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太陽の国の周りには草原や森が多い。
人々が立ち入らない迷いの森、モンスターが暮らしている森、多種多様な植物の自生する原っぱ。
そのおかげで私は植物の勉強をするのに困らなかった。
そうしてその草原の奥には、大きな樹木が立っていた。
ドラゴン4頭で下り立てば、ドラゴンの羽の風によって草原の葉が激しく揺れる。
そうしてその大きな樹木の前に立っていたミーカとレビンが、ドラゴンを見て瞬きをした。
驚く表情がとてもそっくりだ、さすが親子だな。
「リビさん、母が我儘を言って申し訳ありません。私が止めても聞いてもらえなくて。」
レビンはそう言って頭を下げた。
私は立って待っていたミーカの目の前に来た。
「国の外で待って頂きありがとうございます。腰の調子は大丈夫ですか。」
「協力を申し出たのはこちらだもの。腰は大丈夫よ、毎日のように主人に会いに行っているから体力もあるの。」
ミーカは毎日家から離れたお墓まで往復していた。
それはおそらく、腰の病気を患っていた時も変わらなかったはずだ。
「ウミ、尻尾貸してください。」
『あんた、ドラゴンの使い方が雑すぎるな。』
ウミは文句を言いながら尻尾をこちら側に横たえる。
「ミーカさん、座って下さい。協力の件について話しましょう。」
ミーカはドラゴンの尻尾に座ることを躊躇ったが、私が遠慮なく座ったのを見て同じように座った。
「結論から言うと、私はミーカさんにはお願いできません。」
私の言葉にミーカは表情を変えることはなかった。
穏やかな表情で孫でも見るかのようだ。
「理由を聞いてもいいかしら。」
「はい。今回自然魔法を持つ人が必要なのは、伝令通り光の加護を施すのに必要だからです。神々の頂という普段は人が踏み入れない場所で、堕ちた悪魔を封印する確率をあげるための手段として山に加護を付けます。堕ちた悪魔にとって不利になるその工程を邪魔される可能性はある。なので、危険があります。」
「危険を伴う場で、年寄りの私は足手まといになるからという理由かしら。」
「それも無いとはいえませんが、今回はいいえです。堕ちた悪魔と接触する可能性のある協力者の皆さんには、絶対に守ってもらわなくてはならないことがあります。一つは堕ちた悪魔に関することは全て私たちに任せること。二つ目は絶対に生きて帰るという意思を持って頂くことです。私は、ミーカさんがこれを守ることが難しいと判断しました。」
そう言った瞬間、初めてミーカは動揺を見せた気がした。
彼女はどんな話をする時も自分を律していた。
ご主人が殺された話をする時も、その原因が自分にあるかもしれないと考えている時もだ。
彼女の精神力はかなり高いものだ。
でもそれ以上に夫を愛しているから、私は懸念が拭えない。
「私が、彼に早く会いたくて死んでもかまわないと思っている、ということかしら。」
ミーカの言葉にレビンが目を見開く。
おそらく、レビンも感じていたのだろう。
毎日墓参りに足しげく通う母が、どれほど父に会いたいか。
どれほど、父の元へ行きたいか。
ミーカはそんなレビンの表情を見て、穏やかに微笑んだ。
「私は確かに、愛した彼に会いたくて仕方がなかった。だからこそ私は、奴らに騙されて負の魔力を渡してしまったのだから。本当に、愚かだったわ。そのせいで今、世界は揺るがされているんだもの。」
堕ちた悪魔が何十年と集めた負の魔力が今、魔獣の暴走を引き起こしている。
そしてそれは、ミーカを含む大切な人を殺された犠牲者によって成り立っているのだ。
「その責任を感じているし、それだけではなく当然堕ちた悪魔とやらに怒りを感じているのも本当よ。私がしていた最悪の想像はおそらく間違いないんだもの。そうでしょ?」
強い魔力を持つ人魚の大切な人を殺せば、負の魔力が高まる。
それが、ミーカのご主人だったということだ。
だから、ミーカの復讐心は私の知る人の中でも非常に強いはず。
「ねぇ、リビさん。私はあなたたちの計画を邪魔するようなことはしないわ。光の加護のために魔法を使えば、復讐するための魔法なんて残ってないの。人魚として質の高い魔法であることは保障するけれど、何度も強い魔法を使う体力はもうないわ。命を捨てて堕ちた悪魔と戦おうとする無謀さは持っていない。信じられないかしら。」
彼女が無謀ではないことを信じたい。
でも、彼女の根底には必ず愛した彼がいる。
愛した人のためなら、どんなに己を律する人だってその冷静さを捨ててしまう。
グウル国王を救ってくれと縋ったローザ。
妹を殺した3人の男を殺したドウシュ。
フブキと、そのフブキの家族のために前王ザラの命を奪ったヒサメ。
誰もが最も大切にしていることの前では、心は脆くなる。
「リビさん、あなたがしなければならないことは何かしら。」
私の迷いを見透かすようにミーカはそう告げた。
顔を上げれば彼女の方が、一切の迷いがないように見えた。
「あなたがすべきことを成すためには、最上の選択をする必要があるわ。そのためには、こんなおばあちゃんの魔法でも使うことを躊躇わないで。その迷いはわざわざ己の首を絞めているように見えるわ。私の話をちゃんと聞いてくれたあなただからこそ、その迷いが生じているのも理解している。でもね、聞いてほしいの。」
ミーカは慈愛を含んだ暖かな笑顔を見せた。
「私、この年になるまで寂しくなかったの。彼がいなくなって苦しかった辛かった、どうして何故と繰り返したことは事実。それでも、愛した娘がいて、その娘が大切な家族を持つことが出来て。それをこの目で見れていることが何よりも証明にならないかしら。私、夫に顔向けできないような生き方はできないの。だから、娘たちを悲しませることなんて、できないでしょ。」
その瞬間、ミーカなら大丈夫だと確信できた。
彼女の根底にある愛した夫のために、これからも生きる意思があるのであれば問題ない。
「ミーカさん、私たちと来て頂けますか。」
ミーカが私の手を取った時。
アシャレラが水晶を手に取った。
「リビちゃん、水晶の光が止まらない。これって、SOSじゃなかった?」
「その信号はどこからですか!?」
「多分、これ、各国に配置された騎士や兵士が一斉に送ってる。何が起きたか確認しないと。」
アシャレラはそう言って水晶で信号を送ろうとしているが、私は後ろにそびえる太陽の国の門を見た。
「一斉であれば、太陽の国でも同じ事が起こっているかもしれません。確認するならその方が早いです。全員、ウミに乗って!!」
ミーカ、レビンを先にのせ、私とアシャレラ、ヒメはドラゴンに乗り込んで太陽の国を上空から見下ろした。
そこには、大勢の人が逃げ惑っている姿が目に入る。
そして、数えきれないほどの人間の自然魔法があふれ出しているのが見えた。
どうして?太陽の国の門は壊されていない。
だから堕ちた悪魔と接触していないはずなのに、何故魔法の暴走が?
たくさんの悲鳴と、あふれ出る自然魔法によって壊されていく建物。
火魔法で火災が起きて
水魔法で洪水が起きて
土魔法で地割れが起きて
風魔法で竜巻が起きて
雷魔法で感電の被害が起きて
これが、他の国すべてで起こっているってこと?
どうして、いや、そんなことよりも早くなんとかしなければ。
「息子のところに行かないと!!リビさん、下ろしてください!!」
レビンの叫びで我に返る。
でも、今太陽の国の中に戻るのは危険すぎる。
あらゆる魔法が混ざって、被害を大きくしている。
だけど。
息子を心配するレビンを引き留めるすべが私にはない。
門の前に下りれば、レビンは太陽の国の中に迷わず走って行った。
私も太陽の国の中に入り、魔法の暴走を止める?
でも、あれだけの数の人の暴走が、他の国でも起こっているとしたら。
この水晶のSOSが途切れてしまったら。
私は何から動けばいいの。
「リビちゃん、見て。」
アシャレラが私の肩を掴む。
そうしてその視線の先に見えたのは、空の亀裂だ。
「なにあれ、アシャレラ、あれは何。」
「まさか、あれは・・・。」
「アシャレラ!!知っていることはちゃんと言って!!」
私が叫んだその声に答えたのはアシャレラじゃなかった。
「世界の均衡が崩れかけてるんだ。ああやって罅が入るんだね、不思議だよね。」
そう言って近づいてきたのは、白髪の長い髪をくくった端整な顔の人。
いや、堕ちた悪魔だ。
「アヴィシャ・・・。」
「うん、そう呼ばれてるね。まさか、アシャレラと契約したの?もの好きだね。」
アヴィシャはそう言ってこちらに一歩近づく。
アシャレラは私を庇うように前に出た。
「今起こっている魔法の暴走に関して知ってるよね?」
「ハハハ、アシャレラは気付いてないんだ?長生きして中途半端な知識はたくさんある癖にね。」
ハハハハ、と感情のない笑い声が気持ち悪い。
「しょうがないか、アシャレラは1000年ちょっとの記憶しかないもんね。」
「何言ってる、あんたは悪魔になってそんなに長くないはずだろ・・・?」
アシャレラの問いにアヴィシャは笑い声をあげる。
「私、そこにいる闇魔法使いに話があるんだ。それ以外はもう、要らないんだよね。」
「要らないってどういう意味ですか。死んでも構わないってことですか。」
「物騒なこと言うね。悪魔に向いてるんじゃない?そうじゃなくて、どうでもいいの。」
「それなら、今起こっている魔法の暴走を止めてください。あなたの魔法なんでしょ!?」
私が言葉を強めるとアヴィシャは首を傾げる。
「そう言う話も含めてさ、一緒に来てよ。リビ、だったかな?」
アヴィシャの目的はあくまで私らしい。
この堕ちた悪魔が何故私に用があるのか分からない。
堕ちた悪魔は私のことが邪魔だったはず、それなら残りの3人が待っていて殺される可能性があるか?
「色々考えてるみたいだけど、選択肢なんてないようなものでしょ。的の大きなドラゴン4頭と、おばあちゃんを守りながら私とここで一戦交えるつもり?」
アヴィシャとの戦いに意味なんてない。
堕ちた悪魔は封印以外に打つ手はない。
「一緒に行けばいいんでしょ。どこに行けばいいの。」
「じゃあ、付いてきてね。」
アヴィシャが歩き始め、私は振り返りウミに声をかけた。
「全員でソラのところへ行って下さい。」
『封印の準備すればいいんだな?』
特殊言語の範囲を私だけにしか聞こえなかった最初の頃に意識しなおしたから、アヴィシャには言葉が分からないはずだ。
私の頷きに、ウミたちはミーカを乗せ空へと舞い上がる。
すると、アヴィシャが振り返り、ドラゴンたちに指を差す。
だから私は思わず、ルリビを口に入れていた。
アヴィシャはそんな私を見て、無感情に笑う。
「何かすると思ったの?本当にルリビ食べられるんだね。」
行動の読めないアヴィシャは前を進んでいく。
私はアシャレラと共に、堕ちた悪魔に従うしかなかった。
人々が立ち入らない迷いの森、モンスターが暮らしている森、多種多様な植物の自生する原っぱ。
そのおかげで私は植物の勉強をするのに困らなかった。
そうしてその草原の奥には、大きな樹木が立っていた。
ドラゴン4頭で下り立てば、ドラゴンの羽の風によって草原の葉が激しく揺れる。
そうしてその大きな樹木の前に立っていたミーカとレビンが、ドラゴンを見て瞬きをした。
驚く表情がとてもそっくりだ、さすが親子だな。
「リビさん、母が我儘を言って申し訳ありません。私が止めても聞いてもらえなくて。」
レビンはそう言って頭を下げた。
私は立って待っていたミーカの目の前に来た。
「国の外で待って頂きありがとうございます。腰の調子は大丈夫ですか。」
「協力を申し出たのはこちらだもの。腰は大丈夫よ、毎日のように主人に会いに行っているから体力もあるの。」
ミーカは毎日家から離れたお墓まで往復していた。
それはおそらく、腰の病気を患っていた時も変わらなかったはずだ。
「ウミ、尻尾貸してください。」
『あんた、ドラゴンの使い方が雑すぎるな。』
ウミは文句を言いながら尻尾をこちら側に横たえる。
「ミーカさん、座って下さい。協力の件について話しましょう。」
ミーカはドラゴンの尻尾に座ることを躊躇ったが、私が遠慮なく座ったのを見て同じように座った。
「結論から言うと、私はミーカさんにはお願いできません。」
私の言葉にミーカは表情を変えることはなかった。
穏やかな表情で孫でも見るかのようだ。
「理由を聞いてもいいかしら。」
「はい。今回自然魔法を持つ人が必要なのは、伝令通り光の加護を施すのに必要だからです。神々の頂という普段は人が踏み入れない場所で、堕ちた悪魔を封印する確率をあげるための手段として山に加護を付けます。堕ちた悪魔にとって不利になるその工程を邪魔される可能性はある。なので、危険があります。」
「危険を伴う場で、年寄りの私は足手まといになるからという理由かしら。」
「それも無いとはいえませんが、今回はいいえです。堕ちた悪魔と接触する可能性のある協力者の皆さんには、絶対に守ってもらわなくてはならないことがあります。一つは堕ちた悪魔に関することは全て私たちに任せること。二つ目は絶対に生きて帰るという意思を持って頂くことです。私は、ミーカさんがこれを守ることが難しいと判断しました。」
そう言った瞬間、初めてミーカは動揺を見せた気がした。
彼女はどんな話をする時も自分を律していた。
ご主人が殺された話をする時も、その原因が自分にあるかもしれないと考えている時もだ。
彼女の精神力はかなり高いものだ。
でもそれ以上に夫を愛しているから、私は懸念が拭えない。
「私が、彼に早く会いたくて死んでもかまわないと思っている、ということかしら。」
ミーカの言葉にレビンが目を見開く。
おそらく、レビンも感じていたのだろう。
毎日墓参りに足しげく通う母が、どれほど父に会いたいか。
どれほど、父の元へ行きたいか。
ミーカはそんなレビンの表情を見て、穏やかに微笑んだ。
「私は確かに、愛した彼に会いたくて仕方がなかった。だからこそ私は、奴らに騙されて負の魔力を渡してしまったのだから。本当に、愚かだったわ。そのせいで今、世界は揺るがされているんだもの。」
堕ちた悪魔が何十年と集めた負の魔力が今、魔獣の暴走を引き起こしている。
そしてそれは、ミーカを含む大切な人を殺された犠牲者によって成り立っているのだ。
「その責任を感じているし、それだけではなく当然堕ちた悪魔とやらに怒りを感じているのも本当よ。私がしていた最悪の想像はおそらく間違いないんだもの。そうでしょ?」
強い魔力を持つ人魚の大切な人を殺せば、負の魔力が高まる。
それが、ミーカのご主人だったということだ。
だから、ミーカの復讐心は私の知る人の中でも非常に強いはず。
「ねぇ、リビさん。私はあなたたちの計画を邪魔するようなことはしないわ。光の加護のために魔法を使えば、復讐するための魔法なんて残ってないの。人魚として質の高い魔法であることは保障するけれど、何度も強い魔法を使う体力はもうないわ。命を捨てて堕ちた悪魔と戦おうとする無謀さは持っていない。信じられないかしら。」
彼女が無謀ではないことを信じたい。
でも、彼女の根底には必ず愛した彼がいる。
愛した人のためなら、どんなに己を律する人だってその冷静さを捨ててしまう。
グウル国王を救ってくれと縋ったローザ。
妹を殺した3人の男を殺したドウシュ。
フブキと、そのフブキの家族のために前王ザラの命を奪ったヒサメ。
誰もが最も大切にしていることの前では、心は脆くなる。
「リビさん、あなたがしなければならないことは何かしら。」
私の迷いを見透かすようにミーカはそう告げた。
顔を上げれば彼女の方が、一切の迷いがないように見えた。
「あなたがすべきことを成すためには、最上の選択をする必要があるわ。そのためには、こんなおばあちゃんの魔法でも使うことを躊躇わないで。その迷いはわざわざ己の首を絞めているように見えるわ。私の話をちゃんと聞いてくれたあなただからこそ、その迷いが生じているのも理解している。でもね、聞いてほしいの。」
ミーカは慈愛を含んだ暖かな笑顔を見せた。
「私、この年になるまで寂しくなかったの。彼がいなくなって苦しかった辛かった、どうして何故と繰り返したことは事実。それでも、愛した娘がいて、その娘が大切な家族を持つことが出来て。それをこの目で見れていることが何よりも証明にならないかしら。私、夫に顔向けできないような生き方はできないの。だから、娘たちを悲しませることなんて、できないでしょ。」
その瞬間、ミーカなら大丈夫だと確信できた。
彼女の根底にある愛した夫のために、これからも生きる意思があるのであれば問題ない。
「ミーカさん、私たちと来て頂けますか。」
ミーカが私の手を取った時。
アシャレラが水晶を手に取った。
「リビちゃん、水晶の光が止まらない。これって、SOSじゃなかった?」
「その信号はどこからですか!?」
「多分、これ、各国に配置された騎士や兵士が一斉に送ってる。何が起きたか確認しないと。」
アシャレラはそう言って水晶で信号を送ろうとしているが、私は後ろにそびえる太陽の国の門を見た。
「一斉であれば、太陽の国でも同じ事が起こっているかもしれません。確認するならその方が早いです。全員、ウミに乗って!!」
ミーカ、レビンを先にのせ、私とアシャレラ、ヒメはドラゴンに乗り込んで太陽の国を上空から見下ろした。
そこには、大勢の人が逃げ惑っている姿が目に入る。
そして、数えきれないほどの人間の自然魔法があふれ出しているのが見えた。
どうして?太陽の国の門は壊されていない。
だから堕ちた悪魔と接触していないはずなのに、何故魔法の暴走が?
たくさんの悲鳴と、あふれ出る自然魔法によって壊されていく建物。
火魔法で火災が起きて
水魔法で洪水が起きて
土魔法で地割れが起きて
風魔法で竜巻が起きて
雷魔法で感電の被害が起きて
これが、他の国すべてで起こっているってこと?
どうして、いや、そんなことよりも早くなんとかしなければ。
「息子のところに行かないと!!リビさん、下ろしてください!!」
レビンの叫びで我に返る。
でも、今太陽の国の中に戻るのは危険すぎる。
あらゆる魔法が混ざって、被害を大きくしている。
だけど。
息子を心配するレビンを引き留めるすべが私にはない。
門の前に下りれば、レビンは太陽の国の中に迷わず走って行った。
私も太陽の国の中に入り、魔法の暴走を止める?
でも、あれだけの数の人の暴走が、他の国でも起こっているとしたら。
この水晶のSOSが途切れてしまったら。
私は何から動けばいいの。
「リビちゃん、見て。」
アシャレラが私の肩を掴む。
そうしてその視線の先に見えたのは、空の亀裂だ。
「なにあれ、アシャレラ、あれは何。」
「まさか、あれは・・・。」
「アシャレラ!!知っていることはちゃんと言って!!」
私が叫んだその声に答えたのはアシャレラじゃなかった。
「世界の均衡が崩れかけてるんだ。ああやって罅が入るんだね、不思議だよね。」
そう言って近づいてきたのは、白髪の長い髪をくくった端整な顔の人。
いや、堕ちた悪魔だ。
「アヴィシャ・・・。」
「うん、そう呼ばれてるね。まさか、アシャレラと契約したの?もの好きだね。」
アヴィシャはそう言ってこちらに一歩近づく。
アシャレラは私を庇うように前に出た。
「今起こっている魔法の暴走に関して知ってるよね?」
「ハハハ、アシャレラは気付いてないんだ?長生きして中途半端な知識はたくさんある癖にね。」
ハハハハ、と感情のない笑い声が気持ち悪い。
「しょうがないか、アシャレラは1000年ちょっとの記憶しかないもんね。」
「何言ってる、あんたは悪魔になってそんなに長くないはずだろ・・・?」
アシャレラの問いにアヴィシャは笑い声をあげる。
「私、そこにいる闇魔法使いに話があるんだ。それ以外はもう、要らないんだよね。」
「要らないってどういう意味ですか。死んでも構わないってことですか。」
「物騒なこと言うね。悪魔に向いてるんじゃない?そうじゃなくて、どうでもいいの。」
「それなら、今起こっている魔法の暴走を止めてください。あなたの魔法なんでしょ!?」
私が言葉を強めるとアヴィシャは首を傾げる。
「そう言う話も含めてさ、一緒に来てよ。リビ、だったかな?」
アヴィシャの目的はあくまで私らしい。
この堕ちた悪魔が何故私に用があるのか分からない。
堕ちた悪魔は私のことが邪魔だったはず、それなら残りの3人が待っていて殺される可能性があるか?
「色々考えてるみたいだけど、選択肢なんてないようなものでしょ。的の大きなドラゴン4頭と、おばあちゃんを守りながら私とここで一戦交えるつもり?」
アヴィシャとの戦いに意味なんてない。
堕ちた悪魔は封印以外に打つ手はない。
「一緒に行けばいいんでしょ。どこに行けばいいの。」
「じゃあ、付いてきてね。」
アヴィシャが歩き始め、私は振り返りウミに声をかけた。
「全員でソラのところへ行って下さい。」
『封印の準備すればいいんだな?』
特殊言語の範囲を私だけにしか聞こえなかった最初の頃に意識しなおしたから、アヴィシャには言葉が分からないはずだ。
私の頷きに、ウミたちはミーカを乗せ空へと舞い上がる。
すると、アヴィシャが振り返り、ドラゴンたちに指を差す。
だから私は思わず、ルリビを口に入れていた。
アヴィシャはそんな私を見て、無感情に笑う。
「何かすると思ったの?本当にルリビ食べられるんだね。」
行動の読めないアヴィシャは前を進んでいく。
私はアシャレラと共に、堕ちた悪魔に従うしかなかった。
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