでしょう?人間は些細なことで綻んで、ボロボロと関係が崩れていく。ああ、こんなこと、ガラクタと同じことを言う羽目になるなんて屈辱ですよ。ですが、現実そうなってしまう。それならば、一番被害が少ない方法を取るのは当然ではないですか。獣人王と聖女の二人の命で済んだ封印という歴史がある。一人で戦い抜いた英雄がいる歴史がある。全てを犠牲にしても、世界を守ろうとしてくれた人間たちの歴史がある。それを、誰も覚えていなくても世界の均衡を保つためにやり遂げてくれた下界の者を私だけは覚えています。』
誰も知らない歴史がこれまでにもたくさんある。
それを太陽の神だけは見続けてきたということだろう。
「気に掛けてはいけないのに、何一つ忘れてはいないんですね。」
『記憶を司る魔法を持つ私自身は忘れることが出来ない、というだけの話です。』
「そうだとしても、彼らの本当の最期を知っているのはあなただけなはずです。それを見届け続けてきた太陽の神ならば、どうしなければならないか分かるのではないですか。」
私を見下ろす太陽の神の瞳は、初めて揺らいだように見えた。
その時、大きな衝撃音が響く。
アヴィシャが教会の壁を素手で壊し、穴が空いているのが見えた。
「ねぇ、いい加減にしてよ。どうでもいい話ぐだぐだ続けてさ!!私に誓約なんて関係ないから、世界が崩れるのが嫌なら魂返してって言ってんだよ。」
アヴィシャの空けた穴のせいで教会は崩れそうになっていた。
ガラガラと屋根が崩れ始め、その空いた穴からヒカルが見えた。
「今聖女が死んだら太陽の神は消えちゃうかな。でもさ、魂を返してくれる気が無いなら話してるだけ無駄。さっさと封印の結界壊して、他の奴ら殺して回る方が楽しいよね。たくさん殺した後、世界が崩れるギリギリのところでもう一度太陽の神を呼ぶからさ。その時、答え聞かせてよ。」
アヴィシャがもう一度手を振り上げた。
私がいる距離からはヒカルを救えない。
私はアヴィシャに手を翳していた。
間に合わない、魔力も少ない、それでもやらないと。
アシャレラが私の腕を掴んでも、私はその手を下げなかった。
「リビちゃん、魔力が尽きるから駄目だ!!」
「そんなことどうでもいい!!」
私が叫んだ瞬間、アヴィシャの拳が教会の壁を破壊した。
壁が崩れる、ヒカルが教会に押しつぶされる。
手を伸ばした私の目には、壁が崩れる寸前で氷漬けになった教会が映った。
「キュ!!」
後ろから聞こえたその声で、私は振り返って抱きしめた。
「ソラ、助かった、ありがとう。」
「キュキュ!」
氷漬けになった教会は崩れることなく、中にいたヒカルもそのままだ。
アヴィシャが何度もその氷を殴るが、分厚い氷はすぐには壊れてくれない。
「ああ、やっぱり殺しておくべきだった。ブルームーンドラゴンなんて。」
そうして振り返ったアヴィシャが次の瞬間、私とソラの目の前にいて。
私がソラの前に出たそのとき。
『これ以上成り下がればガラクタどころではありませんよ、アヴィシャ。』
太陽の神の声によって、アヴィシャの動きがピタリと止まる。
彼の手は私の首を掴む寸前だった。
アシャレラが私の肩を引いていなければ掴まれて、首の骨を折られていただろう。
「あんたが作ったガラクタが世界を壊すのは流石に見てられないよな神様。」
『そうですね、私がしなければならないのは一つだったのかもしれません。死ぬことをどうでもいいのだと叫べる貴女に気づかされるなんて、神失格でした。』
太陽の神はそう呟くと、両手を胸の前に差し出した。
水を掬うように両手を合わせると、その手のひらの上に小さな光が見えた。
その小さな光は太陽の神の手を離れて、ゆっくりと下りていく。
そうしてその光は、アヴィシャの胸の、体の中へと入っていく。
「ハハ、ハハハハ、やった、私の魂、返ってきたんだ!!これでようやく、私はちゃんと上手く生きて・・・!!!」
アヴィシャの口から滴っていたのは赤い血だった。
ボタボタと落ちていく血液は、尋常ではない量だ。
ソラが私の手をぎゅっと握るので、私も握り返す。
ソラにもそれが、救えないものだと気付いているのだろう。
アヴィシャの胸に突き刺さった黒い鋭いものは、太陽の神の手自身だった。
『魂を戻したアヴィシャはもう堕ちた悪魔ではありません。下界の住人になったアヴィシャを魂ごと貫きました。失敗作を作った責任を取って、私自身の手で廃棄します。』
「な、なに言ってるんだよ、神が、神様が、直接手を下せるわけが・・・っ!!」
咳き込む度に、ひゅーひゅーと肺の音がする。
立っていることもできないアヴィシャは地面に伏して、それでも胸には黒い手が刺さったまま。
『神自身が下界の者を気に掛けてはならない。最初で最後に気に掛けるのが、ガラクタの貴方だなんて皮肉ですね。いいえ、貴方は私自身なのですから、結局私に他人を気に掛けることは出来なかったということでしょう。』
「ふざけるな・・・あんたが好きに生きろって言ったくせに、ふざけるなよ・・・っ!!」
『記憶を引き継いでいるなんて知らなかったからかけた言葉です。その頃は私も、愛し子と思っていたかもしれないですね。』
倒れたアヴィシャの体からは大量の血が流れていく。
堕ちた悪魔であるシュマたちは塵となって消えたのに、アヴィシャの体は消えることはない。
「ハハ、嘘つけよ・・・心なんてないだろ、あんたに。」
『そうでしたね。それでも、アヴィシャを忘れたことは一度もありませんでした。』
アヴィシャの目は、既に光を失っていた。
太陽の神の言葉をアヴィシャが聞いたかどうか、もう分からない。
息絶えたその体から引き抜かれた黒い手は徐々に透けているように見えた。
『下界の者を気にかけた私は堕ちることになります。つまり、アヴィシャの魔法のスイッチである私が堕ちれば、もはやアヴィシャの魔法は発動することが無いってことです。』
アヴィシャの魔法は、太陽の神と連動していた。
その連動は魔法陣によって上界と下界が繋がっていたことにより、加護のある国の者が暴走してしまっていた。
太陽の神が堕ちてしまえば、魔法陣を介して繋がっていた連動は切れてしまうということだ。
「太陽の神はいなくなるということですか?」
『まさか。私が堕ちれば代わりの太陽の神が現れるでしょう。誰であろうと、代わりはいくらでもいるのです。その役目が必要なのであれば、誰かがその役目を果たすことになる。そういうものでしょう。』
そうして太陽の神は両手を胸の前へと差し出した。
『時間がありません。私が堕ちる前に、貴女の魂を返しましょう。』
2
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
【完結】魔女を求めて今日も彼らはやって来る。
まるねこ
ファンタジー
私の名前はエイシャ。私の腰から下は滑らかな青緑の鱗に覆われた蛇のような形をしており、人間たちの目には化け物のように映るようだ。神話に出てくるエキドナは私の祖母だ。
私が住むのは魔女エキドナが住む森と呼ばれている森の中。
昼間でも薄暗い森には多くの魔物が闊歩している。細い一本道を辿って歩いていくと、森の中心は小高い丘になっており、小さな木の家を見つけることが出来る。
魔女に会いたいと思わない限り森に入ることが出来ないし、無理にでも入ってしまえば、道は消え、迷いの森と化してしまう素敵な仕様になっている。
そんな危険を犯してまで森にやって来る人たちは魔女に頼り、願いを抱いてやってくる。
見目麗しい化け物に逢いに来るほどの願いを持つ人間たち。
さて、今回はどんな人間がくるのかしら?
※グロ表現も含まれています。読む方はご注意ください。
ダークファンタジーかも知れません…。
10/30ファンタジーにカテゴリ移動しました。
今流行りAIアプリで絵を作ってみました。
なろう小説、カクヨムにも投稿しています。
Copyright©︎2021-まるねこ

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる