【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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真実の追究1

組織を追う者

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私はどこかで分かっていた。
彼なら私のところに来てくれる気がしていたのだ。
だがそれは、色恋なんて甘いものでは全然なくて。
私が闇魔法ゆえに、彼が私を気に掛けていてくれたからだ。

王宮を出たところで、私の手首を掴んだのは太陽の国の騎士ヴィント。

王の謁見の間で、おそらく彼は他の騎士同様に並んでいた。
でも、私は騎士の方を見ることはしなかった。
国王に私の言葉が届かない可能性もあり、そうなった場合私は追放されるか牢獄されるか。
そんな窮地に立たされているなか、ヴィントの顔を見てしまった日には後悔すると思ったのだ。
彼が私を見て、憐れんでも、無表情でも、悲しんでも。
彼が私を見ないようにしていても。
いずれにしても、私の心が揺らいでしまうには十分だから。

そうして今、私の手を掴む彼の表情は真剣だった。
私の目を逸らすこともない真っすぐな瞳が、好きだった。

「ヴィントさん、私は国王と話した通りこの国に入ることはできなくなりました。これからこの国を出れば、もう一度ここに来れるのはいつになるか分かりません。貴方が私に言語を教えてくれたから、今の私があります。闇魔法は他の魔法と何も変わらないと言ってくれたから、そう言ってくれる貴方がいたから、私は今、この魔法で良かったと言えます。」

私を掴むその手は暖かくて、そしていつも優しかった。

「ヴィントさん、私貴方のことが好きでした。」

彼は驚いて、そうして掴んでいた手にさらに力を込めた。

「何も、気付いていなかった。そんな風に想っていてくれたなんて知らなかった。リビ、ありがとう。でも、俺はそんなことを言って貰える資格はないんだ。」
ヴィントは一瞬目を伏せて、それから手を離した。
「俺は、俺たちは闇魔法の人間を救えなかった。だから、闇魔法であるリビの助けになりたいと思ったんだ。贖罪のつもりでリビを代わりにしようとした。本当に、ごめんな。」
頭を下げるヴィントに、私は明るい声で問いかける。
「なんで謝るんですか?ヴィントさんが私を助けてくれて、勉強にも付き合ってくれて、私のこと心配してくれて。それが贖罪だろうがなんだろうが、私は救われたからいいんですよ。」
「でも、俺は・・・。」
ヴィントの言葉が止まったのは、ソラが彼の手を繋いだからだ。
「キュキュ!」
「ほら、ソラも関係ないって言ってます。貴方の優しさの根底に何があろうと、私とソラはヴィントさんに会えて良かった。」
ヴィントは唇を震わせ、ぎこちなく微笑んだ。

「俺も、リビとソラに会えて本当に良かった。」

ヴィントは潤んだ瞳を手で荒っぽくこすると、リビとソラの肩を掴んだ。
「聞いてほしいことがある。おそらく、一連の毒殺に関係のある話だ。」

そうしてヴィントは故郷の話を始めた。
「俺と市役所に務めているエルデは故郷が同じで幼馴染という話はしたな。俺たちの故郷は〈港の街〉、海が近く漁師がたくさん暮らしているところだった。しかし、その近くの海というのが〈清廉の海〉で、港の街には闇魔法への恐怖と偏見がすり込まれていた。闇魔法を持っていることがバレれば、暴力を受け、街を追い出される。だから、闇魔法を持つ者は港の街にいないはずだった。俺もエルデも、闇魔法を見る機会もないと思っていた。」

ヴィントはひとつひとつ思い出しながら続ける。

「俺たちが物心つく頃、近所の家に遊びに行っていた。そこには老夫婦と一人の青年がいて、俺とエルデはその青年を兄のように慕うようになった。彼は物知りで、俺とエルデに勉強を教えてくれた。子供の遊びにも付き合ってくれるような優しい人で、俺たちは毎日のように彼に会いに行った。」

ヴィントは深呼吸をして、それから。

「とある日、街の中で騒ぎが起こった。港の街で喧嘩は日常茶飯事だったが、その日は喧嘩していた片方の男性が倒れたんだ。海の生物の毒かもしれないって騒ぎになったが、街にいた医者は毒に関して無知だった。というのも、毒の騒ぎなんて滅多にない上、もし海の生物の毒だとしても、どの毒か分からない。だから、対処法が分からない。その苦しむ男性を目の当たりにした俺とエルデは、間違った選択をした。物知りな彼ならば、何か分かるのではないかと、彼に助けを求めてしまったんだ。」

拳を握りしめ、そして声を絞り出す。

「彼は男性に手を翳し、その手には黒い光を帯びていた。俺たち子供は見たこと無かったから知らなかったが、大人たちはすぐに気づいたみたいだった。闇魔法は黒い光を発するんだって。彼は、”この毒の対処法は存在しない”と言った。大人が彼に掴みかかり、問い詰めたが”これは海の生物の毒ではなく、血の毒だ。対処法はない”その一点張りだった。それからは、酷かった。男性は勿論亡くなり、闇魔法がバレた彼は暴行を受けた。なんなら、その男性が死んだのも彼のせいにされた。闇魔法はこんな制裁を受けるべきだと子供に伝えるために、俺たちはその光景を見せられた。今考えても、あの街の大人は狂ってる。」

彼の闇魔法は、毒の鑑定が出来るものだったのだろうか。

「さっきの国王とリビの話の中で、ドラゴンの血を毒として使用するというのを聞いて、彼の言葉を思い出したんだ。血の毒というのは、そのことだったんじゃないかって。街の外に放り出された彼の元へ、俺とエルデはこっそり会いに行った。蹴られて殴られて、おそらく骨も折れてるはずだった。でも、彼は自分で立ち上がり何事もなかったかのように砂を払った。”この街も駄目だな”と彼が呟いた言葉が忘れられなかった。彼はおそらく、幾度となくこんな風に追い出されたことがあるんだと、闇魔法のせいで住むところを変えなければならなかったんだと子供ながらに思った。でも今思えば、違う意味だったんじゃないかって思うんだ。」

この街も駄目だな。という言葉。
おそらくそれは、闇魔法への偏見に対する諦めの言葉ではない。

「彼は、血の毒のことを以前から知っていた可能性が高い。対処法がないと即答したことも、この街も駄目だということは別の街でそれを見たってことだと思う。そして、リビの話通りなら毒を飲む者は操りの魔法がかけられているはずだよな。同じ条件だったとしたら、彼の魔法はその魔法を上回ったことになる。」

私は魔法薬で無理やり底上げし、体がズタボロになりながら対抗したというのに、その彼は実力でねじ伏せたということか。

「今思えば、違和感は多いんだ。一緒に住んでいた老夫婦は彼の家族でなかったし、彼は他国のことについてやたらと詳しかった。港の街の人はよその国に行くことが少ないから、珍しい話ばかりだった。そのことから、彼もリビと同じ奴らを探していたんじゃないかって思ったんだ。」

彼がどういう理由でドクヘビを追っていたかは分からない。
なんらかの被害に合ったのか、それとも私と同様に命を狙われていたのか。

「同じ奴らを追っているのだとしたら、いつかリビも彼に・・・ドウシュ兄さんに会うと思う。こんなこと言うのはおかしいけど、もし会えたら兄さんを頼む。子供の俺たちから見たらもちろん兄さんは大人だったけど、どこか不安定な気がしていたんだ。泊まりで一緒に寝ていたら泣いてたりとか、魘されてたりとかな。魔法のせいで気苦労もあったかもしれないが、それだけじゃない気がする。」

ヴィントは大人になった今でも、ドウシュのことを気に掛けているようだ。
それほど、子供の頃に影響を受けた人物ということだろう。

「分かりました。もしも会えたら、協力できるかもしれませんしね。ヴィントさんもエルデさんも元気だって伝えたらきっと喜びますよ。」
「俺たちのことを覚えていてくれたら嬉しいけどな。兄さん、忘れっぽいところがあったから。それで思い出したけど、兄さんが寝物語に話してくれた上界の話が変だったんだよな。」
「上界、ですか?」

上界といえば、悪魔と天使が住んでいると言われる場所だ。
下界であるこことは、文字通り住む世界が違うらしいが。

「ああ。お泊りの時、俺たちが話をせがむから一度だけ話してくれたんだ。”理不尽な死を迎える子供は天使になれる。そして、残虐な死を与えた者は死んだら悪魔になれる。僕の妹はきっと天使になれたんだ。”って。その話を翌朝聞いたら、そんな話覚えてないって。そもそも、俺たちが死んだところで上界の者にはなれないし、大人になって探してもそんな文献は見当たらない。おそらく、亡くなった妹が天使になったと思えば救われたんだろうなって。」

違う。

私はヴィントの話を聞いてそう思った。
死ぬというのは、この世界のことではない。
もしも。
天使と悪魔が私と同じ世界から来たのなら。
天使は、子供の頃に死んだ人間で。
悪魔は、誰かを殺した人間なのではないか。
それが本当だとしたら、ドウシュは何故そのことを知っている?

「リビ?大丈夫か。」
「はい、すみません。その話は不思議、ですね。」

思考の海に沈む前に戻ってこれたのは、ヒサメに常日頃から言われていたからか。
今私がすべきことは、組織ドクヘビの居場所を掴むこと。
その過程でドウシュに会えれば、一石二鳥だ。


「これからきっと、大変なことしかないよな。無茶をするなと言っても、リビはするんだろう。今までも、妖精に魔法を教わったり、白銀の国王といつの間にか仲良くなっていたり、俺は驚かされてばかりだった。俺の知らない世界を広げていくリビは、俺にとってとても眩しかった。」
ヴィントは手を差し出した。
その手に握手すると、別れの時なんだなと感じた。
「国王と話すリビはかっこよかったな。俺も見習って、この太陽の国を良くするように動くよ。リビが次来るときには、胸を張ってこの太陽の国の騎士だと誇れるようにする。だから、気を付けてな。」
「はい、行ってきます。」
ヴィントはソラとも握手をして、それから私たちを見送ってくれた。
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