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反撃開始
黄金の国 敬服
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空から見えるのは煌びやかなお城、つまり黄金の国だ。
新緑の国から南に行けば、比較的近い場所に位置しているのがこの国だ。
他国と比べると小さいとはいえ、ここにもたくさん暮らしている国民がいる。
その周辺には町や村もあり、黄金の国の騎士は彼らを守って戦わなくてはならないだろう。
黄金の国の城は入口まで橋がかかっていて、水に囲まれている。
それゆえに今、橋を渡る大勢の国民が城へ入って行くのが見える。
おそらく、避難させたのち橋を上げることによって、魔獣に攻め込まれないようにしたいのだろう。
門が壊され、国内に入ってきている魔獣は見えているだけで10体。
この小さな国にこれだけの魔獣がいれば、壊滅もあり得る。
そもそも黄金の国は職人の国だ。
武力に長けた国ではなかったからこそ、採掘された宝石加工の技術によって国を大きくさせてきた。
騎士がいるとはいえ、他国と比べると心許ないのは仕方がない。
ウミたちドラゴンに黄金の国を凍らせてもらい、私たちは城へと続く橋の前に下りたった。
驚く騎士たちの中に、見知った顔がいる。
「リビ様、私たちがすべきことはありますか?」
そう言って片膝をついたのはローザだ。
「話が早いですね。これからグウル国王にも説明するつもりですが、とりあえず水魔法の人間を集めてください。騎士でも兵士でも国民でも、自己治癒を上げる水魔法が使えたら助かります。その間に魔獣はこちらで対処します。」
「畏まりました、ただちに集めて参ります。」
ローザはそう言うと周りの騎士に声をかけて、城へと走って行った。
「なーにあの騎士の人。リビちゃんに忠誠でも誓ってるの?」
アシャレラはそう言いつつ、自分の歯で指先に傷をつける。
「あの人はこの国の騎士団長です。あれは忠誠ではなく負い目、ですかね。」
グウル国王の命を救うために私は劇薬を飲んだ。
そしてその劇薬を飲んだのは、ローザの悲痛の懇願があったことも一応要因だ。
「リビはこの国でも死にかけて、ヒサメ様に怒られてた。」
ヒメが呆れたように言えば、アシャレラはなるほどと頷く。
「命をかけることに躊躇いが薄いのはもはや性質だね。闇の神が選んだだけのことはある。少しでも道が逸れれば死ぬのは自分か周りか。そんな運命だからこそ堕ちた悪魔相手に勝機があるわけだ。」
アシャレラはそう言って、血の付いた指を私の唇に押し付ける。
「この血を取り入れるのって毎回必要なんですか?」
「なくてもいいけど、取り入れた分だけ俺と一心同体になれるよ。負の魔力を吸収した後のダメージも慣れやすくなる。苦しいの嫌いなんでしょ?ほら、かまえて。」
凍らせた魔獣から負の魔力を吸収し、ヒメとアルが器を元に戻す。
その作業が終わるころ、ローザが城から戻ってくるのが見えた。
「リビ様、水魔法持ちの人たちを確認致しました。騎士は三分の一が水魔法です。国民も半分にはいきませんが水魔法を持っています。」
「やけに多いですね、自然魔法は5つに分かれるはずですが。」
「黄金の国の主産業が宝石発掘と加工なので土魔法と水魔法が比較的多いんです。ただし、自己治癒を上げる魔法が使えるのはその中でも限られてきます。」
かけられた闇魔法を解除するためには、同じく上から魔法をかけなおす必要がある。
これは人間一人に対して対象魔法が一つしかかけられないことで成立する解除法である。
それなりにこの世界の魔法について理解してきているとは思うが、他に効果のある魔法があるなら解除の幅が広がるだろう。
魔法についての理解を深めるためにも他国への情報を広めていかなければ。
「今起こっていることを説明します、グウル国王にお会いできますか。」
「勿論です、どうぞこちらへ。」
私たちは王の間に案内され、久しぶりにグウル国王に謁見することとなった。
よくよく考えれば闇魔法で操られていない国王に会うのは初めてだ。
私の顔を見たグウル国王は椅子から立ち上がり、段差を下りてそれから頭を下げた。
さすがの私も慌てた。
「あの、グウル国王、頭を上げてください。」
「命を救って頂いたこと、直接お礼をしていなかった非礼を詫びよう。そして感謝申し上げる。」
「その件はもう終わったことなので。今回の魔獣暴走についてと現状について情報共有にきただけですから。」
「ああ、聞かせて頂こうリビさん。」
グウル国王は闇魔法をかけられた張本人だ。
それゆえに今起こっている魔獣の暴走が堕ちた悪魔が関わっていることについての飲み込みは早かった。
そしてアヴィシャの魔法について。
混乱に乗じて接触した人間が暴走させられている。
それを回避するためにも情報は必須だ。
「ローザさんに水魔法の人を集めてもらったのですが、闇魔法の解除のためです。人の暴走を止めるためには安全な対象魔法が必要になる。私はそれが水魔法の自己治癒の魔法だと判断しました。もし、それ以外でも安全な対象魔法に心当たりがあればそれでもかまいません。闇魔法の解除が目的なので。」
グウル国王は頷いて頭を悩ませる。
「確かに解除とする安全な対象魔法と言われると、水魔法になるだろう。他の魔法では怪我人が出る可能性が高い。雷魔法であれば低周波であれば人体に影響はないかもしれないが、そのコントロールはかなり繊細だ。自己治癒魔法であれば大小はあれど怪我をさせることはないだろう。」
やはり、現時点で闇魔法が解除できるのは対象魔法である闇魔法、自己治癒の水魔法・治癒の光魔法ということになる。
そして、かけられている闇魔法を上回るために人数がいる。
一人でも強い水魔法の人がいればいいが、早々いないのではないだろうか。
「そうですね、では水魔法の人は暴走に備えて下さい。それ以外の人は外部からの侵入を警戒して下さい。土魔法持ちが多いのであれば、壊れた外壁の修復を。それから、回復薬もたくさん用意する必要があると思います。闇魔法の解除はかなりの魔法を消費するはずですから。」
「分かった、そのようにしよう。ローザ、それぞれの役割を分けて指示を頼む。私は国民に説明し協力を仰ぐ。」
「あとそれから、さきほど魔獣の暴走に際してこの国を凍らせてもらった報告をしておきます。次第に溶けるのでご安心を。」
「かまわん。国が凍るのは二回目だからな、国民もそこまで混乱しておらんよ。」
そう言って笑うグウル国王は操られていた時とはまるで違った。
高圧的な態度は微塵もなく、私の話に真摯に耳を傾けてくれる。
「アシャレラ、操る魔法というのは性格まで改変してしまうものなのでしょうか。」
「んー詳細は分からないけど、悪魔の魔法って弱いんだよね。」
「いや、弱くないでしょ。弱いならこんなに苦労してないですよ。」
「そういう弱いじゃなくて・・・。」
アシャレラが言いかけたその時、王の間に別の騎士が走って入ってきた。
「グウル国王!!国民が避難している広間で、魔法の暴走が起きています!!」
「!!人数は分かるか!?」
「少なくとも、10人はいます!」
グウル国王は私の顔を見る。
「これは明らかに闇魔法による暴走ということだな?水魔法で解除するということでよいか。」
「はい、広間に急ぎましょう。回復薬の準備はまだでしょうから、私がその役目を負います。」
黄金の国は水魔法が多いこともあって、暴走した一人に対応する人間の数は十分だった。
光の加護の強いこの城だったことも功を奏し、全員の暴走を鎮めることも可能だった。
むしろ、闇魔法で回復役である私の方が疲れているくらいだ。
「黄金の国ならば対処できそうですね、これなら何も問題は。」
私はふと、周りの視線が自分に向いていることに気づく。
今までこの広間では魔法の暴走が起こっていた。
全員それを対処するために必死で、水魔法持ちの人以外は暴走から身を守るように端に寄っていたのだ。
そうして事態が収まった時、皆が注目したのは私だった。
劇薬で負ったひび割れた傷痕。
フェニックスの灰によって修復された燃えた腕。
闇魔法の人間として嫌厭され避けられた次は、見た目の恐ろしさで嫌厭されるというわけだ。
「お姉ちゃん、腕が燃えてるよ。熱くないの?」
「駄目よ、こっちに来なさい。」
心配そうに見上げた少女を、母親が遠ざける。
これも全然初めてでもない。
嫌な慣れだな、と思っているとグウル国王が私の手を下から優しく掴んだ。
周りの国民がざわつくのが分かる。
「そなたがいたおかげで混乱することもなく暴走を対処することができた。リビさんには助けてもらってばかりだ。やはり、山だけでは足りないな。」
そう言ったグウル国王は、私の手を掴んだまま膝をついた。
私も驚いたし、騎士も驚いているし国民も目を丸くしている。
王が膝をつくなどあってはならない。
だからこそ、その光景は敬服を表していた。
グウル国王は立ち上がると国民に向かって言葉を発した。
「この者の深い傷は私の命を救った代償だ。今回の魔獣の暴走も先ほどの魔法の暴走も被害を抑えるためにこの国に来てくれたのだ。身を削りながらこの世界に生きる者を救おうとする彼女の顔を生涯覚えていてほしい。」
グウル国王はそうして頭を下げたのだ。
その誠実な姿を見た国民は顔を見合わせて戸惑い、それから皆が頭を下げた。
恐れられるよりも感謝される方が当然嬉しいが、居たたまれない。
私は次の国に情報伝達に向かわなければならないことを伝えて、足早に城を出た。
「リビ嬢はもっと感謝を受け入れても罰は当たらないと思うよ。」
アルはそう言うが、その全員の記憶が太陽の神に消されるかもしれないのだ。
そうなった場合、私の存在はどうなるのだろう。
「受け入れてない訳ではないですよ。ただ、慣れないですね、注目されるというのは。」
いい意味でも悪い意味でも、注目の的になるというのは心が落ち着かない。
現代でも目立つような人間ではなかったし、だいたいの人間がそうなのではないだろうか。
黄金の国を出ようとするとローザが後ろから走ってきた。
その手に握られていたのは包帯だ。
「リビ様、ご迷惑でなければその腕に包帯を巻かせて頂けませんか。人々を救うあなたが恐れられる必要はありません。その身に纏う炎は異質に映る、少しでもそれが軽減するよう手助けさせて下さい。」
ローザの巻いた包帯は燃えなかった。
それどころか、包帯を巻くと炎は少しだけ威力が下がったように見える。
包帯に何か仕掛けでもあるのかとも思った。
だが違う。
この炎は私の不安や警戒心を表している。
神々の頂で会ったフェニックスも炎が大きくなったり、熱くなったりしていたはずだ。
そして、炎が出始めた新緑の国では心を許せる知り合いなどは当然いない。
それに気付いた今、私の炎は次第に静かに治まっていく。
「ローザさん、ありがとうございます。」
「いえ、私がリビ様にできる数少ないことですから。私が貴女にしてしまったことは取り返しのつかない、一生償わなければならないことですから。」
ローザはそう言って包帯を結んだ。
「この炎、熱くなかったでしょ?」
「え、はい、そうですね?」
ローザは質問の意図が分からないという顔をしたが、私は眉を下げて微笑んだ。
「ローザさんのこと信用してるってことです。それじゃあ次の国へ行きますね!」
4頭のドラゴンが空へと舞い上がる。
地上にいるローザは騎士の敬礼を空へと捧げていた。
新緑の国から南に行けば、比較的近い場所に位置しているのがこの国だ。
他国と比べると小さいとはいえ、ここにもたくさん暮らしている国民がいる。
その周辺には町や村もあり、黄金の国の騎士は彼らを守って戦わなくてはならないだろう。
黄金の国の城は入口まで橋がかかっていて、水に囲まれている。
それゆえに今、橋を渡る大勢の国民が城へ入って行くのが見える。
おそらく、避難させたのち橋を上げることによって、魔獣に攻め込まれないようにしたいのだろう。
門が壊され、国内に入ってきている魔獣は見えているだけで10体。
この小さな国にこれだけの魔獣がいれば、壊滅もあり得る。
そもそも黄金の国は職人の国だ。
武力に長けた国ではなかったからこそ、採掘された宝石加工の技術によって国を大きくさせてきた。
騎士がいるとはいえ、他国と比べると心許ないのは仕方がない。
ウミたちドラゴンに黄金の国を凍らせてもらい、私たちは城へと続く橋の前に下りたった。
驚く騎士たちの中に、見知った顔がいる。
「リビ様、私たちがすべきことはありますか?」
そう言って片膝をついたのはローザだ。
「話が早いですね。これからグウル国王にも説明するつもりですが、とりあえず水魔法の人間を集めてください。騎士でも兵士でも国民でも、自己治癒を上げる水魔法が使えたら助かります。その間に魔獣はこちらで対処します。」
「畏まりました、ただちに集めて参ります。」
ローザはそう言うと周りの騎士に声をかけて、城へと走って行った。
「なーにあの騎士の人。リビちゃんに忠誠でも誓ってるの?」
アシャレラはそう言いつつ、自分の歯で指先に傷をつける。
「あの人はこの国の騎士団長です。あれは忠誠ではなく負い目、ですかね。」
グウル国王の命を救うために私は劇薬を飲んだ。
そしてその劇薬を飲んだのは、ローザの悲痛の懇願があったことも一応要因だ。
「リビはこの国でも死にかけて、ヒサメ様に怒られてた。」
ヒメが呆れたように言えば、アシャレラはなるほどと頷く。
「命をかけることに躊躇いが薄いのはもはや性質だね。闇の神が選んだだけのことはある。少しでも道が逸れれば死ぬのは自分か周りか。そんな運命だからこそ堕ちた悪魔相手に勝機があるわけだ。」
アシャレラはそう言って、血の付いた指を私の唇に押し付ける。
「この血を取り入れるのって毎回必要なんですか?」
「なくてもいいけど、取り入れた分だけ俺と一心同体になれるよ。負の魔力を吸収した後のダメージも慣れやすくなる。苦しいの嫌いなんでしょ?ほら、かまえて。」
凍らせた魔獣から負の魔力を吸収し、ヒメとアルが器を元に戻す。
その作業が終わるころ、ローザが城から戻ってくるのが見えた。
「リビ様、水魔法持ちの人たちを確認致しました。騎士は三分の一が水魔法です。国民も半分にはいきませんが水魔法を持っています。」
「やけに多いですね、自然魔法は5つに分かれるはずですが。」
「黄金の国の主産業が宝石発掘と加工なので土魔法と水魔法が比較的多いんです。ただし、自己治癒を上げる魔法が使えるのはその中でも限られてきます。」
かけられた闇魔法を解除するためには、同じく上から魔法をかけなおす必要がある。
これは人間一人に対して対象魔法が一つしかかけられないことで成立する解除法である。
それなりにこの世界の魔法について理解してきているとは思うが、他に効果のある魔法があるなら解除の幅が広がるだろう。
魔法についての理解を深めるためにも他国への情報を広めていかなければ。
「今起こっていることを説明します、グウル国王にお会いできますか。」
「勿論です、どうぞこちらへ。」
私たちは王の間に案内され、久しぶりにグウル国王に謁見することとなった。
よくよく考えれば闇魔法で操られていない国王に会うのは初めてだ。
私の顔を見たグウル国王は椅子から立ち上がり、段差を下りてそれから頭を下げた。
さすがの私も慌てた。
「あの、グウル国王、頭を上げてください。」
「命を救って頂いたこと、直接お礼をしていなかった非礼を詫びよう。そして感謝申し上げる。」
「その件はもう終わったことなので。今回の魔獣暴走についてと現状について情報共有にきただけですから。」
「ああ、聞かせて頂こうリビさん。」
グウル国王は闇魔法をかけられた張本人だ。
それゆえに今起こっている魔獣の暴走が堕ちた悪魔が関わっていることについての飲み込みは早かった。
そしてアヴィシャの魔法について。
混乱に乗じて接触した人間が暴走させられている。
それを回避するためにも情報は必須だ。
「ローザさんに水魔法の人を集めてもらったのですが、闇魔法の解除のためです。人の暴走を止めるためには安全な対象魔法が必要になる。私はそれが水魔法の自己治癒の魔法だと判断しました。もし、それ以外でも安全な対象魔法に心当たりがあればそれでもかまいません。闇魔法の解除が目的なので。」
グウル国王は頷いて頭を悩ませる。
「確かに解除とする安全な対象魔法と言われると、水魔法になるだろう。他の魔法では怪我人が出る可能性が高い。雷魔法であれば低周波であれば人体に影響はないかもしれないが、そのコントロールはかなり繊細だ。自己治癒魔法であれば大小はあれど怪我をさせることはないだろう。」
やはり、現時点で闇魔法が解除できるのは対象魔法である闇魔法、自己治癒の水魔法・治癒の光魔法ということになる。
そして、かけられている闇魔法を上回るために人数がいる。
一人でも強い水魔法の人がいればいいが、早々いないのではないだろうか。
「そうですね、では水魔法の人は暴走に備えて下さい。それ以外の人は外部からの侵入を警戒して下さい。土魔法持ちが多いのであれば、壊れた外壁の修復を。それから、回復薬もたくさん用意する必要があると思います。闇魔法の解除はかなりの魔法を消費するはずですから。」
「分かった、そのようにしよう。ローザ、それぞれの役割を分けて指示を頼む。私は国民に説明し協力を仰ぐ。」
「あとそれから、さきほど魔獣の暴走に際してこの国を凍らせてもらった報告をしておきます。次第に溶けるのでご安心を。」
「かまわん。国が凍るのは二回目だからな、国民もそこまで混乱しておらんよ。」
そう言って笑うグウル国王は操られていた時とはまるで違った。
高圧的な態度は微塵もなく、私の話に真摯に耳を傾けてくれる。
「アシャレラ、操る魔法というのは性格まで改変してしまうものなのでしょうか。」
「んー詳細は分からないけど、悪魔の魔法って弱いんだよね。」
「いや、弱くないでしょ。弱いならこんなに苦労してないですよ。」
「そういう弱いじゃなくて・・・。」
アシャレラが言いかけたその時、王の間に別の騎士が走って入ってきた。
「グウル国王!!国民が避難している広間で、魔法の暴走が起きています!!」
「!!人数は分かるか!?」
「少なくとも、10人はいます!」
グウル国王は私の顔を見る。
「これは明らかに闇魔法による暴走ということだな?水魔法で解除するということでよいか。」
「はい、広間に急ぎましょう。回復薬の準備はまだでしょうから、私がその役目を負います。」
黄金の国は水魔法が多いこともあって、暴走した一人に対応する人間の数は十分だった。
光の加護の強いこの城だったことも功を奏し、全員の暴走を鎮めることも可能だった。
むしろ、闇魔法で回復役である私の方が疲れているくらいだ。
「黄金の国ならば対処できそうですね、これなら何も問題は。」
私はふと、周りの視線が自分に向いていることに気づく。
今までこの広間では魔法の暴走が起こっていた。
全員それを対処するために必死で、水魔法持ちの人以外は暴走から身を守るように端に寄っていたのだ。
そうして事態が収まった時、皆が注目したのは私だった。
劇薬で負ったひび割れた傷痕。
フェニックスの灰によって修復された燃えた腕。
闇魔法の人間として嫌厭され避けられた次は、見た目の恐ろしさで嫌厭されるというわけだ。
「お姉ちゃん、腕が燃えてるよ。熱くないの?」
「駄目よ、こっちに来なさい。」
心配そうに見上げた少女を、母親が遠ざける。
これも全然初めてでもない。
嫌な慣れだな、と思っているとグウル国王が私の手を下から優しく掴んだ。
周りの国民がざわつくのが分かる。
「そなたがいたおかげで混乱することもなく暴走を対処することができた。リビさんには助けてもらってばかりだ。やはり、山だけでは足りないな。」
そう言ったグウル国王は、私の手を掴んだまま膝をついた。
私も驚いたし、騎士も驚いているし国民も目を丸くしている。
王が膝をつくなどあってはならない。
だからこそ、その光景は敬服を表していた。
グウル国王は立ち上がると国民に向かって言葉を発した。
「この者の深い傷は私の命を救った代償だ。今回の魔獣の暴走も先ほどの魔法の暴走も被害を抑えるためにこの国に来てくれたのだ。身を削りながらこの世界に生きる者を救おうとする彼女の顔を生涯覚えていてほしい。」
グウル国王はそうして頭を下げたのだ。
その誠実な姿を見た国民は顔を見合わせて戸惑い、それから皆が頭を下げた。
恐れられるよりも感謝される方が当然嬉しいが、居たたまれない。
私は次の国に情報伝達に向かわなければならないことを伝えて、足早に城を出た。
「リビ嬢はもっと感謝を受け入れても罰は当たらないと思うよ。」
アルはそう言うが、その全員の記憶が太陽の神に消されるかもしれないのだ。
そうなった場合、私の存在はどうなるのだろう。
「受け入れてない訳ではないですよ。ただ、慣れないですね、注目されるというのは。」
いい意味でも悪い意味でも、注目の的になるというのは心が落ち着かない。
現代でも目立つような人間ではなかったし、だいたいの人間がそうなのではないだろうか。
黄金の国を出ようとするとローザが後ろから走ってきた。
その手に握られていたのは包帯だ。
「リビ様、ご迷惑でなければその腕に包帯を巻かせて頂けませんか。人々を救うあなたが恐れられる必要はありません。その身に纏う炎は異質に映る、少しでもそれが軽減するよう手助けさせて下さい。」
ローザの巻いた包帯は燃えなかった。
それどころか、包帯を巻くと炎は少しだけ威力が下がったように見える。
包帯に何か仕掛けでもあるのかとも思った。
だが違う。
この炎は私の不安や警戒心を表している。
神々の頂で会ったフェニックスも炎が大きくなったり、熱くなったりしていたはずだ。
そして、炎が出始めた新緑の国では心を許せる知り合いなどは当然いない。
それに気付いた今、私の炎は次第に静かに治まっていく。
「ローザさん、ありがとうございます。」
「いえ、私がリビ様にできる数少ないことですから。私が貴女にしてしまったことは取り返しのつかない、一生償わなければならないことですから。」
ローザはそう言って包帯を結んだ。
「この炎、熱くなかったでしょ?」
「え、はい、そうですね?」
ローザは質問の意図が分からないという顔をしたが、私は眉を下げて微笑んだ。
「ローザさんのこと信用してるってことです。それじゃあ次の国へ行きますね!」
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