【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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夜明けの国

大切な役割

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私はソラと共に白銀の国へと向かうことになった。
魔守石と魔光石の特性を上手く活用できればヒサメを救える可能性がある。
今は他に方法を思いつくことが出来ないから、動くしかない。
一刻も早く、急がなければ。
ソラには今出せるだけのスピードを出してもらって、私は振り落とされないように手綱を握る。
目を開けるのも一苦労する速さの中、私は闇の神との会話を思い出していた。



『予期せず二人きりになったが好都合だな。さて、重要な話をしようか。』

建物に衝撃があり、ヒサメとベルへが魔法陣の部屋を出て行った直後の話だ。
闇の神は私に微笑むと、その透明な瞳に私を映した。
『我が授けた魔法こそが、貴女が望む結果への足掛かりになるだろう。世界の均衡を保つため、そしてそのための封印に役立つ魔法だ。その効果付与の魔法は、この世でただ一人、貴女だけが持っている魔法だ。』
「この魔法が、ヒサメ様や聖女様が死なずに済む可能性をあげる魔法ですか。」
『ああ、そうだ。封印に関わる者を貴女が殺したくないと願うなら、貴女が足掻いてみせるしかない。』

その神の言い方は、封印に際して誰かが死んでも仕方がないと思っていそうだと感じた。

「前回の時、この魔法があれば彼らは、獣人王と聖女様は死なずに済んだのではないですか。」
そんなことを言えば、闇の神は首を傾げて口の端を上げた。
『簡単に言ってくれるな、愛し子よ。魔法を授けるということがどれほど難しいか、少しは考えてから口を開け。魔法を授けられぬ神の方が多い。魔法を授かることができない下界の者の方が多い。神の誓約に触れぬように気を遣い、その者の受け入れられる魔法の性質に気を遣い、そうしてようやく、我の好みに合うかで決まるのだ。それがどれだけ稀有なことか理解してもらいたい。愛し子のように、二つの魔法が適合することがどれだけ希少なことか知っておくことだ。』
顔は笑顔だが、逆鱗に触れてしまったらしい。
「その希少な魔法を絶やさないために、結界魔法は遺伝させていたんですよね。他の魔法も遺伝させればよかったのではないですか?」
『していたさ、当然。一番初めの特殊言語も遺伝させる気でいた。だがその愛し子は殺された。子を成す前に。』
淡々とした言葉の中に寂しさがあった。
魔法が強く、唯一闇の神と話せた人、だったよね。
『遺伝しない場合、あとは自然にその魔法を持つ者が生まれることを待つしかない。何度も同じような魔法を授けることはできない。神だからと自由になんでも与えてやれるわけではない。』
闇の神はそう言うと、ため息をついた。
『愛し子よ。貴女の魔法も遺伝することが出来ない。何故なら、貴女は子を産めないからだ。』
一瞬時が止まった。
それでも私はもう一度言葉を反芻して、頷いていた。
「そうですか。それなら、また封印しなければならない時困りますね。」
『もう少し動揺するかと思ったが。』
「動揺はしていますが。異世界に来て家族を作れるなんて想像したこともなかったし。この世界に来た私は、一般的な幸福を疑うようにしてきたので、受け入れられないほどの衝撃はないです。」
闇の神の瞳がさきほどのような怒りを含んでいないことに気づく。
どうやら、私の返答がお気に召したらしい。
『それでこそ、我のかわいい愛し子よ。悩み、苦しみ、泣き喚きたいこともあるだろうに、最後には覚悟を決めてくれる。だが、勘違いはするなよ。我は、神は、決して貴女の不幸を望んでいるわけではないのだ。』
頬に手が触れる感覚がした。
神がそうさせているだけの幻なのか、魔法なのか。
『貴女の選択は、貴女自身のものだ。何を選ぶか、何を選ばないか。そうして今ここに立つ貴女が持っている全てのものは、神がどうこうできるものでもない。』

神様によって、自分の人生は左右されている。
そう考えることが何度もあった。
確かに私が選ばれたのは魔法の適正のせいかもしれないし、この闇の神のお眼鏡にかなったせいな部分もある。
だけど、誘導されているというより、そのように動いてくれるであろう人間が私だっただけだ。

「私にできることを教えてください。この魔法で、どうしたらいいですか。」

例えそれが、世界の均衡を保つための材料として最適な行動だとしてもかまわない。
それでヒサメ様が、聖女のヒカルさんが死なずに済むのなら私はそれを、私が選ぶ。

『堕ちた悪魔にルリビの効果を付与することだ。』
「でも、堕ちた悪魔は殺すことは出来ないんですよね?」
『息の根を止められずとも、弱らせることは出来るという話だ。そもそもルリビが何故世界で恐れられているか知っているか?』
堕ちた悪魔を弱らせるということは、光の加護と同じ役割ということだろうか。
結界を壊されないように奴らの力を極限まで弱らせるそのための一手ということだろうか。
「一粒で致死毒だからでしょう?」
『ルリビはな、上界にも下界にも存在する唯一解毒できない植物の実だ。そして、上界下界に生きる全てのものがこのルリビを恐れている。人型も、精霊も妖精も、モンスターも魔獣も、決してこのルリビを口にすることはない。この恐ろしい実を食べられるのは、摂取することで魔法を発動できる珍しい闇魔法を持った者と、堕ちた神の成れの果てであるドラゴンだけだ。』

私とソラ、そしてヒバリはそれに当てはまるというわけだ。
私もヒバリも食べなければ魔法を発動することが出来ない。
それゆえに、その毒の効果を受けることはない。

『ここからさらに重要な話だ。堕ちた悪魔は他の生物と違い、寿命以外の死が存在しない。それゆえに、ただルリビの毒を与えるのでは効果が薄い。食べさせるのではなく、効果付与だからできることは何だと思う?』
「効果の強さと、魔法の強さは比例します。私の魔法が強ければ強いほどそれだけ効果は上がりますよね。」

『それも勿論必要だが、一番は殺す覚悟だな。』

さらりと言われたその言葉に私は息を飲む。
「堕ちた悪魔は、殺せないんですよね・・・?」
『殺せはしないが、それだけの強い気持ちが無ければ意味を成さない。感情と魔法は連動している。本気で殺そうと思えない人間が、堕ちた悪魔に対抗できるとでも思うか?』

堕ちた悪魔を殺す覚悟を、一度は決断しようとした。
けれど、堕ちた悪魔は殺すことができないのだと知って、どこか安堵する自分もいたのだ。
現実はそう、甘くないと知っているのに。

『貴女の躊躇いが堕ちた悪魔以外を死なせることになるかもしれない。貴女のほんの小さな隙によって、結界が壊されてしまうかもしれない。それほど封印とは、紙一重なものなのだ。貴女が一瞬でも心を揺らがせれば、悪魔はそれに付け込んでくる。そういうものだ。付け込ませない、その隙を与えない、揺らがない鉄壁の心を持つには、まだ足りない。』

私のせいで、ヒサメ様が死ぬ・・・?
そう考えただけで、声が震えた。

「どうすれば、そんな心を持てるんですか。私は、何をすれば・・・。」
『誰かを殺したこともない人間が、誰かを殺す覚悟ができると思うか?だがな、それさえも貴女はもう済ませている。』
「え。」
闇の神の手が、短剣に触れた気がする。
『必要なのは、貴女がしたことを認めることだ。いつまでも目を逸らしたまま、堕ちた悪魔と対峙することは出来ない。本当は貴女には、殺す覚悟ができる。それを見ないフリしているだけでな。』

何度も葛藤したその出来事を、ここで蒸し返されるなんて思いもしなかった。
いや、考えたくなかっただけで本当はよぎっていた。
あの出来事は私にとって、心が壊れそうになるほど恐ろしいことだった。
誰にも言えなくて、忘れたくて、無かったことにしようとした。
それを救ってくれたのは、ヒサメだった。
ヒサメの言葉がなかったら、いつ立てなくなってもおかしくなかった。
私がしたことは勿論変わらない。
それでも今は、一人で抱えていたときとは何もかもが違う。
私が本当に、あの二人を殺していたのだとしても。

「私さえ躊躇わなければ、ヒサメ様を守れるんですね。」
『貴女の覚悟が本物なら、獣人王や聖女を死なせることはないだろう。我の授けた魔法なのだ、誇りに思ってくれて良い。どんな道を辿ろうとも、我の愛し子であることは変わらないのだから。』



この魔法を与えたのは闇の神であるあなただ。
そんな理由で、誰かを殺すことを正当化しようだなんて狡猾で強かにでもなったようだ。
そんな感情とは裏腹に。
あの熊の魔獣たちだって、本当は殺さなくても良かったんじゃないかと何度もよぎる。
その度に、今のままじゃ殺す覚悟が足りないのではと恐怖する。
私が一瞬でも躊躇えば、堕ちた悪魔以外が死ぬことになる。
どちらを選ぶかは明らかなのに、躊躇するかもしれないのがまだ甘い。
他の誰でもなく、私が殺すことを選ぶ。
狡猾で強かな非情な人間に、私ならなれる。



白銀の国付近は雪山で、凍えるような寒さになってきた。
私は、鞄に入っていた騎士の服を身に纏う。
私にこの制服を着る資格が、まだあるのだろうか。
そうは思いつつも、防寒になるこの制服を着なければ耐えられない。
大きな黒い要塞が見えるのと同時に、その白銀の国周辺にたくさんの魔獣がいるのが見えた。
ここも、負の魔力を入れられた魔獣が集まっているのか。
そんな大きな魔獣の中に、銀色の髪を靡かせる狼獣人の姿があった。
「フブキさん!?」
「キュキュ!!」
私とソラの声は同時で、雪の上に立っていたフブキはこちらを見上げた。
「リビ!ソラ!一体何が起こってるんだ!?」
フブキはそう叫びながら、大きな魔獣を投げ飛ばしている。
「とにかく、ソラに乗ってください!」
ソラが急降下してフブキを乗せ、再び空へと舞い上がる。
フブキは相変わらず薄着で、見ているこっちが寒くなる。
するとフブキが突然、私の頬に触れた。
「リビ、この傷どうした?何があったんだ。」
体中に広がる亀裂をフブキは初めて見ることになる。
あまりに心配そうにするので、私はとても胸が熱くなる。
「色々あったんです、本当に。でも今は、ヒサメ様が大変なんです。」
私はフブキに今までの経緯を話すことにした。
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