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遠霧山
堕ちた悪魔
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残虐な殺人を犯した者は悪魔になる。
彼らもまた、上界への転移者というわけだ。
「悪魔もまた天使と同様に、死ぬ前の記憶を持っていないのが普通よ。それはおそらく、その非道な行いの数々を覚えている方が上界のバランスを崩しかねないからだと思う。けれど悪魔の中にも、私と同様に死ぬ前の記憶を維持できた者がいるの。」
ハルはそう言うと一枚の絵を持ってきた。
そこには、ヒバリと子供のハルとアル、そして青年が並んでいる絵だった。
ハルはその青年を指さす。
「随分と前のものだけど、おそらく彼の容姿はさほど変わっていないはずよ。彼は一時期私たちと暮らしていた。本当に短い間だったけど、彼は悪い人ではないと断言できる。たとえ、悪魔だったとしてもね。」
深い茶色の髪、大人しそうな、だけどどこか暗い青年。
その青年の肩を抱くヒバリと、そのヒバリと手を繋いでいるハル。
そして、後ろに隠れているアル。
繊細で綺麗なその絵は暖かい。
なんだかこの色使い、見たことがあるようなそんな雰囲気がある。
「あの、この絵はどなたが描いたんです?」
「とある町で出会った画家さんの絵が素敵でね。丁度この子たちと出掛けていたから無理を言ってその場で描いてもらったんだよ。とても素敵なご夫婦だったよね、覚えてるかな。」
ヒバリが問いかけるとハルは頷いて、アルは首を傾げる。
「ボクはあんまりかな、小さかったし。」
「私は当然覚えてるわ。ヒバリは神官の仕事で忙しくて出掛けるのは久々だったもの。奥さんがお菓子を焼いてくれて、旦那さんも子供の私たちに優しくて良い夫婦だったわね。」
懐かしそうにするハルは、再び青年を指さした。
「彼の名前はドウシュ。お嬢さんは太陽の騎士の坊ちゃんから聞いてるわよね。」
ドウシュ。
それはヴィントとエルデが兄として慕っていた青年の名前だ。
彼は闇魔法を持った堕ちた悪魔だったということ。
そして、死ぬ前に残虐な殺人を犯した人間だということだ。
ヴィントとハルの言い方からしてみても、彼が殺人をするようには思えないが。
「また過去を見たんですか。」
「ここに来るまでの移動でね。仕方ないでしょ、情報共有するならこの方法が手っ取り早いの。」
私が納得のいかない顔を浮かべていたのだろう、ヒバリがとても申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「ハル、せめて許可を取ってから魔法を使いなさい。お嬢さんだって、困るだろう?」
「断られても見ることは確定なのよ?それなら見られるものとして覚悟して。別に、プライベートに興味ないわよ。お嬢さんが持っている情報が欲しいだけ。」
「すまないね、お嬢さん。ハルに悪気はないんだ。」
何かを言ってもハルには勝手に過去を見られてしまう。
だから、諦めて話を促した。
「今は仕方ないとしておきます。それで、あなた方はドウシュさんと一時期暮らしていたんですね。つまり、ドウシュさんは下界に堕ちたというわけですか。」
「ええ、そうなるわ。彼の話では上界で禁忌を犯したことにより堕ちたらしいの。その詳細は分からない。」
「ハルさんはドウシュさんの過去を見なかったんですか?見れば何をしたか分かるでしょ。」
そんなことを言えばハルは少し黙ってから口を開く。
「私の過去を見る魔法は、世界をまたいで見ることは出来ない。つまり、上界と下界は異なる世界だからドウシュが上界で何をしていたのか知ることは無理。それから、お嬢さんの死ぬ前の世界の過去を見ることも出来ない。さらに、誰と何を話して何をしていたのかという細かい情報を見るのはかなり難しいの。時間をかけてじっくり見ればできないこともないけど、基本的には何か必要な事柄を目指して過去を見るのよ。」
検索ワードを入力してそれに関する事柄をネットで調べる感じだろうか。
つまり、色んな情報を一気に手に入れることは出来ないという訳だ。
「人の過去なんて膨大なものを見るのは疲れるの。今回過去を見るときに気を付けたのは、悪魔に関する記憶。だから、お嬢さんと騎士の会話へと辿り着いた。一言一句見てたら過労死するから、重要な話しか見てないわよ。」
「じゃあ、グウル国王を救うときは、どんな過去を見たんです?あのときハルさんは、私がアサヒの花を持っていることを知っていたでしょ。」
「それは、アルの能力でお嬢さんが静寂の海に行っていたことを知っていたから、静寂の海での記憶を覗いただけ。私は、アサヒの花が静寂の海に咲いていることも、アサヒの花が解毒の役割を果たすことも知っていたから。」
「なんで、知っているんです。」
元々は毒蛇の毒と言われていたが、それはドラゴンの血を毒として利用しているものだった。
そして、その解毒方法は存在しないとされていた。
「静寂の海にアサヒの花が咲いているのを知っているのは当然。私はヒバリの弟子だから、植物に関することは一通り学んでる。」
「でも、その植物図鑑にも解毒作用があるなんて書いてないですよね。」
「それは、ヒバリの魔法の問題よ。」
ヒバリは自身が書いた植物図鑑を本棚から取り出した。
「僕はこの世界に来て”食べた植物の効果が明確に分かる魔法”を持っていることに気づいた。だからこそ、この植物図鑑を作ることになったんだけど、問題は僕の魔法のしくみだね。」
そうしてヒバリは植物図鑑のページをめくる。
「これを見て欲しいんだけど、この植物の効果は睡眠改善。副作用が出る場合には湿疹。でも、別の植物と合わせると効果が変わり、眠れなくなる。この、別の植物との掛け合わせっていうのは、片方の植物を食べただけでは分からないんだ。つまり、果てしない数の掛け合わせが存在していて、それを植物図鑑に全て記せたわけじゃないんだよ。」
この有名な植物図鑑でさえ、まだまだ知識としては薄いのか。
「それに加えて、他の生物の毒の解毒になる、なんて効果は僕の魔法では見えないんだ。その生物を知っていないといけないし、その生物の毒についても知っていないといけない。つまり、知識を掛け合わせることができないと僕の魔法は本領を発揮できない。だけど、そこにドウシュくんの魔法をかけ合わせることによって、それを可能にすることが出来た。ドウシュくんの魔法はこの世にある毒全ての鑑定ができる。そのドウシュくんの魔法によって得た知識と、僕がこれまで食べてきた植物の知識を掛け合わせることによって、アサヒの花の副作用は解毒できる可能性が高いという結論に至ったんだ。」
魔法とはいってもとても地道な作業だ。
ヒバリはドウシュに出会ったことで、植物の可能性を広げることが出来たというわけか。
しかし、あの毒の解毒をピンポイントで調べようとしないと難しいような。
「ドウシュさんか、ヒバリさんは、その毒の解毒をしたかったということですか。」
「その通り。ドウシュくんはこの世界に堕ちたときからずっと探していたんだよ。彼らのことを。」
「お嬢さんたちがドクヘビと呼んでる連中のことよ。」
ヴィントの話を聞いて思っていたが、やはりドウシュはドクヘビを追っている。
ドウシュはヒバリと共にドクヘビが使用している毒の解毒になるアサヒの花をつきとめた。
しかし副作用だけを施す術がないから、ドウシュは”対処法はない”と言ったのだ。
「ドウシュさんは何故、ドクヘビを追っているんです?」
そんなにも長い間、彼はドクヘビを追い続けている。
それでも彼らを捕まえることができないのだろうか。
「ドウシュくんは自分せいだからって言っていたよ。自分が禁忌を犯したせいで彼らも同様に禁忌を犯して堕ちたのだと。ドクヘビと呼ばれている彼らは、ドウシュくん同様、堕ちた悪魔ということらしいね。」
ドクヘビの者たちは堕ちた悪魔。
もし彼らが死ぬ前の記憶を持っていたなら、魔法陣に英語が書かれていたのにも納得できる。
「ドウシュさんは、ドクヘビをずっと追い続けているんですよね。それでも捕まえられないのは彼らが身を隠すのが上手く、魔法も強力だったりするんでしょうか。」
「勿論、彼らの魔法は下界において強いんだろうね。でも、それ以上に非情で残酷だからドウシュくんの手が届かないんだと思う。」
ヒバリの言葉にハルが付け加える。
「ドクヘビの連中は人を殺すことを何とも思ってない。操って殺させたり、毒を自ら飲ませたりするようなそんな残酷な悪魔どもよ。ドウシュは彼らを追いながら、被害に合った人たちが少しでも生き残れるように操りの魔法を解きながら行動しているの。相手の魔法を解くのには、魔法を上書きすればいいだけだから。でも、ドウシュは鑑定士の資格を持っていない。操られている人を見分けるのにも神経を使う。だから、行動が制限されて動きずらいのでしょうね。」
堕ちた悪魔の魔法は強力だ。
私も底上げする魔法薬を飲まなければ操りの魔法を解くことが出来なかった。
ドウシュも堕ちた悪魔だから魔法は強く、そのおかげで操りの魔法を解くことが可能なのか。
でも、鑑定士の資格がないため無許可で鑑定を行えば牢獄行きだ。
ドウシュの魔法は攻撃魔法ではないし、ドクヘビの魔法に対抗するのは不利か。
「ドウシュくんの話を聞いて、僕ももっと植物のことを調べなおさないとと思って色んな国へ行ったよ。もしかしたら、アサヒの花だけではなく解毒できる植物があるかもしれないからね。しかし、そう簡単な話ではなかった。僕が掛け合わせられるのは植物同士の知識だけ。100年前に出したこの図鑑よりも詳しいことが分かるようにはなってきたけど、それでも解毒方法の新たな発見を得るのは難しかった。」
今の段階では、アサヒの花の副作用が解毒できるという見解しか出ていないわけか。
そして、それを今白銀の国が解毒薬にできないか研究の真っ最中だ。
「新しい本は出さないんですか?新たに分かった掛け合わせの効果があるんですよね。」
「出してるよ、名前を変えてね。おそらく、薬師の人たちには読まれているはずだよ。でも、数えきれないほどの植物があるだろう?結局は新しい魔法薬を作るよりも従来の方が作り方も効果も分かるから、よほど良い効果を発揮できないと新しい掛け合わせで薬品を作られることはないだろうね。」
確かによほどいい薬ではない限りは、従来の薬のまま作りそうだ。
その方が安定して薬を量産できるだろうし。
「いくら調べても解決の糸口は見つからない。僕の寿命もいつ尽きるのか分からないし、僕はとても弱気になっていたんだろうね。神官として祈りを捧げるときに神に話しかけた。”このままだと堕ちた者が均衡を崩すことになるけどいいのか”って。神は肯定か否定かしかしないはず。けれど神は僕の目の前に現れた。青い鳥として。」
青い鳥?
私は思わずハルを見た。
ハルは不機嫌そうに首を振る。
「ヒバリは神に好かれてた。青い鳥に見えたそれはおそらく神の化身よ。ヒバリの望む姿で現れたの。つまり神は、ヒバリを気に掛けて話を聞こうとしてしまったのよ。」
「え、それって誓約違反では。」
ハルは呆れたように、ヒバリは悲しそうに微笑んだ。
「そうなんだ。僕は神を堕とすという罪を犯してしまったんだ。」
彼らもまた、上界への転移者というわけだ。
「悪魔もまた天使と同様に、死ぬ前の記憶を持っていないのが普通よ。それはおそらく、その非道な行いの数々を覚えている方が上界のバランスを崩しかねないからだと思う。けれど悪魔の中にも、私と同様に死ぬ前の記憶を維持できた者がいるの。」
ハルはそう言うと一枚の絵を持ってきた。
そこには、ヒバリと子供のハルとアル、そして青年が並んでいる絵だった。
ハルはその青年を指さす。
「随分と前のものだけど、おそらく彼の容姿はさほど変わっていないはずよ。彼は一時期私たちと暮らしていた。本当に短い間だったけど、彼は悪い人ではないと断言できる。たとえ、悪魔だったとしてもね。」
深い茶色の髪、大人しそうな、だけどどこか暗い青年。
その青年の肩を抱くヒバリと、そのヒバリと手を繋いでいるハル。
そして、後ろに隠れているアル。
繊細で綺麗なその絵は暖かい。
なんだかこの色使い、見たことがあるようなそんな雰囲気がある。
「あの、この絵はどなたが描いたんです?」
「とある町で出会った画家さんの絵が素敵でね。丁度この子たちと出掛けていたから無理を言ってその場で描いてもらったんだよ。とても素敵なご夫婦だったよね、覚えてるかな。」
ヒバリが問いかけるとハルは頷いて、アルは首を傾げる。
「ボクはあんまりかな、小さかったし。」
「私は当然覚えてるわ。ヒバリは神官の仕事で忙しくて出掛けるのは久々だったもの。奥さんがお菓子を焼いてくれて、旦那さんも子供の私たちに優しくて良い夫婦だったわね。」
懐かしそうにするハルは、再び青年を指さした。
「彼の名前はドウシュ。お嬢さんは太陽の騎士の坊ちゃんから聞いてるわよね。」
ドウシュ。
それはヴィントとエルデが兄として慕っていた青年の名前だ。
彼は闇魔法を持った堕ちた悪魔だったということ。
そして、死ぬ前に残虐な殺人を犯した人間だということだ。
ヴィントとハルの言い方からしてみても、彼が殺人をするようには思えないが。
「また過去を見たんですか。」
「ここに来るまでの移動でね。仕方ないでしょ、情報共有するならこの方法が手っ取り早いの。」
私が納得のいかない顔を浮かべていたのだろう、ヒバリがとても申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「ハル、せめて許可を取ってから魔法を使いなさい。お嬢さんだって、困るだろう?」
「断られても見ることは確定なのよ?それなら見られるものとして覚悟して。別に、プライベートに興味ないわよ。お嬢さんが持っている情報が欲しいだけ。」
「すまないね、お嬢さん。ハルに悪気はないんだ。」
何かを言ってもハルには勝手に過去を見られてしまう。
だから、諦めて話を促した。
「今は仕方ないとしておきます。それで、あなた方はドウシュさんと一時期暮らしていたんですね。つまり、ドウシュさんは下界に堕ちたというわけですか。」
「ええ、そうなるわ。彼の話では上界で禁忌を犯したことにより堕ちたらしいの。その詳細は分からない。」
「ハルさんはドウシュさんの過去を見なかったんですか?見れば何をしたか分かるでしょ。」
そんなことを言えばハルは少し黙ってから口を開く。
「私の過去を見る魔法は、世界をまたいで見ることは出来ない。つまり、上界と下界は異なる世界だからドウシュが上界で何をしていたのか知ることは無理。それから、お嬢さんの死ぬ前の世界の過去を見ることも出来ない。さらに、誰と何を話して何をしていたのかという細かい情報を見るのはかなり難しいの。時間をかけてじっくり見ればできないこともないけど、基本的には何か必要な事柄を目指して過去を見るのよ。」
検索ワードを入力してそれに関する事柄をネットで調べる感じだろうか。
つまり、色んな情報を一気に手に入れることは出来ないという訳だ。
「人の過去なんて膨大なものを見るのは疲れるの。今回過去を見るときに気を付けたのは、悪魔に関する記憶。だから、お嬢さんと騎士の会話へと辿り着いた。一言一句見てたら過労死するから、重要な話しか見てないわよ。」
「じゃあ、グウル国王を救うときは、どんな過去を見たんです?あのときハルさんは、私がアサヒの花を持っていることを知っていたでしょ。」
「それは、アルの能力でお嬢さんが静寂の海に行っていたことを知っていたから、静寂の海での記憶を覗いただけ。私は、アサヒの花が静寂の海に咲いていることも、アサヒの花が解毒の役割を果たすことも知っていたから。」
「なんで、知っているんです。」
元々は毒蛇の毒と言われていたが、それはドラゴンの血を毒として利用しているものだった。
そして、その解毒方法は存在しないとされていた。
「静寂の海にアサヒの花が咲いているのを知っているのは当然。私はヒバリの弟子だから、植物に関することは一通り学んでる。」
「でも、その植物図鑑にも解毒作用があるなんて書いてないですよね。」
「それは、ヒバリの魔法の問題よ。」
ヒバリは自身が書いた植物図鑑を本棚から取り出した。
「僕はこの世界に来て”食べた植物の効果が明確に分かる魔法”を持っていることに気づいた。だからこそ、この植物図鑑を作ることになったんだけど、問題は僕の魔法のしくみだね。」
そうしてヒバリは植物図鑑のページをめくる。
「これを見て欲しいんだけど、この植物の効果は睡眠改善。副作用が出る場合には湿疹。でも、別の植物と合わせると効果が変わり、眠れなくなる。この、別の植物との掛け合わせっていうのは、片方の植物を食べただけでは分からないんだ。つまり、果てしない数の掛け合わせが存在していて、それを植物図鑑に全て記せたわけじゃないんだよ。」
この有名な植物図鑑でさえ、まだまだ知識としては薄いのか。
「それに加えて、他の生物の毒の解毒になる、なんて効果は僕の魔法では見えないんだ。その生物を知っていないといけないし、その生物の毒についても知っていないといけない。つまり、知識を掛け合わせることができないと僕の魔法は本領を発揮できない。だけど、そこにドウシュくんの魔法をかけ合わせることによって、それを可能にすることが出来た。ドウシュくんの魔法はこの世にある毒全ての鑑定ができる。そのドウシュくんの魔法によって得た知識と、僕がこれまで食べてきた植物の知識を掛け合わせることによって、アサヒの花の副作用は解毒できる可能性が高いという結論に至ったんだ。」
魔法とはいってもとても地道な作業だ。
ヒバリはドウシュに出会ったことで、植物の可能性を広げることが出来たというわけか。
しかし、あの毒の解毒をピンポイントで調べようとしないと難しいような。
「ドウシュさんか、ヒバリさんは、その毒の解毒をしたかったということですか。」
「その通り。ドウシュくんはこの世界に堕ちたときからずっと探していたんだよ。彼らのことを。」
「お嬢さんたちがドクヘビと呼んでる連中のことよ。」
ヴィントの話を聞いて思っていたが、やはりドウシュはドクヘビを追っている。
ドウシュはヒバリと共にドクヘビが使用している毒の解毒になるアサヒの花をつきとめた。
しかし副作用だけを施す術がないから、ドウシュは”対処法はない”と言ったのだ。
「ドウシュさんは何故、ドクヘビを追っているんです?」
そんなにも長い間、彼はドクヘビを追い続けている。
それでも彼らを捕まえることができないのだろうか。
「ドウシュくんは自分せいだからって言っていたよ。自分が禁忌を犯したせいで彼らも同様に禁忌を犯して堕ちたのだと。ドクヘビと呼ばれている彼らは、ドウシュくん同様、堕ちた悪魔ということらしいね。」
ドクヘビの者たちは堕ちた悪魔。
もし彼らが死ぬ前の記憶を持っていたなら、魔法陣に英語が書かれていたのにも納得できる。
「ドウシュさんは、ドクヘビをずっと追い続けているんですよね。それでも捕まえられないのは彼らが身を隠すのが上手く、魔法も強力だったりするんでしょうか。」
「勿論、彼らの魔法は下界において強いんだろうね。でも、それ以上に非情で残酷だからドウシュくんの手が届かないんだと思う。」
ヒバリの言葉にハルが付け加える。
「ドクヘビの連中は人を殺すことを何とも思ってない。操って殺させたり、毒を自ら飲ませたりするようなそんな残酷な悪魔どもよ。ドウシュは彼らを追いながら、被害に合った人たちが少しでも生き残れるように操りの魔法を解きながら行動しているの。相手の魔法を解くのには、魔法を上書きすればいいだけだから。でも、ドウシュは鑑定士の資格を持っていない。操られている人を見分けるのにも神経を使う。だから、行動が制限されて動きずらいのでしょうね。」
堕ちた悪魔の魔法は強力だ。
私も底上げする魔法薬を飲まなければ操りの魔法を解くことが出来なかった。
ドウシュも堕ちた悪魔だから魔法は強く、そのおかげで操りの魔法を解くことが可能なのか。
でも、鑑定士の資格がないため無許可で鑑定を行えば牢獄行きだ。
ドウシュの魔法は攻撃魔法ではないし、ドクヘビの魔法に対抗するのは不利か。
「ドウシュくんの話を聞いて、僕ももっと植物のことを調べなおさないとと思って色んな国へ行ったよ。もしかしたら、アサヒの花だけではなく解毒できる植物があるかもしれないからね。しかし、そう簡単な話ではなかった。僕が掛け合わせられるのは植物同士の知識だけ。100年前に出したこの図鑑よりも詳しいことが分かるようにはなってきたけど、それでも解毒方法の新たな発見を得るのは難しかった。」
今の段階では、アサヒの花の副作用が解毒できるという見解しか出ていないわけか。
そして、それを今白銀の国が解毒薬にできないか研究の真っ最中だ。
「新しい本は出さないんですか?新たに分かった掛け合わせの効果があるんですよね。」
「出してるよ、名前を変えてね。おそらく、薬師の人たちには読まれているはずだよ。でも、数えきれないほどの植物があるだろう?結局は新しい魔法薬を作るよりも従来の方が作り方も効果も分かるから、よほど良い効果を発揮できないと新しい掛け合わせで薬品を作られることはないだろうね。」
確かによほどいい薬ではない限りは、従来の薬のまま作りそうだ。
その方が安定して薬を量産できるだろうし。
「いくら調べても解決の糸口は見つからない。僕の寿命もいつ尽きるのか分からないし、僕はとても弱気になっていたんだろうね。神官として祈りを捧げるときに神に話しかけた。”このままだと堕ちた者が均衡を崩すことになるけどいいのか”って。神は肯定か否定かしかしないはず。けれど神は僕の目の前に現れた。青い鳥として。」
青い鳥?
私は思わずハルを見た。
ハルは不機嫌そうに首を振る。
「ヒバリは神に好かれてた。青い鳥に見えたそれはおそらく神の化身よ。ヒバリの望む姿で現れたの。つまり神は、ヒバリを気に掛けて話を聞こうとしてしまったのよ。」
「え、それって誓約違反では。」
ハルは呆れたように、ヒバリは悲しそうに微笑んだ。
「そうなんだ。僕は神を堕とすという罪を犯してしまったんだ。」
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