【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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真実の追究1

覚悟

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「私はハル。お嬢さんの魔法が強くなるまでずっと観察していたのよ。」

観察していたというのはどういうことだ。
私は恐る恐る思ったことを口に出していた。
「ストーカー、ですか?」
「ふざけたこと言ってないでさっさと行くわよ。お嬢さんを心待ちにしてるわ。」
「誰がです?」
ハルは私の話も聞かずにソラに話しかけた。
「ソラ、お嬢さんと私、二人乗せて飛べるかしら。」
「キュ。」
ソラが頷いたので、私は飛行用ベルトをソラに取りつけ始める。
「ソラ、痛いところない?」
「キュキュ!」
「良かった。苦しかったら、ここを緩めるんだよ。」
私が手前、ハルがその後ろに乗る。
すると、手綱をハルが掴んだ。
避難の目を向けると、ハルは何食わぬ顔をする。
「何よ、私の間にいるんだから落ちる心配はないでしょ。それに行先知ってるのは私。別に強く手綱を引っ張ったりしないわ。ソラ、行くわよ。」
ソラの体が浮かび上がり、ハルが指をさす。
「ここから東に進む。目指すは遠霧山えんきりやまよ。」
「キュ!!」
手綱がついていることで安心したのか、ソラは思いっきり速度をあげた。
その勢いで私は、後ろに体が持ってかれてハルの胸にぶつかる。
固い・・・。
背中を強く打ったが、壁かと思った。
「すみません。」
一応謝っておいたが、ハルは気にしている様子もない。
「そのまま大人しく寄りかかってなさい。飛ばすわよ。」
「キュ!」
ソラは何故かハルの言うことを聞いて速度を上げた。
ソラが警戒していない人なら安心かな。
私は固い背もたれに身を預けながら、乾かないように目を閉じた。


速度を上げたソラでも1日でたどり着ける場所ではないらしく野宿することになった。
闇魔法で有名な私は町の宿を取ることは厳しいだろうという見解の一致により今は森の中だ。
迷いの森ではないので、ここにはモンスターが出るはず。
ヒサメたちとともにいる時は心強かったが、今はそんな頼りになる人達はいない。
ソラも魔法が使えるし、私もそれなりに強くなったし大丈夫かな。
私は火を起こしているハルを見る。
過去が見える魔法ってことは、攻撃型ではない。
他にも魔法を持っていれば別だが。
身長はあるが、ヒサメほどの筋力はなさそうだ。
いや、獣人と比較するのは良くないか。
「ちょっと、体をジロジロ見るのやめてくれる?気が散るわ。」
「あ、すみません。ハルさんって戦えるのかなって思って。」
「あら、どこぞの王子様のように守ってほしいのかしら?あいにく私は、狼獣人ほどの戦闘向きではないわよ。」
そう言われて私は、やはり彼らに守ってもらってばかりだったなと痛感する。
私が安心して野宿出来ていたのは、ヒサメやボタンがいてくれたおかげだ。
はじめの野宿でもフブキとヒサメが一緒だったし、安心感しかなかったからこんなに心許ない野宿は初かもしれない。
「いえ、戦闘が不得意なら私が守ります。」
「へぇ、存外頼もしいじゃない。グウル国王を救う時も思ったけど、ちゃんと覚悟ができる人間なのね。」
ハルはそう言いつつ、パンを取り出して私とソラに渡した。
「どうも。ところで、ハルさんはどうしてグウル国王の解毒方法を知っていたんです?だいたい、私を観察していたってところから疑問が多すぎます。これから誰に会いに行くのかも聞かせてくれないし。」
矢継ぎ早にそう問えば、ハルはパンを齧る。
「お嬢さんは、私のことがどう見えているの?疑っている相手にのこのこ付いてくるようなお馬鹿には見えないけれど、かと言って私が安全であるという確証はなさそうじゃない。どういう見解を持って、私と一緒に来ようと考えたのかしら。」
「一つ目は、グウル国王の命を救う協力をしてくれたことです。あの場であなたの助言と魔法薬が無ければ、グウル国王は死んでいた。そうなれば、あらゆる状況が一変していたはずです。」
ソラは隣でパンをもぐもぐと齧っている。
「二つ目は、ソラがあなたを警戒していないからです。ソラは人を見る目があるので。」
そんなことを言えば、ハルは笑いだす。
「随分と勘に頼った回答だわ。それだけじゃ、私が安全かなんて分からないじゃない。そもそも、私があの魔法薬を持ち歩いていたのはグウル国王を助けるためじゃないわ。」

ハルは私をずっと観察していた。
それは私を待っている人がいるからで、口ぶりからして私の魔法が必要なのだ。

「私の魔法が弱いから、強くなるまで観察して待っていたということですか。」
「ええ、そうよ。自分で考えられて偉いわね。」
なんだかとても腹が立つ言い方だが、これは収穫祭のときにも思ったのだ。
「その嫌味な言い方は、私の闇魔法の魔力を上げるためですか。」
「収穫祭のときには、負の感情の増幅によって魔力を上げようと思ったわ。けど、思っていたよりあなたは恋に振り回されてくれなかった。あの騎士の坊ちゃんへの恋も、聖女への嫉妬も、お嬢さんにとっては魔力を上げるほどの感情が沸き上がるものではなかったの。恋や嫉妬に狂って、暴走する人間なら簡単だったのに。」

収穫祭のあのとき、私は私なりに傷ついたというのになんて言い草だろうか。
妖精であるツキがいてくれたから、私は落ち着きを取り戻したといえる。
決して、ヴィントさんへの想いが薄かったわけじゃない。

「本当にそんな人間なら、あなたは私を連れて行かなかったんじゃないですか。」

そんなことを言えば、ハルは口角をあげた。
「どうしてそう思うの。」
「こんなに長い期間、私の魔力が強くなるまで待っていたんでしょう?でも、あの魔法薬ならいつでも使えたはずです。私を言いくるめて魔法薬を飲ませ、私の魔法を使わせればいい。収穫祭で煽る必要はないし、さっさとあの場で連れて行くことも出来たはず。そうしないのは、魔力が高い低いだけではなく、私という人間を確かめる必要があったからではないんですか。」

魔法だけを使わせたいなら、どう考えてもまどろっこしいのだ。
いくらでも嘘をついて、さっさと誘拐して、強制的に魔法を使わせればいいだけだ。
そうしなかった理由がハルにはあるのだ。

「国王を救うとき覚悟があるかと聞いたり、覚悟の証を誇れとハルさんは言いました。そして先ほど、覚悟ができる人間だと。それが、ハルさんの中で重要なことだったのではないですか?」

それを聞いたハルは、私の頬の傷を指でなぞった。

「私は、信用の出来る人以外会わせたくなかったの。覚悟もないような女を利用するくらいなら、別の方法を探そうと決めていたのよ。けれど、あなたの過去を見て考えが変わった。ドラゴンを守った、竜人族の子供を救い、狼獣人の命を繋いだ。どれもこれもぎりぎりで、余裕なことは一度もない。あなたが持っていたのは、弱い魔法と覚悟だけ。このまま強くなってくれれば、何も問題はないと思った。」

ハルは酷い亀裂が入っている首まで指を動かす。

「静寂の海の人魚族、そして今回の黄金の国。やり方が大胆になっていることから、時が迫っているのだということに気づいた。だから、お嬢さんには予備として持っていた魔法薬を飲ませグウル国王の命を救ってもらった。あなたなら、絶対に魔法薬を飲んでくれると私には分かっていたのよ。ずっと、見ていたから。そしてそんなあなたなら、あの人に会ってほしいと思ったの。」
「だから、あの人って誰ですか。」

ハルは口許に指を当ててから、私の耳元で囁いた。

「私の大切な師匠、ヒバリ。」
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