【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

文字の大きさ
上 下
141 / 169
反撃開始

不明の魔法

しおりを挟む
私たちは宮殿を飛び出した。
大勢の人々が叫び声を上げていて、パニックになっていることだけが分かる。
「何があったんですか!?」
走って逃げている人間に問いかけると、動揺しながら答えてくれた。
「突然、何人かの魔法が暴走を始めたんだ。確かに魔獣によって怪我人は出ているし建物も壊れているが死人は出ていない。急激に負の感情が高まっている要因はないはずなのに。とにかく落ち着くまで離れないと危ないんだ!」
そうして人が逃げてくるその中心に向かって私たちは走って向かう。
そこには数十人の人間と獣人の魔法が溢れていた。
当然、自然魔法である火・水・土・風・雷がコントロールを失っている。
魔法の暴走をした場合、隔離させるか気絶させるか。
そんな話をヒサメに聞いたことがある。
暴走している人間以外は、宮殿から共に走ってきた騎士たち。
そして私とアシャレラ、ヒメとアル。
負の感情によって一時的に高まっている魔力の魔法は、どんな人間でも通常より強くなっている。
精鋭の騎士であったとしても気絶させるのはかなりの難易度だ。
それなら眠りの効果のある花を付与してみるしか。
その時、一人の暴走した獣人がこちらに叫んだ。

「助けてくれ!!!」

その場にいる誰もが一瞬動きを止めた。
「急に、魔法が溢れて、止まらないんだ!!自分じゃどうしようもできない!!」
そんな叫びにルミウルがこちらに駆け寄る。
「おかしいです。魔法の暴走とは負の感情の高まりによって理性を失うことでコントロールを失うものです。彼はどう見ても理性がある。これはただの魔法の暴走ではありません!」
ルミウルの言葉で今考えられる可能性はひとつ。
闇魔法によって強制的に暴走させられているということだ。
この状況は予想できたはずだ。
魔獣によって国に混乱をもたらしている今。
中にいる国民に接触することは何も難しくない。
人間の冷静さを崩すのにたくさんの仕掛けは必要ない。
ほんのわずかの動揺が波紋のように広がっていく。
「リビちゃん、この闇魔法は…」
「はい、魔法不明だった堕ちた悪魔の最後の一人アヴィシャの可能性が高いです。なんとか、私の眠りの魔法で解除ができれば!!」
そうして暴走している獣人に手をかざし、眠りの効果を付与しようとした。

できなかった。

はね返されたというのが正しい。
つまり、私の魔法の強さよりもアヴィシャの魔法が上だと知ることになった。
例えばこのまま、強制的に溢れる魔法が止まらない場合。
魔力が尽きて本人が死ぬことになる。
それを止めるために本人に近づくには、溢れ出ている魔法を打ち消すために有効な魔法で対抗するしかないが。
魔力増幅の効果を騎士たちに付与したとして、それを一人一人、暴走した相手に対応するまでに果たして間に合うだろうか。
ただでさえ、普通の暴走とは違う。
魔力が枯渇するまであとどのくらい保つのかさえ…。
「ヒメ!!暴走している人の魔力見えますか!?」
「見える!でもかなり減っている、このまま順当に減少すれば長くは保たない。」
とにかく、試せることを試さないと。
「ルミウルさん!魔力増幅の効果を付与します。火には水、水には土、それぞれ強い魔法をぶつけるんです。少しでも本人に近づければ気絶させることできませんか!?」
もちろん、あまりに魔法の力の差が激しければ難しい。
だからそれを私の効果付与でカバーする。
「一人で無理なら数人がかりで、暴走者一人の魔法を抑え込むんです!並んで!」
ルミウルが指示してくれたおかげで、各魔法ごとに騎士を分けてくれる。
騎士に増幅を付与し、魔法を押しながら少しずつ近づいて力技で気絶させる。
何人かはそれで気絶させることができた。
だが、私が効果を一度に付与できる人間にも限りがある。
そして、魔法を出し続ける騎士たちの体力も減少する一方だ。
光魔法でヒメとアルが補助してくれるが、彼らの治癒はあくまで疲労改善。
魔力をもとに戻せるわけではない。
「リビ、このペースじゃ間に合わない。」
ヒメはそう言って、まだ数十人いる暴走者の魔力を見る。
アルも首を横に振って視線を落とす。
「魔力が底を尽きそうだ…リビ嬢、すべての人を救う時間はない。」
周りにいる騎士も全力を出してくれている。
全力を出しても、数人しか気絶させられていない。
逃げる人、壊れた建物から救助を試みる人、避難誘導をする兵士。
ところどころ、火災が起きて黒い煙も見えている。
悲鳴と悲痛な助けを求める声。
国同士の大きな争いなんて要らなかった。
もうこの場も、他の国も、同じように混乱の最中に陥っているはずだ。
これはもう、戦争じゃないか。
堕ちた悪魔の望んでいた戦争が今まさに起こっているんだ。
人がたくさん死ぬ。
それによって負の感情が負の魔力を生み出していく。
誰もが周りのことなんて考えられなくなる。
心の余裕を蝕む世界は、必ず均衡を壊す。
「アシャレラ、他に方法はありませんか。」
「リビちゃんの魔法はアヴィシャに敵わない。それが分かっていながらどうしたいの?」
「暴走する人を止めたい。アシャレラの力を借りることはできませんか?一心同体になれば、私の魔法は悪魔ほどの力を持つことができるのではないですか。悪魔は、下界の人間たちよりもはるかに魔法が強いんでしょ。」
だからこそ、堕ちた悪魔にすら私の魔法は通用しない。
ハルに劇薬を作るようにお願いしていたが、貰うのを忘れていたのでこの場にはない。
だから、頼りになるのは悪魔であるアシャレラしかいないのだ。
「何度でも言うけど、悪魔の力借りるなんておすすめしない。負の魔力を吸収するだけだから血を吐いて内臓損傷するだけで済んでる。俺の力を借りて魔法を発動するとなると、もっと酷い反動が来るよ。」
「時間がありません。彼らの魔力が尽きる前に気絶させないといけない。血を、渡してください!」
アシャレラは私の目をじっと見る。
「リビ嬢、やめて!!きみがここで死ねば封印は困難になる。ボクたちの目的は堕ちた悪魔の封印だ、根源をどうにかしなければ被害の拡大は確定する。目の前の命を救っても、同じような被害者が増え続けるのは変わらないんだ!」
アルが言うことはもっともだ。
今私が命をかけて彼らを止めても、同じような被害者は山のように現れる。
根源である堕ちた悪魔がいる限り、増え続けるだけだ。
でも。
でもだからって、目の前の人は見殺しにしていいのか。
私だけが救える可能性があるのに?
英雄を気取るつもりはない。
私が命を握っているのだと傲るつもりもない。
ただ単純に、救えないことが怖い。

「お父さん!!!」
「近づいちゃだめよ!!」

幼い子供が暴走する獣人に駆け寄ろうとして止められた。
当然ながら、今目の前で命尽きようとしている人間たちには家族がいる。
だから、その命が尽きれば今度は、家族の負の感情が高まるのは目に見えていた。
幼い子供が伸ばすその手が父親に届くことはない。
母親の諦めたような瞳から大粒の涙が溢れていくのが見える。
「アシャレラ」
「…頑固だな、リビちゃん。」
アシャレラは目を細めると指の先の皮膚を歯で食いちぎる。
その指を私の唇に付けた。
「いいか、魂のないリビちゃんに今死なれても困るの。だから、ギリギリの力を貸す。死ぬことはない、でも死なないっていうのは無事って意味じゃない。いいね?」
「はい。分かってます。」
どんな反動が来るか分からない。
でも、こうしなければ道はない。
「リビちゃんかまえて。長々とやればリビちゃんの命が危険だから一瞬で終わらせる。出来るだけまとまってくれる?」
アシャレラの言葉に、魔法が尽きそうな人間たちは震える足で一歩ずつ真ん中に集まっていく。
魔法は弱っている、つまりもう枯渇寸前だ。
「リビちゃんの効果付与は物体対象だと思ってるでしょ。でも、きみの特殊言語は空間対象。それが使えるなら効果付与も空間対象に出来る。いや、出来なきゃここで全員死ぬ。やって。」
耳許で無茶を言うアシャレラの目は本気だ。
「魔法とは魔力の変換によって起こす現象だ。だからもっと汎用性が高いものなんだよ。って思い込めば少しは成功確率上がるんじゃない?」
「助言するならもっと上手く騙してくださいよ!」
「騙してない、俺はリビちゃんに嘘はつかない。ほら早くしないと間に合わないよ。」
暴走する彼ら全てに眠りの効果を付与する。
特殊言語のように空間全てに私の魔法を。
今できなければ、四人の堕ちた悪魔を封印することもできない。
私の役目を果たすために、この魔法は成功させなければならない。


黒い光が新緑の国中心部で眩く光る。
その光は宮殿にいる女王様やウミたちにも見えたことだろう。
暴走していた人間や獣人たちはその場に全て倒れている。
そして、手をかざした私の腕は肉片が崩れ内部の骨がむき出しになっていた。
口から溢れていく血液が地面に落ちる。
もうどこの痛みなのかも分からない。
「リビ嬢…」
アルが酷い顔をして私を見る。
声を出そうとしたが、それは音にならない。
アシャレラが私の体を抱き寄せてそのまま抱えた。
「他のみんなは人間たちの確認したほうがいいんじゃない?息はある?」
騎士たちはその言葉でようやく動き、倒れている人間たちの確認を行う。
「彼らは無事です!!眠っているだけのようです。」
魔法がきちんと付与されているのが確認できた。
「あの、リビ様は…。」
ルミウルの問いかけにアシャレラはさらりと答える。
「生きてるよ、あちこち皮膚が崩れてるけど。でもおかしいな。腕の一本二本、消し飛んでもおかしくないんだけど。」
「消し飛ぶ!?どういうことですか、あなたはリビ様の部下ではないんですか。どうしてそんなに冷静なんですか!?」
「俺はリビちゃんに忠実なだけさ。彼女が望むものを与えてあげる道具みたいなもの。彼女が死ぬまで彼女だけのために存在してるんだよね。だからとりあえず、宮殿の医療チーム呼んでくれる?」
「はい、ただちに!!」

新緑の国では一時的に暴走は収まった。
だが、こうしている間にも他の国で同じ事が起こっているはずだ。
私はルミウルの呼んだ医者がこちらに走ってくるのを、意識が失う前に瞳に映していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女を求めて今日も彼らはやって来る。

まるねこ
ファンタジー
私の名前はエイシャ。私の腰から下は滑らかな青緑の鱗に覆われた蛇のような形をしており、人間たちの目には化け物のように映るようだ。神話に出てくるエキドナは私の祖母だ。 私が住むのは魔女エキドナが住む森と呼ばれている森の中。 昼間でも薄暗い森には多くの魔物が闊歩している。細い一本道を辿って歩いていくと、森の中心は小高い丘になっており、小さな木の家を見つけることが出来る。 魔女に会いたいと思わない限り森に入ることが出来ないし、無理にでも入ってしまえば、道は消え、迷いの森と化してしまう素敵な仕様になっている。 そんな危険を犯してまで森にやって来る人たちは魔女に頼り、願いを抱いてやってくる。 見目麗しい化け物に逢いに来るほどの願いを持つ人間たち。 さて、今回はどんな人間がくるのかしら? ※グロ表現も含まれています。読む方はご注意ください。 ダークファンタジーかも知れません…。 10/30ファンタジーにカテゴリ移動しました。 今流行りAIアプリで絵を作ってみました。 なろう小説、カクヨムにも投稿しています。 Copyright©︎2021-まるねこ

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

処理中です...