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反撃開始
火森の村
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神々の頂に向かうヒサメは途中で離脱し、残りのメンバーで火森の村に到着した。
森の中にあるその村は建築を生業としていると聞いていただけあって、立派な建物が多く建っている。
木造建築で木の良さを前面に押し出したデザイン、といえばいいのだろうか。
他の村や国も木造の建築はあったが、石材やレンガと組み合わせているような建物が多かった。
この村は木で全てを作り上げるというこだわりを感じる。
入口付近に降り立ったのだが、外に人がいない。
人の気配はするから家の中にいるのは分かる。
「大きなドラゴンが4頭もいるから、怖くて隠れてるんじゃないかしら。」
ハルの言うことにも一理ある。
生きている中でドラゴンを見る機会は少ないらしい。
ましてやそれが守り神であるブルームーンドラゴンならなおさらだ。
「いつもは賑やかな村なんだが、市場も開かれていない。みんなに何かあったのかもしれません。」
モナは心配そうにあたりを見回している。
何かあったのは間違いないだろうが、建物に壊されたような痕跡はない。
「リビ嬢、森の奥から負の魔力と大勢の魔力を感知したよ。村人が魔獣と戦っているのかもしれない。」
「その通りです。」
アルの言葉に答えたのは近づいてきたご老人だった。
「村長!何があったのですか?」
「おお、モナくんか。久しいな、帰って来ていたのか。今、比較的魔法の強い若い衆が魔獣と戦っています。村に近づけさせないようにしていますが、魔獣の数は増えていくばかり。殺生も止む無しとは思っておりますが、皆で戦っても倒せるかどうか分かりません。あなたは、ドラゴンを連れていると噂の闇魔法使いですね?」
村長は私を見てそう言った。
本来私が連れているのはソラだけだが、その噂は私で間違いない。
今闇魔法の人間の悪評が広がっているはずだから、警戒されるのも無理はない。
「はい、そうです。ですが、あなた方に危害を加えるつもりは一切ありません。私は魔獣の暴走を止めに来ました。といっても信じてもらえないでしょう。ですから、魔獣を鎮められたら話を聞いて頂けませんか。」
私が頭を下げると、みんなも同じように頭を下げてくれた。
「村長、ボクからもお願いします。彼女は今広がっている悪評には無関係です。むしろ、皆を助けるために動いているんです。」
モナの言葉に村長は頷いた。
「モナくん、皆さん、顔を上げてください。黄金の国から周りの国や村に通達がなされています。闇魔法使いであるリビ様にグウル国王は命を救われたのだと。リビ様は代償に顔や体に酷い傷を負ったのだと。あなたがそのリビ様だというのは一目で理解できます。それに、火森の村はモナくんの故郷のようなものです。その故郷が、闇魔法の人間を否定するわけがありません。」
村長の暖かな言葉にほっと胸を撫でおろし、私は魔獣の元へと向かうことにした。
「村長、村が少し涼しくなるかもしれませんが、魔獣は止めてみせます。」
「村人の安全が確保できるなら、どのようなことでもかまいません。」
村長の許しも得たので私はドラゴンと、ヒメ、アル、アシャレラと共に森の奥へと向かった。
モナとハルとフブキは村に戻ってくる村人たちの救護に回ってもらうことにした。
「ウミ、暴走している魔獣だけを凍らせることは出来そうですか?」
『俺は問題ない。ナギはかなり若いからな。失敗するかもな。』
一番小さなナギは不安そうな顔をしている。
「不安がらせるのやめてください。ウミ以外のドラゴンはこんなに大人しいのに、ウミはどうしてそんなに好戦的なんですかね。」
本来ブルームーンドラゴンは温厚で戦いを嫌うはずの生物と言われている。
そもそもの月の神自体が、大人しくて温厚な神なのかもしれない。
それが堕ちてドラゴンになっても性格が反映されている可能性は高い。
そんな中でもウミはかなり異質に見える。
『俺だって温厚で可愛らしいドラゴンの時期はある。だが、そんな甘ちゃんじゃあ下界で生きていけないと悟ったのさ。この目の傷だって堕ちた悪魔につけられた。目の前で同胞が殺されて、なんとか戦おうとした俺にナイフで一刺しだ。長のドラゴンでさえ相手を追い返すので精一杯だった。俺は何も出来なかった、情けない話だよな。』
堕ちた悪魔を殺すことはできない。
だからこそ、持久戦に持ち込まれればドラゴンたちには不利だ。
一番強い長のドラゴンが皆を守るために最大限の魔法で追い返した。
そんな強敵を相手にしなければならないということだ。
「リビ嬢、村人たちと魔獣が見えてきたよ!」
アルの示す指先には、大きなサイのような見た目に角が生えている魔獣が5頭見える。
夜明けの国に来た大熊といい、あのサイもかなりの大きさだ。
魔法がなければ戦おうなんて考えられないほどだ。
「アシャレラさん、準備はいいですか。」
「もちろん、いつでもいいよ。血はどこからにする?首?それとも腕?」
「指からで。」
こんなときですらふざけることに余念がないアシャレラをあしらってから、指から血を貰った。
「はい、それじゃあいつものように手をかざして魔法を使うときのように魔力を込めるんだよ。あとは、俺が負の魔力を吸い上げるからね。」
負の魔力を吸い上げる前に、魔獣の動きを止めなければ。
「ウミ、ツナミ、ウズ、ナギ、お願いします!!」
戦っていた村人たちは地上に大きな影ができたことで全員が見上げていた。
唖然としたその表情はすぐに驚きと焦りに変わり、騒ぎ始める。
「ドラゴンだ!!みんな離れろ!!!」
そう言うが早いか、ドラゴンの魔法が地上と森を凍らせていく。
「なんだよ、これ!?!」
「殺される!!!助けてくれ!!!」
村の男たちが騒ぐ中、一人の女性が叫んだ。
「落ち着け!!私たちは凍ってないぞ!!」
その勇ましい女性は何かを察したのか、走りだす。
「全員魔獣から離れろ、標的は魔獣どもだ!!」
ありがたいことにその掛け声によって魔獣の周りから村人が掃けていく。
魔獣の足先から徐々に凍り付いていき、次第に動けなくなっていく。
「よし、じゃあそろそろリビちゃんの出番だね。かまえて。」
アシャレラに言われるがまま、私は魔獣に手を翳す。
「5頭しかいないから、一気にいくね。時間かけるとリビちゃんもきついからね。」
その言葉と同時、体に何か入り込まれるような感覚があった。
「集中してね、一心同体といえど本体はリビちゃんの体だから。実体のない俺はダメージを受けないけど、リビちゃんは違うからね。」
魔光石を食べて負の魔力を吸収したときとは違う感覚で魔力を吸い込んでいる気がした。
体に無理やり取り込んでいるようなそんな感覚、自分の器には負の魔力を取り込めるはずはないのに入れている感覚。
これが悪魔と一心同体になるということなのだろうか。
「はい、そろそろ終わるよ。翼のエルフのお二人頼むね。」
吸い終わった瞬間、反動で体の中に痛みが生じた。
心臓を掴まれるようなその苦しさに咳き込めば、口から血が出てくる。
「リビ嬢!!大丈夫!?」
「器を戻すなら早くしないとダメだよ。はじめてだからこうなるんだ、じきに慣れるよ。」
アシャレラに諭されたアルは私を心配しつつも、ヒメと一緒に魔獣たちの器を閉じることに専念する。
器の修復はヒサメの器を戻した時よりも時間はさほどかからなかった。
5頭の中で己の魔力が残っていたのは3頭。
残り2頭は全てが負の魔力で満たされていたため、吸い出した時点で死が確定してしまったようだ。
「魔力は自然回復したほうがいいだろうね。薬草を使えば己の体力をも削ることになる。」
アシャレラをそう言いながら、私の背中をさする。
「リビも、光魔法で治癒したほうがいいんじゃない?」
ヒメがそう言えば、アシャレラは首を振る。
「この苦しみは治せるものじゃないんだよ。悪魔の力を借りるっていうのはこういうことだから。大丈夫、死なないから。」
口から零れる血を拭いながら私はアシャレラを見る。
「そういうことは先に教えてほしかったですね。」
「聞かれなかったからね。嘘をつけなくても、黙っていることはできるってこと。これでまたひとつ、悪魔について知れたねリビちゃん。」
「殴っていいですか。」
「いいよ。だってリビちゃんは俺のことを好きにする権利があるから。魂も、この苦しみも、それだけ代償は大きいってことだよ。」
アシャレラはそう言いながら、私の体を支えている。
「・・・怪我している村人を村に運びましょう。ナギが一番人間に怖がられないかな。」
「いや、一番小さいと言えど大きいからね?」
アルはどのドラゴンも大して変わらないと言いたいらしい。
ナギは頷くと、地上へと下りていく。
「リビ嬢、ボクが人間に説明していい?」
「お願いします。」
血を吐いている状態の私では余計に怖がらせてしまう。
アルには村人への説明を任せて、なんとかいち早くこの苦しみに慣れなければと深呼吸をする。
「幾度となく繰り返せば、俺と馴染むようになるから。そうすれば、苦しみにも耐えられるようになるよ。リビちゃん、そういうの得意でしょ?」
「あいにく私はアシャレラさんと違い、苦しみに喜びを見出す変態ではないので。」
「まだそれ言う?でもさ、リビちゃんは俺と似てると思うよ。傷だらけなところとかさ。」
傷だらけになりながらも、アシャレラは国のために戦争で命をはったのだろうか。
私の傷は主に劇薬の代償だ。あとは、シグレとの特訓とか。
そうして悪魔との契約の苦しみが加わった、ということだ。
「と、いう訳で火森の村まで皆さんを運ぶのでこのドラゴンの背に乗ってね。」
アルの説明を受けた村人はかなり警戒を見せていたが、その中の一人の女性がドラゴンに一番に飛び乗った。
「お前たち何やってる。さっさと乗れ。」
「は、はい。」
勇ましいその女性は役職が上なのか、男たちは指示に従ってナギに乗ってくれた。
そうしてその女性は、ウミに乗っている私を見た。
「ドラゴンやエルフを従えているのが、こんな若い女性だとはね。さっきは助かったよ、ありがとう。」
『従ってるわけじゃねぇ。対等な関係だ。』
ウミの反論に村人たちは目を丸くする。
「え、今、しゃべった!?!」
「聞こえたよな、え、どういうこと!?」
「ああ、俺実は死んでるんだ・・・。」
取り乱す男どもを一喝したのは、当然村の女性だ。
「静かにしな。ドラゴンと話せる闇魔法使いの噂はお前らも聞いてるはずだ。彼女がそうなのさ。だろ?」
確信しているその問いに私には素直に頷いた。
「やっぱりな、それならドラゴンを連れてるのも納得だよ。面倒かけるけど、村まで頼むね。」
「はい、では落ちないように気を付けてくださいね。」
上空で男たちは高いだの、怖いだの騒いでいたが、女性だけは景色を眺める余裕があるようだ。
「たく、喧しいね。せっかくドラゴンとの飛行だっていうのに。」
肩にかかるくらいの長さの髪が風に靡く。
すると髪の下から見えた耳が人間の耳ではなかった。
「獣人、だね。」
アシャレラが私にそう言うと、女性はこちらを見る。
「ああ、兎獣人だよ。ここら一帯は獣人と人間が交ざって生活してる。珍しくもないよ。近くにある大きな国も獣人の王様がいるからね。」
白銀の国以外にも獣人の王様がいる国があるんだな。
そうして村に戻ってみれば、家に隠れていたであろう村人がたくさん外に出ていた。
女性の言っていた通り、人間もいれば獣人もいる。
種族がまざって暮らしているからこそ、闇魔法の人間であるモナを受け入れてくれたのかもしれない。
ドラゴンから次々と村人が降りていると、モナが駆け寄ってきた。
「棟梁、お久しぶりです!」
そうしてモナが挨拶したのは兎獣人の女性だったのだ。
森の中にあるその村は建築を生業としていると聞いていただけあって、立派な建物が多く建っている。
木造建築で木の良さを前面に押し出したデザイン、といえばいいのだろうか。
他の村や国も木造の建築はあったが、石材やレンガと組み合わせているような建物が多かった。
この村は木で全てを作り上げるというこだわりを感じる。
入口付近に降り立ったのだが、外に人がいない。
人の気配はするから家の中にいるのは分かる。
「大きなドラゴンが4頭もいるから、怖くて隠れてるんじゃないかしら。」
ハルの言うことにも一理ある。
生きている中でドラゴンを見る機会は少ないらしい。
ましてやそれが守り神であるブルームーンドラゴンならなおさらだ。
「いつもは賑やかな村なんだが、市場も開かれていない。みんなに何かあったのかもしれません。」
モナは心配そうにあたりを見回している。
何かあったのは間違いないだろうが、建物に壊されたような痕跡はない。
「リビ嬢、森の奥から負の魔力と大勢の魔力を感知したよ。村人が魔獣と戦っているのかもしれない。」
「その通りです。」
アルの言葉に答えたのは近づいてきたご老人だった。
「村長!何があったのですか?」
「おお、モナくんか。久しいな、帰って来ていたのか。今、比較的魔法の強い若い衆が魔獣と戦っています。村に近づけさせないようにしていますが、魔獣の数は増えていくばかり。殺生も止む無しとは思っておりますが、皆で戦っても倒せるかどうか分かりません。あなたは、ドラゴンを連れていると噂の闇魔法使いですね?」
村長は私を見てそう言った。
本来私が連れているのはソラだけだが、その噂は私で間違いない。
今闇魔法の人間の悪評が広がっているはずだから、警戒されるのも無理はない。
「はい、そうです。ですが、あなた方に危害を加えるつもりは一切ありません。私は魔獣の暴走を止めに来ました。といっても信じてもらえないでしょう。ですから、魔獣を鎮められたら話を聞いて頂けませんか。」
私が頭を下げると、みんなも同じように頭を下げてくれた。
「村長、ボクからもお願いします。彼女は今広がっている悪評には無関係です。むしろ、皆を助けるために動いているんです。」
モナの言葉に村長は頷いた。
「モナくん、皆さん、顔を上げてください。黄金の国から周りの国や村に通達がなされています。闇魔法使いであるリビ様にグウル国王は命を救われたのだと。リビ様は代償に顔や体に酷い傷を負ったのだと。あなたがそのリビ様だというのは一目で理解できます。それに、火森の村はモナくんの故郷のようなものです。その故郷が、闇魔法の人間を否定するわけがありません。」
村長の暖かな言葉にほっと胸を撫でおろし、私は魔獣の元へと向かうことにした。
「村長、村が少し涼しくなるかもしれませんが、魔獣は止めてみせます。」
「村人の安全が確保できるなら、どのようなことでもかまいません。」
村長の許しも得たので私はドラゴンと、ヒメ、アル、アシャレラと共に森の奥へと向かった。
モナとハルとフブキは村に戻ってくる村人たちの救護に回ってもらうことにした。
「ウミ、暴走している魔獣だけを凍らせることは出来そうですか?」
『俺は問題ない。ナギはかなり若いからな。失敗するかもな。』
一番小さなナギは不安そうな顔をしている。
「不安がらせるのやめてください。ウミ以外のドラゴンはこんなに大人しいのに、ウミはどうしてそんなに好戦的なんですかね。」
本来ブルームーンドラゴンは温厚で戦いを嫌うはずの生物と言われている。
そもそもの月の神自体が、大人しくて温厚な神なのかもしれない。
それが堕ちてドラゴンになっても性格が反映されている可能性は高い。
そんな中でもウミはかなり異質に見える。
『俺だって温厚で可愛らしいドラゴンの時期はある。だが、そんな甘ちゃんじゃあ下界で生きていけないと悟ったのさ。この目の傷だって堕ちた悪魔につけられた。目の前で同胞が殺されて、なんとか戦おうとした俺にナイフで一刺しだ。長のドラゴンでさえ相手を追い返すので精一杯だった。俺は何も出来なかった、情けない話だよな。』
堕ちた悪魔を殺すことはできない。
だからこそ、持久戦に持ち込まれればドラゴンたちには不利だ。
一番強い長のドラゴンが皆を守るために最大限の魔法で追い返した。
そんな強敵を相手にしなければならないということだ。
「リビ嬢、村人たちと魔獣が見えてきたよ!」
アルの示す指先には、大きなサイのような見た目に角が生えている魔獣が5頭見える。
夜明けの国に来た大熊といい、あのサイもかなりの大きさだ。
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「もちろん、いつでもいいよ。血はどこからにする?首?それとも腕?」
「指からで。」
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「はい、それじゃあいつものように手をかざして魔法を使うときのように魔力を込めるんだよ。あとは、俺が負の魔力を吸い上げるからね。」
負の魔力を吸い上げる前に、魔獣の動きを止めなければ。
「ウミ、ツナミ、ウズ、ナギ、お願いします!!」
戦っていた村人たちは地上に大きな影ができたことで全員が見上げていた。
唖然としたその表情はすぐに驚きと焦りに変わり、騒ぎ始める。
「ドラゴンだ!!みんな離れろ!!!」
そう言うが早いか、ドラゴンの魔法が地上と森を凍らせていく。
「なんだよ、これ!?!」
「殺される!!!助けてくれ!!!」
村の男たちが騒ぐ中、一人の女性が叫んだ。
「落ち着け!!私たちは凍ってないぞ!!」
その勇ましい女性は何かを察したのか、走りだす。
「全員魔獣から離れろ、標的は魔獣どもだ!!」
ありがたいことにその掛け声によって魔獣の周りから村人が掃けていく。
魔獣の足先から徐々に凍り付いていき、次第に動けなくなっていく。
「よし、じゃあそろそろリビちゃんの出番だね。かまえて。」
アシャレラに言われるがまま、私は魔獣に手を翳す。
「5頭しかいないから、一気にいくね。時間かけるとリビちゃんもきついからね。」
その言葉と同時、体に何か入り込まれるような感覚があった。
「集中してね、一心同体といえど本体はリビちゃんの体だから。実体のない俺はダメージを受けないけど、リビちゃんは違うからね。」
魔光石を食べて負の魔力を吸収したときとは違う感覚で魔力を吸い込んでいる気がした。
体に無理やり取り込んでいるようなそんな感覚、自分の器には負の魔力を取り込めるはずはないのに入れている感覚。
これが悪魔と一心同体になるということなのだろうか。
「はい、そろそろ終わるよ。翼のエルフのお二人頼むね。」
吸い終わった瞬間、反動で体の中に痛みが生じた。
心臓を掴まれるようなその苦しさに咳き込めば、口から血が出てくる。
「リビ嬢!!大丈夫!?」
「器を戻すなら早くしないとダメだよ。はじめてだからこうなるんだ、じきに慣れるよ。」
アシャレラに諭されたアルは私を心配しつつも、ヒメと一緒に魔獣たちの器を閉じることに専念する。
器の修復はヒサメの器を戻した時よりも時間はさほどかからなかった。
5頭の中で己の魔力が残っていたのは3頭。
残り2頭は全てが負の魔力で満たされていたため、吸い出した時点で死が確定してしまったようだ。
「魔力は自然回復したほうがいいだろうね。薬草を使えば己の体力をも削ることになる。」
アシャレラをそう言いながら、私の背中をさする。
「リビも、光魔法で治癒したほうがいいんじゃない?」
ヒメがそう言えば、アシャレラは首を振る。
「この苦しみは治せるものじゃないんだよ。悪魔の力を借りるっていうのはこういうことだから。大丈夫、死なないから。」
口から零れる血を拭いながら私はアシャレラを見る。
「そういうことは先に教えてほしかったですね。」
「聞かれなかったからね。嘘をつけなくても、黙っていることはできるってこと。これでまたひとつ、悪魔について知れたねリビちゃん。」
「殴っていいですか。」
「いいよ。だってリビちゃんは俺のことを好きにする権利があるから。魂も、この苦しみも、それだけ代償は大きいってことだよ。」
アシャレラはそう言いながら、私の体を支えている。
「・・・怪我している村人を村に運びましょう。ナギが一番人間に怖がられないかな。」
「いや、一番小さいと言えど大きいからね?」
アルはどのドラゴンも大して変わらないと言いたいらしい。
ナギは頷くと、地上へと下りていく。
「リビ嬢、ボクが人間に説明していい?」
「お願いします。」
血を吐いている状態の私では余計に怖がらせてしまう。
アルには村人への説明を任せて、なんとかいち早くこの苦しみに慣れなければと深呼吸をする。
「幾度となく繰り返せば、俺と馴染むようになるから。そうすれば、苦しみにも耐えられるようになるよ。リビちゃん、そういうの得意でしょ?」
「あいにく私はアシャレラさんと違い、苦しみに喜びを見出す変態ではないので。」
「まだそれ言う?でもさ、リビちゃんは俺と似てると思うよ。傷だらけなところとかさ。」
傷だらけになりながらも、アシャレラは国のために戦争で命をはったのだろうか。
私の傷は主に劇薬の代償だ。あとは、シグレとの特訓とか。
そうして悪魔との契約の苦しみが加わった、ということだ。
「と、いう訳で火森の村まで皆さんを運ぶのでこのドラゴンの背に乗ってね。」
アルの説明を受けた村人はかなり警戒を見せていたが、その中の一人の女性がドラゴンに一番に飛び乗った。
「お前たち何やってる。さっさと乗れ。」
「は、はい。」
勇ましいその女性は役職が上なのか、男たちは指示に従ってナギに乗ってくれた。
そうしてその女性は、ウミに乗っている私を見た。
「ドラゴンやエルフを従えているのが、こんな若い女性だとはね。さっきは助かったよ、ありがとう。」
『従ってるわけじゃねぇ。対等な関係だ。』
ウミの反論に村人たちは目を丸くする。
「え、今、しゃべった!?!」
「聞こえたよな、え、どういうこと!?」
「ああ、俺実は死んでるんだ・・・。」
取り乱す男どもを一喝したのは、当然村の女性だ。
「静かにしな。ドラゴンと話せる闇魔法使いの噂はお前らも聞いてるはずだ。彼女がそうなのさ。だろ?」
確信しているその問いに私には素直に頷いた。
「やっぱりな、それならドラゴンを連れてるのも納得だよ。面倒かけるけど、村まで頼むね。」
「はい、では落ちないように気を付けてくださいね。」
上空で男たちは高いだの、怖いだの騒いでいたが、女性だけは景色を眺める余裕があるようだ。
「たく、喧しいね。せっかくドラゴンとの飛行だっていうのに。」
肩にかかるくらいの長さの髪が風に靡く。
すると髪の下から見えた耳が人間の耳ではなかった。
「獣人、だね。」
アシャレラが私にそう言うと、女性はこちらを見る。
「ああ、兎獣人だよ。ここら一帯は獣人と人間が交ざって生活してる。珍しくもないよ。近くにある大きな国も獣人の王様がいるからね。」
白銀の国以外にも獣人の王様がいる国があるんだな。
そうして村に戻ってみれば、家に隠れていたであろう村人がたくさん外に出ていた。
女性の言っていた通り、人間もいれば獣人もいる。
種族がまざって暮らしているからこそ、闇魔法の人間であるモナを受け入れてくれたのかもしれない。
ドラゴンから次々と村人が降りていると、モナが駆け寄ってきた。
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