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堕ちた悪魔
4人の悪魔
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私とアシャレラはアヴィシャに黙ってついて行く。
到着した場所は、迷いの森の中だった。
迷いの森は普段よりももっと静かで不気味な気がした。
妖精の気配もしないが、隠れているのだろうか。
「どうして、迷いの森に?」
「誰も入ってこない隠れ家としてうってつけでしょ。」
「でもここは、簡単には出られないようになっているはずです。」
私の問いにアヴィシャは首を傾げた。
「妖精一匹捕まえたらすぐに教えてくれたよ?何も難しいことはないよね。」
何も感じていないその返答にため息が出そうになる。
死ぬことが出来ない堕ちた悪魔に対抗手段は封印しかない。
だから、妖精たちは戦う気力もなく、捕まった妖精のために出口を教えたのだろう。
妖精は悪魔が怖くて、隠れてるんだ。
森の中を進んでいくと大きな湖が見えた。
あそこは妖精のユリが住処にしていたはずだ。
アイルの叔父に恋をした妖精、彼女も隠れているだろうか。
そうしてその湖の手前には3人の人影があった。
黒いローブを身に纏う彼らは当然、堕ちた悪魔だ。
その中の金髪の女性は湖に足をつけてパシャパシャと遊んでいる。
「おそーい、退屈で死にそうだったんだけど。魔獣が暴れてるの見てたかったのに。」
そんなシュマを睨んでいるのは長髪の男だ。
「行儀が悪い。こちらにも水がかかる、やめろ。」
「あー、うるさ。あたし束縛男きらーい。」
「チッ、俺もお前が嫌いだ。」
おそらくシュマとやり取りしているのはエナだ。
そうしてもう一人、こちらを見て笑いかける男がいる。
「おかえりなさい、アヴィシャ。説明はこれからですか?」
「そのつもり。リビ、紹介したほうがいい?それとも、もう知ってるかな。」
アヴィシャの言葉に息を飲む。
アヴィシャは私がどこまで知っているか、知っているのだろうか。
私は一人一人を指さして名前を言っていった。
シュマは私に笑顔を見せ、エナは舌打ち、ルージの表情は微笑んだまま動かない。
「あたしは自己紹介したもんねー。覚えててくれてうれしーな。」
「ドウシュから聞いただけだろ。その女はあいつと手を組んでてもおかしくない。」
エナの言葉で、ドウシュと協力関係にあることが明確にはバレていないことが分かる。
アヴィシャは近くにあった大きな石に腰かけると私の方を見た。
「適当に座って。これからリビには色んなことを教えてあげるね。」
私とアシャレラは少しだけ距離を取り、話を聞くことにした。
まずは、魔法の暴走について聞かなければならない。
水晶の光はずっと、点滅し続けたままだ。
「話をする前に、今起こっている魔法の暴走を止めて。あれはアヴィシャ、あなたの魔法ですよね?」
大勢の魔法の暴走によって、各国の被害は甚大だ。
そのまま暴走が止められなければ、大勢の人が死ぬことになる。
暴走している本人も、その被害に巻き込まれた人々も、それを助けようとする人も。
そうして、人が亡くなれば亡くなるほど負の魔力が高まり、今度は魔法のせいではなく、本来の魔法の暴走に起因することになる。
今、アヴィシャの魔法を止めなければ負の連鎖を止めることは難しい。
「魔法の暴走は、確かに私の魔法だね。だけど、自分自身で止められるものではないんだよね。」
「それは、止める方法が存在しない、という意味ではないでしょ。」
「うん、それじゃあ交渉にならないからね。順序だてて説明するから、焦らないでよ。」
アヴィシャののんびりとした口調にこちらが焦らされる。
今、ウミたちが封印の準備に動いている。
だから私は、その時間を稼ぎつつ、魔法の暴走を止める手がかりを聞き出さなくてはならない。
すると、アシャレラが私の背中に指を触れる。
強弱をつけて背中をとんとん、と叩く。
それは、水晶の信号だった。
悪魔接触 国王 連絡。
それはアシャレラが水晶でヒサメに連絡を取ってくれたという意味だ。
ヒサメなら全てを察してくれるはず、そうして他の騎士たちにも連絡を入れてくれるはずだ。
頑張って持ち堪えてほしい。
私がアヴィシャから情報を聞き出すまで。
「何から話そうか、私たちがこれまでやってきたことは知ってるよね?だって、リビはそれをことごとく邪魔してくれたんだし。」
アヴィシャの言葉に、シュマが立ち上がる。
「あたしの魔獣もいっぱい殺されちゃったー。容赦ないよね、好き。」
「黙ってろ、シュマ。」
エナに一喝されたシュマは、足で水をエナにかけた。
「チッ、はしたない、やめろ。」
「ほんとうるさい、こいつ。ねぇリビ、あの狼の美形の人、どうなっちゃった?死んじゃった?」
シュマの質問に私は驚いて視線を落とす。
ヒサメを救ったことを知らないのか?
それなら、隠しておく方がいいか。
「シュマの魔法は厄介ですが、相手は白銀の国王なのでしょう?簡単に死ぬとは思えません。」
ルージはそう言いつつ、私の顔をじっと見る。
「ですよね、リビ。白銀の国王のことを、貴女は大切にしているのでしょう?だからこそ、貴女は彼のためならばなんでもできる。そうですよね?」
急に饒舌に話し始めたルージは、少しずつ近づいてきた。
「白銀の国王の命を守りたいなら、僕たちの話をしっかりと聞いた方がいいですよ。そうすれば、悪いようには・・・」
ルージは目を丸くして、そうして言葉を無くしている。
なんだ、急に。
「操れない、でしょ?今リビちゃんは、ルージに魔法をかけられようとしていた。でも、かからなかったってこと。」
アシャレラはそう言って私の肩に手を回す。
「俺のリビちゃんには、その魔法効かないから。気安く近寄らないでくれる?」
ルージは作り笑顔をしながら、元居た位置に戻る。
するとアヴィシャが無感情に笑う。
「ハハハハ、やっぱ駄目だった。ルージに操らせれば簡単になったのになぁ。リビって、見かけより優しくないのかな?国王のこともあんまり好きじゃなかったりする?」
「何の話ですか。」
「ルージの魔法は相手の心に訴えかける。リビが白銀の国王を心から大切に想っていれば、その人のために手段を選ばず行動するようになる。そうして、その心の隙間にこちらの有利になるようなことを入れ込むんだよ。でも、リビは全く魔法がかからなかった。白銀の国王をそこまで好きじゃないのか、それともルージより精神力が強かったか。」
「精神力が強かったのでしょうね。」
私が即答すれば、アヴィシャは頭を揺らす。
「リビの情報はかなり手に入れていたつもりだった。だから、白銀の国王を好きじゃないっていうのは無理がある。今まで各国で散々邪魔してくれたし、精神力は確かにあるかも。」
「ここまで私を連れてきたのは、操るためですか。」
「お試しだよ。もし、操れたら運がいいくらいのつもりでね。かからないだろうなって思ってたから、ここまで連れてきたのは話をするためだよ。」
掴みどころのない話し方に警戒を怠れない。
「単刀直入に言うと、私は太陽の神に用があるんだ。」
アヴィシャはそう言って、私の顔をじーっと見る。
「悪魔に魂はない。アシャレラと一緒にいるんだし、その話したよね?ねぇ、アシャレラ、リビの魂貰うんでしょ?」
私の肩に触れているアシャレラの手に力が入る。
「悪魔の契約は魂を貰うという契約だから、契約主であるリビに説明はしているはず。事前説明しないと気が済まないアシャレラならちゃんと話しているはずだ。アシャレラは上界では有名な変人だったからね、懇切丁寧に説明する悪魔なんて、悪魔らしくないよほんと。」
ハハハ、という気持ち悪い笑い声が耳に残りそうだ。
「さて、悪魔に魂はない。その魂はどうなっているかというと太陽の神が持っているんだよね。」
「ちょっと待て、上界にいる時間の短いあんたが、何故そこまで知っている?俺のように1000年近くいたならまだしも、あんたがいたのはせいぜい数十年だろ。」
「確かに悪魔として上界にいた時間はとても短かったね。その間にドウシュに出会えて本当に良かったよ。こうして堕ちることに成功したんだからね。」
「堕ちることを望んでいたってことか?」
悪魔を殺すことで誓約違反になり、堕ちることになる。
だが、悪魔を殺すことに気づけたのは生前の記憶があるドウシュがいたからだったはず。
「私も生前の記憶があるんだ。ドウシュとアシャレラと同様にね。」
「それなら、悪魔を殺すことができると知っていたはず。どうしてドウシュが成功に関係あるんですか。」
「ドウシュとアシャレラと同様、とは言ったけど正確には違うから。私の記憶は生前だけじゃない。その前も、それ以上前も、ずっと記憶がある。私は前世の記憶すべて持っているんだ。私は特別なんだよ。」
アヴィシャは前世の記憶を全て持っている。
なんとも想像しがたいことだ。
前世だなんて理解しがたいが、アシャレラも生まれ変わるために魂が必要だと言った。
そうして、アヴィシャも魂を取り返したいらしい。
「アシャレラとドウシュがどうして生前の記憶を持っているかというと、それは闇の神に気に入られているせいだね。闇の神に気に入られているほど、太陽の神による記憶消去の影響を受けにくい。それとは違い、私が記憶を持っているのは、特別な魂のおかげだから闇の神に気に入られるという仕組みとは異なっているわけだ。」
「その仕組みの違いによって、悪魔を殺すことに気づけなかったと言いたいんですか?」
「その通り!誓約っていうのは本当に厄介でね。私も悪魔になったのは初めてだから、堕ちる条件を知らなかったんだ。ドウシュのおかげだよ。」
「それなら悪魔の契約は?記憶があるなら悪魔の契約をあなたもできたはず。太陽の神から取り返さなくても、人間から貰うことが出来たのでは?」
そう言った瞬間、アヴィシャの顔は酷く歪んだ。
「聞いてた?私の魂は特別なんだ。そこらへんの人間が持ちえない唯一のものなんだよ。悪魔の契約で魂を貰ったところで、記憶を引き継ぐことは出来ない。その魂は私の魂じゃない!!」
アヴィシャの荒げた声に、後ろの3人も驚いている気がした。
どうやら、特別な魂というのがこいつの逆鱗らしい。
すると、ふーっと息を吐いて、アヴィシャはアシャレラを見る。
「アシャレラは取り返そうとか考えなかったんだね。そんな発想はなかったかな。きみは、ただの人間から悪魔になった。1000年悪魔だからといって、初めの頃は何も知らないただの弱い悪魔だったんだろうね。だから、時が経過して、太陽の神が魂を持っているのだと気付いても何もできないよね。だってもうきみの魂は」
「お喋りだね、アヴィシャ。俺は、自分の魂じゃなくても愛する人を見つけ出すんだからいいの。それより、アヴィシャはその特別な自分の魂を太陽の神から取り返すために堕ちたの?」
アシャレラは話を遮ったが、アヴィシャは特に表情を変えない。
「上界で太陽の神に接触したところで、魂を取り返すことはできない。いや、できなかった。だから、別方向から接触することにしたんだ。」
アヴィシャはそう言うと私を指さした。
「ねぇ、リビ。太陽の神を呼び出してよ。」
到着した場所は、迷いの森の中だった。
迷いの森は普段よりももっと静かで不気味な気がした。
妖精の気配もしないが、隠れているのだろうか。
「どうして、迷いの森に?」
「誰も入ってこない隠れ家としてうってつけでしょ。」
「でもここは、簡単には出られないようになっているはずです。」
私の問いにアヴィシャは首を傾げた。
「妖精一匹捕まえたらすぐに教えてくれたよ?何も難しいことはないよね。」
何も感じていないその返答にため息が出そうになる。
死ぬことが出来ない堕ちた悪魔に対抗手段は封印しかない。
だから、妖精たちは戦う気力もなく、捕まった妖精のために出口を教えたのだろう。
妖精は悪魔が怖くて、隠れてるんだ。
森の中を進んでいくと大きな湖が見えた。
あそこは妖精のユリが住処にしていたはずだ。
アイルの叔父に恋をした妖精、彼女も隠れているだろうか。
そうしてその湖の手前には3人の人影があった。
黒いローブを身に纏う彼らは当然、堕ちた悪魔だ。
その中の金髪の女性は湖に足をつけてパシャパシャと遊んでいる。
「おそーい、退屈で死にそうだったんだけど。魔獣が暴れてるの見てたかったのに。」
そんなシュマを睨んでいるのは長髪の男だ。
「行儀が悪い。こちらにも水がかかる、やめろ。」
「あー、うるさ。あたし束縛男きらーい。」
「チッ、俺もお前が嫌いだ。」
おそらくシュマとやり取りしているのはエナだ。
そうしてもう一人、こちらを見て笑いかける男がいる。
「おかえりなさい、アヴィシャ。説明はこれからですか?」
「そのつもり。リビ、紹介したほうがいい?それとも、もう知ってるかな。」
アヴィシャの言葉に息を飲む。
アヴィシャは私がどこまで知っているか、知っているのだろうか。
私は一人一人を指さして名前を言っていった。
シュマは私に笑顔を見せ、エナは舌打ち、ルージの表情は微笑んだまま動かない。
「あたしは自己紹介したもんねー。覚えててくれてうれしーな。」
「ドウシュから聞いただけだろ。その女はあいつと手を組んでてもおかしくない。」
エナの言葉で、ドウシュと協力関係にあることが明確にはバレていないことが分かる。
アヴィシャは近くにあった大きな石に腰かけると私の方を見た。
「適当に座って。これからリビには色んなことを教えてあげるね。」
私とアシャレラは少しだけ距離を取り、話を聞くことにした。
まずは、魔法の暴走について聞かなければならない。
水晶の光はずっと、点滅し続けたままだ。
「話をする前に、今起こっている魔法の暴走を止めて。あれはアヴィシャ、あなたの魔法ですよね?」
大勢の魔法の暴走によって、各国の被害は甚大だ。
そのまま暴走が止められなければ、大勢の人が死ぬことになる。
暴走している本人も、その被害に巻き込まれた人々も、それを助けようとする人も。
そうして、人が亡くなれば亡くなるほど負の魔力が高まり、今度は魔法のせいではなく、本来の魔法の暴走に起因することになる。
今、アヴィシャの魔法を止めなければ負の連鎖を止めることは難しい。
「魔法の暴走は、確かに私の魔法だね。だけど、自分自身で止められるものではないんだよね。」
「それは、止める方法が存在しない、という意味ではないでしょ。」
「うん、それじゃあ交渉にならないからね。順序だてて説明するから、焦らないでよ。」
アヴィシャののんびりとした口調にこちらが焦らされる。
今、ウミたちが封印の準備に動いている。
だから私は、その時間を稼ぎつつ、魔法の暴走を止める手がかりを聞き出さなくてはならない。
すると、アシャレラが私の背中に指を触れる。
強弱をつけて背中をとんとん、と叩く。
それは、水晶の信号だった。
悪魔接触 国王 連絡。
それはアシャレラが水晶でヒサメに連絡を取ってくれたという意味だ。
ヒサメなら全てを察してくれるはず、そうして他の騎士たちにも連絡を入れてくれるはずだ。
頑張って持ち堪えてほしい。
私がアヴィシャから情報を聞き出すまで。
「何から話そうか、私たちがこれまでやってきたことは知ってるよね?だって、リビはそれをことごとく邪魔してくれたんだし。」
アヴィシャの言葉に、シュマが立ち上がる。
「あたしの魔獣もいっぱい殺されちゃったー。容赦ないよね、好き。」
「黙ってろ、シュマ。」
エナに一喝されたシュマは、足で水をエナにかけた。
「チッ、はしたない、やめろ。」
「ほんとうるさい、こいつ。ねぇリビ、あの狼の美形の人、どうなっちゃった?死んじゃった?」
シュマの質問に私は驚いて視線を落とす。
ヒサメを救ったことを知らないのか?
それなら、隠しておく方がいいか。
「シュマの魔法は厄介ですが、相手は白銀の国王なのでしょう?簡単に死ぬとは思えません。」
ルージはそう言いつつ、私の顔をじっと見る。
「ですよね、リビ。白銀の国王のことを、貴女は大切にしているのでしょう?だからこそ、貴女は彼のためならばなんでもできる。そうですよね?」
急に饒舌に話し始めたルージは、少しずつ近づいてきた。
「白銀の国王の命を守りたいなら、僕たちの話をしっかりと聞いた方がいいですよ。そうすれば、悪いようには・・・」
ルージは目を丸くして、そうして言葉を無くしている。
なんだ、急に。
「操れない、でしょ?今リビちゃんは、ルージに魔法をかけられようとしていた。でも、かからなかったってこと。」
アシャレラはそう言って私の肩に手を回す。
「俺のリビちゃんには、その魔法効かないから。気安く近寄らないでくれる?」
ルージは作り笑顔をしながら、元居た位置に戻る。
するとアヴィシャが無感情に笑う。
「ハハハハ、やっぱ駄目だった。ルージに操らせれば簡単になったのになぁ。リビって、見かけより優しくないのかな?国王のこともあんまり好きじゃなかったりする?」
「何の話ですか。」
「ルージの魔法は相手の心に訴えかける。リビが白銀の国王を心から大切に想っていれば、その人のために手段を選ばず行動するようになる。そうして、その心の隙間にこちらの有利になるようなことを入れ込むんだよ。でも、リビは全く魔法がかからなかった。白銀の国王をそこまで好きじゃないのか、それともルージより精神力が強かったか。」
「精神力が強かったのでしょうね。」
私が即答すれば、アヴィシャは頭を揺らす。
「リビの情報はかなり手に入れていたつもりだった。だから、白銀の国王を好きじゃないっていうのは無理がある。今まで各国で散々邪魔してくれたし、精神力は確かにあるかも。」
「ここまで私を連れてきたのは、操るためですか。」
「お試しだよ。もし、操れたら運がいいくらいのつもりでね。かからないだろうなって思ってたから、ここまで連れてきたのは話をするためだよ。」
掴みどころのない話し方に警戒を怠れない。
「単刀直入に言うと、私は太陽の神に用があるんだ。」
アヴィシャはそう言って、私の顔をじーっと見る。
「悪魔に魂はない。アシャレラと一緒にいるんだし、その話したよね?ねぇ、アシャレラ、リビの魂貰うんでしょ?」
私の肩に触れているアシャレラの手に力が入る。
「悪魔の契約は魂を貰うという契約だから、契約主であるリビに説明はしているはず。事前説明しないと気が済まないアシャレラならちゃんと話しているはずだ。アシャレラは上界では有名な変人だったからね、懇切丁寧に説明する悪魔なんて、悪魔らしくないよほんと。」
ハハハ、という気持ち悪い笑い声が耳に残りそうだ。
「さて、悪魔に魂はない。その魂はどうなっているかというと太陽の神が持っているんだよね。」
「ちょっと待て、上界にいる時間の短いあんたが、何故そこまで知っている?俺のように1000年近くいたならまだしも、あんたがいたのはせいぜい数十年だろ。」
「確かに悪魔として上界にいた時間はとても短かったね。その間にドウシュに出会えて本当に良かったよ。こうして堕ちることに成功したんだからね。」
「堕ちることを望んでいたってことか?」
悪魔を殺すことで誓約違反になり、堕ちることになる。
だが、悪魔を殺すことに気づけたのは生前の記憶があるドウシュがいたからだったはず。
「私も生前の記憶があるんだ。ドウシュとアシャレラと同様にね。」
「それなら、悪魔を殺すことができると知っていたはず。どうしてドウシュが成功に関係あるんですか。」
「ドウシュとアシャレラと同様、とは言ったけど正確には違うから。私の記憶は生前だけじゃない。その前も、それ以上前も、ずっと記憶がある。私は前世の記憶すべて持っているんだ。私は特別なんだよ。」
アヴィシャは前世の記憶を全て持っている。
なんとも想像しがたいことだ。
前世だなんて理解しがたいが、アシャレラも生まれ変わるために魂が必要だと言った。
そうして、アヴィシャも魂を取り返したいらしい。
「アシャレラとドウシュがどうして生前の記憶を持っているかというと、それは闇の神に気に入られているせいだね。闇の神に気に入られているほど、太陽の神による記憶消去の影響を受けにくい。それとは違い、私が記憶を持っているのは、特別な魂のおかげだから闇の神に気に入られるという仕組みとは異なっているわけだ。」
「その仕組みの違いによって、悪魔を殺すことに気づけなかったと言いたいんですか?」
「その通り!誓約っていうのは本当に厄介でね。私も悪魔になったのは初めてだから、堕ちる条件を知らなかったんだ。ドウシュのおかげだよ。」
「それなら悪魔の契約は?記憶があるなら悪魔の契約をあなたもできたはず。太陽の神から取り返さなくても、人間から貰うことが出来たのでは?」
そう言った瞬間、アヴィシャの顔は酷く歪んだ。
「聞いてた?私の魂は特別なんだ。そこらへんの人間が持ちえない唯一のものなんだよ。悪魔の契約で魂を貰ったところで、記憶を引き継ぐことは出来ない。その魂は私の魂じゃない!!」
アヴィシャの荒げた声に、後ろの3人も驚いている気がした。
どうやら、特別な魂というのがこいつの逆鱗らしい。
すると、ふーっと息を吐いて、アヴィシャはアシャレラを見る。
「アシャレラは取り返そうとか考えなかったんだね。そんな発想はなかったかな。きみは、ただの人間から悪魔になった。1000年悪魔だからといって、初めの頃は何も知らないただの弱い悪魔だったんだろうね。だから、時が経過して、太陽の神が魂を持っているのだと気付いても何もできないよね。だってもうきみの魂は」
「お喋りだね、アヴィシャ。俺は、自分の魂じゃなくても愛する人を見つけ出すんだからいいの。それより、アヴィシャはその特別な自分の魂を太陽の神から取り返すために堕ちたの?」
アシャレラは話を遮ったが、アヴィシャは特に表情を変えない。
「上界で太陽の神に接触したところで、魂を取り返すことはできない。いや、できなかった。だから、別方向から接触することにしたんだ。」
アヴィシャはそう言うと私を指さした。
「ねぇ、リビ。太陽の神を呼び出してよ。」
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